04 エストリア王国アル

 そのまましばらく進むと、他にもいくつかの街道が見えてきて、この先に見える城壁に囲まれた街のところで合流しているのがわかる。
 イリーシャさんが指を指した。
「あれがアルの街よ」
 なるほど、物流のターミナルに当たる街とは聞いたが、確かに重要な位置にあるのだろう。城壁を見る限りなかなかの大きさの街のようだ。

 街が近づくにつれて、他の街道を通行していた馬車の姿や、街の入り口で並んでいる人たちが見えてきた。
「はい。これ。貸しね」
 人の列を眺めていると、不意にイリーシャさんが2枚のコインを渡してくる。
「これは?」
 手渡された1000ディールが2枚――を見ながら、聞き返すと、
「身分証がないと入場料がかかるのよ。それと冒険者登録にもね。それぞれ1000ディールかかるから」
 なるほど。でもこれくらいなら道具袋に入っていたから大丈夫なんだが。ま、そうはいってもここでは好意に甘えておこう。
「ありがとうございます。いつか必ず返しますよ」
 そう言って頭を下げた。イリーシャさんは、
「忘れていいよ。それくらい。……まあ、将来、うちでそれ以上の物を買ってちょうだい」
と笑っていた。

 アルの外壁が近づいてくると、見上げるような石の外壁に圧倒される。高さは10メートルはあるだろうし、上には歩哨が歩いているのが見える。
 町の入り口には通行人用と馬車用と二つの入り口に分かれていた。馬車の入り口に並ぶと、程なくして順番が回ってきた。
 フルプレートの金属鎧を着た男性と、革の服を着た文官らしき男性が手際よく手続きを進めている。
 ちなみにナビゲーションで確認すると、金属鎧を着た方は警備兵、文官の方はアルの役人となっていた。

 文官の人が御者台の方へとやってきた。
「アルの街へようこそ。商人の方かな? 身分証と積み荷の確認をさせてくれ」
 そういうと、イリーシャさんとラルフとティオがそれぞれカードを提示した。そして、イリーシャさんが、
「彼は途中で行き倒れていて、身分証を持ってないの。ここの冒険者ギルドに登録するみたいだから、仮証を発行してくれないかしら」
と言うと、文官の男性は警備兵に手招きした。「仮証発行だそうだ。たのむ」
 俺は御者台からおりて警備兵の指示に従って門のそばに置いてある机に向かった。
 机の上には水晶玉が置いてある。
「さ、君の賞罰記録などを確認するから、この水晶玉に手を乗せてくれ」
 右手を水晶玉に乗せると、警備兵は水晶玉をのぞき込んで何かを手元の紙に書き込んでいく。
「もういいぞ。……犯罪歴はなし。仮証を発行するからちょっと待ってくれ」
 そういうと警備兵は机の引き出しから小さな木札を取りだして、先ほど書き込んだ紙を見ながら、木札に何かを書き込んでいく。
 書き終わると、
「手数料は1000ディールだ。……よし。ではこれが仮証になる」
 俺は1000ディール硬貨を一枚手渡して、かわりに仮証を受け取った。
 表面には何かが書いてあるが、読むことができない。じぃっと見ていると、

――ジュン・ハルノ仮証――
 人間族 賞罰なし
 金牛の月、12 東門カルロ

 おおっ。さすがナビゲーション。きちんと仕事をしてくれる。
 それにこの水晶玉は、どうやらマジックアイテムのようだな。ステータスほどはっきりはわからないようで安心する。
 さて警備兵は、町中で騒ぎを起こさないこと、もし悪質な理由であれば捕らえられ処罰を受けることなどを説明してくれた。それから早めに冒険者ギルドに行って登録し、ギルドカードを手に入れた方が良いとのことだ。

 手続きを終えて馬車の方へ戻ると、待っていてくれたイリーシャさんが馬車を進める。
 門をくぐると、そこは石畳の広場になっており、広場に面して石造りや木造の建物が並んでいた。広場の奥には、2つの通りが延びているのが見える。……どうやら町並みを見る限り、よくある設定の中世ヨーロッパ風の文化のようだ。

 広場に入ると、イリーシャさんは馬車を止める。御者台に乗ったままでオリバ兄弟のほうに小さな布の袋を手渡す。
「護衛はここまで。5日間ご苦労さま。しばらく滞在するけど、また依頼をしておくから」
「はい。またよろしくお願いします」
 ついでイリーシャさんは俺の方を向いた。
「あなたもよろしくね。慣れないことも多いだろうけど、がんばって」
 俺は頭を下げる。「こちらこそ、いろいろ教えてもらって助かりました。ありがとうございます」
「ふふふ。また会えるのを楽しみにしてるわ。じゃあね」
 イリーシャさんが馬車に乗ったまま人混みの中に入っていった。

 それを見送ると、ラルフが、
「じゃ、ジュンさん。案内するよ」
「よろしく頼むよ。センパイ」
 俺がそういうとティオが、「年上の人にそう言われると違和感がありまくりだね」と笑って言った。
「ジュンさん。ちょっといいかな?」
 ラルフが真剣な表情で話しかけてくる。どうしたんだろうか?
「ああ。どうした? 急に」
「念のためだけど、ああやって面倒見が良いのはイリーシャさんだからだよ。……ほかの商人は利にならないことは絶対にしないし、こっちの足下を見てくる。今回みたいなことがあれば、必ず何か裏があると思っていいんだ。だから、よく知っている人でなきゃ、安易に信用したら駄目だよ」
 ラルフの言うことはわからないでもない。つまりは自己責任だから注意しろということだ。
「わかった。ありがとう。……いい人だな」
 お礼に一言付け加えると、ラルフは苦笑していた。
「苦労しているみたいだよ。昔は大きな商会の家だったらしいけど、母親が亡くなった後に部下に乗っ取られたらしい。一時期それで人間不信になったけど、修道院長に救われたって言っていたなあ」
 なるほど。苦労人の面倒見の良さか……。見た目ではわからない苦労があるのは、こっちの世界も一緒か。
 俺の時はまだ親の遺産があった。だがきっと彼女は無一文で放り出されたのではないだろうか。
「ま、他人のことよりまず自分のことだよ。ジュンさんの登録にギルドに行こう」
 ラルフはそう言って、俺を連れて町の通りを進んでいった。

 町の通りに面していろんなお店が並んでいて商店街になっている。ちょうどお昼頃なので、どこからかただよってくるおいしそうな匂いに空腹を覚える。
 ラルフたちもそうなのだろう。俺の方をちらっと見て、通りの屋台に立ち寄り大きな肉串を6本購入していた。俺にも2本渡してくれる。
「これは俺たちから。冒険者になる前祝い」
 そういってラルフは自分の串にかぶりついた。俺は串を手にしながら、
「いくらかお金は持っているんだが……」
と言うと、ティオが明るく、
「いいって。装備とか宿代とかでかかるから。とっといた方がいいよ」
と言ってくれた。おなかも空いてるし、ここはセンパイからのお祝いとして受け取っておこう。
 今度はこっちが奢ろうと思いつつ、串をほおばると、肉汁が口の中にあふれ出してきた。
「んまい!」
 思わず声を出してしまった。ちょっと辛めのタレにつけてあったみたいで、非常に美味だ。
 目の前のお店の人が笑っている。
「ははは。うまいか! そりゃうれしいな!」
 居酒屋みたいに「うまいな。おっちゃん」と声を掛けてやった。

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