12 捜索48時間3

 朝早くに目が覚めた俺たちは早めに朝食を取ってシエラさんに礼を言い、警備隊本部へと向かった。

 何か新しい情報はないだろうか。
そう思いながら本部に行くと、本部は騒がしかった。

 「早くギルドに向かえ!」「おう!」「落ち着いて行動しろよ!」
中からギリメクさんの鋭い声が聞こえる。
俺たちの脇を警備士たちが走り抜けていく。その後からギリメクさんも出てきて、俺たちを見ると、
「すまん。今は時間が無い」
と言って走り出した。俺たちもその後を追い、俺はギリメクさんの横を併走した。

 「何があったんです?」
と聞くと、ギリメクさんが真剣な顔で、
「例の黒い水晶を人間族の冒険者が拾っていてな。それを聞きつけたアリアさんと何人かの竜人族が、犯人が冒険者だと言ってギルドに押しかけてるんだ」
と言った。おいおい。マジか。
ギリメクさんは、
「同じ人間族のお前たちは来ない方がいいかもしれん。警備隊本部で待ってろ」
と言う。確かにそうかもしれない。俺は、
「わかりました。後で聞かせてください」
と言って足を止め、振り返って警備隊本部へと向かった。
事情を聞いたヘレンとサクラも困ったような表情をしている。

 警備隊本部へ着くと、事務員のカリタさんが俺たちを応接室に連れて行った。
カリタさんも事情を知っているようで、
「まったくアリアも馬鹿なことを。何も冒険者が犯人と決まったわけじゃないでしょうに」
と言う。しかし、黒い水晶って例の瘴気の結晶だろう。あれがまた見つかったのか。そう思ったとき、ライムちゃんの部屋の瘴気の絵と、町を覆う瘴気の霧を思い出した。

 「もしかしたら、瘴気の影響かもしれません」
と俺が言うと、カリタさんが、
「どういうことですか?」
と聞いた。
「ライムちゃんの部屋の瘴気の絵からはまだ瘴気が出ているように見えました。もし、その瘴気にアリアさんが犯されているとしたら……。それにギリメクさんに言っていないんですが、薄い瘴気の霧が町全体を覆っているように見えています」
それを聞いたカリタさんは表情を無くし、言葉をうしなったように青ざめた。
「ほ、本当に?」
「どちらも本当です」

 それからしばらくして、警備士が戻ってくる音が聞こえたので応接室から出ると、三人の人間族の冒険者が警備士に連行されてきていた。幸いに怪我はないようだが、その表情はビクビクしている。三人は奥の廊下へと連れて行かれた。
カリタさんはそれを見て、
「あっちには牢屋があるんですよ。もう1年くらい使ってないですけど」
と言う。すると警備士に遅れてギリメクさんが渋そうな表情で戻ってきた。
「ギリメクさん!」
と俺が声を掛けると、ギリメクさんは顔を上げて、
「応接室で話そう」
と言った。

 応接室で対面に座ると、ギリメクさんはやれやれと言って、
「まったくいらぬ騒動を起こしてくれる」
といってため息をついた。
「なぜあの三人が?」
「うむ。昨夜、ドントがギルドに帰還した際に、彼らのうちの一人が、まさに事件のあった夜にあの黒い水晶のかけらを拾ったと聞いたらしい。例の結晶も持っていたので押収してある」
「ええ」
「あの三人はこの町に来て一ヶ月ほどでな。そのために話を聞いた竜人族の者が犯人があいつらだと言い出して、アリアにも言いつけたらしい」

 それは閉鎖的な社会にいると起こりえることと言えるな。結局はよそ者。何かあったら疑われるってことだ。
「しばらくは竜人族以外の種族の者に気をつけるように通達せねばなるまいよ。……まったく、面倒な」

 そういってギリメクさんは頭を抱えた。
「ああ、そうだ。奴らは西1番通りで例の結晶を拾ったと言っている。順当に考えれば西2番通りにあるオステル家から西の区域が怪しいだろう。それで警備士達への調査は西側を重点的に調べろと言っておいた」

 なるほどね。あの結晶が攪乱かくらんが目的でないなら、そう考えるのが自然だ。……西側か。
ギリメクが俺に、
「それで今日は君たちはどうする?」
と言うので、
「とりあえず、例の三人に話を聞ききたいですね。それから東西の詰め所で改めて話を聞き、俺たちも町の西側の調査に入ります」
「そうか。私は今日は君たちと別れて西側の外壁を調査することにする」
「わかりました」
「よし。では行動開始だ。……カリタ。例の三人の所へ案内してやってくれ」
ギリメクさんの指示を受けて、カリタさんが応接室に入ってきて俺たちを案内してくれる。

 廊下を進んで奥に行くと鉄扉が見えてきた。
俺はカリタさんに、
「なぜあの三人を連行したんです?」
ときくと、
「あのままだとリンチされかねなかったようです。それで保護のために。……まあ、名目上捕らえておけば群衆も落ち着くでしょうしね」
「なるほど。そうでしたか」
カリタさんが鉄扉の鍵を開けて中に入る。左右には鉄格子が嵌められている部屋が並んでいる。真ん中の廊下を歩くカリタさんと俺たちの足音だけが響く。
一番奥の牢に三人の冒険者が入っていた。
「みなさん。少しお話を聞かせてください」
そういってカリタさんが話しかけると、三人とも警戒心をあらわにしてこちらを向いた。俺は、
「何もしない。っていうか俺は真犯人を捕まえてライムちゃんを助けたいんだ。協力してくれ」
俺の姿を見て一人の男が、
「人間族か……。いいだろう」
と言って、事件の晩の出来事を話し始めた。

 「酒場で飲んだ帰りだ。月が出ていたんだが、雲に隠れて一瞬真っ暗になったんだ。その時に、道ばたで何かきらめいた気がして見てみたら、例の水晶のかけらが落ちていたのさ」
「場所は西1番通りだったか?」
「ああ。拾って帰っただけなんだが、何故こんなことに?」
と男は頭を抱えて座り込んだ。隣の男が俺に、
「お前、あれが何か知ってるなら教えてくれないか」
という。俺はしばらく考えて、
「あれは瘴気の結晶だよ。持っていると健康と精神をむしばむ危険なアイテムだ」
というと、三人とも顔を青くさせて、
「マジかよ」「ついてないな」「そんなこったろうと思ったよ」
と口々に愚痴り始めた。

 俺は、
「とにかく真犯人が見つかるまでここにいろ。ギリメクさんは保護のために連行してきたみたいだから、ここにいれば安全だからよ」
と言うと、三人ともうなづいた。
カリタさんに後を任せ、俺たちは町の西側入り口に向かった。

 昨日に引き続き曇天だ。それに俺の目には町を覆う瘴気が少し濃くなってきたように見える。
「ねえ。なんだか町が少し殺伐としていない?」
ヘレンがそう聞いてきた。俺は、
「ああ。瘴気が昨日より濃くなっているみたいだ」
と言うとサクラが、
「ん~、確かにちょっと妖気っぽいのを感じますねぇ。これが瘴気ですか?」
と言った。そうか、サクラは妖怪だったな。なら瘴気を感じ取れてもおかしくはないね。

 「多分そうだと思うぞ。むしろ俺は妖気が分からんが」
「そりゃそうですね。……ええっと、こんな感じです」
とサクラが言ったとたん、サクラからちょっと変わった力を感じる。う~ん。瘴気ほど毒々しくないけれど、魔力ほど無色じゃない。そんな力だ。

 ――ピコーン。
スキル「妖気視」「妖気感知」「妖気耐性」をマスターしました。

 ナビゲーションの音とともにサクラの全身を覆う紫色のオーラが見えるようになった。
「おお。見えた、見えたよ。ふ~ん。それが妖気か」
と言うと、サクラが、
「さすがマスターですね。そんなに簡単に見れるようになるとは!」
ヘレンもあきれたように、
「本当にあなたって規格外よね」
と言う。するとサクラが、

 「じゃあ、今度はヘレンさんと色気をだしますからどうですか?」
と言うと、二人して襟元を広げたり太ももを出したりしはじめたので、俺はデコピンをそれぞれ食らわせてやった。
「やめんかい!」
「いっつ!」「いたぁ!」
額を抑える二人にあきれたように、
「こんな往来おうらいで何をやってるんだ」
と言うと、めげないサクラが、
「じゃあ、今晩、マスターの部屋でやりましょう!」
「そうね。サクラ、頑張るわよ!」
……おいおい。他人の家で何をする気だ。と思ったら、
「シエラさんもお誘いしましょうね」
と二人で何やら危険な相談を始めている。もう勝手にしてくれ。

 町の西側の入り口に到着すると、今日の門番はこの町に来たときの門番と一緒だった。
「おお。あんた達か。……今は町の中が殺伐としてるみたいだから気をつけてくれよ」
と言う。
「ありがとう。それはそうと、俺たちはギリメクさんと例の事件を調査してるんだが、事件の夜の夜番はいるかな?」
ときくと、門番は、
「ああ、あの夜は俺がやってたよ」
という。

 詳しい話を聞いてみたが、その日は空にはまだらに雲が出ていたが月が綺麗な夜で、少なくともここの門では通行人もいないし異常も見られなかったそうだ。
結局、今まで以上の手がかりは得られない。俺たちは門番と別れ、冒険者が瘴気の結晶を拾った西1番通りへ向かった。

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