27 森からの脱出

「ジュンさん!」
 慌ててリューンさんが這いずりながら俺の側にやってきた。

「うっ……体が動かない」
 俺の頭が急に持ち上げられる。
 ぐいっと向きを変えられると、目の前にリューンさんの顔があった。
 涙に濡れたリューンさんが、
「ああ、こんなにボロボロに……。私たちのために」
といった。
 女の子もまわりの惨状を見て顔を青くさせていたが、ボロボロになった俺の服をつかんで、
「お兄ちゃん、大丈夫?」
と言ってくれた。

 そのとき、
「なんじゃこりゃ!」「そんなことよりリューンだ!」
「リューンちゃ~ん!」
という三人組の声が響いた。
 リューンさんがはっとして声の方を向いた。
「ここよ! お父さ~ん! お母さ~ん! おじちゃ~ん!」
と叫んだ。
「よかった! リューン!」「こっちだ! 急げ!」
と言いながら、瓦礫の向こうから現れたのは、全身に赤い鎧とトゲトゲの黒い鉄棍を持った宿の親父・ロベルトさんと、青いローブに青緑の宝石をつけたスタッフを持った宿の女将・ライラさん、そして全身黒い鎧に漆黒の大斧を抱えた武器屋の親父ドワーフのターレンさんだ。
「いた!」
という声と共にライラさんがリューンさんに抱きついた。

「よかった! リューン! よく生きててくれたわ!」「うんうん。お母さん!」
 ライラさんとリューンさんが抱き合っている。

「あれ? この子は?」
「一緒に森に落ちたの。こっちはジュンさんよ。私たちを守ってくれたの」
とリューンさんが言うと、ライラさんが女の子のそばに行くのがわかった。
「もう大丈夫よ」「うんうん。怖かった! うぇぇぇぇん」
 女の子がライラさんに飛びついた。ライラさんは女の子をあやしながら、
「……あなた、足は?」「折れちゃったみたい」
「ちょっと待ちなさい。はい。ポーション」
「…………ありがとう。もう大丈夫。お母さん」

 ううう。俺が放っておかれている。誰か気づいてくれっと思っていると、急にぐいっと持ち上げられ、地面に座らされる。
 ターレンさんが俺の肩を支える。「大丈夫か? ……よくやったじゃねえか。よく守り切ったな」
「本当にありがとう。ジュンくん」
 そういってライラさんが俺の頭を抱き寄せる。胸だけで無く色々とふくよかな感触が当たる。

「い、いえ。……よくここまで来れましたね」
 ライラさんが離れて俺を見た。
「ふふふ。昔取った杵柄で、無理矢理きたのよ。それより怪我は? どこにもない?」
「怪我は大丈夫ですが、体力切れみたいで体がもう動かないです」
「え? だって服がこんなにボロボロになってるけど? ……ううん、ごめんね。体力回復ポーションは持ってないから。ターレンお願い」
「任しとけ! 小僧。俺が運んでやる!」
 ターレンさんはそう言うと、道具袋から大きな布を取り出して、半裸に近い俺の体を覆ってくれた。

「すみません。ターレンさん。……剣も折れてしまいました」
「いいって。今度、新しいのをくれてやらぁ」
と話しているところに親父のロベルトさんがやってきた。どうやら周りを警戒していたようだ。

「……すごいな。これお前一人でやったのか?」
 俺は力なく笑う。
「ははは。偶々ですよ。……それに酷使しすぎて体が動かなくなっちゃって」
「偶々って……。でも、ありがとうな。娘を助けてくれて」
「いえいえ。自分も必死だっただけです」
「そうか。ありがとう」
 ロベルトさんはそう言い終わると、女将さんを見た。
「……ライラ。すぐに脱出するぞ」「そうね。さっさと行きましょう」

 それから俺はターレンさんの背中におぶさわれた。ライラさんは女の子を負んぶしている。
 道中で出てきた魔物は、すべてロベルトさんが対処した。
「おらっ! 圧殺!」ドキャ!
「粉砕!」メキャ!
「ぶっ飛べ!」ドゴン!

 ――ピコーン。
「圧殺」を覚えました。
「粉砕」を覚えました。
「大車輪」を覚えました。
 スキル「棍技」をマスターしました。

 森の出口に向かって進んでいると、
「止まれ! 冒険者か?」
誰何すいかされた。
「おう! 元ランクA冒険者。三匹の鬼スリー・オーガーズだ」
「なに? 三匹の鬼スリー・オーガーズだと? ……と鉄棍鬼殿か。了解した。生存者は?」
「ああ。見たとおり娘と、冒険者一名、そして、修道院からさらわれた女の子一人だ」
「……了解した。基地内部の受付で再度、報告してほしい。今、騎士団も手分けして森に救出のために侵入している」
「ああ。わかった」

 どうやらアルの街から森にさらわれた人が結構な数いるらしく、騎士団が小グループに分かれて森に侵入しているようだ。
 そのまま救護テントに連れて行かれ、胞子の浸食の確認と怪我の治療が行われた。
……とはいえ俺は自然回復で怪我などはなかったので驚かれたが。

 救護テントの外を慌ただしく騎士や冒険者が動き回っており、まったく眠れない。
 俺の後に運び込まれた怪我人がうめき声をあげ、それを治療する回復魔法の光。そして、ポーションの匂いがテント内にただよう。
 眠れないままに仕方なく、そのままテントの中で横になっていると、一時間ほどしてようやく手足に力が戻ってきた。
 俺は起き上がって、大きく深呼吸をすると体の調子を確認する。よかった。どこにも異常が無いようだ。
 リューンさんと女の子は一緒のスペースで固まって横になっていて、その側に三匹の鬼スリー・オーガーズの姿も見える。

「あ、そうだ。サクラに連絡しないと……」
 俺はそっと外に出て、テントから少し離れると、
(サクラ。こっちは無事に脱出した。今は前線基地の救護テントだ)
(よかった! 了解です! こっちの襲撃も納まりました。例のグラマーさんも無事です)
(おいおい。シスターって言えよ。……でも無事でよかった)
(というわけで、今からそっちに行きます)
(えっ? 今から?)
(はい! マスターの看護を他に人に任せてられないですよ! ではでは!)
(お、おい!)
(………………)

 っていうか、そのまま修道院の警備をしてもらいたかったんだが……。
 そんな俺の思いとは裏腹に、サクラがアルの街をこっちに向かって移動しているのがわかった。
 ほぼ一直線にこっちに来るのが感じられるから、きっと屋根を伝っているのだろう。……あ、もう東門をくぐったよ。早いなぁ。
 これも忍びだからかなぁ。なんて暢気に考えていると、遠くから走ってくる白い服を着た少女が見えてきた。人化したサクラだ。

「げっ。マジでナース服か?」
 思わずつぶやいた俺に、サクラがスピードを緩めずに抱きついてくる。
「マスター! ご無事で!」
 飛び込んできたサクラを受け止めると、サクラは器用に俺の体をのぼり、その胸に俺の顔を抱き込んだ。
「むがむが……」
 顔に押し当てられた柔らかい感触に陶然としながら、慌ててサクラの体を放そうとするが、サクラは体勢を入れ替えてお姫様だっこの姿勢になった。
「ふっふっふ。これでもうマスターは私の魅力にメロメロに……」
と笑いながら、サクラが俺の首に腕を回す。
「おい! いいから離れろって、め、目立つだろ!」
 そう、実際に緊迫して動き回っている基地の中で、注目を浴びてしまっていた。
 ひときわ大きなテントから、輝く白銀の鎧を着た女性が出てきて、まっすぐに俺たちの法へ向かって歩いてくる。

「君たち。無事の再会を喜ぶのはいいが、もうちょっと静かにしてくれ!」
 俺はサクラの体を無理矢理離すと、頭を下げた。サクラの頭にも手をやって、無理矢理頭を下げさせる。
「申しわけない。うかれてしまった」
と謝ると、女性はやれやれという顔をすると、
「とにかく無事に再会できてよかったな。……ただ、未だに多くの人たちを捜索しているところなんだ。自重してくれ」
「はい。本当に申し訳ない」「すみません」
 女性は一つうなづくと、振り返ってテントに戻っていった。

――マリエンヌ・アルテミシア――
 種族:人間族 年齢:27才
 職業:ゾディアック・クルセイダーズ・アクエリアス隊隊長
 称号:戦乙女、白銀のランサー
 スキル:槍術5、馬上槍4、馬術4、鑑定3、統率、気配察知、魔力感知、危機感知、火魔法3、回復魔法4

 ほう。あれがゾディアック・クルセイダーズの隊長さんか。俺より2つ年上だが、なかなかの美人だ。それにスキルが高レベルでまとまっている。
 きっと厳しい訓練を耐え抜いてきたんだろう。そう思うと、よけいに騒いでしまったことが申し訳なく思ってしまう。

 サクラが俺の手を取り、
「さあ、テントに戻りましょう。怪我を確かめませんと」
「怪我は大丈夫だ。回復したからな。って、それより服だ。持ってきてないか?」
「え? 宿に置いてきてしまいましたよ。仕方ないですね。せめて横になってください」
「あちゃ~。さっき言えば良かった。……後で持ってきてくれないか?」
「いいですよ」というサクラに引っ張られて救護テントに戻り、さっき横になっていたスペースに向かった。

 今度はサクラを連れていたので、いくつかの視線を感じたが、さくっとスルーして俺はベッドに横になった。
 サクラはその側に椅子を持ってくると、「服は後で持ってきますが、今はここで見張っていますからごゆっくりお休みください」と言い、懐から何かの香を俺に嗅がせた。
 白檀のように甘い香りに心が落ち着いていき、気がついたら俺は眠っていた。

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