23 聖女との語らい

「ついに来たか!」
 アリスは急いで本部テントから出ると、冒険者を防壁の側へと配置し、自らは防壁の上へと飛び乗った。

 やってくるモンスターは、ゴブリン、フォレストウルフ、クレイジーエイプの集団のようだ。総勢は40体ほど。どのモンスターもツタが目から生えて頭部に花まで生えていて、見るからにおぞましい。

「ぬ?」
 よく見ると、モンスターの頭部に咲いている花から黄色い胞子が漂っている。
「いかん! 魔法使いよ。火魔法と風魔法で焼き尽くせ! あの黄色い粉を吸うな!」
と指示を出した。
 魔法使い達が呪文を詠唱する。アリスも防壁の上で、
「我がマナを資糧に切り刻み、吹き飛ばせ。バースト・ウインド!」
 魔物の群れに向かってアリスの風魔法が炸裂する。アリスを基点として放射状にいくつもの風の刃が飛んでいき、さらに爆発するような風の奔流が黄色い胞子を森へと押し飛ばしていく。
 魔法使いの火矢や火炎槍、そして風の刃が一斉にモンスターに襲いかかる。

 モンスター達は防壁にたどり着く前に炭と化した。
 アリスは冷静にそれを見下ろすと、「ふん。どうやら小手調べのようだな」とつぶやいた。念のため風魔法で、モンスターの残骸を森へと吹き飛ばした。

 その視線の先には、数多の影がうごめいている森に油断なく向けられていた。

――――。
 その日の内に、モンスターの襲撃があったことが市内にも知れ渡った。

 俺は夜の警備当番のために、今は修道院の裏で座って空を見ている。
 傍らには魔道具のランプが置かれていて、裏庭を照らし出している。
 表にはもう一人の冒険者が見張っているはずだ。異常発生の時は笛を吹いて互いに連絡することになっている。

 満月を越えて、再び欠けだした月を見上げる。
 防壁の外ではピリピリした空気で警戒が続けられているであろう。こっちもどこかピリピリした空気があるものの、人々の生活の空気も伝わってくる。
 俺の隣ではサクラが丸くなって寝ている。本人は起きているといったのだが、命令して寝て貰った。逆に俺が寝ている間に何かあったときに起こして貰うことにしている。

「今日の襲撃は無事に凌いだみたいね」

 声のした方を見ると、そこには一人の年輩の女性が立っていた。

――ローレンツィーナ――
 種族:人間族  年齢:120才
 職業:修道院院長
 称号:聖女
 加護:トリスティアの祝福、光の精霊の加護
 スキル:予言6、鑑定4、神聖魔法5、回復魔法5、魔素マナ操作4

 この人が聖女ローレンツィーナ様か。人間族で120才。経てきた年月が目尻の皺に刻まれているようだ。
 穏やかで優しい表情をしている。
 それにレベル6のスキルを初めて見た。それも預言。恐らく生来のスキルなのだろう。
 俺は、慌てて立ち上がりお辞儀をしてから、
「無事に撃退したとは聞いていますが、おそらく様子見でしょう。気を抜くわけには参りません」
と言った。サクラは小さく目を開けて、再び目を閉じた。
「ふふふ。そうね。幸いに領主のカルマンちゃんやギルドの方で迅速に対応してくれたから良かったわ。アリスの姉さんも前線で頑張っているみたいだしね」

 ……領主をちゃんづけか。どうもこの方はざっくばらんな性格のようだ。
 ローレンツィーナ様が俺の側に立って俺を見つめる。

「……ずっと会いたいと思っていたけど、ようやくあなたに会えたわ」
 そういって口に手を当てて、ほほほと笑っている。
「俺にですか?」
「そうよ。ヘレンが浮かれて騒いでねぇ。……まあ、あの子に下ろした予言のせいではあるんだけどね」
「は、はあ」
「それに創造神様に祝福された方に、早くご挨拶したくてね」
「あはは。私なんてそんなにたいした者じゃないですよ」
「そんなことはないわ。それに連れている猫ちゃんも頼もしいわ」
「……わかりますか?」
「誰にも言わないわよ。そうね。……予言をしましょうか?」

 聖女ローレンツィーナ様は、俺の手を取ると目をつぶって瞑想に入った。
 予言を受ける。地球ではなかった経験に緊張がつのる。

――オメガの時、御霊を分かちし2つの魂あり。
――5人の眷属を従え、再生の光が世界を覆う。

「えっ? それって聖書か何かの文言ですか?」
「………………」
「あ、あの?」
「………………」
「聖女様?」
「……ふふふ。そうか……。ごめんなさいね。一人で納得しちゃって。聖典の文言ではないわよ。これは今もたらされた予言よ」

 そう微笑んでいう聖女ローレンツィーナ様の額に汗が浮かんでいる。
 俺は、ポケットからハンカチ代わりの布を取り出して、その汗を拭き取った。
「予言というのは一体なんですか?」
「私もよくは分からないわ。ただ意識的・無意識的にもたらされる言葉よ。私は創造神様からの神託と思っているけれどね」
「神託とは違うんですかね?」
「う~ん。どうかしらねぇ。過去には神託スキル持ちもいたみたいだから、本当は別なんでしょうけどねぇ」
「でもそれでしたら、さっきのは世界創造を言っているみたいですし、予言というより何かの神話っぽいですね」
「ふふふ。そうね。……ヘレンをよろしく頼むわ」
「え? ヘレンさんですか? まあ、言っていただければ力仕事くらいお手伝いしますけど」
「……まぁ、いずれわかるわ。それと私のことは聖女様なんて呼ばないで。ローレンツィーナと呼び捨てで結構よ」
「いやいや。そうはいかないですよ」
「ま、強制はしないけどね」

と、ふと会話が途切れた頃に、タイミング良く修道院の裏口から一人の修道女が出てきた。
「あ、いた! 院長様。こちらに来られてたんですね! こんな危険な時期に! ……って、あれ?」
 やってきたのはヘレンさんだった。
「こんばんは。ヘレンさん」
 俺は一礼する。聖女ローレンツィーナ様は、くすりと笑うと、
「ようやく話ができたのよ。例の彼とね。……さ、みんなが心配しているみたいだから、戻るわね」
「ええ。お休みなさいませ」
「ふふふ。大変だと思うけど、よろしくね」

 聖女ローレンツィーナ様は、俺から離れヘレンさんのそばまで行き、二言三言話をしてから裏口へ向かって歩いて行った。
 ヘレンさんは俺に一礼してから、聖女様についていった。

「ふぅ」

 緊張から解放されてため息が漏れる。
「やっぱりあれは予言じゃないな。ってか俺に全然関係ないじゃん」

 そうひとりごちて、再びサクラの隣に座って警備に意識を戻した。

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