10 捜索48時間 1

 俺たちはとりあえず現場を確認することにして、ギリメクさんとともにギルドを出た。

 ギリメクさんの後について歩きながら、俺は心の中で「探索 ライム・オステル」と念じた。
 視界の左側で方位磁石のように赤い矢印がぐるぐると回る。
 …………おかしい。
 いつもならすぐに探索結果として、青い矢印のルートと赤い矢印の方角が表示されるはずだが、いつまでも赤い矢印がまわっているだけだ。もしやすでに殺されているのか? 嫌な予感に襲われるが、

――ピコーン。
 妨害により探索ナビゲートできません。

と脳裏で音声が再生される。

 なんだと? 今までこんなことは一度も無かったぞ。てっきりこれですぐに見つけられると思ったのに……。

(マスター。探索ナビゲーションの結果はどうでした?)
 俺が探索したのがわかったのだろう。後ろを歩くサクラから念話が来たが、
(いや。妨害により探索できませんだってさ)
(ええっ? そんなのは初めてですよね?)
(ああ、そうだな。……サクラ、これは相当に厄介で嫌な予感がするぞ)
(……そうですね)
(後でヘレンにも言うが、気を引き締めていた方がいいな)(はい)

 俺は空を見上げながらため息をついた。空では、どんよりとした暗い雲が広がりつつあった。

 一般的な普通の日本人だった俺は、誘拐された家族のいるお宅へお邪魔したことはない。そもそも、近くにそのような家庭はなかった。
 テレビのサスペンスではよく出てくるシーンだが、いざ現実にそういうお宅へ行くのに、どのように接したらいいのだろう。

 そんなことを考えつつギリメクさんの後についていく。
 石造りの建物に石造りの道、ところどころで坂になったり階段になったりしている。そして、アルの街と比べて、建物も何もかもが1.2倍ほどの大きさで、微妙に違和感がある。体の大きい竜人族にあわせてあるとは思われるが、道行く人を見るに竜人族の女性は人間族よりちょっと背が高いくらいだ。その代わり成人男性は軒並み2メートル近い身長なので見上げなくてはならない。体のサイズを除けば普通の田舎の町みたいに見える。

 ギルドから西二番通りに出て左折すると、通りで子供たちが遊んでいるのが目につくようになった。
 小学生5年生くらいの男女が一緒になって何かをして遊んでいる。

「あ、ギリメクのおじさんだ!」
と一人の少女が言うと、何人かの少年少女がギリメクさんの周りに集まった。
「ねえ、おじさん。ライムちゃんは見つかったの?」
 最初に声をかけてきた少女がそういうが、ギリメクさんは首を横に振り、
「いいや。まだだ。……そうだ。こちらの人間族の冒険者もライムちゃんを探してくれることになった」
と言って、俺の方を向く。俺たちに子供たちの視線が集まる。

「冒険者のジュンだ。こっちはヘレンとサクラ。何とかライムちゃんを無事に見つけられるようがんばるよ」
と言うと、子供たちはうなづいた。
 女の子がやってきて、
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。絶対にライムちゃんを見つけてね」
と言う。ヘレンがその女の子の前にしゃがんで目線を合わせて、やさしくその頭を撫でる。
「大丈夫よ。お姉ちゃんもお兄ちゃんも探し物は得意なの」

 そういって俺の方を見る。
 ……ああ、ヘレン。探索ナビゲーションは駄目だったんだよ。
 内心でそうつぶやくが、他人の目のあるところでユニークスキルの話はできない。俺はにっこり笑って女の子を見た。

「俺たちが必ず見つけてあげる。だから、みんなもお父さんとお母さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「うん! ……あ、そうだ。ライムちゃんね、お父さんとお母さんへのプレゼントっていって、ウサギとクマの小さな人形を作っていたよ。お人形さんは無事なのかな?」
「わかったわ。私たちが探して確かめておいてあげるね」
「うん。お姉ちゃん。よろしくね!」

 そう言うと女の子達はバイバイと言いながら、向こうに歩いて行った。う~む。さすがはヘレン。修道院や孤児院の経験もあって子供の相手はお手の物だな。

 ギリメクさんが、その子供たちの背中をじっと見つめている。
「絶対。見つけましょう」
 俺が話しかけると、ギリメクさんは黙ってうなづいた。

「どうぞ、こちらへ」
 憔悴しきった声で、アリアさんが俺たちを案内してくれる。父親のタイストさんは外でライムちゃんを探しているらしい。
 最初はどう接すれば良いかわからなかったが、ギリメクさんが俺たちを紹介すると、アリアさんはうなづいてすぐに家に入れてくれた。
 ライムちゃんの部屋の前でアリアさんが、
「ここがライムの部屋です。あの子をよろしくお願いします」
と言って頭を下げて、そのままの姿勢でじっと静止していた。

 ギリメクさんが、
「アリア。あの子ならきっと大丈夫だ。ここは俺たちに任せて少し休め」
と言う。するとアリアさんは、「はい」と小さくつぶやいたが動こうとはしない。
 それを見たギリメクさんはため息をついて部屋のドアを開けた。

「「「む!」」」
 ライムちゃんの部屋に入った途端。俺とヘレンとサクラの声が重なる。
 見た目は普通の部屋で、聞いていたとおりに荒らされた形跡はない。だが、どうも魔力感知に何かが引っかかる。それもドントが言っていたという壁の方に。
 ギリメクさんが少し驚いた表情で振り向いた。
「何かあるのか?」
「いやまだよくわかりませんが、俺たちの魔力感知に何かが引っかかっていますね」
 そう言いながら、ヘレンとサクラが壁に近寄って調べてみるが何もわからなかったのだろう。首をかしげている。
 俺はじっと目をこらして壁を見つめた。何か魔力的なもの……。するとスキル「魔力視」で見えるいつもの赤い魔力の流れとは異質なものが見えてきた。

 ――ピコーン。
 スキル「瘴気視」「瘴気感知」「瘴気耐性」をマスターしました。

 ナビゲーションのアナウンスを脳内に聞きながら、俺は壁に浮かび上がって見えるどす黒い模様を見ていた。
「こ、これは?」
 そこに浮かび上がってきたのは、ヒビの入った円から黒い瘴気が吹き出している模様だった。よく見ると、今もなお本当に瘴気が少しずつ吹き出しているようだ。

 ギリメクさんが俺に詰め寄る。
「おい! 何が見えた? 何があったんだ?」
 俺は、ギリメクさんの手を押しとどめて、
「説明するから落ち着いてください。……何か書くものはないですか?」
と言うと、ギリメクさんは「すまん」と言いながら手を離し、廊下のアリアさんに言って筆記具を持ってこさせた。

 用意された羊皮紙に俺は見えた模様を描いた。
 それを見たギリメクさんは、
「なんだこれは?」
と言うが、それには俺も答えられない。

「どうやら瘴気で描かれた模様みたいですね」
「瘴気だと! お前には見えるのか?」
と言う。まあ、今、見えるようになったんだけどね。
「ええ、スキルのお陰です」
「そ、そうか。壁の違和感は瘴気か。スキルが無かったら分からなかったな。……だがこの模様は一体?」

 ちなみにヘレンとサクラも魔力感知のスキルがあるから、魔力の力場が狂っているここの異変は感じ取れるが、瘴気までは見ることができない。描いた模様をヘレンとサクラに見せるが、二人とも心当たりがないらしい。
 その時、俺の背後でズサッという音がした。慌てて振り返るとアリアさんが跪いていた。

「どうか。どうか。ライムを。あの子を見つけて下さい。この通りです」
といって土下座する。……こっちの世界にもこういう作法があったんだ。って、違う違う!

 俺は慌ててしゃがんでアリアさんの手を取って顔を上げさせる。
「もちろんですが、とにかくそんなことはしないで下さい。さあ、立って」
 のろのろとアリアさんは立ち上がる。俺が手がかりを見つけたので無我夢中で土下座をしたのだろう。
 立ち上がったアリアさんに羊皮紙の模様を見せるが、やはり見覚えがないようだ。

「とりあえず、手がかりの一つだな」
 そういってギリメクさんは羊皮紙を懐に入れた。
 それから、窓やベッドなど部屋のあちこちを調べてみたが、ほかに手がかりらしいものは見つからなかった。

 一度、ギルドに向かうことにして、オステル家を出る。
 俺はスキル「瘴気視」で瘴気の流れを見ようとすると、ぼんやりと薄い霧のようなものが町全体を覆っているように見えた。瘴気に町が覆われている。やはり何か悪いことが起きる前兆のようだ。
 道中、ヘレンが、
「人形もなかったわね」
とつぶやいた。……確かにそうだな。どこかに巧妙に隠してあったのだろうか?

 前を歩いていたギリメクさんが振り返った。
「そういえば、君たちは宿はもうとってあるのか?」
「いえまだですけど、どこか良いところがあれば……」
と言いかけたら、ギリメクさんが手を横に振った。
「いやいや。それならうちに泊まるといい。部屋なら空きがあるしね」
と言う。俺はみんなの方を振りむくと、ヘレンもサクラもうなづいていた。
「それならお世話になります」

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