13 捜索48時間 4

――――。
 今朝からドントはギリメクとともに、西側の外壁の内側を調査していた。
 もう調査は今日で4日目となる。誰の顔にも疲労と憔悴の色が濃いが、それ以上に焦りがはっきりと見える。

 それは町の住民も同じで、だからこそ今朝のギルドでの騒動のようなことが起きたのだろう。だが、警備士はだれ一人として三人の冒険者が犯人だとは思っていない。というより、あのような少し軽い感じの冒険者にここまで見事な誘拐は無理だと判断されているのだ。

 しかし、これほど町中を調査しても手がかりがほとんどない現状、町の外に連れ出された可能性が見直されている。そのための調査だ。

 外壁は高さ2メートルほどで、成人男性の竜人族なら登ることができる位の高さだが、7才の女の子には無理だ。
 しかし、犯人が成人男性の竜人族ならば、ライムちゃんを袋詰めにして担いだりすれば乗り越えることは可能だろう。

 とはいっても西側の外壁もかなりの長さだ。そこでドントは南側から、ギリメクは北側からと分かれて調査をしている。
 外壁沿いには、破れた麻袋や空の木の箱、土埃もたまっているし草も生えている。ところどころの壁には子供がしたらしい落書きや、的当ての的などが描かれている。
 その一つ一つにおかしいところはないか。箱の影に何か落ちていないかなど丁寧に調査を進める。

 昼食を挟んで、ドントはずっと外壁の内側を調べていった。

――――。
 西1番通りで聞き込みをしながら、冒険者の行ったという酒場に向かった。
 幸いに酒場は開いており、竜人族のマスターが店内の掃除を行っていた。
 入ってきた俺たちを見て、
「いらっしゃいと言いたいところだが、まだ準備中だ」
と言った。俺は、
「ああ。客じゃないんだ。すまない。……例の事件を追っている。あの日の夜に何か変わったことが無かったか話を聞かせて欲しい」
と言うと、マスターは掃除の手を止めて、近くの椅子に座るよう指示する。

「あの夜か。……事件があってから幾度も思い出そうとしていたんだけどな」
 対面に座ったマスターが腕を組んで天井を見つめ、何かを思い出そうとしている。
「この町はそれほど大きくはない。お客だってほとんどは近所の顔なじみばっかりだ。……ただあの日は人間族の冒険者が一人で来ててな。色々と冒険の話をしては酒を奢って貰っていたよ」

 天井を見つめていたマスターが俺の顔を見る。
「ま、べろんべろんに酔っ払った奴は帰っていったんだが……。そういえば次の日、妙なことを言っていたな」
「妙なこと?」
「ああ。なんでも帰り道に月が雲に隠れたとき、町がかすみみたいのに包まれて暗闇に沈んだみたいになったってさ。……まあ、酔っ払いの幻だろうさ」
かすみ……、暗闇……、そうか。他には?」
「う~ん、何しろ空いている間は店の外に出ないからなぁ。あの三人組の他によそ者は来ていたわけでもないしね」
「わかった。ありがとう。……今度、夜に飲みに来るよ」
「ああ。待っているぜ」
 俺達は失望感を胸に酒場を後にした。結局、新しい事実の発見はない。強いていえば町が霞に包まれてっていうのは瘴気の事だろうと推測できる程度だ。

 それからギルドに向かって最新情報を得ようと向かっていると、途中でシエラさんに出会った。
 シエラさんは俺たちを探していたようで、心配そうな表情だ。

「さっきお父さんが帰ってきて、物置をごそごそしていたと思ったら剣を持って飛びだしていったんです」
「ギリメクさんが?」
「ええ。何があったかしらないですか?」
「いや、今日は別行動してたので。……確か外壁を調べるとか言っていましたが」
「外壁ですか?」
「ええ。……シエラさん。私たちはギルドに行って現在の状況を確認してきます。シエラさんは警備本部に。なにかギリメクさんから指示があるかもしれません」
「わかりました。では」

 そういって、俺たちはシエラさんと分かれて急いでギルドに向かった。
 ギルドではリムさんが留守番をしていた。

 残念ながらギルドにも新しい手がかりはないようだった。
「ねえ。ジュン。私思ったんだけど」
 ギルドから出たところでヘレンが言い出した。
「あなたの瘴気視で町の瘴気の濃いところを探してみたらどうかしら?」

「なるほど! それはいい手かもしれん」
 ここまで手がかりが出てこないんだ。直感にしたがってみようじゃないか。
 俺は瘴気視で町を包む瘴気を観察した。霧に似た瘴気でもよく見ると濃いところがある。
「こっちだ」
 俺はその濃いところに向かって歩き出した。

――――。
 濃い瘴気をたどると西側の外壁の北側に出た。今はそこの調査を続けている。

「マスター。あれは人形じゃないですか?」
 俺はサクラの指さした方をみると、確かに外壁のそばに熊の人形が落ちていた。
 それを拾ったヘレンがつぶやく、
「――ウサギとクマの小さな人形を作っていたよ」

 ライムちゃんの友達の女の子がそんなことを言っていた。もしかして、これがそうなのだろうか?
 人形を凝視すると、その周りに瘴気が渦巻いている。その流れの方向をたどると一つはオステル家の方向に、もう一つは外壁を越えて町の外へと続いている。
「ライムちゃんは町の外だ」
 俺は断言した。人形を見下ろしていたヘレンとサクラが俺を見る。
「瘴気が町の外へと続いている。これを追いかければライムちゃんが見つかるかもしれない」
「そう……、なら行きましょう」「そうですよ! マスター」
 俺は二人の目を見てうなづいた。
「なら警備隊本部で報告してから行こう」

 夕方になり雨が降り出す中を警備隊本部に到着すると、カリタさんから衝撃的な報告があった。
 なんでもギリメクさんが戻ってきたと思ったら、すぐに「外に行く」とだけ言い残して飛びだしていったそうなのだ。
「もしかして……」
 そうつぶやいてヘレンが拾った人形を取り出した。

 あの女の子との会話をギリメクさんも聞いていた。ならばこの人形がライムちゃんのものと思いついてもおかしくはない。

「ギリメクさん、なんで一人で……」
 俺は握り拳に力を込めて、そうつぶやき、
「カリタさん。瘴気の濃いところをたどると町の外へ続いていました。俺たちも外に出ます。このことはギルマスのレンシさんとシエラさんにも伝えてください。おそらく今日は戻れないでしょう」
「外へ?……わかりました。必ずお伝えします。警備隊の準備が整い次第、我々も向かいます」
 カリタさんに見送られて警備隊本部を出て、まっすぐに町の西側入り口へと向かった。

「おい。お前たちも外に行くのか?」
「も?」
「ああ。昼頃、ギリメクさんが飛びだしていって、さっきはシエラが出て行ったぞ」
「何! シエラさんが?」
「ああ。大盾と剣を持っていたから、ここら辺の魔獣には引けを取らないはずだし、ギリメクさんと落ち合うんじゃないのか?」

 そうか。シエラさんは警備隊本部に向かったんだっけか。それでギリメクさんを追いかけたって、なんて無謀な!

「わかった。俺たちもすぐに追いかけるよ。ありがとう」
「おお、お前らも気をつけろよ。ギリメクさんとシエラにも言っといてくれ」
「もちろんだ。じゃ」
 俺たちはすぐに西門を出てデウマキナの山道に出た。
「ジュン」
 声を掛けるヘレンにうなづいて、俺は探索ナビゲーションを起動する。まずはシエラさんと合流しないと危険だ。
「探索 シエラ・リキッド」

 すぐに視界に西北へ向かう青い矢印と同じく西北の方角を指す赤い矢印が現れた。距離は2キロメートルだ。
「みんな、急ぐぞ!」

 身体強化をした俺たちは小走りにシエラさんを追いかけたのだった。

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