07 修道院

――――。
 ところかわって、ここはエストリア王国アルの街。冒険者の憩い亭の前。

 この宿は1階は食堂となっていて、2階が宿泊者用の部屋が並んでいる。
 ジュンとラルフとティオのオリバ兄弟はそれぞれ部屋を借りた。
 それからジュンは二人と別れ、午後の時間をアルの街の散策に当てることにした。ちなみ目的は加護の調査のための修道院訪問と生活必需品などの購入だ。
 オリバ兄弟は疲れたから部屋で寝てるというので、ジュンは予め修道院の場所を聞いておいた。

 時間は午後の2時。ちなみに、いま何時頃だろうと思った時に脳裏に時計が浮かんだ。一日が何時間なのかわからないのが問題だが、これもナビゲーションのスキルのようだ。

 便利スキルの恩恵に感謝しつつまず修道院を探すことにした。

 オリバ兄弟がいうには、アルの街は同心円状に3つの壁がある。一番外側の壁が街の外壁でその内側が庶民の暮らす街となっている。二つ目の壁は庶民街と貴族街とを隔てる壁で、入り口は南側に一箇所のみで詰め所があって通行を制限しているらしい。
 そして、一番内側の壁は言うまでもなく街の領主館となっている。

 現在の領主はエストリア王国の公爵の部下で、カルマン・アル伯爵といい、家名がそのまま街の名前になっている。
 街の自治には、さらにカルマン伯爵の部下の男爵や士爵が要所に携わっているらしい。
 なお外側の庶民街は、やはり同心円状に大きな通りが二つあり、それらの通りを結ぶ脇道が無数に存在している。ちなみに冒険者ギルドは街の東側にあり、冒険者御用達の商店街も東側だ。

 修道院は南側にあり、エストリア王国内でも有数の立派な修道院だそうで、院長は聖女の称号を持ち教会の中でも高位の立場にある女性とのこと。なお、この世界では主に天地海を司る三柱の神が信仰されており、大陸に住む者はほとんど地の女神トリスティアを信仰している。例外は獣人の大陸で、そこでは世界樹が信仰されているらしい。
 こうした三柱の神にしろ世界樹にしろ、神聖な存在は創造神の下に位置するらしく、多神教ではあるが統一された信仰世界を形成している。そのために宗教間の対立などは無いという。

 冒険者の憩い亭のある東街から大通りをずっと通っていく。出発前にふと思いついて「探索 修道院」と念じたところ、視界に修道院までのルートが車のナビのように色つきの矢印となって浮かんでいる。

 てくてくと通りに面した店を横目にして歩いて行く。気になった店は帰りに立ち寄るつもりで、店の名前とだいたいの位置をチェックする。

 街の人たちのなかに犬耳や猫耳の人やエルフっぽい美少女をたまに見かけた。また同じ人間であっても、アングロサクソン系のいわゆる白人たちの割合が多く。モンゴロイド系の人は見た感じの3割ほど、ネグロイド系の人は1人しか見かけなかった。

 そうして歩いて行くと通りに直角に交わる大通りに当たった。どうやら、この横の通りが南門から貴族街まで続く南北の大通りのようだ。
 通りを右に曲がると、すぐ目の前に大きな修道院の姿が見えてきた。ヨーロッパの教会のように石造りで尖塔が2本見え、壁にはスリットのような縦長の窓がありステンドグラスになっているようだ。

 なかなかに歴史を感じさせる趣だ。俺はしばし建物を眺め、意を決して入り口の階段をのぼって木の扉を押し開いた。
 中に入ると大空間の広間となっており、高い天井にひんやりとした空気にかすかな香の香りがただよい、静寂に支配されていた。
 中央の通路を挟んで左右に木製のベンチがいくつも並んでいて、正面には背中に翼のある大きな純白の女神像が慈愛に満ちた表情で見下ろしている。
 左の壁面を見ると、ちょうど一人が通れるくらいの小さな入り口が三つあり、どうやら懺悔室になっているようだ。
 反対側の右側の壁には扉がひとつだけあり、おそらく建物の奥へと行く通路なのだろう。
 広間のベンチには祈りを捧げている人が3人いた。

「さて、どうしたもんかな」
 アゴをなぞりながら小さくつぶやく。

 修道院に来たはいいものの、どうやって加護を調べるのか。そう思っていると、俺の背後で入り口の扉が開く音がした。思わず振り向くと外から帰ってきたらしい一人の修道女と目が合った。

 初めて見る珍しい深紅の髪を伸ばしている美人の修道女だ。目が合った瞬間、向こうがなぜか「あっ」とつぶやいていた。

――ヘレン・シュタイン――
 種族:人間族  年齢:23才
 職業:修道女
 加護:闇の精霊の加護
 スキル:調理3、回復魔法3、神聖魔法4

 ステータスを見て驚いた。「闇の精霊の加護」があるよこの人。
 でもまあ加護持ちならちょうどいい。この人に相談しよう。……美人でよかったと思ったのは内緒。
 なぜか俺を見て固まっている修道女に近寄って挨拶をする。

「すみません。冒険者のジュンといいます」
 すぐさま声を小さくして、「自分の加護について知りたいんです」と告げる。
 かたまっていた修道女がようやく再起動し、頷くと「じゃ、あっちの部屋に」と懺悔室を指さした。
「よろしくお願いします」と告げて、俺は懺悔室に向かった。

 懺悔室は、懺悔者と聖職者を隔てる壁は無かった。本当に普通の狭い個室となっていて、机と対面する2脚の椅子が置いてある。
 俺は手前の椅子に座って待っていると、しばらくしてさっきの修道女が水晶玉を持って入ってきて、対面の椅子に座った。

 心なしか、顔が赤らんでいるように見えるのは気のせいだろうか?
 まさか一目惚れ? ……無いな~。自分で想像しておいてなんだが、そこまで俺は自惚れてないよ。まあ、ちょっとだけ期待はするけどさ。

 ちょっとドキドキしていると、修道女が、
「ええっと。ヘレンと言います。で、加護の確認でいいのかしら?」
と言って、目の前に水晶玉を置いた。
「そうです。よろしくお願いします」
「では、この水晶玉に手を置いて」
 そういうヘレンさんはよく見ると緊張してるっぽい。そっちに緊張されるとこっちも緊張してしまうんですが。
 そう思いながらも、俺は右手を水晶玉に乗せた。
 水晶玉の内部が白く光る。ヘレンさんがその光を見つめる。段々と紅潮していく。
「……やっぱり」
 色っぽい唇から呟きが漏れた。

「ええっと、もういいですか?」
 そう聞くと、ようやく我に返ったみたいで、
「はい。もういいわよ」
と言ったので右手を下ろした。さっきからどうにも様子がおかしいが、おそらく俺の加護の「創造神の祝福、武神の加護」を見たのだろう。字面からしてすごそうだもんな。

 ワクワクしながらヘレンさんの説明を待っていると、コホンと咳を一つして、
「あなたの加護は、創造神の祝福と武神の加護よ」
と言った。

「そもそも加護っていうのは、私たちより上位の存在、神々や精霊、竜王たちが気に入った者に対して授けるもの。授かった人は、その加護の種類によって潜在的なある種の能力を身につけるとされているわ」

 ふむふむ。なるほど。潜在的な才能といったものだよね。

 ヘレンさんが少し間を置いて、
「それで――あなたの加護は初めて聞く加護ですので分かりかねるわね。ただ、武神の加護はおそらく戦いに関する才能を身につけているということと想像されるけどね。そ、創造神の祝福に至っては……、しかも祝福って」

 後半は独り言のようだが急にヘレンさんが俺の顔を見つめる。
「冒険者になったばかりよね?」
と聞いてきたので「はい」と返事しておいた。

「このような加護は是非とも修道院長に報告しなければならないんだけど、お泊まりのところを教えてちょうだい」
 まあ、別に隠すことじゃないよね。

「冒険者の憩い亭ですよ」 
「まだしばらく滞在してるの?」
「ええ。冒険者に慣れるまではそのつもりです」
「よかった。今日は院長がいないから、後日、伺うかもしれないわ」

 どうやら、やっぱり俺の加護は破格のようだ。っと、いけない。内密にしてもらわないと、自由に動けなくなると困るぞ。

 俺は慌てて、
「あ、あの。俺の加護のことは内密にお願いします。拘束されたりとか嫌なんで。お願いします」
 そういって頭を下げた。するとヘレンさんは手を前に広げ、
「もちろん! 院長と私だけの秘密よ! だって私の……だし」

 うん? 最後に何を言おうとしたんだろう?と思うまもなく、ヘレンさんは水晶玉を持って慌てたように立ち上がった。
「じゃ、ちょっと仕事があるから、これで!」
 と言い置くと、ささっと懺悔室から出て行った。

「あ、あの~」

 俺はぽかんとしている間に、一人でぽつねんとしていた。

――――。
 懺悔室から出ると、大広間には修道女の姿は見えなかった。奥の部屋に行ったのだろう。

 俺は女神像に一礼してから修道院を出た。

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