09 失踪発覚1日目~2日目

「失踪者はライム・オステル。7才の少女で兄弟はいない。
 三日前の朝、俺が警備隊本部に出勤したら、ライムちゃんの親のタイストとアリアが来ていた。切羽詰まったような様子だったので聞いてみたら、朝起きてみたらライムがいないということだった。それで、すぐに町の入り口の詰め所に連絡してライムちゃんが外に出ないように手配をした」

「前夜とか特別変わったことは無かったんですか?」
と俺が聞くと、ギリメクさんは、
「そうだな。特段変わったことのない夜だったよ。この竜人族の町は竜王様の保護下にあることもあって、大きな事件など起きたことは無かった。……せいぜい魔獣の襲来などがあったり、町の外で遭難者がでることがあったくらいだ」

 俺は頷いて、ギリメクさんに、
「最後にライムちゃんを見たのはどういう状況だったんです?」
「ああ。その前夜だから四日前だな。ライムちゃんは昼間に近所の友達と通りで遊んでいたらしい。これは後日の聞き込みでも確認が取れている。夕食後に今で親子三人で団らんして、夜も遅くなってきたからといって、ライムちゃんが先に自室に戻って寝たそうだ。その後、母親のアリアが寝ているライムちゃんを確認している」

「その時に窓の戸締まりとかは?」
「ああ。アリアが、窓の鍵を確認してカーテンが閉まっているのも確認したそうだ」
「それで朝にいなくなっていたと」

「そうだ。いつもの時間になっても起きてこなかったそうで、朝食の準備ができた時にアリアが起こしに行ったそうだ。部屋の様子は荒らされた形跡も無く、ベッドからライムちゃんが出てきたような掛け布団の乱れも無かったそうだ。……ただライムちゃんだけがいなかったらしい。アリアは慌てて掛け布団をめくったり、ベッドの下やクローゼットなどを探し、窓の鍵を開けて外を除いて見たがどこにもいなかった。それで慌ててタイストに言いに言ったそうだ」
「なるほど」
 部屋に荒らされた形跡がない。しかも窓もその時は鍵がかかっていたということか。ギリメクさんは話を続ける。
「家の中にいるかと、二人で家中を探してみたがどこにもいなくて玄関も鍵がかかっていたそうだ。それで二人は慌てて警備隊本部へと駆け込んできたんだ」

 そこでヘレンがおずおずと、
「町の出入り口はいくつあるのかしら?」
とたずねると、ギリメクさんは、
「東西に一箇所ずつで計2箇所ある。町は完全に石壁に囲まれている。もっともそんなに高いものではないが7才の女の子に登ることは不可能だろう」
と言った。

 俺は座り直して腕を組む。これだけだと、確かに誘拐と失踪と両面が考えられるな。夜、友達と待ち合わせしていたずらしてたとかありそうだ。俺は、
「ライムちゃんの友達の聞き込みはどうでした?」
「ふむ。そうだな。それも含めてそれからの進捗しんちょくを説明しよう」

 ギリメクさんはそういうと、リルさんが出してくれたお茶を一口のんだ。
「まず俺がしたのは東西の出入り口にある警備詰め所への指示だ。内容は2点。一つはライムちゃん失踪による出入り口の監視、そして、前の夜の通行者の確認だ。もっとも前の夜の通行人は一人も確認できなかった」

「夜にも通行者がいるんですか?」
「ああ。たまに外に出ていた奴が遅くに帰ってくることがあるんだ。ただ門扉は時間で閉めるので、その隣にある小さな扉で相手を確認して、町の人間だったら通すようにしている」
「なるほど」
「でだ、そうなると町の中にいる可能性が高い。しかし、警備隊員が全員集まるのは昼だ。そこで、俺は先ず現場の確認をすることにした」

 そういってギリメクさんはギルマスのレンシさんの方を向く。レンシさんは、
「ああ。それで警備隊長はギルドに来て盗賊職の冒険者を借りたいと申し出てきた。ああ。盗賊職っていっても人を襲う奴じゃない。レンジャーとか盗賊のスキル保持者だ」
と言った。そういえば、たいていの町には冒険者ギルドと別に、探偵業まがいの事から違法すれすれの事を請け負い、町の裏の顔を管理する盗賊ギルドがあるって話だ。今まで利用したことがないからよく分からないけどね。

「ここには盗賊ギルドはないんですか?」
と聞くと、ギリメクさんは、
「この町にはない。ただ何人かの盗賊が冒険者ギルドに所属している」
「なるほど、それで手を借りにいったわけですか」
「ああ、そうだ。それで形としては警備隊からの指名依頼ってことでドントという冒険者と契約した。こいつは後で紹介するが猫人族の男でな。その種族特性もあって優秀な盗賊だ」

 ほお、竜人族じゃないのか。……ってそりゃそうだよな。竜人じゃ体が大きすぎて、細かい作業に向いているとは思えない。
「俺はドントと一緒にオステル家に行って、ライムちゃんの部屋を確認した。ただまあ、結果から言うと何の手がかりもなかった。ライムちゃんがどうなったのか分からずじまいだ。……ただそうだな。ドントの奴が壁が気になるが異常は見当たらないとかって言っていた」
「壁ですか……」

「もちろん、いくら調べても何も出てこなかったんだがな。それで昼になって警備士たちが来たところで集合を掛け、ライムちゃんの誘拐・失踪事件を通達し班に分かれて一斉に町を捜索させた。お前達も見ての通り、ここ竜人族の町はほとんどが竜人族だ。互いに見知っているし、仲間同士の結束も強い。正直、町の出入り口の通行がないってことは犯人は同じ竜人族である可能性が高い。みんなショックを受けているし、その分、犯人に対する怒りも強い」

「それは……、そうでしょうね。ですが犯人を見つけてライムちゃんを救出するのが最優先です」
「もちろんだ。俺たちもそう思っている。ただな、次の日、昨日になるが、朝になっても手がかり発見の報告はなかった。すでに事件発生から2日めだ。誰もが焦りを覚えて来ていたんだ。ギルドにも新たな情報が無いか確認しに行ったが、何もなかった」

 そういってギリメクさんは表情を暗くした。かわりにレンシさんが、
「警備士が町のあちこちをかけずり回ったことを冒険者達が不思議に思ってな。ここの冒険者は竜人族がほとんどだが、中には犬人族、猫人族、そして人間族もいる。不安に思ったんだろう。結構な騒ぎになったよ」
 サクラが、
「事情は説明されたんですか?」
と聞くと、レンシさんは「もちろん」といって、
「竜人族の冒険者達は依頼そっちのけで捜索に参加したよ。他の種族の冒険者達も手がかりに繋がるものを見つけたら報告すると行ってくれた。……ここでは冒険者も助け合わなければ生きていけないのさ」

 ここは人口1万人ほどの町だ。厳しい自然環境の中でほとんどが同じ種族で暮らしていれば、自然と助け合うようになるのは当然だ。それでもそのような行動はアルの街の冒険者では無理だろうな。損得で動く奴らも多いから。

「そういえば一ヶ月ほど前に人間族の冒険者が来てな。今はここを拠点にやってるよ。え~っと、「流浪の剣」とかいったか。聞いたことがあるか?」
「「流浪の剣」? ……いやありませんね。っていっても俺たちはアルの街以外で活動するのはここが初めてですので」
「ああ、そうか。男の三人組トリオでな。彼らもこの町に来たばかりだというのに同情していたよ」

 そこでギリメクさんは再び口を開く。
「実は俺にも娘が一人いる。昨日の昼、一度、自宅に戻ったんだが、俺にとって娘はたった一つの宝物だ。だからタイストとアリアの気持ちもよくわかる。娘は、無理しすぎて倒れるとみんなが困るとか言っていたが、どうにか見つけ出してやりたいよ」
 俺は黙ってうなづいた。ギリメクさんは、

「とまあ、昨日はそれからドントをつれて再びオステル家へいった。ドントに家の周辺を調べさせ、俺は周りの聞き込みをした。俺の方は近所の子供たちに話を聞いたりしたが、やはり夜中に待ち合わせをするなんてことは誰もしたことがないし、別に夜に楽しい遊びがあるわけでもないと言っていた」

と、ここで一呼吸おいて、
「ところがだ、ドントの奴がオステル家の窓の下でこんなものを見つけた」
 そういって、米粒ほどの黒い水晶の欠片を取りだした。
「これは?」
「ああ。鑑定レベル3ではわからなかった。俺も見たことがないし手がかりじゃないのかも知れない。誰に聞いても知らないというんだが……、何だと思う?」
「う~ん」と俺はうなりながら、ギリメクさんの手のひらにのっけられた欠片を見る。

――瘴気の結晶――
 濃い瘴気が結晶化したもの。自然界には普通存在しない。
 価格:――
 身につけた者の健康や精神を少しずつむしばむ。

 ナビゲーションの説明を見て、
「げっ!」
と、思わず変な声を上げると、みんなが一斉に俺を見た。ギリメクさんが、
「これが何かわかるのか?」
と強い口調で聞いてきた。俺は、
「瘴気の結晶ですね」
「なに。瘴気の結晶だと?」
「ええ。そのまま持っているのは危険ですね。健康や精神を少しずつ蝕んでいくみたいですよ」
 俺の説明にギリメクさんが絶句する。俺はその顔を見て、
「どうやら誘拐で決定のようですね。嫌な予感がします」
と告げた。

 とりあえず木箱を用意して貰い。それにヘレンの神聖魔法で浄化を行った上で瘴気の結晶を中に入れ、空間魔法の結界で封印した。これで大丈夫だろう。

 ギリメクさんが、
「君たちが来てくれたよかった。実は、今朝も警備士たちの報告が上がったんだが手がかり無しでね。もしライムちゃんが飲まず食わずでいるなら、いかに竜人族の体力でもそろそろ限界のはずだから、焦ってしまっていてね」
と言った。それを見ていた族長のトルメクさんがうなづいて、
「うむ。さすがは神竜王様の紋章入りの手紙を託されるだけはある。……だが、瘴気の結晶とは私も嫌な予感がするよ」
と言った。ギリメクさんが、
「現状は以上の通りだ。これからどうする?」

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