04 フェアリーガーデン

「金色乙女」の一行と別れた私は、再びナビゲーションにしたがって森を進む。

(マスター。間に合ってよかったですね)
 近くを滞空しているフェリシアがそういう。きっと友達ができて良かったですねという意味も込めているに違いない。
 なにしろ私の知っている世界は隠者の島だけだったし、友達なんてセレンしかいなかったもの。ちょっと年下の女の子のチームを見て、ウキウキしていたのは仕方ないよね。

 ちょうど獣道を見つけたのでそこを歩いて行くと、しばらくして穏やかな河原に出た。水量は腰ぐらいまでありよく見ると魚が泳いでいる。危険な動物や魔物の気配はないようだ。

「ちょっと休憩にしよっか」
とフェリシアに言ってから、私はちょうどいい大きさの石に腰掛けた。川のせせらぎの音を聞きながら、ちょっと汗ばんだ体を休ませる。
 ちょうど頭上の木々の枝も川の上は切れ目のように空いていて、青い空が顔をのぞかせていた。パシャンっと近くの川で魚が跳ねる。きっと虫でも捕まえたのだろう。

 そばの石の上で羽根づくろいをしているフェリシアを見ながら、私は寂しさを紛らわせていた。

 ……一人になると、どうしても寂しくなるわね。

 そんな事を考えていると、フェリシアが、
(マスター、良かったんですか。少しくらいオークの肉を貰わなくて)
と言う。
「あ、そうか。食料はどれくらいあったっけ?」

 私は、今ごろ思い出してアイテムボックスを確認する。確か、行く先々で食料を入手するからっていって、それほど持ってこなかったのよね。ええっと、パンとチーズと水筒、干し肉、果物……、それでもあと2週間分くらいはあるかな。

 このアイテムボックスに入れておくと時間を止めておけるから、熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいままに保管できる。それに容量の制限はないみたいなので、どんどん収納しても問題は無い。……でも入れすぎると整理しきれなくなるから気をつけてはいる。

 ふと川に目をやると幅は5メートルくらいだろうか。綺麗な川で夏場などは水遊びをしたくなりそうだ。

「ちょうどいいからお昼にしようかしら」
とつぶやいて、アイテムボックスからパンと水筒を取り出した。
 このパンはパティと一緒に焼いたパンで、ドライフルーツと多めの砂糖を生地に練り込んであるから、おかずが無くてもおいしく食べることができる。
 ヤカンとカップを取り出して、水筒の水をヤカンに移して火魔法で温める。沸いてくるところに簡単に干した野草を入れておくと、沸騰した頃にハーブティーが完成する。
 自然に囲まれて、ゆっくりとパンを食べながらハーブティーを楽しむ。とても贅沢をしている気分になるのは何故だろうか。

「フェリシアも魚とか取ってきてもいいのよ?」
とフェリシアに言う。
 フェリシアは、私とソウルリンクを結んだガーディアンで、もともとは幻獣とか神霊と呼ばれる存在に近い。そのため本来は食事の必要が無く、自然界の魔素マナや私の魔力マナを体内に取り込んでいる。
 かといって食事ができないわけでないので、できるだけ一緒に食事ができるときはするようにしている。

(ありがとうございます。今は大丈夫です)
「そう? それならいいけど」
(それよりマスター。あとどれくらいかかるのでしょうか?)
 フェリシアにきかれてナビゲーションの矢印を確認する。
「……ええっと、そうね。あと22キロメートルって出てるわ」
(とすると、到着は明日でしょうかね?)
「今日中は無理でしょうね。野宿になっちゃうか……」
 あ~あ、野宿か。隠者の島でパティと野宿の経験はあるけれど、あそこは安全な島だったからなぁ。ま、結界を張ればいいだけの問題だけどね。
「行けるところまで進みましょう」

 ちょうどその頃、林の中から白い馬が顔を覗かせた。
 私の感知魔法には反応が無かったから敵性存在ではない。どうやらまっすぐこちらに向かっているので、私は立ち上がって待ち受ける。

――ステータス――
  セディナ
  種族:妖精族ユニコーン
  年齢:1205才
  加護:妖精王の加護
  スキル:隠形、快速、破邪の光、自然回復、マナ吸収、聖域形成

「白馬じゃなくてユニコーンだったのね」
 近づいてみてその額の角を見ながら、確かユニコーンって妖精の一種だったわねと思い出す。でも目撃例は1000年前の勇者の時代に1例あるきりだったってパティが言っていたわ。伝説かと思っていたけど本当にいたんだ。

 毛並みも輝くような白い色で若干銀色が混ざっていて、引き締まった体つきからは力強さを感じる。
 感心していると、ユニコーンが私の目の前にやってきて、
(さあ案内するから乗って乗って!)
と念話を飛ばしてきた。
「あら、あなた念話できるのね?」
(これでも妖精ですから!)
 そういって綺麗な目で私の目をのぞき込んでくる。

 フェリシアが私の肩にとまると、
(わぁ。フェニックスだ。初めてみたな~)
と言う。どうやら子供のような精神、いや妖精自体がそうなのかもしれないわね。
 フェリシアが、
(マスター。どうやらフェアリーガーデンまで案内してくれるようです)
と言うので、「もしかしてお迎えなの?」ときくと、ユニコーンは頷いた。

「わざわざありがとう」と言いながら、首筋を撫でてあげるとうれしそうに「ぶるるる」と鼻を鳴らす。
(さあ、早く乗って! 行こうよ!)
「うふふ。わかったわ。よろしくね」

 私が苦労して背中に乗ると、ユニコーンはゆっくりと歩き出した。フェリシアは私の肩の上だ。
「ね、そういえば貴方のお名前はなあに?」
 ナビゲーションで名前はわかっているけれど、念のため聞いておくと元気に返事が返ってきた。
(ボク? セディナだよ! よろしくね)
 言葉遣いからはとても1200才を越えているとは思えないけれど、身につけたスキルからは聖獣と呼ばれるにふさわしいと思う。

 河原から森に踏みいると、目の前で木々がユニコーン・セディナに道を空けるように外側に傾いていく。その真ん中をセディナが変わらぬ歩調で歩いて行くが、視界の両サイドを木々がものすごいスピードで流れ去っていく。
 どうやら距離を短縮する補正か何かがかかっているみたいで、これも妖精の力なのかもしれない。

「えっ? こ、これは……すごい」
 思わず漏れたつぶやきに、(すごいでしょ)と自慢するセディナの念話にほほ笑ましく思っちゃった。

 そのままセディナの背に揺られて一時間ほどすると、いつしか霧が出てきた。
 森の木々と一緒に私たちも霧に包まれ、やがて1メートル先も見えなくなる。深い霧で周りがまったくみえないけれど、セディナは恐れることなくまっすぐに進んでいく。
 すると不意に霧が晴れ、目の前に草原が見えてきた。奥には虹がところどころに架かっている幻想的な山が見える。

 緑に包まれた山は、山頂付近から水が湧き出しているみたいで、4段の滝となって地上に落ち、滝壺から川が一筋流れ出している。空には赤い魔力の光がドームのように一帯を覆っているのが見える。
 滝には虹が架かり、水しぶきでさわやかなイオンが満ちているようだ。草木に色とりどりの花が咲いて蝶が飛び、小鳥がさえずっている。小さなウサギやリスも見える。……まさに妖精のフェアリーガーデンといった幻想的な風景だ。

「すてきなところね」
と私が言うと、すぐ耳元で
 ……くすくす。
と笑い声がする。あれっと声のした方を見ると、空中に溶け込んでいるような羽根妖精の姿が見えた。認識したら、その姿が鮮明になって見える。
 羽根妖精は群れであちこちを飛び交っていて、今も私の周りに飛んでいる。

 ……わあ。ここに人が来るのってはじめてじゃない?
 ……う~ん。でも1000年くらい前にも二人来たよ?
 ……懐かしいね~。確か勇者と聖女だよね。
 ……それにほら! パティスもいるじゃん!
 ……ってことは史上4人目?
 ……でも、なんだかボクたちと同じような雰囲気も感じるね~。不思議~。

 すごわね。隠者の島にも妖精たちはいたけれど、ここは数が全然違う。
「うわぁ。すごい妖精がいっぱい!」
と思わずつぶやいたら、妖精達が私の周りにやってきて、肩や頭に座ったり手をひっぱたりしてあそんでいる。
 ……ねぇねぇ。あなた美人ね~。お肌のお手入れはどうしてるの?
 ……ここ居心地が良いな。
 ……これ魔力?
 いっぺんに話しかけられて「あわわわ」と言っているうちに、セディナが滝壺の側まできて立ち止まった。
(さあ、到着だよ! ……ん~、ちょっと待っててね。みんな~。困ってるみたいだからそこまでにしてね)
 ……は~い。

 セディナの念話で妖精達がぱっと離れていったので、私は安堵の息を漏らして、地面に下りてセディナの首筋を撫でてあげる。
「ありがとうね。ここまで連れてきてくれて。たすかったわ」
(いいのいいの。すぐにナターシャがくるよ。……あ、ほら来たよ)

 セディナはそういって滝上の方にむかって首を振る。私もつられて上を見ると、上の滝のそばの木から若草色の服を着たエルフの女性が顔を覗かせた。

「あ! もう来てる~。ちょっと待ってくださ~い!」

 そんな間延びした声と共に急いで山を下りてくるが、途中で枝に足がぶつかり、
「はにゃあぁぁぁぁ」
と言いながら、エルフの女性がくるくると回転して滝壺に真っ逆さまに落っこちた。派手に水しぶきがおこり、私にも少し水滴がかかる。

 ……あらら~。
 ……あはははは。……さすがナターシャだぜ! ……お約束! お約束!
 ……笑わせてくれるよね!

 途端に妖精達の笑い声が沸き起こり、私も苦笑いしてしまった。
 目の前の川岸にパシャンと手がかかり、
「うううぅぅ。やっちゃいましたぁ」
と情けない声を出しながら、ずぶ濡れのエルフの女性が出てきて地面に突っ伏した。

 近寄って手をさしのべながら、
「ええっと。私はノルン・エスタです。……大丈夫ですか?」
と聞くと、濡れたままあたふたと立ち上がり、
「す、すすす、すいません。ナターシャです」
と言って、真っ赤になってペコペコと頭を下げながら後ずさっていく。

 ああ! それ以上さがったら……、
「え? あわわわ」
 止めるもなくナターシャはずりっと足下を滑らせて、両手をぐるぐると振り回しながら再び水の中に落っこちた。

 それを見てセディナが、
「ぶひひひひん!(あははははは! やめて! 死ぬ! 笑い死ぬ!)」
と笑いが止まらないと言った様子で、変な声を出しながら苦しそうに笑っていた。

 ――――。
 ナターシャが再び川からあがってきて、orzのポーズでがっくりしていたので、火と風の混合魔法で熱風を送って乾かせてあげた。

 魔法の発動で驚いて飛び上がったナターシャだったが、今度は川に落ちる前に私が捕まえたので大丈夫。
 ……この人って凄まじいドジッ子属性ね。
 そう思いながら、オドオドと目をそらして小さく「や、やっちゃった」とかつぶやいているナターシャを見た。

――ナターシャ――
 種族:エルフ(女)  年齢:125才
 職業:妖精王フレイの付き人
 称号:森の守護者、最強のドジッ子、フェアリーガーデンのマスコット
 加護:妖精王の加護、森の加護
 スキル:森の囁き、体術3?、弓術3、土魔法3、風魔法2、回復魔法3、精霊魔法

 え、え~と……、私の目がおかしいのかしら。体術に「?」がついているような……。さっきのドジッ子を見ていなかったら、なぜ「?」がついているのか分からなかったでしょうね。

 呆然としていると、急に、
「おい! ナターシャ! お前、相変わらず面白いな!」
と言う声と共に、水色の長い髪をして白いワンピースを着た少女が、山頂の方から宙をふんわりと下りてきた。

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