13 シルビア嬢

 再びエスタ―ニャ男爵の屋敷にとって返した俺は、すぐに執事のセバスチャンさんに面会を求めた。

「……というわけでスピーを発見しました。ですが、どうか一週間は待っていただけませんでしょうか?」

 俺は見てきたままを正直に説明した。すると執事さんは何故かとても驚いた顔をしている。

「いやあ、こんなに早くにお見つけになるとは思いもしませんでした。Fランクということでしたが、なかなかに優秀な方のようですね」

 しまった。確かにこんなに早く見つかることは普通でないだろう。ナビ―ゲーションのことは言えないし、どう言い訳しようか……。
 しかし特段、執事さんはそれを追求する様子はなさそうでほっと胸をなで下ろした。

「そのような事情であれば、お嬢様にお願いしてみましょう。それにしても進行性魔毒病とは……」
 執事さんはそういうと何事かを考えている。

 と、その時、急に扉がそっと開き、一人の少女が入ってきた。

「セバス。……いいわ。一週間待つわ。スピーの無事が確認できれば、今はそれで我慢するわよ」

 美しいプラチナブロンドの少女は、レースをあしらったドレスに身を包み、まっすぐに執事さんの方へ近寄っていく。金髪の女性の年齢はよくわからないが、十代前半……、中学生くらいの美少女だ。

――シルビア・エスターニャ――
 種族:人間族 年齢:11才
 職業:エスターニャ男爵令嬢
 称号:幸運の運び手、人格者
 スキル:礼儀作法3、直感4

 おお。称号「幸運の運び手」? 直感スキルとも関係してるのかな?

 セバスと呼ばれた執事さんは慌てて立ち上がって、うやうやしく少女に一礼する。きっと、この少女が本来の依頼人、シルビア・エスターニャなのだろう。
 俺もセバスさんにならって立ち上がり、少女に丁寧に一礼した。少女は、俺を見ると可憐な笑顔で笑いかける。

「私がシルビア・エスターニャよ。冒険者さん。私のスピーを見つけてくれてありがとう」
「ジュン・ハルノです。すぐにスピーと見つけられてラッキーでしたよ」

 さすが貴族の娘といったところか、シルビア嬢は年の割に随分としっかりした話し方をする。
 俺みたいな低ランクの冒険者に対しても、きちんと挨拶してくれるので好印象だ。

「それにしても、こんなにすぐに見つけてもらえるなら、もっと早くに依頼すれば良かったわ。まあ事情もわかったので一週間お待ちします」

 シルビア嬢はそういうと一つ深呼吸をした。よく見るとその目の下にうっすらと隈が見える。よっぽど大切にしていた猫だったのだろう。

 ここでシルビア嬢は、執事のセバスさんを手招きすると何事かの用事を言いつけた。

「………………………………なるほど、かしこまりました。……ジュンさん、お嬢様と私は少し席を外しますが、そのまま少しお待ち下さい」

 セバスさんは、そういうと俺にソファに座るよう指示しシルビア嬢と一緒に部屋を出て行った。
 ぽつりと取り残されて待つこと、10分。ようやくセバスさんが戻ってきた。相変わらず優雅な身のこなしだ。
 セバスさんは一つの封筒を差し出した。……一体なんだろう?

「ジュンさん。先ほどお嬢様が言われたように一週間お待ちします。この書類はそのための書類ですので、必ず今日中にギルドに御届けください」

 なるほど、これも気遣いなのかな。俺は恐縮して封筒を受け取る。それを見た、セバスさんはにっこり笑い、屋敷の門まで俺を送ってくれた。
「わかりました。……では、一週間後にまたまいります」

 エスタ―ニャ男爵の屋敷を出た俺はギルドに向かった。

 朝から色々なことがあったが時間はまだお昼前だ。
 ギルドのなかは、4、5人の冒険者がくつろいでいるばかりだった。

 俺は受付に近寄ると預かった書類を懐から取り出してマリナさんに手渡した。

「すみません。マリナさん。この書類をエスタ―ニャ男爵家よりお預かりしました」
「あ、ジュンさん。こんにちは。ちょっと確認させて下さい。…………ふむふむ」

 マリナさんは書類の封を切り、中から書状を取り出して内容を確認する。一通り読み終わると、顔を上げた。

「確かに書類を受け取りました。それからジュンさん宛に指名で依頼が入っております。ランク的には問題がありますが、どうしますか?」
「え? 指名依頼ですか? 俺に?」
「はい」といって、マリナさんが手にしたシルビア嬢の手紙を差し出した。

「シルビア・エスタ―ニャ男爵令嬢よりの依頼です。カローの森での夜光花の探索です。探索期間は一週間です。見つかっても見つからなくても一週間後には報告すること。報酬は20万ディールです」
「ええ! ……夜光花の探索か、そうか」

 なるほど。確かにエスタ―ニャ男爵家は人格者の一族のようだ。マチルダを救おうというのだろう。……だがしかし、ここ数年見つかっていない夜光花がそう簡単に見つかるものだろうか?
 脳裏にやせ細ったマチルダが思い出される。難病にあえぐたった10才の女の子。
 俺はこっちの世界でも傍観者でいるのか? それより、無駄かもしれないけど、自分にできることをするべきでは?

 マリナさんは、俺の返事を待っている。俺は、
「わかりました。できればやりたいです」
と答えた。マリナさんは、
「……どうやら男爵家の依頼で何かあったようですね。現在、フルール村との間の森は低ランク冒険者は立ち入り禁止となっています。カローの森は反対側なので立ち入り禁止というわけではありませんが、初心者の合宿も済ませていないジュンさんではランク外と判定されるでしょう」
「じゃあ、どうすれば……」
「はい。サポートをギルドで用意します。明朝、もう一度ギルドまでお越し下さい」
「サポートですか?」
「ええ。おそらくランクDあたりの冒険者に一緒に行って貰うことになると思います」

 なるほど。それは助かる。何しろ地理も植生もそうだが、野宿すらしたことがない。色々教えて貰えそうだ。

「わかりました。かえって助かりますよ」
と言うと、マリナさんは、
「今回は、ギルドの新人サポートシステムを利用しますので、報酬の半分をギルドに納めていただきますよ」
と言った。半分というと10万ディールか。まあ仕方がないだろうね。
 俺は了承してから、半日でできる依頼を探しに掲示板に向かった。

「むう。見事にないな」
 Fランクの掲示板には張り紙が一枚も無かった。やはりフルール村方面の森への立ち入り禁止が影響しているようだ。

 と、その時、俺の背後で怒気がふくれ上がった。
「んだと! この野郎!」「おお! やってやろうじゃねえか!」
 振り返ると、だべっていた冒険者が立ち上がってにらみ合っている。
 それを見ていた別の冒険者が、
「はいはい。んじゃ、俺が立会人になるからよ。奥でやんな」
といって、マリナさんに「んじゃ、借りるよ」と声をかけた。

 彼らはドアを開けてどこかに行く。と、その場にいた残り2人の冒険者が、
「けけけ。面白くなってきたじゃん」「そうさね。見に行こっか」
といって彼らを追いかけていった。

 それを見ているとマリナさんが、
「喧嘩ですよ。奥の修練場で白黒つけるみたいですね」
と声をかけてくれた。俺がドアを指さして、
「修練場?」
と聞くと、
「ええ。あのドアの奥にあります。……行ってみますか?」
「ちょうど良いから行ってみますよ」
「ちょっと待って下さい」
とマリナさんはいうと受付の奥のドアに声をかけた。「ちょっと、受付の交代お願い!」「はいよ」と声がする。

 するとエミリーさんが出てきた。マリナさんはエミリーさんに何かを告げると、
「じゃあ、説明しますから一緒に行きましょう」
といって、俺の先を歩いて行く。慌ててついて奥の扉をくぐった。

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