06 その時、白い部屋では

――――――。
 ここは春野純のいなくなった白い部屋。

 春野純の転送の後、部屋全体がぼんやりとした光を放ち、その光が一点に収束していく。
 集まった光は閃光を放ち、その後には横たわる一人の女性の姿があった。

 それからしばらくして部屋の片隅の空気が揺らめいたと思ったら、白いワンピースを着た少女が現れた。金色に輝く髪をした小学校高学年くらいの女の子で、その背中には大きな純白の翼がある。

「お~い。春野さ~ん。遅くなってすみませ~ん。……えへへ。転移する座標を間違っちゃって……て、あれっ? 確かにここのはずなんだけど……」

 少女は、部屋に目当ての人物がいないことに首をかしげる。部屋を見渡して机のそばに一人の女性が横たわっているのを見つけた。

「うん? ……なんで女の人がいるの?」

 人間の男がいるはずなのに、なぜだろうと不思議そうな顔をしながらも、少女は女性に近づいていった。
 女性に近づいていった少女は机の上を見て顔をしかめる。

「あれっ、ここには確か聖石があったはずだけど……。むむむ」

 そうつぶやいた少女は横たわっている女性をじっと凝視した。
 すると少女の目の前の空間に薄いスクリーンが浮かび上がる。

――ジュン・ハルノ――
  種族:人間族  年齢:25才
  職業:異世界人  クラス:――
  称号:当選者、聖石を宿せし者、分かたれし者
  加護:創造神の祝福、魔道神の加護
  スキル:言語知識、自然回復、マナ操作、マナ無限、魔法の才能、破邪の力、召喚魔法
  ユニークスキル:ナビゲーション

 スクリーンに浮かび上がった文字を確認した少女が目を丸くする。口がだらしなく開く。
「がび~ん! ……ど、どういうことかな? お、おかしいなぁ」

 しきりに首をかしげておろおろとするが、次第に額から汗が垂れる。
「も、もしかして……」

 少女は、右手を振ってスクリーンの文字を消す。そして、何も映っていないスクリーンを見ると、またぶつぶつと独り言をつぶやいた。

「過去を確認しよっか……。レコード確認」

 少女の呟きに反応して中空のスクリーンに映像が映し出される。
 転移した春野純が映し出され、部屋を隅々までうろついて机の上の石の輝きを見つめている。

「ふむふむ……。げっ! す、すると、聖石を取り込んじゃったので魂の半分がはじき出されちゃったのね」

 少女はあわあわと口を押さえる。
「もっと魂が成長してから融合するはずだったのに……。ってことは、はじき出された魂がこの空間の力を利用して肉体を構成したわけか。……これは、ひょっとしなくてもお仕置きものよね。やっばぁ」

 スクリーンをじっと見つめて、うんうんと頷いていた少女だったが純が石を触ったところで、やっちまったという顔をして考え込む。その額には冷や汗が浮かんでいる。……やがて、その光景を振り払うように首を振って決心する。

「ま、まあ。見なかったことにしましょう。……ワタシハナニモミナカッタ。うん。これでよし! どうせ遅いか早いかの違いだし!
 そんで、親から子のようにミタマを分かって新たな肉体に宿ることはおかしくないよね? ……とすると、主人格のジュン・ハルノはもうあっちの世界に転移しているから、こっちは名前を変えなきゃ駄目ね。じゃあ、適当に……、ノルン。ノルン・エスタってどうかな」

 少女が女性に手をかざすと手から光が放たれた。

「えへへ。我ながらセンスあるなぁ。っと、地球の記憶も消して……。女性だから装備品もおまけしてっと。……きっと分かたれし魂は互いに引かれあうはず。ま、一つの霊因〔ミタマ〕から生まれた別々の人格ってことになるし、それで二人がくっついても別におかしくないわ。普通のことってことにしておこう!
 よし。これで転移すれば主様のオーダーは達成ね。モンダイナッシング。……念のためにガーディアンをつけておきましょう」

 少女が指をパチンっと鳴らすと、ノルンと名付けられた女性のそばに燃えるような真紅の小鳥が現れた。

「フェリシア。いいわね。これからソウルリンクするから、この女性をきちんと守ってね」

 ノルンと小鳥が一瞬だけ光を放つ。光が収まると真紅の小鳥が女性のそばに降り立った。

 少女は、その様子を確認すると、これでもうやることは終わったとばかりに、うんうん頷く。そして、おもむろに右手を掲げると、ノルンとフェリシアの足下に青白い光を放つ魔方陣が浮かび上がる。

「じゃ、いってらっしゃーい!」

 少女の言葉が終わると魔方陣の光が強まり、ノルンと小鳥はすぅっと消えていった。

「うふふ。楽しんでね」
 少女は部屋をもう一度見回すと、いいことをしたとばかりにウキウキした笑顔で再び姿を消した。

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