31 合宿 1 参加者たち

 さすがに宿の朝は忙しい。
 しばらくぶりでリューンさんが元通りに食堂で働いている。

「あ! おはようございます! ジュンさん!」
 俺の顔を見て、うれしそうに微笑んでくれた。
「おはよう。もう大丈夫なの?」
「ええ。おかげさまで。……ジュンさん。あんなにボロボロになっても助けてくれて、本当にありがとうございました」
「いいって、この宿からリューンさんがいなくなったら、みんな悲しむよ」
「そ、そうですか。ふふふ」

 その時、俺の背後からサクラが顔を出す。
「あれぇ。マスター、浮気ですか? 私という者がありながら、浮気なんですか?」
と言った。リューンさんがサクラを見てピキーンと凍る。

 俺は振り返って、サクラにデコピンをかました。
「あううぅぅ」
 おでこを押さえてうづくまるサクラに、やり過ぎたかなと思い、
「誤解されるようなことを言うなよ」
といいつつ、立ち上がらせてやった。

 そのころ、ようやくリューンさんの氷が溶けたようで、
「え、え~と」
と言い出したので、
「同じチームのサクラですよ。よろしくお願いしますね」
と紹介した。サクラは、
「同じのサクラです。よろしくです」
と言うと、リューンさんが「お、同じ部屋?」とつぶやいていた。

 おいおい。いつになったら食事がとれるんだと思いつつ、俺はサクラを引っ張って、手近なカウンターに座った。
 リューンさんが慌てて厨房に入っていくと、入れ替わるように女将さんのライラさんが俺とサクラの分の朝食を持ってきてくれた。
「はいよ! 二人分ね。……あ、そういえば今日から合宿だって?」
「ええ。そうです」
「懐かしいなぁ。昔はよく引率したもんだよ」
「へぇ。女将さんは引率する側だったんですか?」
「そうさ。うちらのチームは3人だけだったからね。人数的に丁度良いって、よくギルドからお願いされたもんさ。ま、がんばってきなよ」
「はい! がんばります!」

「間違っても、うちのロクデナシみたいに可愛い女冒険者にちょっかい出したり、水浴びを覗いたり、セクハラしたり……するんじゃないよ」

 お、女将さん。だんだん威圧が増してきてるんですが……。床板がミシリと音を立て、周りの空気が3度ほど下がってますよ。
「だ、大丈夫です。そんなことしないですよ」
と俺が言うと女将さんは照れくさそうに笑って、
「あらいやだ。ついね。昔のことを思い出してね。ほほほほほ」
と笑って厨房に戻っていった。横を見ると、サクラが恐怖に固まっていた。
 俺はサクラの背中をトントンと叩いて落ち着かせると、さっさと朝食を食べた。

 朝食後、さっそくギルドに向かう。幸いにして俺たちの部屋は宿泊費なしでそのまま取っておいてくれるとのことだ。娘の命の恩人にそれくらいさせろとのことで、ありがたくお願いしておいた。
 昨日、ターレンのおっちゃんから貰った2本の剣だが、とりあえずミスリルソードを腰に差しフレイムエレメント・ソードはマジックバックに収納した。
 正直、ロングソードがカバンに入るところが非常にシュールな画に見えた。この2本は状況次第で使い分けをすることにしている。

 ギルドに入ると、朝の混雑のピーク時間だった。
 がやがやと騒がしい中で、俺を見つけたマリナさんが、
「あ! ジュンさん! 合宿参加者は修練場に集合です!」
と声を張り上げた。周りの冒険者は何事かとこっちを見たが、合宿と聞いて納得したようだ。
 俺は返事代わりに右手を挙げて、サクラを連れて修練場へ向かった。
 奥の扉を開け、短い廊下を進んでいく。
 広い修練場に出ると、そこには男性冒険者が2人、女性冒険者が2人、そして、見知っている女性が一人いた。

「あれ? ヘレンさん?」
 そう。そこにいたのは修道女のヘレンさんだった。どこか緊張した面持ちで、俺を見た。
「今日は修道院の方はいいんですか?」
「ええ。何しろ修道院から出ることになったから」
「はっ? どうして?」
 ヘレンさんはじぃっと俺の顔を見つめた。
「ぼ、冒険者になるためよ」
「だって! ……聖女様はなんと?」
「その聖女様がそうおっしゃったのよ」
「……まじで?」
「本当よ。それでさっき登録を済ませたの。……そちらの若い子は?」
 と、その時、ギルドの建物の方から人間族と犬人族の男性がやってきた。

 人間族の男性が威勢の良い声で集合を命じる。
「さて、これから初心者合宿を行う。俺はルイ・ラングース。烈風の爪に所属している。今回の教官を務める。こっちは同じ烈風の爪のランド・イルミタリ。同じく教官をしてもらう。
 今回の参加者は全員で7人だ。まずは順番に自己紹介からだ。……そうだな。端のおまえからだ」

 指された俺は一歩前に出る。
「はい。俺はジュン・ハルノ。武器はバスタードソード。こっちはチームメンバーのサクラだ。よろしく」
 次にヘレンさんだ。
「私は、ヘレン・シュタイン。僧侶よ。武器はメイス。治療魔法と回復魔法が使えるわ」
 一礼したヘレンさんは俺の隣に下がった。小さく「サクラ?」とつぶやくのが聞こえた。

「次は俺か、俺はトーマス・ラクロー。バスタードソードを使う。剣士だ」
 ナビゲーションでステータスを確認しておこう。

 ――トーマス・ラクロー――
  種族:人間族
  年齢:14才 職業:冒険者
  能力:剣術1、体術1、農業の心得

 ブラウンの髪をしていて、身長は170cmほど。がっしりした体つきだ。農業の心得? ……まあ、後で本人に確認してみるか。

「僕の順番だね。僕は、ケイム・キルギス。土魔法を使う魔法使いです。父はこの町の衛士をしています」
 金髪。175cmほど。身長もあるのでほっそりしている。

――ケイム・キルギス――
  種族:人間族
  年齢:18才 職業:冒険者
  能力:土魔法2

「はいよ。私はセレス・ドッケンよ。見ての通り犬人族だけど、よろしくね。武器はメインが弓。偵察とか得意よ」

 ――セレス・ドッケン――  
  種族:犬人族
  年齢:18才 職業:冒険者
  能力:肉体強化、嗅覚強化、気配感知、凝視、弓術2、体術2

 金髪ショートのスマート美人だ。犬人族だけあって、嗅覚に勝れ、格闘の能力を持っている。垂れている犬耳と、ぴょこんと立っている尻尾がかわいい。

「……ルン・ロドス。剣士、武器、バスタードソード」

 ――ルン・ロドス――
  種族:人間族
  年齢:16才 職業:冒険者
  能力:剣術2

 金髪の長い髪を頭の後ろで一本にしばっている。ほっそりしているがトーマスよりも剣術レベルが上だ。ずいぶんと無口なようだ。

 ついでに、今のうちに教官のステータスも確認してみよう。

 ――ルイ・ラングース――

  種族:人間族
  年齢:35才 職業:冒険者
  所属:烈風の爪
  能力:肉体強化、剣術3、槍術4、体術3、生存術3

 ――ランド・イルミタリ――

  種族:犬人族
  年齢:34才 職業:冒険者
  所属:烈風の爪
  能力:肉体強化、剣術4、体術3、生存術3、嗅覚強化、気配感知

 おおっ、ランクB冒険者で能力も高い。ルイ教官は槍術、ランド教官は剣術がレベル4だ。

「さて、それでは最初にスケジュールを説明しよう。
  本日これからは、それぞれの武器にあわせた基礎訓練を行う。
  昼食を挟んで、午後からは屋外訓練として北の湖へ出発し、そこで一泊する。明日は午前中は森の探索訓練を行い、昼食の後、町に戻ってきて反省会をして終了だ。……最初の基礎訓練について、ランド、説明してくれ」

「ああ。それでは、続いて基礎訓練を行うぞ。基礎訓練では近接戦闘の訓練だ。ケイムは魔法使いだが、敵が前衛をくぐり抜けてくる場合もある。そのための護身術を身につけてもらう。剣術は俺が、杖はルイが指導する。弓のセレスは俺のところへこい」

 俺とサクラ、トーマス、ルン、セレスはランド教官、ケイムとヘレンがルイ教官のところへ行く。

 ランド教官は武器の種類と特徴を説明し、ついで刃をつぶした練習用の武器を持たせて型と素振りの練習をする。
 次に、戦闘スタイルの違いと場面ごとの戦術についての講義があり、ペアになっての回避主体の組み手となった。武器それぞれに特徴がある。ナイフは持ち方を変えることにより、戦闘方も変わるし体術が必要になる。

 ランド教官が、
「さあ、実際の戦闘スタイルを意識しながら組み手を行うぞ。
 この訓練ではジュンとルン。トーマスとサクラ、セレスと俺とでペアとするから並んでくれ」
「「「「はいっ」」」」
「いいか。はじめのうちは、攻撃よりもまず相手の攻撃を回避し、いなし、防ぐことを重点的に教える。
 一番大切なのは、自分のできることと相手のできることを見分けることだ。そのため、日頃から訓練を欠かさないことと、相手の動きを観察する癖をつけろ。相手の武器は何か、利き腕は右か、左か、視線の使い方、息づかい、足さばき……とにかく相手をよく知ることだ。それから相手が一匹とは限らない。周りの状況もよく観察しろ―――――――」

 とまあ、こんな調子で午前中は、武器の構え方、基本的な動作、体さばきを繰り返し練習した。
 昼食前にもう一度集合し、お昼の後は一人ずつ教官と組み手を行い、それから屋外訓練に出発することになった。
 俺たちはギルドのカフェへと移動し、みんなで用意された昼食を取る。
 初めてギルドのカフェで食事をしたが、思ったよりもおいしい。ちなみに昼食は卵と肉のサンドイッチにスープ、サラダとなっている。
 食べているときにトーマスが、
「ジュンさんって、剣の使い方とか体さばきとか、とても初心者に見えないんだけど……鍛錬してたの?」
「ん……いや、別にただ自主練ばっかりだよ」

 まあ、称号と加護とスキルが普通じゃないせいですがね。
と思っていたら、ランド教官が、
「俺もトーマスと同じ意見だ。まあお前たちの中では一番の年長だ。長い鍛錬の期間があってもおかしくはない。基礎があってこそ、すぐに適応できるはずだ」
「いやいや。ランド教官まで。おだてないで下さいよ。………そこそこには鍛えてましたから」
「そうだろうな。冒険者だから詮索はしないが、まあ慢心しないことだ。無理をすると、すぐに命を落としてしまうことも多いからな」
 ランド教官の言葉にルイ教官は無言で頷いている。
「そうそう、ルンも思ったよりできるな。トーマスも良くなってきている。このまま鍛錬を欠かさなければ、すぐに剣術のレベルも上がるだろう」
「ありがとうございます。教官。がんばります」
「……ありがとう」
「しかし、何だな。ルンは無口だな。緊張してるのか?」
「ん、少し」
「冒険者も人付き合いだ。今回の合宿でできるだけみんなを話をするようにした方がいいな」
「はい」
「ケイムの土魔法は応用範囲も広いが、スタッフを使った防御、回避はこれからも鍛錬した方がいいぞ」
「はい」
「ヘレンは、メイスはその重さが攻撃の際に役に立つが、かえって振り回されることがある。だから、体術の訓練も欠かさないことだ」
「ええ。ルイ教官。わかりましたわ」
「午後は、俺たちと組み手を行うから心しておけよ」
「「「はい」」」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です