03 初めての出逢い

「俺はラルフ・オリバ。こっちは弟のティオだ。冒険者をやってる」
 横を走りながら、先ほど話しかけてきた男性がそう言った。年の頃は20代前半といったところか。

 ――ラルフ・オリバ――
 種族:人間族 年齢:20才
 職業:冒険者ランクD  クラス:剣士
 スキル:剣術2、生存術2

 ――ティオ・オリバ――
 種族:人間族 年齢:18才
(省略)

 言っていることに間違いはないようだ。スキルに剣術と生存術がある。俺の想像する冒険者なら必須のスキルだろう。スキル名の後ろの数字はレベルだろうか?
 それに言語知識スキルのお陰か、会話が通じることに安堵する。
「俺はジュン・ハルノ。職業は……」
 ステータスでは異世界人となっていたが、それはおかしいよな。どうしよう。
「商社マンだ」
 苦し紛れにとりあえずそう答えると、ラルフがいぶかしげな顔をする。
「商社マン? 商人みたいなものかな……」
 まあ、聞き慣れないよな。それにしても商人か。なんだか本当にゲームの世界みたいだ。

 警戒しながら馬車に会わせて小走りに走ること15分。ようやく馬車が止まった。
 オリバ兄弟が周りを警戒する。
「……どうやら追いかけては来なかったみたいだね」
 弟のティオがそう言った。
 御者台から女性が降りてきた。俺より年上のようだ。俺を見て、
「さっきはありがとう。助かったわ。……イリーシャ・マナベルよ」
と言って右手を差し出してきた。古めかしい青い石の嵌まった指輪をしている。
 俺は挨拶しながら握手に応える。
「ジュン・ハルノです」

――イリーシャ・マナベル――
 種族:人間族 年齢:32才
 職業:行商人  クラス:商人
 スキル:交渉3、物品鑑定3、計算3、剣術1

 ふむ。行商人ね。レベル3ってどれくらいなのか分からないのが困る。俺のスキルは数字が無いからレベルの関係ないスキルなのだろうか。……早めに検証が必要だな。
 ともあれ、ナビゲーションのスキルに感謝だ。これのお陰でいろんな情報が手に入る。
 そういえばスキルとかスキルレベルとか、個人で把握しているものなのだろうか? 下手に聞くことはできないが、これも確かめる必要があるだろう。それにナビゲーションのように他人のステータスをのぞき見ることができるスキルがあるかどうかも、注意が必要だな。
 素早くそこまで考えて、イリーシャさんに向き合った。
 さて、当初の目的のようにいろいろ聞いてみたいところだが……。
 内心でそう思っていると、
「ところでジュンさんの目的地はどちら?」
とイリーシャさんがきいてきた。
「ええと、実は迷子っていうか。ちょっと事情があって、とりあえず近くの街に行こうかと」
「事情? ……わかったわ。先に荷物に損害が無いか確かめてくるので、それから詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」
「え、ええ。俺も教えてもらいたいことが色々とあります」
 イリーシャさんは荷台に乗り込んで、がさごそと作業を始めた。
 その間、オリバ兄弟と一緒に警戒を続けた。

 弟のティオが小さい声で話しかけてくる。
「大丈夫だよ。ジュンさん。何か複雑な事情がありそうだけど、イリーシャさんは口が堅いし、面倒見が良いですよ」
 そういうティオに、俺は頷いた。
「ありがとう。ティオ」
 ……そうは言っても、あんまり信用しすぎると危険もあるんだよな。

「さてと、どうやら積み荷は大丈夫のようでよかったわ。……ジュンさんは私と一緒に御者台に乗って下さい。二人は護衛を頼むわよ」
「「はい」」
 オリバ兄弟が同時に返事をした。俺はイリーシャさんの隣に座る。
 馬車が動き出した。

 たづなを持ちながら、イリーシャさんは尋ねる。
「出身はどこなの? 荷物は少ないみたいだけど、その鞄はマジックボックスかしら?」
「いいえ。日本の東京都練馬区ですよ。……これは普通の鞄ですけど、マジックボックス?」
「知らない? 容量拡張の魔法が付与された物品を総称してそう言うのよ。多く入るのは高くて手が届かないんだけどね。……それにニホンだっけ? ごめんなさい。聞いたことがないわ」
 ああやっぱり異世界かと思いながら、これくらいは明かしてもいいかと思い、
「実は、気がついたらさっきの草むらにいたんですが、その前の記憶が無いんです。覚えているのは自宅で酒を飲んでたところまでですね」
と言った。イリーシャさんは俺の目を見る。しばらくして、正面に向き直ると、
「……ふうん。なるほど。何かの衝撃で記憶が飛んだという人の話は聞いたことがあるけれど、実際に会ったのは始めてねぇ。怪我はないようだけど、助けてもらったし」
と、なにやらぶつぶつ言っている。
「ニホンか。誘拐されたようにも見えないわね。……わかったわ。それじゃあ、さっきのお礼に少しこの辺りのことを教えよっか?」
「そうしてもらえると助かりますね」
「ふふふ。それにこれも何かの縁だしね」
 イリーシャさんはそう言うと、口調を変えて説明を始める。

「ここはエストリア王国の中西部よ。商業都市アルと港湾都市ベルトニアを結ぶ街道で、あそこに見えるのがアルの外壁よ。
 アルは、重要な街道と街道が交差するところに位置していて、特に王都エストリアへの中継点となっているの。それで商業が盛んになっているわ」
「えっと。今いるのがエストリア王国っと」
「エストリア王国も聞き覚えがない? ……記憶喪失は魔法のせいかもしれないわね。アルについたら一度、治療院か修道院で見てもらった方がいいかもね。って、それはそうと。取りあえず何かをしてお金を稼がないといけないわね」
 うっ。考えてみればそうだよな。いくらかは道具袋に入っているが価値が分からない。当面の生活を考えたら稼ぐ手段が必要だ。
 しばらくイリーシャさんは考え込んでいたが、
「う~ん。身分証明なんてないよね? ……それならやっぱり冒険者くらいしかないわねぇ」
「冒険者ですか?」
「ええ。そうよ。冒険者ギルドに登録して依頼を受けて謝礼を受ける。他の仕事は身分証明とか伝手つてが必要なの。いらないのは冒険者だけ」
 ああ。そうだよね。予想の通りの展開だ。
「なるほど。ではアルに着いたらまずギルドに登録します」
 そう言うと、イリーシャさんは、「ラルフ! ちょっときて」と声を掛けた。
 御者台の横にラルフがやってくる。
「何かありました?」と尋ねるラルフに、イリーシャさんは、
「ジュンさんはどうやら冒険者志望みたいなの。アルについたらギルドまで案内して登録のお手伝いをしてあげて」
といった。ラルフは、「はい」と返事をして俺の方を見た。
「ジュンさん。任しとけ。色々と教えるよ」
といった。にこにこしてそういうラルフの頭をイリーシャはぽんと叩く。「よろしく」
 それから、ラルフは再び護衛に戻っていった。
 アルの街に着くまで、俺はイリーシャさんから貨幣の種類と価値や、どんな国があるのか、どんな種族がいるのかなどを教えてもらった。ティオが言っていたように面倒見がいい人のようで本当に良かった。

 晴れた空の下で青々とした草原を一本の街道が延びていて、そこを俺の乗った馬車が進んでいく。
 草原を渡る風が通り過ぎる。
 気持ちいいなぁと思いながら正面を眺めた。

――エストリア王国アルまで10キロメートル――

 ナビゲーションが行く先を教えてくれる。便利だね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です