35 合宿の終わり

――――。
「いやあ。あんなのが出てくるとは思いもしなかったな」

 ルイ教官がため息をついた。ランド教官がルイ教官の肩を叩く。
「ルイ。とりあえず助かったんだからいいじゃないか。それにあの討伐戦の後だからな。しばらくは何が出てくるかわからんよ」
「そうだな。無事だったから良しとするか」
「そうだ。……いつまでもここにいても仕方ないぜ。アルに戻ろう」
「そうだな。……よし撤収準備は終わってるな? じゃあ、帰るぞ」
「「「はい」」」

 俺たちは疲れた体にむち打ち、それぞれの荷物を背負ってアルへ向けて歩き出した。

 ようやくアルの西門に到着するとトーマスがため息をつきつつ、荷物をドスンと下ろす。
 ケイムはその隣に倒れ込むようにお尻をついた。疲れすぎて動けないようだ。

「ほらほら。男性陣、なさけないぞ。ギルドはまだだよ。しっかりしろ!」

 セレスの声に振り向くと女性陣はまだまだ余力があるようだ。

「……早く戻ろ」
 ルンの声に、トーマスがまた荷物を背負って歩き出す。
「もう、しょうがないな」
 俺がケイムの分の荷物も背負って歩き出すと、セレスがケイムを無理矢理立たせて歩かせる。
「みんな、もう少しだ。ギルドへいったら、いったんカフェに集合だぞ」

――――。
 荷物から解放され俺はギルドカフェのイスに腰掛けた。

「お疲れ様です。はい。これ。ギルドからですよ」
 カフェの女性店員が冷たい飲み物をみんなに配る。

 ――カロット――
  種族:猫人族
  年齢:20才 職業:冒険者ギルド・アル支部併設カフェ店員
  能力:肉体強化、体術3、調理3

 ほほぉ。この人がケイムの言っていたカロットさんか。
 ブロンドの髪をボブカットにし、カフェ店員の制服がよく似合っている。どことなくサクラと雰囲気が似ているのはやはりねこだからかな。

「おおっ。生き返りますよ!」
 さっきまで死人のように白くなっていたケイムが、急に元気を取り戻した。その目はカロットの姿を追っている。……疲れているのに現金な奴だ。

 カフェでみんながぐったりしているうちに、ルイ教官とランド教官が報告を終えて戻ってきた。

「みんな、合宿はこれで終わりだ。この二日間は、なかなかタフだったが、いい経験になっただろう」
「このパーティーもここで一旦解散となる。だが今後も何かあれば俺たちに相談してくれ。それとここにいる7人は同期だ。パーティーを組む組まないに関わらず、そのことを覚えておいてくれ。……じゃ、最後にルイ」
「それではこれで合宿を終わりにする。みんな、御苦労! 今日の夕方、冒険者の憩い亭で打ち上げを行うから、みんな参加するように。では、解散!」
「ルイ教官、ランド教官、二日間、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました」「……ありがとう、ございました」

 みんな一様に、二人の教官にお礼をいう。
 そして、互いに「また後でね」といいつつ、それぞれギルドから出て行った。

「さて俺らも帰るか。って、そうだヘレンは宿は?」
「もちろん、一緒の宿をとるわよ。……その前にチームの届け出してくれないかしら?」
「あ、そっか。じゃあ宿代もチームとして払うようにするか」
「ふふふ。お金の管理はジュンにお任せするわ」
「俺? まあいいけど。なんで?」
「……そのうちわかるわ」
「そうか? じゃあ、手続きしよう」

 そういってヘレンを連れて、受付に向かった。
 夕方のまだ早い時間なので並んでいる冒険者は少なかった。
 受付には、いつものようにエミリーさんとマリナさんが座っている。
 俺は、
「チームのメンバーが増えたので届け出をお願いします」
というと、エミリーさんとマリナさんの視線がヘレンに集まる。
 エミリーさんが、
「もしかしてヘレンさんが?」
と言うので、
「そうです」
と返事をすると、マリナさんがじぃっと俺を見つめる。
「え? どうかしました?」
「……まあ、仕方ないですね。それにしてもまさかヘレンさんが同じチームになるとは」
 マリナさんがやれやれといった表情で淡々と手続きを進める。

 ううむ。どういうこ……、もしかしてヘレンって有名人だったりするのか?
 聖女様に育てられたみたいだし、有望な修道女だったのがいきなり冒険者になって俺のチームに入るとなれば、それは確かに驚くだろう。妬まれそうだな。

 そう思って一人で納得していると、俺の横でサクラとヘレンが、
「マスターって天然ですかね」「う~ん。確かにとろいわね」
「お金の管理を任された意味、わかってないですよね?」「ふふふ」
とこそこそ話をしている。一体、どういう意味なんだろうか。

(おい。サクラどういう意味だ?)
(お金の管理の話ですか?)
(ああ。深い意味でもあるのか?)
(やっぱりとろいですねぇ。……つまりですね。宿のお部屋はお任せするってことで、同じ部屋でも構わないって意思表示ですよ)
(は? そ、そうなのか?)
(ちなみに私も同じ部屋でお願いしますね)
(おい。ちょっとまてよ)
(ほらほら、手続き終わったみたいですよ?)

 手続きが終わり、エミリーさんとマリナさんにお礼を言って、冒険者の憩い亭に向かった。
 今晩の宴会がここだということは、教官達も同じ宿なんだろう。
 道すがら、ヘレンが、
「ジュン、ちょっといいかしら?」
「どうした?」
「明日、修道院に行って聖女様に報告したいんだけど」
「あ、そうか。わかったよ。……ついでに二人に言っておくけど、トウマさんに呼ばれているんだ。だから、明日は修道院に行った後でトウマさんの主人の屋敷に行くよ」

 俺の言葉に二人はちょっと驚いたみたいだが、了解してくれたようだ。

――――。
 カランカランっ。

「ただいま」
「ジュンさん!お帰りなさい。……無事でよかっ、たわ?」
 リューンさんが俺の後ろのヘレンさんを見て言葉が詰まった。
「メンバーがもう一人増えたんだ。よろしくね」
「え、ええ!? わ、わかりました」

 リューンさんはカウンターの中から鍵を持ってきて、震える手で渡してくれた。
「で、では。そちらの部屋をお使い下さい。三人で1泊1万2000ディールです」
「お、ちょっと安いね。ありがとう。……でも大丈夫? 何か様子がおかしいけど」
「大丈夫です。ちょっとショックなことがあったので」
「そう? 何かあったら相談してね」
「ぐっ。は、はい。そうします」
 俺は鍵の番号を確かめる。三階の部屋か。
 階段を上りかけて、
「あ、そうだ! ……早速だけど水浴びしたいけどいいかな?」
ときくと、
「ええ。どうぞ。今の時間なら裏の井戸に誰もいないと思います」
「ありがとう。じゃ、また後で」

 三階まで階段を上り、鍵と同じ番号の部屋のドアを開けた。
「えっ?」
 中に入って俺は固まった。
 部屋の中には大きなベッドが一つあるきりだった。
「し、しし、しまった!」
 てっきり今までの感覚だったけど、今日からヘレンもいるじゃないか! シングルとツインで二部屋にしないと!
 俺は慌てて廊下に戻ろうとしたが、ヘレンとサクラが勝手にベッドに飛び乗った。
「ふふふ。三人で寝るのって楽しそうね!」
「ホントですね! ……あれ? マスター、どうしました? 変な顔していますが」
「い、いやだってさ。同じベッドじゃまずいから、シングルとツインに換えて貰うぞ」
「「え~。嫌」」
「な、なぜに二人でハモる?」
 ヘレンとサクラが二人してベッドの上で首を横に振っている。
「一緒でいいじゃん。お金もかかるしさ」
「ヘレンさんの言うとおりです! ここは多数決で同じ部屋にしてもらいます!」
「おいおい。だってヘレンは修道女だろ? 俺みたいな男と同衾しちゃまずいだろ?」
と、俺が聞いたら、ベッドの上でヘレンは手を組んで祈りだした。

「ふっふっふっ。トリスティア様の教えでは修道院から出たら、修道女も恋愛OK! 結婚OK! ああ、トリスティア様の慈悲に感謝します」
「なぬ? そうなのか?」
「そうよ。というわけで、この部屋から動きません!」
「そうじゃなくて、俺が気にするんだよ!」
と、その時、女将さんのライラさんがやってきて、
「ちょっと失礼するよ。……痴話げんかもいいけど、今晩はこの部屋しか開いてないからね」
と教えてくれた。

「じゃ、決まりね!」
 うれしそうにヘレンが言い放った。

 気を取り直し3人で水浴びに向かった。本当は風呂に入りたいところだが、王侯貴族の屋敷くらいにしかないらしいので諦めている。
 トントントントンと階段を降りて、裏庭へ通じるドアを開ける。
 裏庭には井戸があって、その脇には衝立で六つのシャワーブースが造られている。これは水浴びをする人のために用意してあるそうだ。
 娘さんは、今の時間なら誰もいないって言ってたけど、すでに2つのブースに人がいるようだ。

 今日はサクラもヘレンも水浴びに来ているので、井戸から水をくみ出して、三つの桶を満タンにする。
 それぞれ一つずつ桶を持って、開いているブースに入り内鍵を閉める。シャワーブースといっても完全個室タイプなので除かれる心配は無い。
 棚に着替えとタオルと脱いだ服を置き、桶から水をすこしずつ汲んで頭から浴びる。

 ふう。気持ちいいなぁ。汗とともに疲れが流れていくようだ。
 布に水を浸して体を拭く。また水を頭から浴びる。
 一通り終わったところでタオルで水滴をふき取って、新しい服に着替えた。

「あ、水が無くなっちゃった」

 隣から女性の声が聞こえる。うん? どこかで聞いたような……。

 それはさておき先に部屋に戻るか。
 ガチャ。ブースから出た俺は、目の前に大きめの布を体に巻き付けたセレスとばったり鉢合わせした。
 目が丸くなる。と、視線が自然と下がっていって……。うん。思ったよりスタイルいいじゃん。

「○×△●○×……!」
 セレスは、急に真っ赤になると、意味不明のことを言ってブースに立てこもる。

「わ、わりい。わざとじゃないんだ……」
「……いや、その、言わなくていい。っていうか言わないでちょうだい」
「あ、ああ。俺は先に部屋に戻るけど、こっちの桶に水を汲んで、そこの前に置いとくよ」
「あ、あ、ああ。ありがとう」

 ドギマギしながら部屋に戻ってしばらくすると、ヘレンとサクラが戻ってきた。
 ヘレンは機嫌が悪そうだが、なぜかサクラは鼻歌と歌っている。
「どうした? ふたりとも?」
ときくと、ヘレンが、
「セレスを覗くくらいなら、私も覗きなさいよね!」
と言う。サクラは、
「ぐふふふふ。見ましたよ。さっきのラッキースケベっていうんですよね」
と鼻息が荒くなっている。それに顔も赤い。

 そうだった。気が動転していたけど、こいつらもいたんだった。
「あ、あれは事故だ! 事故なんだよ!」
と言うが、ヘレンのジト目とサクラのグフフ笑いは続いた。
 サクラが、
「いやあ。さすがにマスターはいい体していますねぇ」
とつぶやいた。……何か重大なことをポロッと言いましたね?
「なぬ? 俺を覗いたのか?」
 サクラの顔がますます赤くなる。
「いかに完全個室のブースとはいえ、私の忍術にかかれば覗けないところはないのです! ……いやぁ。眼福でした。マスター。ごちそうさまです」

「あのなぁ。お前も食ってやろうか。この野郎」
「いえいえ。私は女ですので。野郎じゃありません。……それにいつでも、ヘレンさんと一緒にお召し上がり下さい。くふっ」
「…………」
 お前らな……、はあ、これは駄目だ。明日は絶対に部屋を分けよう。俺は堅く決意するのだった。

「はあ。アホなこと言ってないで、準備ができたら下にいって、みんなを待つぞ」
「はい。じゃ、ヘレンさんも行きましょう!」「そうね」

 なぜこうなった?

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