15 夢中の語らい

 昨日のうちに一週間分の宿泊費3万5000ディールを支払っていたが、明日から六日間は依頼で街の外に出ることを伝えた。すると明日からの分の宿泊費2万5000ディールを返却してくれた。

 残念ながらオリバ兄弟は何かをしているらしく、会えなかった。

 ベッドに寝転びながら天井を見ていた。
 外で酔っ払いが騒いでいるようで、窓の外から喧噪が聞こえてくる。
 自然と昼間のマチルダが思い出される。

 あんなに幼いのに、難病とは……。

 脳裏にかつてテレビで見た番組が思い浮かんだ。
 ――子供病院で病気と闘う子供たち。
 生活につかれ、生きるってことに行き詰まりを感じていたときに、改めて生きるってことの大切さを教えてくれた子供たちと、一緒に病と闘う母親たち。
 テレビの中の子供たちとマチルダが重なって見えた。
 夜光花の依頼。……もちろん一週間後の治療魔法が上手くいくならば不要となるかもしれない。が、シルビア嬢もきっと何か手をさしのべたかったのだろう。

 テレビを見ているだけで傍観しているだけだった俺。だが、今、目の前に苦しんでいる少女がいる。ならば俺もシルビア嬢と同じく自分のできることをしてやりたいと思う。……幸いにシルビア嬢から報酬も出るしね。

 俺は寝返りを打って、何とはなしに月明かりの漏れる窓をぼんやりと眺めた。

 ……あ、でも治った後、スピーを受け渡して貰わないといけないのか?
 それはそれで、ちょっと気が重いな。
 そんなことを考えているうちに、いつしか眠りに落ちていた。

 ――真っ暗な空間。

 ふと気がつくと、真っ暗闇の中に立っていた。
 周りを見回しても何も見えない。かろうじてうっすらと発光している黒い硬質の床に立っているのがわかるくらいだ。

 ここはどこだろう? もしかしてまた変なところに転移したのか?

 そう思っていると、目の前の暗がりから、

「安心せい。ここはそなたの精神世界。夢の中じゃ」

と声が掛けられた。白い猫がふっと現れる。うん? あれは……、スピーか?
 スピーは俺の前に座り込むと、にゃーおと一声鳴いた。

「そんなに驚くでない。そなたも承知のとおり、儂はスピーじゃ。今は、そなたに伝えたいことがあって、夢の中にお邪魔したわけじゃ」

 ということは、これは夢の中だけど現実なのか?
 ……確かに魔法のあるこの世界では夢の中に入ることもできるのかもしれない。

――スピー――
 種族:妖怪ネコマタ(♂) 年齢:1251才
 職業:エスターニャ男爵令嬢の飼い猫、ネコマタ族長老
 称号:伝説の忍び
 スキル:忍術5、気配察知、魔力感知、危機感知、鑑定5、妖術5、医術4、毒の扱い4、状態異常耐性4、火魔法5、水魔法5、風魔法5、土魔法5、回復魔法4

 すごい。ネコマタだと? それに1251才! しかもどのスキルも高レベルでバランスがとれている。称号「伝説の忍び」って、こっちにも忍者いんのかよ!

「うぬ? やはり見えぬの。……そなた。一体何ものじゃ」
「何のことだ? ただの冒険者だぞ?」
「ふん。普通の冒険者が儂の鑑定をはじくことなどできぬよ。……まあ、よい」

 どうやら鑑定スキルは相手のステータスを見ることができるようだ。が、Lv5鑑定でも俺には通じなかったようで、一安心だ。俺のステータスは色々と普通じゃないからなぁ。

「マチルダの病気じゃが、おそらく回復魔法はきかぬであろう。あの子の病気の場合、Lv5の回復魔法でなくてはならないが、そのような治療魔法を使えるのは国王かかりつけの治療師ぐらいじゃ。市井のなかではLv4までしかおらぬよ」

「すまない。俺はまだスキルのLvをよく知らないんだ。よかったら教えてくれないか?」
「なんと。そんな常識を知らぬのか? 珍しい人間族がいたもんじゃわい。……よいか。スキルにはLvがあるものとないものとがある。LvがあるものはLv1が初心者。Lv2が一人前。Lv3が熟練者。Lv4が達人級。Lv5が英雄級じゃ。儂が知っておるのはそこまでじゃが、聞くところによると、はるか昔の勇者がLv6のスキルを持っていたそうじゃ」

 え? おかしいな。Lv6が最高? 俺のスキルには7の数字があるんだが……。
 内心で首をかしげるが、スピーは話を続ける。

「そなた。シルビア嬢より夜光花採取の依頼を受けたな?」
「ああ。まだランクが低いのに指名依頼をうけたよ」
「それは心配には及ばぬよ。シルビア嬢は称号持ちじゃ。それに直感スキルを持っておるから、そなたに何かを感じたのじゃろう。そういうときのあの子の直感は外れないよ」

 なるほどね。

「それと、カローの森の妖精の泉に行くのじゃろう? これを持って行け」
 スピーの全身がぼわぁっと光ると、その前に一つの小さな光る球が出現した。宙を滑るように俺の手元に飛んでくる。
 その球を受け取り、手のひらにのせて眺めてみる。ビー玉くらいの大きさで無色透明だが、内部がうっすらと光を放っている。

「これは?」
 顔を上げてスピーに尋ねると、
「今から2日後の夜は満月の夜じゃ。満月が夜空に高くかかった時にその球を妖精の泉に投げいれるんじゃ」
 スピーの体がうっすらと闇に紛れていく。
「そうすれば夜光花が手に入るのか?」
 消えていくスピーに、慌ててそう聞くと、
「後はそのときになればわかる。……まあ、大丈夫じゃろうよ」
といって消えていった。
「おい! そんときにわかるって……。ちゃんと説明してくれよ!」
 誰もいなくなった空間に俺の声が響く。

 ――冒険者じゃろ? あとは任せたぞ――
 うっすらとそんな声が聞こえた気がして、俺の意識は闇に飲まれていった。

――――
 う~ん。まぶしいなぁ。
 目を覚ますと、窓から漏れる朝の光が、ちょうどベッドの上の俺の顔に当たっていた。
 上半身を起こして部屋の中をぼんやりと眺める。

 単なる夢じゃないよな。やっぱり……。

 頭を振りながら起き上がると、小さなビー玉のような透明な珠を握っていることに気がついた。
 昨夜の夢を思い返しながら早めにギルドに行かねばならないことを思いだして、ベッドから降りる。
 顔を洗って朝食をとり装備を確認すると、早朝の空気の中をギルドに向かって歩き出した。

 ギルドに近づくにつれて騒がしくなっていく。
 見ると、多くの冒険者達がギルド前に集まっていた。その人数は50人ほどだろうか? 冒険者の憩い亭で見たことのある人も何人かいる。

 そうか。あの街道脇の調査と掃除の依頼だな。
 そう思いつつ冒険者達を見つつ、ステータスをざっと確認する。
 ほとんどがランクCのようで、ランクBは5人だけのようだ。剣術スキルが最も多く、他には弓術、各種魔法、回復魔法持ちがいる。スキルレベルはおおよそ3~4だ。
 だいたい5~6人くらいで一つのチームを組んでいるようで、ここにいるのは10チームほどだ。

 これで東側の森への立ち入り禁止が解除されるといいなと思いつつ、ギルドの中へ入っていく。

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