33 合宿 3 セバン湖の夜

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 それからは何事もなく、無事に湖に到着した。

 ゴブリンとブラッド・ワイルドボアの襲撃で時間を取ったため、到着した頃はすでに日が傾きはじめている。
 慌てて、ルイ教官の指示にしたがって野営の準備を始める。

「いいか。野営地は、水場に近すぎても駄目、森に近すぎても駄目だ。水はけにも注意しろ。料理のできる奴は誰だ?」
 ルイ教官の問いかけに、ヘレンとセレスが手を上げた。
「よしヘレンとセレスは料理の準備だ。テント設営は、ジュン、ケイム、ルンでかかれ。トーマスとサクラは木を拾ってこい。……ランドはトーマスとセレスの様子を見てくれ。……じゃ、取りかかれ」

 まずケイムの魔法で設営地の地ならしをする。次にケイムはそのままかまどを作りに行った。
 俺とルンで、順番にテントを立てる。ルイ教官は湖と森の様子を確かめつつ、俺たちに一つ一つ指示を出す。
 テントを立てるのもこれで2回目だ。2張のテントを立て終えるころにトーマスとサクラも戻ってきて、かまどで火起こしをしている。
 火が起きると、ヘレンさんとセレスがぱぱぱっと料理を始める。手際が良いと褒めると、ヘレンさんは修道院でよく調理当番をしていたらしい。セレスさんはお袋さんからサバイバル料理を仕込まれたようだ。

「いいか。今時分は満月を過ぎた頃だから夜といっても月明かりがある。とはいっても、こないだの襲撃の夜みたいに雲のせいで真っ暗な夜もある。
 そういう状況を見て、どこで設営するのかの判断も重要だ。……それとこの様子だと明日も天気はいいだろう。それは安心してくれていい」

 みんなで焚き火を囲んで食事をしながら、ルイ教官とランド教官は、野営の際の注意や豆知識を教えてくれた。

 その後は、二人の教官のいるパーティー「烈風の爪」の話や、様々な冒険談をしてくれた。
 成功もあれば失敗もある。お馬鹿なこともあればヒヤリとすることも。いやな依頼人の話やダンジョンに入った話。……この世界にはダンジョンがあるんだそうだ。

 ランド教官がルイ教官の失敗談。女にだまされて有り金を巻き上げられたことを暴露したと思えば、お返しにランド教官がアタックしていた女性がその裏で別の人と逢い引きしていた話を暴露する。
 俺とサクラがすでにチームだというと、教官達はソロの冒険者とチームの冒険者について説明し、チームの利点をとうとうと述べた。

 それから、トーマスのいた農村の話、ヘレンは修道院にやってきた面白ろおかしいおじいさんの話、ケイムがギルドカフェのウェイトレスのカロットが可愛いというと、男性陣から「手を出すなよ」と脅されたり、セレスがたまにマリナさんからの視線を感じるといえば、カロットはたまにモフモフされてるようだと教官が暴露する。

 俺は、オリバ兄弟との出会いとマチルダの病気が治った話をすると、みんな涙ぐんでいた。よかったと思える依頼に出会えるのは、幸せだとは教官の言だ。
 黙ってみんなの話を聞いていたルンが、剣術4の叔母に憧れて冒険者になったことを、ぼつぼつと話した。
 どうやらルンも、みんなにだいぶ慣れてきたみたいだ。

「……さて、そろそろ寝るぞ。お前たちは2人ずつ3交代で見張りだ。俺とランドも交代で見張りをする。もしもの時の戦力を考えると……そうだな。ジュンとヘレン、トーマスとセレス、サクラとケイムとルンだな。見張りの順番はお前たちで決めろ」

「みんな、どうする?」
「ジュンに任せる」
「えっ。いいのか。じゃあ、最初はサクラとケイムとルン、次は俺とヘレンさん、最後にトーマスとセレスでいいか? ……ヘレンさんにはまとまって寝られなくて悪いけど」
「それはジュンも一緒でしょ。いいわよ」
「俺たちもいいぜ」「私たちもいいわ」(マスター、美人シスターと二人っきりですね! チャンスですよ! ぐふふ)
「……じゃ、決まりだ」

 一人、変な念話が聞こえたので、だまってサクラにデコピンをくらわせる。
(サクラ! しっかり見張りをしてくれよ!)
(ええ! もちろんです! ちゃんとマスター影で見張っときます!)
(たのんだぞ)
 念話を終えてから何か違和感を感じたが、さっそくサクラとケイムとルン(とルイ教官)に見張りを任せて、男女に別れてそれぞれのテントで毛布にくるまる。

「……おい。ジュン。交代だぞ」
「……ん、ああ。わかった」

 ケイムに起こされた俺は、テントの外に出ると大きな伸びをした。
 今日も月が綺麗だ。湖上を渡ってくる風が少し強い。
 どうやらサクラとルンも、さっさとテントに入っていったようだ。

「……おう。起きてきたか」
「ルイ教官。お疲れ様です」
「俺も、途中でランドと交代するからな」
「はい。……ヘレンさんも来たみたいですね」

 眠そうなヘレンさんがフラフラと歩いてきた。
「…おふぁようございます」
「おいおい。僧侶がだらしないぞ」
「すみませんね。教官。私って寝起きは弱いんですよ。ふわあぁ」
とあくびをしながら、ヘレンさんが俺のすぐ隣に座った。
 苦笑して見つめていた俺とルイ教官だったが、ルイ教官が、
「さて、それじゃ見張りだ。今日は月の光があるからここにいても森の様子がわかるだろう。新月の夜は真っ暗だからな。野営の必要がある依頼を受けるときは、月の満ち欠けも計算に入れておけよ」
とアドバイスしてくれた。

「ジュンは、野営の見張りの経験があったんだっけ?」
「ええっと、はい。教官。もっともカローの森だったので何事もなかったですよ」
「ああ。あそこは魔獣はめったにいないからな」

 交代時間をはかる砂時計の砂がちょうど半分落ちたところで、ルイ教官はランド教官と交代しに行った。

「ねぇ。ジュンさん」
「どうしました?」
「私に敬語を言うのはもうやめて」
「え? でも修道女ですから……」
「ううん。そうじゃなくて、もう一人の冒険者だし、それに……」
「それに?」
 ヘレンさんが俺の顔を見つめる。
「……以前、私自身についての予言があるっていったでしょ?」
「ええ」

「それはね、こうよ。
 ――聖女に育てられし真紅の髪の少女。人魔の戦争にて邪悪な影に殺される。
 ――創造神の祝福を持ちし黒髪の男に導かれ、1000年の悲しみをとめるだろう」

 俺はつぶやく。
「創造神の祝福……」
「そう。そんな聖人みたいな人はいないと思っていたけど。その祝福を持った男性が私の前に現れた。……あなたがね」
 急にヘレンさんが俺の手を握りしめる。

「私が修道院から出ることになったのはローレンツィーナ様の指示よ。――修道院を離れ、貴方のもとへゆけ。そして自らの宿命と対峙しなさいと」
「し、しかし、それだと。殺されるって……」
「そうよ。……確かにそれは怖いけど。予言だからといって必ずしもそうなるとは限らない。その予言と対峙してあがいてみせるわ」

 俺はヘレンさんの目をじぃっと見つめた。月明かりに照らされたヘレンさんの頬が少し赤らんできたように見える。

「わかった。俺のチームに入ってくれ。敬語もやめる」
と言うと、ヘレンは安心したようにため息をついた。
「ふうぅ。よかった。なんて切り出そうって思ってたから」
 俺は安心させるようにヘレンの手をさする。ちょっといたずらっぽく笑う。
「サクラにつづいてこんなに美人なシスターといられるなら願ってもないさ」
「そ、そう? 私ってそんなに美人かしら?」
 狙い通りドギマギしているヘレンに、
「美人だよ。それに……スタイルも良いしね」
と言うと、
「ちょっと。どこみてんのよ!」
と小言を言われて手をつねられた。二人で目を合わせて、「「ふふふ」」と笑う。
「これから、よろしくね。……こんど二人っきりの時に見せてあげよっか?」
とヘレンが言った。ちょっと期待しつつも、もしかしてサクラ2号か? と嫌な予感がした。

(マスターったら女たらしですねぇ。私にも甘い言葉をください! うらやましいなぁ)
とサクラからの念話が届いた。
(うるさいなぁ。ってか、街に戻って解散したらお前のことも言わないとな)
(そうですね。うふふ。創造神の祝福ですか? まさかマスターにそんなものがあるとは!)
(あ、そっか。言ってなかったか)
(秘密のあるマスターも素敵ですが、これで秘密を共有する仲になれたわけですね)
(……まあ、とにかく人に言うなよ)
(もちろんです。こんな規格が……すばらしい称号の事は言えませんよ! さすがは私のご主人様!)
(わかったから。早く寝ろ!)
(はぁい。ではお先にお休みです)

 その時、ちょうどランド教官がやってきた。
「ふわあぁ。おうっ。ちゃんとやってるな。俺はちょっと顔を洗ってくるよ」
といって、ランド教官は昨日汲んだ水で顔を洗っていた。
 三人で月下の湖と森を見ながら、あの襲撃の夜のことなどを話していた。
 幸いにも、何の異変も起きることなく交代の時間となった。
「教官。そろそろ私たちは休ませてもらいますわ」
「……教官。俺も失礼します。トーマスと交代してきます」
「おう。わかった」
 ヘレンと二人でテントの近くまで行く。
「じゃ、ジュン。お休み」
「ああ。ヘレン。お休み」
と言って別れた。

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