11 捜索48時間 2

 ギルドに向かってギルマスに例の羊皮紙を見せるが、やはり見覚えがないという。ギルドの資料室で調べてみたが何の手がかりも得られなかった。

 ギリメクさんが、
「こんな時にバハムート様かタイフーン様がいらしてくれればな……」
とつぶやいた。

「いらっしゃらないんですか?」
と聞くと、
「ああ。竜王様たちがゾヒテの世界樹で話し合いをすると言って出かけられていてな。いらっしゃればこんな事件はそもそも起こらなかったんだろうが」
と言った。
 へえ。竜王の会議か。世界樹と六竜王の集まり。想像するだけで凄い光景だ。

「どうやらここで調べていても、これ以上出てこないみたいだな。……先に俺の家に案内しよう」
 そう言ってギリメクさんは席を立った。
 リルさんに挨拶をしてギルドから出る。ギリメクさんの家は族長の屋敷の近くにあるようで、そっちに向かって歩いて行く。

 時間にして午後の5時だが、どす黒い雨雲に空が覆われておりすっかり暗くなってきている。
 通りのガス灯に火がつけられていき、家々の窓から中の光が漏れて出てきている。
 それにも関わらず、通りのあちこちでは2人ペアで動く竜人族の姿が見える。きっと警備士だろう。すれ違う度にギリメクさんが声を掛けていく。

 彼等もずっと動きっぱなしか。大変だな。
 そう思っていると、ギリメクさんが、
「彼らは2交代制にしてある。さすがに竜人族の体力でも1日も動けばぶっ倒れるからな」
と言った。そりゃそうだよなと納得しながら、警備士の横を通り過ぎた。

 ちょうど族長の屋敷の斜向はすむかいがギリメクさんの家だった。ギリメクさんはドアをノックする。
「戻ったぞ。シエラ」
と声を掛けた。中から足音がしてガチャッと鍵を開ける音がする。
「お帰り。お父さん。……あれ? そちらの方は?」
 中から顔を出したのは、輝くような金髪に巻角まきつのを持った美少女だった。年の頃は二十歳の大学生くらいだろうか。布の服を押し上げる大きな胸はヘレンにも劣らないだろう。

「お客さんだ。しばらく泊まるかもしれない」
 そう言ってギリメクさんは俺たちを振り返り、
「こいつが俺の娘。シエラだ。何かあったらこいつに言ってくれ」
 俺はシエラさんに向かって、
「はじめまして。アルの街の冒険者のジュンです。こっちがヘレンで、こっちがサクラです。しばらくお世話になります」
と言うと、シエラさんはにっこり笑って、
「シエラです。どうぞいらっしゃい」
と言った。

 ちょうど夕飯の準備をしていたようだが、当然のことながら二人分しか用意されていない。俺はマジックバックをヘレンに預け、中にある食材を使ってヘレンに料理をしてもらうことにした。

「突然おしかけてごめんなさいね。お台所を借りるわ」
とヘレンが断ると、シエラが、
「いいえ。私もお手伝いしますよ」
といって、二人で台所に向かった。俺とサクラはその間にギリメクさんに客室に案内された。

「食事が準備できたら呼ぶように言っておく」
「あれ? ギリメクさんはどうするんですか?」
「俺は先に食べてすぐに警備隊本部に戻る。お前達は今日ここについたばかりだ。今日だけはゆっくり休め」
「そうですか。……それはすみません。何かあったらすぐに連絡をお願いします」
「ああ。今日はありがとうな。お前達のお陰で手がかりが見つかったよ」
「……早くライムちゃんが見つかると良いですね」
「ああ。そうだな。じゃ、失礼」
 そういってギリメクさんは部屋から出て行った。

 このまま部屋にいてもしょうがないので、しばらくしてから俺たちは台所に向かった。
 ダイニングテーブルに座って、ヘレンとシエラさんが料理する様子を眺めていると、
「ジュン。お皿とか準備手伝って」
とヘレンに言われたので、サクラと二人でお手伝いをする。

 その様子を見てシエラさんが、
「へぇ。もしかしてお二人は恋人ですか?」
と聞いてくる。ヘレンが鍋をかき混ぜながら、
「だといいんだけどねぇ。なかなか手を出してくれないのよねぇ」
と言って流し目で俺を見る。俺の横でサクラもうなづきながら、
「いつでもばっちこーいの美人が二人もいるのに、まったく情けないマスターですよね」
と言うので、俺はサクラのおでこにデコピンを食らわす。
「あいたぁっ! マスターの力でやられるとデコピンもレベル7相当の痛みですね!」
「あほか! んなわけあるか。……ちゃんと手加減はしてるぞ」
とやっていると、その様子を見ていたシエラさんが笑い出した。
「はははは。仲が良いチームですね。なんだか友達とか家族みたいです」

 ヘレンが、
「まあね。こっちはいい年なんだから早く貰って欲しいわよ」
と小さい声で言うが、サクラが、
「なにしろ私とヘレンさんがベッドに忍び込んでも手を出されませんでしたからねぇ」
と言ってうなづく。
「ええっ! 忍び込む?」
 それを聞いたシエラさんは真っ赤な顔であうあうと言いながら俺たちを見た。

 ……なんだこの雰囲気は。
 俺はコホンと咳を一つして、
「ま、まあ。それはおいといて、早く食事にしようぜ」
と言うと、ヘレンに、
「逃げるな。このへたれめ」
と突っ込まれ、シエラさんは再び笑い出した。

 食事は、肉団子に野菜炒め、そして、具だくさんのスープとなった。
 俺のマジックバックから食材を提供したので、見慣れない食材もあったらしく、シエラさんには大好評だった。
 スープを飲んでいると、
「冒険者っていうのはやはり大変なお仕事なんですか?」
とシエラさんが聞いてきた。
「ん~。そうだなぁ。何事も自己責任でハイリスク、ローリターンの時もあるなぁ」
と答えると、ちょっと引きつったように、
「そ、それはきつそうですね」
と言う。俺が、
「でもさ。ロマンがあるしね」
と言うと、怪訝そうな顔で、
「ロマンですか?」

「ああ。いろんな所に行けるし、俺たちは言ったことが無いけどダンジョンとかもあるんだろ? 魔物との戦いは危険を伴うが、貴重な素材をゲットするチャンスだし。その素材で武器を作って貰ったりとかできるしね」
「ははぁ。なるほど~。……やはり冒険者の皆さんは強いんでしょうねぇ」
と言って、シエラさんが憧れのような視線を送ってよこす。

「ははは。ピンキリだよ、ピンキリ。俺たちはランクDだけど、戦闘力ならもっと上だと思うよ」
「ホントですか?なら、こちらにいる間に、一度、稽古をつけてくださいませんか?」
「へ? 稽古?」
「ええ。私、これでもお父さんと毎朝訓練しているんです。まだ警備士には入隊させてもらえませんが、将来は警備士になってお父さんの後を継ぎたいんです」
と言った。ふむ……。俺はシエラさんのステータスを確認した。

 ――シエラ・リキッド――
 種族:竜人族 年齢:20才
 職業:自宅警備員
 スキル:身体強化、自然回復、気配感知、調理3、剣術3、槍術3、盾術4

 ほお。年齢の割にはなかなかの練度のスキルだ。……うん? 自宅警備員? 引きこもりか?
 ちょっと戸惑ったが、こうして接していると引きこもりのようには見えない。っていうことは、実際は家事手伝いの方がぴったりくるだろう。

 俺は、
「いいですよ。では、今回の事件が解決したら一度お手合わせいたしましょう」
と言うと、うれしそうに「はい。よろしくお願いします」と言った。
 竜人族っていうのは、こういうように戦いたがる気質でもあるのかな。
 そんな風に思いつつ、しばらく食事をしながら語らった。

――――。
 その頃。ギルドには猫人族のドントが調査から戻ってきていた。盗賊職のスキルもちのドントは、今日もオステル家を中心に同心円状に調査範囲を広げていたのだ。
 疲れた体をむち打って受付の女の子――今はリルではない――に報告を行い。カフェの椅子に座り込む。やってきたウエイトレスに食事を注文し、目を閉じて考え込む。

 ドントは失踪という線はないと考えていた。失踪ならもう少し手がかりが見つかっていただろうし、誘拐にしても随分と鮮やかだ。ここまで手がかりが出てこないということは熟練者の仕業に違いない。
 さっきの報告で部屋の壁に瘴気で描かれた絵の情報を受け取ったが、そうすると魔法使いの線も浮上する。……何かが起ころうとしているのではないか。それもろくでもないことが。

「……っくしょう。ついてないぜ」
 その時、ドントの耳に隣のテーブルに座る三人の冒険者の会話が聞こえてきた。この町に来てから一ヶ月ほどの人間族の冒険者だ。どうやら今日の依頼はうまくいかなかったようだ。
「でもよ。なんであそこで……が出てくるかな」
「まったくだ。連携はボロボロだしよ」
「……お前の拾ったそれが原因じゃないだろうな」
「おいおい。何を言う。たかが水晶だろ?」

 うん? 水晶? 会話に出てきた水晶の語に、ドントの猫耳がぴくりと動く。
 ドントは立ち上がって隣のテーブルに向かった。
「お? 何か用か?」
「すまない。ちょっと悪いが、今言っていた水晶ってのを見せてもらえないか?」
 すると一人が、
「……理由を聞かせてもらって良いか?」
と言う。ドントは、
「ああ。実は今、誘拐事件でみんなが探しているのは知ってるな? その手がかりの一つに黒い水晶のかけらがあるんだよ」
と言うと、三人の目が驚きに見開かれる。
「おいおい。マジか?」
 一人が、「わ、わかった。……ほらこれだ」といって水晶のかけらを取り出した。

 男の手のひらの上でランプの光を反射して輝く水晶は真っ黒だった。

 ドントはそれを見て、
「間違いない。これと同じだ。……これをギルマスに買って貰った方が良いぞ」
と言うと、男はかけらをしまいながら「ああ。ありがとうよ」と言った。
 ドントは、
「それはいつ、どこで拾ったか覚えているか?」
と尋ねると、男が、
「ええっと、これは俺が一人で飲みに行ったときのだから……、四日前の夜だな。西1番通りの飲み屋で飲んで宿に帰る途中で拾ったもんだ」
「四日前だと! 他に何か気づいたことは無かったか? 異音がしたとか何か」
 ドントは男に迫るが、男は困ったように頭をかく。

「それがよ。飲んでたもんだからあんまり覚えてないんだ」
と言う。ドントは、
「そ、そうか。わかった。……また何かきくかもしれない。邪魔して悪かったな」
と言って自分の席に戻った。その背中に、
「なあ、これもギルドに報告し説いた方がいいか?」
と声が掛けられた。ドントは振り返って「もちろんだ」というと、早速、一人がギルドの受付に向かっていった。

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