02 草原の目覚め

――――。
 風が頬をなでていく……。
 まぶたを開けると視界いっぱいに雲一つない空が見える。体を起こすとそこは草原の真ん中だった。

 あれ? おかしいな? ここは……、屋久島じゃないよな?

 青々とした草や土のにおいがする。どこからか鳥のさえずりが聞こえる。ここはどこ?
 混乱するままに胡座をかいてしばらく座り込む。

 唐突に心細さが押し寄せてきて胸が苦しくなる。大自然の中で一人ぼっちだからともちょっと違う。この感じは、昔、父と母を喪った後のようだ。あたかも心の一部が欠けたような、せつなくて、寂しくて、ぽっかりと胸に穴が開いたような……。

 心細さを押さえつけて顔を上げて周りを確認する。
 爽やかな空気を吸い込む。……まだ少し肌寒く感じる。何となく朝早い時間だと思った。

「あれ?」
 今更だが、ルームウェアだったのに、いつのまにか綿の長袖シャツとズボンに茶色い革の靴を履いている。そばには道具袋らしき袋も置いてあった。
 いつのまにこんな服を着たんだ? なんというか……、村人Aにでもなった気分だ。

 道具袋を引き寄せて中を確認してみると、水筒、大振りのナイフ、そして内ポケットに銀色のコインが何枚か入っている。まったく記憶にないが、そばに置いてあるということは、自分のものなのだろう。
 コインを一つ取り出して手のひらに乗せた。見たことのない文字が彫られている。どこかの国のコインかな?
 まじまじと見つめていると、

――100ディール――

 コインに重なるように文字が浮かんだ。
 ……は?

「な、なんだこりゃ」
 呆然として声が漏れた。今もまだ視界に文字が浮かんでいる。
 まるで3Dゲームのアシストみたいじゃないか。もしやステータスとかもあったりして……。

――ジュン・ハルノ――
  種族:人間族
  年齢:25才  職業:異世界人  クラス:――
  称号:当選者、聖石を宿せし者、分かたれし者
  加護:創造神の祝福、武神の加護
  スキル:言語知識、自然回復、マナ変換、マナ吸収、全武技の才能、破邪の力
  ユニークスキル:ナビゲーション

 …………言葉にできない。
 目の前に浮かんだ文字情報をまじまじと見つめる。

 どうやら意識を集中すると対象の情報が表示されるみたいだ。
 もしやゲームの世界に来たのか? とすると、この文字はユニークスキルのナビゲーションのせいだろう。

 あり得ない現実にしばらく呆然としていると、左手奥から馬車が近づいてきているのが目に映った。

「しめた! 誰か来るぞ」

 ここがどこなのか。ようやく誰かに聞ける。道具袋を持って立ち上がり、ズボンについた葉っぱを払った。
 どうやら馬車は目の前を通っている街道を通っているようだ。

 草むらをかき分けて街道まで出て、馬車が来るのを待つことにした。

 御者台にはコートを着た黒髪の女性が座っているようだ。馬車のサイドには金髪の外人男性が歩いている。
 向こうも俺を確認したみたいだ。うん? 男の腰には何か棒状のものが吊り下げられているようだ。
 馬車がここから50メートルくらい先に近づいてきた。俺は手を上げて馬車に近寄っていった。

「あれ?」

 その時、草むらから緑色の何かが馬車の三人に襲いかかるところを目撃した。
 御者台の女性に飛びかかった何かは蹴り飛ばされたが、すぐに男性に目標を変えて襲いかかっている。
 男性は……、あれは本物の剣か? 緑色の生き物を蹴り飛ばしたり斬りかかったりしている。
 うげっ。一匹がこっちへと向かってきた。

 ――ゴブリン♂――
  種族:魔物 年齢:2才

 定番の雑魚敵のゴブリンのようだ。手にはさび付いた剣を持っている。

 っと、こうしちゃいられない。道具袋からナイフを取り出して鞘から抜き放ち、馬車へと急ぐ。
 ナイフといっても刃渡りが20センチ近くある。充分に凶器になるだろう。

 ゴブリンが剣を大きく振りかぶって斬りかかってきた。
 慌てて左にステップして避けて、走った勢いのままに無防備になったゴブリンの胸を一突きした。軽い。ゴブリンが向こうに飛んでいき地面に投げ出され、そのまま動かなくなる。
 それを横目に走り抜ける。
 女性が御者台の上から棒でゴブリンを打ち据えていた。そのゴブリンの後ろから首筋に切りつける。
 すぱんっ!
 妙に綺麗な音がしてゴブリンの頭がぽろっと落ちた。……その光景に一瞬、息をのんだが、もう一匹のゴブリンが手にした槍で突いてくる。慌てて横によけ、槍が戻るより先にゴブリンに近寄り胸を突くと、胸から血をほとばしらせてゴブリンは倒れた。

「くっ! この!」

 2人の男性が協力して戦っているが、4匹のゴブリンに囲まれて思うようにいかないようだ。走り寄って一匹のゴブリンの首をはねる。つづいて、注意が向く前にもう一匹。
 のこり2匹になった時点でゴブリンの注意が2人より俺に向くが、その隙を突いて男性がゴブリンを袈裟切りにした。

 すべてのゴブリンを倒してほっとした瞬間。手に力が入らなくなり気分が悪くなった。ゴブリンとはいえ、生き物を殺したショックが俺を襲う。

「助かったよ」
 男性の片割れが剣についた血をぬぐって周りを警戒しつつ、こっちへと歩いてくる。そして、俺の様子を見て、
「ええっと、大丈夫? 何だか顔色が悪いけど。どこか咬まれた?」
と聞いてきた。俺は、首を横に振り腹に力を入れ、足下に倒れているゴブリンの服でナイフに付着した血をぬぐった。

 その時、御者台の女性が、
「また来る! さっさと逃げるよ!」
と言い馬車を動かした。二人の男性は慌てて小走りで馬車の後を追う。その向こうの草むらに槍の長いシルエットが何本か見えた。新手だろう。
 俺も慌てて馬車の後を追いかけた。

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