05 精霊の試練

 どこか気の強そうな顔が、ナターシャを見ながらひくついている。

 ナターシャが、ばっと少女の方を向いて、
「あわわわ。すみませ~ん! フレイ様!」
と、ペコペコする。……えっ、フレイ様? この子が妖精王フレイ?

 妖艶な大人の女性を想像していた私は、あまりのギャップに目をまくるする。
 目の前まで下りてきた少女は、私の方を見て、
「お前、なんか失礼なこと考えたろ」
と言った。私は、慌てて「い、いえ。とんでもありません!」と言って頭を下げる。つぅっと冷や汗が流れた。

 少女は、
「ふん。まあいいさ。お前がパティスの言っていたノルンだな?」
と言ったので、頭を上げて、
「はい。そうです。ノルン・エスタです。よろしくお願いします」
と言うと、少女はつーっと宙を滑るように近寄ってきて、私の目をのぞき込んだ。
「ふむふむ。お前さん、なかなか運が良いな」
「え? ええと……」
 何のことだろう?首をかしげると、少女は頷いて、
「後で話してやる。と、自己紹介がまだだったな。俺が妖精王フレイだ」
 私は、セディナを見ながら、
「迎えまで用意していただいて、ありがとうございます」
とお礼を言うと、フレイは、
「そんなことはいいさ。……まったくパティスめ! もっと近くに転送してやりゃあいいだろうに。森の中を歩いて疲れたんじゃないのか?」
「いいえ。これでもパティスに鍛えられましたので、これくらいは大丈夫ですわ」
「ふっ。隠者が鍛えただけはあるってことか。……用件は4大精霊との契約だったな?」
「はい。そうですわ」
「大丈夫そうだから、先にちゃっちゃと、やろうか?」
「構いませんわ。よろしくお願いします」

 それから妖精王フレイが右手をすっと横に振ると、キラキラ光る光の粒がナターシャを包んでふわふわと宙に浮かべた。

 フレイが私を見て説明する。
「こいつはドジッ子だからな。面倒だからこうして運ぶんだ」
と言った。するとナターシャが「えええ~。そんなぁ。フレイ様ぁ」と言っていたが、正直いって仕方ないと思う。

 フレイが先導する後を私とナターシャがついて行く。
 背後から、(がんばって~)とセディナの声が聞こえてきたので、ちらっと後ろを振り向いて手を振った。

 フレイは滝の方に近づいていく。どうやら岩が削られて通路となっていて滝の裏に出ることができるようだ。
 滝を裏から見ると、正面から当たる日の光がキラキラと光り、水しぶきが水蒸気のように立ち上って、肌が生き生きと潤っていくのが感じられる。

 ちょうど滝の真裏に奥に行く洞窟があり、そこへ入っていくと中は広場となっていて、真ん中に魔方陣が描かれていた。
 広場の上の方には明かり取りの窓があるようで、差し込んでくる光が幻想的な雰囲気を醸し出している。
 ここは何か特別な空間のようで、なぜか一人の妖精の姿も見えない。

「これが精霊を呼び出す魔方陣だ。……知っているとは思うが、精霊についての説明をしておこう」
 フレイが私の方を振り返ってそう言った。

「このヴァルガンドの世界運営を担っているのが精霊だ。普段は世界の裏側とも言うべき精霊界にいて、こっちには出てこれない。そこで召喚魔法だ。精霊を呼び出してその力を借りる。それが精霊召喚だ」

 そう言ったフレイは魔方陣の真上に移動し、
「ここでは地水火風の四大精霊を呼び出すことができる。他にも時、闇、光の精霊がいる。闇の精霊はアーク大陸の闇の神殿に行けば会えるが、他の2精霊はどこで会えるのか秘密になっている。自分で探せ。
 ……契約には試練が伴う。試練を乗り越え精霊に認められた者だけが召喚契約を結ぶことができる」

 うん。そこまでは知っているわ。問題はその試練が精霊によって違うと言うこと。
 フレイはそこまで言うと、どこからともなく一つの腕輪を取り出した。金色の腕輪に7つの透明なガラス玉がはめ込まれている。
 フレイは私の目の前まで来ると、その腕輪を差し出してきた。
「これをやろう」

 私はその腕輪を受け取り、じっと見てみる。

――妖精王の腕輪――
 妖精王フレイの加護が込められた腕輪。
 所有者:ノルン・エスタ
 価格:――
精霊と契約する度にガラス玉に色がつく。全色揃えると? 。精霊召喚をサポートし、召喚コストを下げる効果がある。

「こんなに凄い腕輪をいただきありがとうございます」
と深くお礼を言うと、フレイがニヤリと笑って、
「そうか。これの価値が分かるか。そりゃあいい! ……使いこなせよ」
と言う。私は早速、左の上腕部に腕輪をはめた。うん。なかなか装飾品としても良い感じだわ。

 再びフレイは魔方陣の方へ飛んでいく。
「では準備ができたらはじめよう」

 私はフェリシアにナターシャの近くに行ってもらい、ハルバードを握り直した。
 フレイに向かって頷くと、フレイは魔方陣に向かって右手を高く掲げる。

「精霊どもよ。来な!」
 すごい高飛車な召喚文句が終わると、魔方陣が光を放ち、目の前に四体の精霊が現れた。
 燃えさかる火のトカゲのサラマンデル。岩石でできたゴーレムのノーム。したたれ落ちる水の少女のウンディーネ。つむじ風を身にまとった羽根妖精のシルフ。
 残念ながらナビゲーションでわかったのは名前だけだった。

 ウンディーネがフレイに話しかける。
「久しぶりに呼ばれてみれば、フレイじゃないの」
 サラマンデルが小さな火を口から出しながら、
「シャー。俺たちが揃うのも久しぶりだな」
 シルフがくるくる回って、
「ホントねー。あ、ナターシャもいるじゃない? ……あれ、この娘は?」
 ノームが頭をかいてから、
「うむ。状況から見るに契約のようだな」
 フレイは、
「ああ、そうさ。そこの娘はノルン・エスタ。かのパティスのお弟子さんさ」
 ノームがアゴに手をやって、
「ほう? パティスのか……」
と言って、じっと私を見る。
「ふむ。なにやら大きな力を感じるぞ」

 ノームの言葉に他の3精霊が私を見る。
 ふいっとシルフが近づいてきて私の周りをぐるぐる飛び回り、
「あなた、異世界から来たのね。……創造神の祝福もある」
 私は、シルフのいる方向に首を巡らしながら、
「わかるの?」
ときいた。シルフは飛び回るのをやめて、
「もっちろんよ! 私たちは精霊のなかでも根源の4元素を司るエレメンタルだからね」
そういってシルフは戻っていった。

 ノームが、
「では、ノルンよ。私たちにお主の力を見せてもらおう」
と言うと、サラマンデルがちろちろと舌を出して、
「シャー。じゃ、まず簡単なテストから行くぜ。きちんとガードしなよ」
「よろしくお願いします。……マナバリア」

 目の前のサラマンデルの体が赤く光り出し、込められた魔力が圧力となってふくれあがる。
「フレイムブレス!」
 サラマンデルの口から炎のブレスが放たれる。……が、大丈夫。炎の奔流がマナバリアに遮られて左右に分かれていく。
 ちなみにマナバリアは普段より強めの魔力を込めて強度を上げると共に二重に展開しているから、レベル5までの攻撃魔法ならほとんど防ぐことができる。これもパティとの特訓の成果ね。
 サラマンデルのブレスが途切れ、
「ふうん。普通のドラゴンのブレスぐらいは防げるみたいだな。シャー」
と言った。遠くでナターシャが「それでも凄いですよね~」と言っているのが聞こえる。

 ウンディーネが、
「じゃ、次は本番よ」
というと、エレメンタル達は全身の魔力を高まらせ、それぞれ赤、青、黄、緑の光を身にまとう。
 ……って、この圧力。マナバリアでいけるか?

 強化しようとしたところを、ウンディーネが、
「きちんとガードしないと死んじゃうかもね。行くわよ。レインボーブラスト!」
といった瞬間。4人の精霊からそれぞれ青、赤、黄、緑の四色の光線がらせんを描いて絡み合いながら迫ってきた。

 慌ててマナバリアに魔力を送って強化し、さらにもう一重のマナバリアを展開。マナバリアと四色のらせん光線がぶつかり、ピキピキという音とともに外側のマナバリアが砕け散った。2番目もあっという間に破られ、最後のマナバリアもひびが入る。もう一重展開する隙が無いので魔力を送って強化する……。
 だめ! 抑えきれないわ!

「きゃああぁ」
 マナバリアごと吹っ飛ばされた私は壁に全身を強く打ちつけた。衝撃が全身を襲い息が詰まる。その場で四つん這いになり、肺に空気を送り込んで、ぜーはーぜーはーと荒い息を整えようとした。
「はあはあ……」
 全身をチェックするが、どうやら大きな怪我はないようだ。全身の痛みが自然回復のスキルのお陰ですうっと消えていく。

 それを見ていたナターシャが思わずフレイに、
「フ、フレイ様、いくらなんでも止めた方がよろしいのでは?」
と言っているが、フレイは、
「ふんっ。お前にはわからないだろうが、ノルンはまだ本気じゃない」
と答えていた。しかし、ナターシャは、
「そ、それでも根源のエレメンタル全員とでは、力の差が……」
と言いすがるが、フレイは、
「まあ、見てろ」
と一言で言い捨てた。

 私は肩で息をしながら再びエレメンタルに対峙する。
 ウンディーネが、
「そのままじゃ駄目よ。私たちは本気が見たいの。だから……早く封印リミット を解除しなさいな」
と言った。

「……なんだわかってたのね」

 まだ聖石の力は自由自在に引き出せる訳じゃないから、パティからは滅多なことでは解除しないように言われていたんだけどね。どうも精霊達はその力が見たいようだ。

 私は意識を集中する。
「わかったわ。……封印解除。真魔覚醒!」

 体の内からわき出る力が全身を駆け巡り、全身からあふれ出て光の衣となって私を包む。さらに抑えきれない力が白い炎となって吹き出している。

「な、ななな、なんですか? あれは! フレイ様!」
 ナターシャがへたり込んで口をぱくぱくさせているが、フレイは動ぜずに冷静に私を観察しているようだ。
「なるほどね」

 対峙しているシルフが、
「うわぁ。すごい。勇者以上の力よね。さっすが半神半人ってところか」
とつぶやいた。……ええっと、私、人間ですけど。っと、それはともかく、
「ふう。まだ完全に力のコントロールができないのよね」
と言って、精霊達の様子を見る。次はこっちの番よね。
「行くわよ。……聖光波!」

 私はハルバードを横に構え、ごく軽く聖石の力とを込めて光の衝撃波を放つ。この聖光波は、風魔法と空間魔法の混合魔法ショックウェーブに聖石の力をまぜたものだ。

 光の奔流が精霊達を包んだ。私の白い光の向こうに精霊達の4色の光がうっすらと見える。どうやら各自で防壁を張って耐えているようね。

 しかし、光の向こうから苦しげな声が聞こえた。
「ぐ、ぐぐぐぐ……」「きゃっ!」
 まず最初にシルフの緑の光が吹っ飛んでいき、次にウンディーネの水色の光、サラマンデルの赤い光も押し流されて壁に激突していった。ノームは最後まで堪えようとしていたが遂に耐えきれずに、一気に後ろに飛んでいった。
 ノームが壁に激突する大きな音がしたところで、私は力の放出を抑えた。

 聖石の力は未だにコントロールが効かないために大きな力を引き出すことはできなく、おそらく100分の1以下と思っているけど、それでも強すぎたようだ。聖石の力を引き出すと能力が全然変わっちゃてコントロールが難しいのよねぇ。

 やがて立ち上がった精霊たちが再び近づいてくる。どうやら戦闘を継続する雰囲気ではないみたいだ。
 サラマンデルが、
「シャー。その力は強すぎる。早めにコントロールを身につけた方がいいだろうけど……」
 そこにウンディーネが口を挟む。
「そもそもまだ聖石との融合が完全じゃないみたいよ」
 サラマンデルが、
「ってことは、さらに出力が上がるし、今はコントロールできなくて当然ってことか」
と言うと、ウンディーネはうなづいた。
「それでもコントロールの訓練はした方が良いけどね」
 ウンディーネの言葉に、私も、
「なかなか難しいのよね。けど、ありがとう。鍛錬は続けるわ」
と言った。

 再びリミットを掛けて聖石の石の力を抑えると、体を覆っていた光の衣は消えいった。
 それを確認してノームが、
「うむ。私たちがああも耐えきれないとはな。喜んでお前と契約しよう」
と言った。他の精霊たちもうなづいている。思わず、
「やったぁ!」
と声を上げると、精霊たちが笑い出した。

 妖精王フレイが魔方陣のそばまでやってきて私を手招きした。精霊たちはすでに最初の魔方陣の上に集まっている。
 フレイは、
「よし。じゃあ契約の儀を執行するぞ。いいな? ……コントラクト!」
と言った。すると精霊達の足下の魔方陣が光を放り、そこから一条の光線が私にも当たる。
 光が収まるとウンディーネは、
「うふふ。終わったわね。これからよろしく。ノルン」
「こちらこそ。よろしく」
 それから精霊達は順番に姿を消していった。自分のステータスを確認すると、契約の項目が増えていて4精霊の名前が表記されていた。
 私は気になって身につけた妖精王の腕輪を見ると、はめ込まれた7つの球のうち4つが、それぞれ赤、青、黄、緑の四色の輝きをたたえていた。
「おお~。なんかすごいわね」
と思わずつぶやいた。

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