30 討伐の後で

「討伐完了!」
 前線基地から報告がもたらされた。
 俺は修道院に設置された警備用の休憩スペースで眠っていたが、人々の歓声に起こされた。

「そうか。よかった」
 目をこすりつつベッドから身を起こすと、同じ場所で仮眠を取っていた他の冒険者も起き上がってきた。
 膝の上に乗っかってきた黒猫サクラを撫でながら、しばし話し込む。

 これでようやく平穏に戻るな。
 そう思いつつ伸びをして大広間へと行くと、聖女ローレンツィーナ様ほか修道女たちを先頭に、避難してきた人々が感謝の祈りを捧げているところだった。

 しばらく見ていると祈りが終わり、人々は安心したような顔つきでざわざわと話し合っている。
 人々の合間を縫ってヘレンさんがやってきた。

 少しヘレンさんと話をした。
 どうやらまだ討伐部隊は帰ってきていないらしいが、明日か明後日には合同葬儀並びに鎮魂式を行う予定のようだ。また冒険者ギルドから今日の夕方まで警備を続けるようにと指示が来ているとのことだ。
 亡くなった方も大勢いるが、少しずつ平穏を取り戻すだろうとのこと。
 そして、最後にお礼を言われた。

「あの時、守ってくれて、あの子を無事に連れ帰ってくれて本当にありがとう」
「いやいや。それが俺の仕事なんで気にしないでください」
「……あの晩、連れ去られた人で戻ってきたのは3人だけなのよ。あなたがいなかったら、あの子ももう一人も戻ってこれなかったわ」
「偶々、運が良かったんですよ。それにリューンさんの両親のパーティーが救助に来てくれたし」
 俺はそう言ったが、ヘレンさんは俺をじぃっと見つめている。
「……大丈夫。わかっているから」
と、ヘレンさんは言うと一礼して去って行った。

 その日の夕方、無事に警備任務を終えた俺たちは、退出する前に聖女ローレンツィーナ様よりお礼を言われ、さらに直々に祝福を与えられた。
 他の面々とギルドに戻ると、詳しい状況の説明があった。

 森の異変の正体は、やはりエビルトレントというモンスターが原因だったらしい。このモンスターは危険度はS級で、発生は歴史上、今回で2件目だそうだ。

 森に住んでいた魔物や獣、そして、何人かの冒険者はモンスターの胞子に侵食され、操り人形となっていた。連れ去られた街の人はエビルトレントの養分にされていたらしく、脱出した俺たち3人以外の生存者は0。森の木々も侵食され、もはや森全体を焼き払うしかないらしい。
 エビルトレント戦では数多の魔法の飛び交う激戦となり、侵攻部隊にも死傷者が出たが無事に討伐を完了した。また救援に来た4つの騎士隊はそのまま森を焼き払う作業を行うので、しばらくは駐留するらしい。

 思えば、俺がこの世界に転移して、最初の戦闘がゴブリンだったが、あの時すでにエビルトレントによる浸食がはじまっていたのだ。あれから二週間も経ってはいないというのに、こんなにも大変な事になるとは思いもしなかった。
 本来、S級モンスターは、それ一匹で国を滅ぼせるほどの力を持ったモンスターらしい。エビルトレントの場合は、本体自体は強力な魔法を使うとはいっても、動けないためにS級ほどの脅威とはならないが、他の生物に胞子を取り付けて浸食して手駒にする点でS級に認定されるらしい。

 森を焼き払い、安全が確認されなければ警戒態勢は解除されないらしいが、後の仕事は騎士団が請け負うらしく、冒険者の出番はここまでとなった。
 疲れた体に鞭を打ってサクラと一緒に宿に向かう。っと、その前に、路地裏でサクラに人化してもらった。
 すでに人型で認知されてしまったので、こっちの姿をデフォルトにする必要があるのだ。
 なぜかウキウキしているサクラを連れて、その日は宿に戻るなり親父さんの指示した部屋のベッドに倒れ込むように眠った。

 次の日は曇りだった。俺は外に出る気がせず宿で休ませてもらい、その次の日には合同葬儀に出席した。
 前日と同じく曇天で街全体が悲しみに沈んでいるようだった。
 外で亡くなった人は遺体や遺品を棺に入れ、東門から修道院まで葬列が組まれた。道の両脇にいる人々はみな帽子を取り頭を下げて黙祷する。
 修道院の裏に広がる墓地の一角に棺が並べられ、その手前の祭壇で聖女ローレンツィーナが祈りを捧げ、その後、埋葬となった。

 その次の日にはようやく晴れとなり、俺はサクラと共にギルドへと向かった。報酬をもらうためだ。

「おはようございます。エミリーさん」
「あら、おはよう。……そういえば大活躍だったんですって?」
「え? なにがですか?」
「森に連れ去られた人を魔物から一人で守っていたって聞いたわよ?」
「ああ、あれは……まあ、そうですが、宿の親父さんとかが救援に来てくれなければ危なかったですよ」
「ふぅ~ん。そう? っと、今日は報酬の受け取りね? 今回の報酬は王国と領主様から出ているわ。ジュンさんの場合は修道院の護衛に加え、連れ去られた人の救出で特別報酬が出ていて、合計で30万ディールね」

 その金額を聞いて、思わずおおっと声が出てしまった。これでしばらくは楽ができる。いや壊れた武器の買い換えをしないといけないか。
 早速の報酬の使い道を考えていると、エミリーさんが、
「ね、それでそっちの少女は誰かしら?」
ときいてきた。
「あっ。そうだった」と言って、俺はサクラを振り返る。サクラはにこっと笑って、

「はい。サクラです。ジュンさんの従者兼愛人です!」

と爆弾を落とした。思わず「ぶっ!」と吹き出して、慌ててサクラの口をふさぐ。
「ちがうちがう! 愛人じゃない!」
と必死に弁明する俺を、エミリーさんが白い目で見ていた。
 思わず冷や汗が出るが、サクラが俺の手を払いのけて、
「愛人は将来ってことで」
と言いやがった。エミリーさんはため息をついた。

「はぁ。……まあいいわ。別に複数の奥さんがいても変じゃないしね」
と言う。……えっ。この世界ってそうなの?
 エミリーさんの言葉に逆に驚いたが、彼女も気を取り直したのか、いつもの様子に戻った。そこで、俺はサクラの冒険者登録を依頼した。
「で、ついでにチームの申請もしておく?」
とエミリーさんにきかれた。

「いやむしろカップル申請で」「……チーム申請?」
余計なことをいうサクラの頭にチョップを落としながら聞き返すと、
「チームとしてギルドに登録しておくと、知名度が上がるとか、指名依頼の候補とか、自分のランクの一つ上の依頼まで受けられるとかあるのよ」
「ふ~ん。そうですか」
「ま、ギルド登録はソロだけにしておいて、実際はチームって変わり者もいるけど、だいたいの冒険者はチームで登録するわね」
「なるほど」と頷いていると、エミリーさんが俺の耳元に口を寄せて、
「かわいい子ばっかり集めた時に、チーム申請しておくと、他の男どもへの牽制にもなるわよ」
と言って、俺にウインクした。サクラがムッとうなる。
「そ、そうですか。じゃあ申請しとくかな」

 というわけで俺とサクラとでチーム申請の手続きを行った。
 ちなみにチーム名は今のところ空白だ。なにしろ、
「ジュン様と愛人ペット達」「ハーレムナイト」
「ご主人ジュン様と下僕アタシ」「マスターを愛でる会」
愛欲の家ラブラブホーム」「快楽のねこじゃらし」etc……。
 ……サクラの案は禄なのがない。ってか、こいつの頭はどうなっているんだろう?

 俺もこれといって思いつかず、空白となったのだ。エミリーさんは笑いつつ、「まあ、そのうち二つ名がつけば、自然とそれがチーム名になるかもね」と言っていた。

 無事に登録が終わり、依頼の張ってある掲示板を見ようとすると、エミリーさんが、
「ああ。そういえば、例の事件で延期になっていた初心者の合宿が明日からあるけど、どうする?」
 初心者の合宿?
 ……ああ、そういえば前にマリナさんがそんなことを言っていたな。明日とは随分と急だな。
 と思っていると、エミリーさんが、
「今回の件で、なるべく多くの低ランク冒険者に早くランクアップできるようになってもらいたいのよねぇ」
と言った。ははぁ。なるほどね。……こいつもどこまで基礎知識があるか心許ないしなぁ、と疑念の目でサクラを見るがスルーされた。訊かれたくないのかもしれない。
 ため息をついて、俺は二人分の申し込みをお願いした。

「マスター。武器を買いに行かなくていいんですか?」
 ギルドからの帰り、サクラにそう言われて慌てて冒険者の憩い亭の隣の武器屋に駆け込んだ。
「おっちゃん! 悪い! 明日から合宿なんだ! 武器を見繕ってくれ!」
「うおっ!」
 カウンターでうつらうつらと居眠りをしていたおっちゃんが、勢いよく入っていった俺の声に驚いて、ひっくり返った。
「いてててて。……なんだ。お前さんか。武器か? ちょっとまっとれ」
 そういうと、ターレンのおっちゃんは腰をさすりながら奥の部屋へと入っていった。
「そういえばサクラはいいのか?」
 振り向いてサクラにきくと、サクラは2本の小太刀を取り出した。
「私の武器は一族に伝わる2本の忍者刀があるから大丈夫です」
「ほほお。忍者刀か。……もしかしてサクラのいた屋敷に行けば刀とか手に入るかな?」
「え? マスターは刀を知ってるんですか?」
「ああ。昔に憧れていたことがある」
「なるほど。両刀使いと……。ふむふむ」
「……おい! 絶対誤解してるだろ! 俺はノーマルだぞ!」
「え? だって手を出されないから、てっきり」
「んなわけあるか! ってか刀の話はどうなった?」
と騒いでいると、ターレンのおっちゃんが、
「んだぁ。騒がしいな。両刀使いがどうした?」
「い、いや何でも無い。忘れてくれ」
「そうか? ……まあ、いいけどよ。俺は勘弁してくれな」
「俺はノーマルだ!」
「はいはい。わかったわかった。で、こいつはどうだ?」

 おっちゃんが持ってきたのはバスタードソードとロングソードだった。
 俺は順番に抜いて刀身を眺める。バスタードソードの方はうっすらと青みを帯びている。

――ミスリルソード――
 ミスリルでできたバスタードソード。
 価格:1000万ディール
 迷宮の宝箱から発見された剣で、魔力伝達に勝れ、魔法発動体にもなる剣。
 自動魔素吸収式の魔法回路が仕込まれており、自然界の魔素を吸収して、自動的に状態保持と自己修復の魔法を発動する。そのためにさびないし、刃が欠けても一晩で元に戻る。

 ナビゲーションの説明をみて、その価格と剣の特性を見て俺は目を疑った。震える手で剣を鞘に戻し、つづいてロングソードを抜く。

――フレイムエレメント・ソード――
 ミスリル合金でできたロングソード。
 価格:1200万ディール
 迷宮の宝箱から発見された剣で、火の精霊サラマンデルの加護が付与された剣。
 魔力を込めると炎が刀身を多うほか、その炎を打ち出すこともできる。
 自動魔素吸収式の魔法回路が仕込まれており、自然界の魔素を吸収して、自動的に自己修復の魔法を発動する。そのためにさびないし、刃が欠けても一晩で元に戻る。

 俺は剣を鞘に納めるとおっちゃんに返した。
「おいおい。いくらなんでも、こんなに高い剣を持ってこられても支払えないよ」
と言うと、おっちゃんが驚いたように俺を見上げた。

「ほう。価値がわかるのか。……この2本はな。昔、冒険者をやってたときに迷宮で見つけたものだ」
 おっちゃんはニヤリと笑った。
「なにしろ、俺のチームに剣を使う奴はいねえからな」

 その言葉を聞いて納得する。確かに宿の親父さんは鉄根だし、女将さんは魔法使い、おっちゃんは大斧だ。
「何かあったときのために取っといたんだがな。昨日、あいつらと相談して、この2本をお前さんにやることにした。リューンのお礼だ」
「いやいや。こんなに凄い剣は受け取れないって」
「くっくっくっ。ライラの言うとおりだな。あいつはお前が受けとらねぇって言ってやがったぜ」
「そうさ。たかがランクFの冒険者が使うような剣じゃないよ」
「まあな。だがなこれは俺ら3人のお礼だ。受け取ってくれ。あとで処分しようがかまわねえが、価値がわかるお前さんだ。できたら使ってやってくれた方が剣にとっても幸せだろう」

 そういって、おっちゃんは俺に無理矢理剣を押しつけた。俺は受け取らないとばかりに押し返す。しばらく、2人で押しつけ合っていたが、
「お前が受けとらねぇんなら処分する。……だから、頼む。受け取ってくれ」
 懇願するようなおっちゃんの目を見て、俺は観念した。

「こんなに凄い剣。どう使えってんだよ」
 そういいつつ剣を受け取った。
「なに。お前なら使いこなせるだろう。……何があったかはきかねぇ。だが、あの森の破壊の跡を見て、しかもリューンから話を聞いて思ったんだよ」
「何をだよ?」
「…………まあ、そういうこった」
 あからさまに話題をそらせたターレンのおっちゃんだったが、俺には何もきくことはできなかった。

「あ、そうだ。すぐじゃなくて良いんだけどさ。籠手を造ってくれないか?」
「籠手だと?」
「ああ。こないだの戦いで、途中で剣が折れてからは素手だったんだ。いざっていうときの為にさ拳を保護する籠手が欲しいんだ」
「ううむ。そうか……。残念だが、俺は武器屋だ。防具はつくれねぇ。そんでな、知り合いに人族のくせに優秀な鍛冶師がいる。だからそいつに頼んでやる。……いつがいい? お前の好きなときに来て貰うからよ」
「マジで助かるよ。……そうだな。明日から合宿だから、明後日ならいいかな?」
「おお、合宿か。懐かしいな。そうか。帰ってきてからまた声をかけてくれ」
「わかった。おっちゃん。何から何までありがとうな。この2本は大切に使わせて貰うよ」
「いいってことよ。俺らが持っていたって宝の持ち腐れだ。その2本だって使い手を待っていたんだろうさ」

 俺は何度もお礼を言いつつ、武器屋を出た。そして、そのまま宿に戻り親父さんと女将さんにお礼を言う。が、二人からはリューンさんのことで逆にお礼を言われてしまった。
 まあ、そんなこんなで部屋に戻り、明日の早朝の集合時間に間に合うように早く寝ることにした。
 ……サクラが俺のベッドに潜り込もうとしてきて色々と台無しだったが。

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