22 市内警備

 ギルドの説明によれば、ゾディアック・クルセイダーズが数隊向かっているようで、予定では明後日に揃うようだ。揃い次第で侵攻作戦を実行するとのこと。
 それまでランクC以上は外の前線基地で森を監視しながら、侵攻作戦の下準備をすることになっており、ランクDの冒険者はアルの防壁で防衛戦に従事することになった。
 ランクEとFは都市内部での治安維持任務で、通りと地区に担当者を決め交代制で警護任務に従事する。

 なお商業ギルドでは、市内の商会が分担して生活必需品や騎士団や冒険者のバックアップをすることになっている。これとも関連するが、ホームタウンのアルの街を愛する高ランク冒険者だけでなく、低ランク冒険者も士気が意外に高い。何故かというと期間中の食事はすべて領主が手配してくれるからだ。

 ここまでの状況説明を聞いて、森に出現したモンスターがかなり危険な奴だというのがわかる。雰囲気がまったく戦争みたいな雰囲気じゃないか。
 ちなみにそのモンスターは未確認らしいが、エビル・トレントである可能性が高いらしい。種子を生物に寄生させて、その生物を操る特性があるという。

 さて、俺は他のランクFの冒険者とともに修道院のある下町が担当範囲だ。
 下町だけに喧嘩の発生が懸念されるほか、修道院が行う炊き出しの手伝いなどをしなければならない。
 さて、同じ担当の冒険者は全部で12名。これを2名ずつペアの6組にし、一日を4等分して交代制とした。拠点は修道院で、当番でないときは修道院内で休憩することとなる。
 警備場所は修道院に2組、下町の通りに4組で、俺は修道院の担当になった。

 ちなみに前にも来たことのあるこの修道院は、かなりの大きさを誇っており堅牢な建物だ。そのため、いざというときは近くの住民を受け入れる避難先となっており、一足先に孤児院の人々はすでに修道院に収容されている。

 ともあれ全員で修道院に向かった。
 修道院では年配のシスターが、
「ありがとうございます。……この修道院にはご存じの通り聖女ローレンツィーナ様がいらっしゃいます。是非、御護り抜きくださいますようお願い申し上げます」
と言った。
 俺たちは気合いを入れ直し、それぞれの担当場所へと向かった。

「あれ? あなたは……」
 最初の当番の時間、二手に分かれて修道院を警邏していると、女性に声をかけられた。
 振り向くとそこには、前に俺の加護を調べてくれた修道女が水桶を抱えていた。え~っと確か、ヘレンさんだったよな。
「ああ。ヘレンさん。いつぞやはお世話になりました」
 挨拶をして、「運びますよ」と声をかけて、修道女から水桶を受け取る。
 修道女はお礼を言いながら頭を下げた。

 ぶるんっ。

 頭を下げた拍子に豊かな胸が大きく揺れた。
 思わずガン見しそうになって懸命に抑える。

(やっぱり男の人って大きな胸が好きなんですね)
(うるさいぞ。サクラ。……否定はしないけどな)
(今度、是非、私の胸も……)
(今、そんな場合か!)
(といいつつ、否定しないんですね。えへっ)
(お前な!)

「え、えっと。何かあった?」
「い、いや! 何でもないです! あ、水桶持ちますよ」
といって、俺は水桶を持って、ヘレンさんの隣を歩いて行った。
 サクラはヘレンさんのとなりを歩いている。ヘレンさんがサクラを見下ろして、「あら、可愛いわね」とつぶやいて、ニッコリ微笑む。
「サクラっていうんですよ」
「へぇ。可愛い名前ね」

 ヘレンさんが、急に納得したように、
「ああ。修道院へは、もしかして警護で?」
「そうです。なんだか大変な事態になったみたいですね」
「……そうみたいねね。だけど、ここは院長様がいるから安全よ」
「聖女様のことですね。やっぱり凄い方なんでしょうね」
「ええ。それはもう。……聖女の称号もそうだけど、あの方の予言のスキルも私たちに道を示してくれるのよ」
「へぇ。予言なんてスキルもあるんですか」
「ふふふ。結構、有名な話だったはずだけどね。……あ、ここよ。ここの水瓶に入れてちょうだい」
「はいはい。っと」

 水桶から水瓶へ中の水を移すと、空になった水桶をヘレンさんが受け取った。
「ありがとう。あのね……私にも院長様の予言が下りているのよ」
「え? そうなんですか?」
「いずれあなたに話すことになるだろうけどね」
「そんな大切な予言を聞いちゃってもいいんですか?」
「あなたになら構わないわ。いつか話すわね」

 個人に下りた予言ってのも気にはなるが、そんなのを赤の他人の俺に話しちゃっても……、ってそうか俺の加護を知っているからか! それならわかる。

(おや、おやおやおや~。脈ありじゃないですか?)
(そんなんじゃないと思うぞ。何か事情がありそうだ)
(そうですかぁ。それだけじゃないと思いますよ)

 とサクラとくだらない念話をしていると、後ろの廊下から、
「あー! ヘレン姉ちゃんが男と逢い引きしてる!」
「……あ! ホントだ!」
 と元気の良い子供たちの声が聞こえてきた。
 ヘレンさんは苦笑すると、俺に「いつか聞いてくださいね」と言って子供たちの方へと歩いて行った。
「こらぁ! あんたたち! ちゃんと掃除したの!」
 その場から立ち去ろうと歩いていると、後ろから威勢の良いヘレンさんの声が聞こえてきた。

――――。
「おい! 何か今見えなかったか?」
「あん? ……どれどれ?」

 アルの街の東側に築かれた前線基地は、小さな砦といえるほど、森に向かって立派な防壁を張り巡らしていた。
 その防壁の隙間から、二人の冒険者が森を指さして言い合っている。

「ん~? 特におかしいところは無さそうだけど?」
といって、振り向いた冒険者だったが、ガチャガチャという音が森から伝わってくる。
「お、おい! 来やがったぞ! ……襲撃だ!!!」
 森へと振り返った男の目には、手に武器を持って雑然と歩いてくるゴブリンや狼、そして、猿のような魔物の姿が映った。
 慌てて緊急事態の笛を強く吹く。

 こうしてアルの街をめぐる防衛戦が始まった。

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