14 ケンカは冒険者の華

 修練場は広さは150メートルくらいの長方形の広場になっていた。周りを塀で囲み、ギルドの建物に接している方にはひさしがついていて、休憩所のようになっている。
 修練場の三分の一は壁で仕切られていて向こうの様子はわからない。
 ちょうど訓練していた冒険者は5人くらいいたようだが、今ではさっきの喧嘩騒ぎの野次馬となっている。

 マリナさんが、
「ここで戦闘技術を訓練することができます。あの壁の向こう側は弓矢などの遠距離の訓練場で的となる人形が並んであります。もし、教官が必要であればギルド職員が交代で詰めていますのでその職員に声をかけてください。この場合はお金がかかりません」
「へぇ。お金がかからないのはありがたいなぁ」とつぶやくと、
「冒険者が強くなれば見返りがギルドにはありますので、これくらいのサポートはします。ただし、教官の持っている技術以上は教えられません。あとは他の冒険者と交渉して教えてもらうかですね」
「なるほどね」
 大きく頷いた俺だが、マリナさんが補足する。
「それと魔法の訓練は、生活に即した魔法以外は危険なので、街の外の安全なところでやってください」
「生活に即した魔法?」
「……ええっとご存じない? まあ、それは後日説明しましょう。ほら、始まりますよ」
とマリナさんが指を指した先には、中央で対峙する2人と、それを囲む8人の冒険者達だった。
 俺とマリナさんもそれに合流する。野次馬の冒険者の一人がマリナさんに、「新人かい?」と聞いていた。
 さてと、喧嘩の当事者はっと、

――チップ――
 種族:人間族 年齢:35才
 職業:冒険者ランクC
 所嘱:暴れ熊、エミリー親衛隊
 スキル:剛力、剣術3、強化3、生存術3

――ネイビス――
 種族:人間族 年齢:36才
 職業:冒険者ランクC
 所嘱:暴れ熊、マリナファンクラブ
 スキル:高速機動2、剣術3、拳闘術3、強化2、生存術3

 二人のステータスを確認した俺は思わず目をこすった。
 ええっと……、親衛隊にファンクラブ? そんなのがあるのか? さすがは麗しの受付嬢だ。
 ネイビスがちらりとマリナさんを見て、気合いを入れている。
 それにしても同じチームに所属しているようで、スキル構成からチップは力押しタイプ、ネイビスはスピードタイプのようだ。
 剣技はレベル3で同等だから、これは面白い勝負になるかも。

 二人は互いに刃を潰した鉄剣をもっている。
 立ち会い人が両手を挙げる。
「回復魔法を使える奴がいるから、死なない程度にやってくれ。じゃあ、このコインが落ちたら開始だ」
 といって一枚のディール硬貨を指ではじいた。
 跳ね上がった硬貨がくるくると回転しながら地面に落ちた。
 がきぃぃ!
 その瞬間、剣と剣がぶつかりあった。
「うおおぉ。チップやりやがれ!」「ネイビス! ネイビス!」
 周りの野次馬が叫んで盛り上げる。
 力押しをしていた二人が息を合わせたようにバックステップで距離を取る。
 チップが、
「このネズミ野郎が! 今日こそぶっ飛ばしてやる!」
と言えば、ネイビスが、
「ふん。鈍足ばか力め! マリナさんの前でお前をぶっ飛ばしてやらぁ!」
と返す。ネイビスが、「行くぜ!」と言った瞬間、流れるように瞬時にチップの懐に入り鉄剣を切り上げた。
 それをチップが自分の剣で受け止め、その勢いを利用して体を回転させると左回し蹴りを放った。
「ふっ」とネイビスが素早くスウェーで下がると、その鼻先を回し蹴りが通過していく。
 そのままネイビスは距離を取った。
 今度はチップがネイビスに突進する。
「地すり孤月!」
 下段に構えた剣先で地面を擦りながら、下から切り上げると剣先と共に土埃が巻き上がる。ネイビスがそれをサイドステップでよけると、チップは切り上げた剣をそのまま切り下げる。
「おらぁ! 剛剣!」
 ネイビスが剣を斜めに構えて、その一撃を横から弾くように受け流した。

 なかなかの攻防だ。これがランクCの実力か。と思って見ていると、
  ――ピコーン。
「地すり孤月」を覚えました。
「剛剣」を覚えました。
  スキル「剣術」をマスターしました。
  スキル「高速機動」をマスターしました。
  スキル「剛力」をマスターしました。
と視界に文字が浮かんだ。

 ……は?

 ネイビスがその場から、拳を握ってチップの顎を下からかち上げる。チップが一歩下がると、その鼻先をアッパーが通り過ぎた。
 今度はチップが剣を左に構える。
「スラッシュ!」
 横なぎの一閃をネイビスはバックステップで避けた。
 それを見てチップが舌打ちする。
「ちぃ。相変わらずちょこまかと……」
「ふふん! ばか力だけのお前に負けるかっての」
 返すネイビスの言葉に、チップがますます怒気を強める。
 ネイビスが再びスピードを上げてチップに斬りかかる。
「ぐっ」
 その一撃をどうにか防いだチップは、受け止めた剣をそのまま力任せに振り抜いた。

 と次の瞬間、ネイビスが力をふいっと抜いたようでチップが体勢を崩す。
 その隙を突いて、「おらおらおらぁ!」とネイビスがチップの顔にパンチのラッシュを浴びせた。

「ぐぐぐ。こ、この野郎!」
 怒ったチップは剣を放り投げた。ネイビスも自分の剣を放り投げ、二人で殴り合いを始めた。
「おら!」「ふっ!」
 チップの拳がネイビスのボディに突き刺さる。ネイビスが体をくの字にして後ろに下がった。
 それを見てチップが勝ち誇ったように見下している。唇の血を親指でぬぐうと再びボクサーのように拳を構えた。

 ボディの一撃に悶絶したネイビスだったが、「この野郎! やりやがったな!」というと、スピードを上げて突っ込んでいった。
 上からのチップの撃ち降ろしの右を、ネイビスがダッキングしてかわし懐に入る。
 その時、ネイビスが足を強く踏み込み、腰をねじり上げるように左のボディを放つと、その拳は見事にチップの右脇腹にめり込んだ。
 チップの体が上に持ち上がり、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「ぐぐぐぐぅぅ」
 チップが脇腹を押さえて悶絶している。立ち上がれないほど痛いようだ。

 ――ピコーン。
「スラッシュ」を覚えました。
「リバーブロー」を覚えました。
  スキル「回避」をマスターしました。
  スキル「拳闘術」をマスターしました。
 ええっと、さっきから見えるこの文字は何だろう。

「それまで!」
 立会人が割り込むと同時に、
「いやっほう!」「くそったれ! 損した!」
等と周りの野次馬が騒ぐ。マリナさんが、「どうやら賭をしていたようですね」と教えてくれた。ネイビスがマリナさんの方を見て胸を張ってアピールしている。
 俺があきれてみていると、一人のローブを着た冒険者がチップに近寄り杖を掲げて、

「我がマナを資糧に、この者を癒やせ! ヒール」

と唱えると、チップの体が淡く光った。光が収まるとあれだけ痛がっていたチップがすくっと立ち上がり、忌々しそうにネイビスを見ていた。
 ……あれが回復魔法か。
 俺は感心しながらローブの冒険者のステータスを確認した。

――ココット――
 種族:人間族  年齢:32才
 職業:冒険者ランクC
 所嘱:暴れ熊
 スキル:回復魔法3、神聖魔法3、調理3、生存術3

 どうやら同じチームのメンバーのようだな。ほかにもメンバーがいるのかもしれない。……あれ? そういえば回復魔法を目の前で見たけど、スキル取得の通知はなかったな。
 そう思って、俺は自分のステータスを確認した。

――ジュン・ハルノ――
  種族:人間族
  年齢:25才  職業:冒険者
  称号:当選者、聖石を宿せし者、分かたれし者
  加護:創造神の祝福、武神の加護
  スキル:言語知識、自然回復、マナ変換、マナ吸収、全武技の才能、破邪の力
      高速機動7、剛力7、回避7、剣術7、拳闘術7、
  剣技:Lv2剛剣・Lv3地すり弧月、スラッシュ
  拳闘術:Lv3リバーブロー
  ユニークスキル:ナビゲーション

 ふむ。表示項目が増えている。とすると取得・マスターの通知が反映されているっていうことだ。つまり、見ているだけで技を覚えたってことか? ……検証が必要だな。
 俺が考え事をしている間に、他の冒険者たちは騒ぎながらギルドの建物に入っていった。
 マリナさんが、「では、私も戻ります」というのでお礼を言った。

 もともと修練場で鍛錬していた人たちも賭けの分配のために中に入っていったから、今は俺一人だ。
 俺は床に落ちていた刃を潰した鉄剣を手に取り、2、3度振ってみる。
 妙に手に馴染むことに驚きながら、先ほどのチップのように腰を少し落として構える。
「スラッシュ!」
と言って横凪の一閃を放つとズサッと音がした。俺が剣を放った範囲から5メートル先くらいまで風が巻き起こった。
 続いて、剛剣、地すり弧月を試した。
 自分でも驚くほど自然に技を繰り出すことができた。剣を休憩所にあるカゴにしまうと、今度は無手でリバーブローを練習する。
 ぶおんっ
 俺の左の拳が空気を切り裂く。
 なんだか不思議な感じだが、まちがいなく自分の技になっている。

 それに、さっきの喧嘩では技の名前を呼んでいたが、その必要はなさそうだ。
 ま、そりゃそうだよな。別にプログラムを指定して実行するわけじゃないんだから。

 俺は休憩所のベンチに座った。少し考察しよう。
 喧嘩の観戦をしていたら、スキルが増えた。これは恐らく「全武技の才能」の影響だろう。
 つまり、他人のスキルを見れば見るほど自分のスキルにできるってことだ。……チートだな。
 ただし、魔法は発動を見ていても覚えなかったから、その限りにあらずだ。そっちも興味があるから、今度、いろいろ検証してみよう。

 建物の中に戻ると、冒険者は一人もいなくなっていた。
 エミリーさんとマリナさんが掲示板に大きめの依頼を貼っている。
 俺の姿を見て、マリナさんが、
「他の冒険者は外に飲みに行きましたよ」
と教えてくれた。二人の貼っている依頼を見ると、

――街道脇の森の調査と大掃除――
 フルール村方面の街道にゴブリンが出没した。街道の安全を確保するために、街道沿いの森の安全調査と魔物退治を行う。
 参加資格:ランクD以上
 報酬:一日につき1万ディール。さらに討伐した魔物のランクに従って報酬を上乗せする。
 参加する冒険者は受付に申し出て、明朝にギルド前に集合せよ。

 なるほど。街道の大掃除ね。ランクD以上ということは参加はできないな。
 まあ、これで安全が確保できれば低ランクの依頼も増えるだろう。

「あ、そうだ!」
 といって、マリナさんがやってきた。
「指名依頼の件ですが、必要な物がわからないでしょうからレンタル制度を使ってみてはどうですか?」
「レンタル制度?」
「ええ。ギルドでは初心者向けに野宿のセットの販売とレンタルをしています。レンタル品は使い回しですので質は余り良くありませんが、必要な物がわからないというときには便利ですよ」

 確かにいきなり物を買うよりは、最初はレンタルで確認してからの方がいいのかもしれない。そう思った俺は、レンタルを申し込んだ。レンタル料は一依頼につき2000ディールと割安に思える。現物は明朝に渡してくれるようだ。
「コートはどうします? 自前のがあれば不要ですが入れておきますか?」
 あ、そうそう。遠出するならコートが必要だとは思っていたんだ。丁度良いからレンタルに入れて貰おう。

 本来、こうしたことも、ギルドのサポートシステムで指導役になった冒険者から教わるらしいが、今回は指名依頼と並行で教わる時間が無いから、特例として便宜をはかってくれているらしい。
 ちなみに他の必要な物はサポートの冒険者に用意して貰うから心配の必要は無いとのことだ。
 まるで会社に入社したての新人の頃のように、こうして色々と面倒を見てくれるのがありがたい。早く一人前にならないとね。

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