24 アル防衛戦 1

 夜が明けた。
 明日、ゾディアック騎士団が到着する予定だ。

 夜半に交替して仮眠をとっていたが、再び交替の時間となり、俺は今度は修道院の正面へと向かった。
 前任者と交替し、正面玄関の脇に陣取り町並みを眺める。
 どこもかしこも朝食の準備をしているようで、煙突から煙りが立ち上っている。
 平和な日常の空気を感じながら、俺は左手に見える防壁の方を眺めた。

――――。
「敵襲来!」
 ピ――っ!

 鋭い笛の音とともに敵の襲来が告げられる。
 待機していたアクエリアス隊隊員と冒険者が武器を手に、陣地を駆け巡る。

 冒険者ギルド・アル支部のサブマスターのアリスは、昨日、前線基地の指揮権をアクエリアス隊のマリエンヌ殿に渡した。
 冒険者達は私の指揮下にあり、いわばマリエンヌ殿の指揮下にアクエリアス隊と別に、私を隊長とする冒険者隊が位置している。

「敵は、昨日のゴブリン、フォレストウルフ、クレイジーエイプに加え、オーク、コボルト、そして、ヒドラの混成部隊。総勢は約500。ただし後続が森に続いており見えません」
 伝令に私は思わず悪態と突いた。
「やっこさん。遂に本腰を入れてきやがったな」

 強化を重ねた防壁は、すでに街の防壁と同じくらいの硬度で、現在では高さ3メートルになっている。
 防壁の上に騎士団員らと冒険者達がのぼり、その後ろに支援部隊が待機している。防壁の途切れる両サイドには、騎士団員と重装備の冒険者による歩兵、と馬に乗った騎兵が待機している。
 森からは眼や鼻からツタが出て、異形と化したモンスターの群れが進軍してきていた。

「魔法部隊。放てぇ!」

 マリエンヌ殿の指揮で、風の刃と火矢、火槍が次々に飛んでいき、さらに弓兵が矢を次々に放つ。
 魔力の低下した魔法使いが支援部隊の魔法兵と交替して後ろに下がり、マジックポーションを飲んで待機する。

 しかし、遂に魔物の波は防壁にまで押し寄せた。上から焼けた油や火を打ちかけ、岩を投げ下ろし、槍を突き下ろす。
 魔物達は防壁自体へ攻撃したり、キラーエイプはよじ登ろうとしている。
 防壁の上にのぼってきた魔物は、周囲の騎士と冒険者によってたちまちに討ち取られていった。

「今のところは順調だな」
 ……問題はいつまで続くかだ。

 防戦が始まって2時間が経とうというとき、敵の動きが変化した。
 手先の器用な人型の魔物がこぶし大の木の弾を投げつけてきた。
 飛んできた木の弾は防壁や鎧に当たり、なんのダメージも与えること無く足下に転がる。

「一体、なんのつもりだ?」
 冒険者の一人がつぶやいた瞬間。

「――ぐぅっ」
 別の冒険者が根っこのような木の蔓に体を貫かれ、よろよろと防壁から転がり落ちた。

「なにっ!」
 慌てて転がっている木の弾を見ると、もぞもぞとうごめきだしていた。

「ぐぅっ」「ちぃっ!」
 別の所では木の蔓に巻き付かれた騎士がもがいている。慌てて周囲の者が助けようとしている。

「木の弾を焼け!」「投げ返せ!」
 支援部隊が慌てて火のついた棒で木の弾を焼き付けたり、防戦している騎士達が足下の木の弾を敵陣に蹴り飛ばしている。

 アリスは混乱を見て、
「まずいぞ!」
と叫んだ。その視線の先には対応が遅れた箇所の防壁に木の根が潜り込み、ぼろぼろとひびが入りつつあった。
 マリエンヌの声が響く。
「重装騎士! カバーを! 土魔法使いは防壁の修復を急げ!」
 アリスは慌てて崩壊しそうな防壁へと近づき、ぐずぐずと崩れそうな防壁にむかって、土魔法の硬化を繰り返し放った。
「だめだ。木の根っこをどうにかしなくて焼け石に水だ! このままだと魔力が保たない」

 しかし、やめるわけにはいかない。ここが破られれば一気に前線基地が崩壊する。
 額から汗が流れ落ちる。

「またせた!」
 その時、調査を担当していた学者老人がやってきた。その後ろには大きな瓶を持った冒険者が続いている。
「まだ少しだけだが、効くだろう。除草剤だ! 効き目を強くしてある!」
 アリスは叫んだ。
「助かった! 早くあの防壁に降りかけてくれ!」
 その声を聞いて瓶を持った冒険者が、上がり口から防壁の上へとのぼっていく。
 そして、ひびの入った所で瓶の中の液体を流し込んだ。

 しばらくすると、防壁の中で何かが暴れ回っているようにひび割れがひどくなったが、どうにか防壁は持ちこたえ、やがて静まった。
「全員。魔力を振り絞れ! 硬化だ!」
 とアリスは指示した。
 ……こっちは凌いだか。
 しかし、気を緩めることなくアリスは学者老人の元へと行く。

「助かったよ」
「なに。植物系の魔物と当たりをつけたので、強力な除草剤の錬成を依頼しておいたのさ。ただ量が少なくてあと二瓶しかない。増産させているが時間がかかるから注意してほしい」
「わかった」

 アリスは二個の瓶を冒険者に保たせると、本部テントに運ばせ、そのまま待機させた。
 そして、マリエンヌに除草剤の存在を知らせると、再び防壁の上で魔物の軍勢を見下ろした。

「ようやく後続が途切れたな。よし! もう少しだ!」
 と周りの騎士や冒険者を鼓舞すると、自らは範囲魔法を詠唱する。

 エルフの保有する魔力は人間族のそれを軽く凌駕する。
 アリスが体内の魔力を練ると、うっすらとその眼が赤みを帯びた。

「我がマナを資糧に切り刻み、吹き飛ばせ。バースト・ウインド!」

 昨日より多くの魔力を練って放たれた暴風の魔法は、下で燃えている火油の火を巻き込んで、火炎旋風となって敵陣を駆け抜けていった。
 魔物の体内から生えているツタが燃えて崩れ落ちていき、同時に魔物もその場に倒れ伏した。
 その光景に、疲れの色の濃い防衛陣が歓声を上げる。
「やったぞ!」「さすがサブマスターだ!」「ざまあ見やがれ!」

 ――体内魔力の枯渇が近い。
 アリスは、力の抜けた体に鞭を打ち、膝に手を置いてかがむと、荒くなった息を整えながらも油断なく敵陣を見る。
 けれども、魔物の侵攻は止まったようで、動いている敵も少ない。
 アリスは腰のポーチからマジックポーションを取り出して飲み干しつつ、さらに敵の動きを観察し続けた。

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