14 シエラ救出

 空気が薄い高所ではあるが、身体強化のお陰で平地と同じように進むことができる。
 コートが雨を吸い込んで体にまとわりついてくるが、それを気にしている場合ではない。

 すでに辺りは暗くなっているが、トウマさんたちとの訓練で三人とも暗視スキルを身につけており苦にはならない。
「あそこです!」

 サクラの声がする。前方を見ると、窪地で盾を構えているシエラさんが見える。……上空には3匹の鳥のようなものが旋回している。明らかにシエラさんを狙っているぞ。

――ワイバーン(瘴気中毒)――
 飛竜の一種。勝れた飛行能力を持ち空からの急襲が得意。一方で竜種の持つブレスは使えず、竜種の中では一番弱い。
 瘴気に犯されて凶暴になっており、毒の息を吐く。

「ワイバーンだ!油断するな!」
 俺は声を張り上げて速度を上げた。

 目の前で一匹のワイバーンがシエラさんに向かって急降下する。
 だめだ。間に合わない!

 ワイバーンの口から緑色の呼気が吐き出されてシエラさんをつつみ、さらに大盾に鋭い爪の一撃を加えた。シエラさんは大盾で受けたものの、勢いを殺しきれずに後ろに吹っ飛ばされる。
 それをチャンスと見た2匹目のワイバーンが急降下の姿勢を見せた。
「行くぞ!」

 俺は走りながら戦闘モード「火炎舞闘」を発動。手足に魔法の炎がまとい、高速機動とともに赤い閃光となって一瞬のうちにシエラさんの前に跳び出す。雨の水滴が俺の炎に近づいて一瞬で蒸発していく。

 迫るあぎとを開いて迫るワイバーンの横っ面をぶん殴る。
 そのインパクトの瞬間。ボゴンという響きと共にワイバーンが直角に吹っ飛んでいき山肌を転げていった。
 その顔は陥没していて、すでに絶命している。

「まずは一匹」

 俺は腰からミスリルソードを抜き放ち、空を飛ぶ2匹のワイバーンをにらんだ。
 スキル「空間把握」により、背中越しにヘレンがシエラに駆けつけて回復魔法を使っているのがわかる。柔らかい光がシエラを包み込んだ。どうやら大丈夫みたいだな。ヘレンはその場で結界を張りシエラを守っている。

 サクラはヘレンとシエラの背後の大岩の上で待機している。
 その時、2匹のワイバーンが同時に急降下してきた。一匹は俺の方へ、もう一匹は背後のサクラの方から挟み込むように襲いかかってくる。

「火炎剛剣」

 剣技レベル2の剛剣だが火炎舞闘によって炎が付与されるとレベル5の剣技となる。ミスリルソードの剣身を俺の魔力で強化すると同時に炎がまとわりつく。
「はっ!」

 目の前に迫るワイバーンの顎を下から切り上げてその巨体を打ち上げると同時に、立体機動で上空に移動し、今度は上から叩きつけるように剣を振るう。ワイバーンはなすすべも無くデウマキナの山肌に叩きつけられ、直径20メートルほどのクレーターができた。

 サクラの方を確認すると、サクラの双剣技「飛燕連斬」によって五体が細切れになったワイバーンがバラバラになって落っこちていった。
 サクラの武器はネコマタ伝来の忍刀青竜と白虎だ。かなりの業物で、日本人の俺としては刀へのあこがれから、いつかサクラの故郷で刀を打ってもらいたいと思っている。

 他に魔獣の気配が無いことを確認して俺とサクラはヘレンとシエラさんのところへ向かった。

「シエラさんはどうだ?」
 俺はヘレンに尋ねると、ヘレンは、
「怪我と猛毒と麻痺になっていたからハイヒールとキュアをしといたわ。今は気を失っているけど大丈夫なはずよ」

 ナビゲーションでシエラさんの状態を確認するが気絶だけになっていたので一安心だ。
 とりあえずシエラさんの意識が戻るまでここで待機とする。サクラは岩陰を利用して布を張って、簡単な休憩所を作っている。
 その間に俺は、今度はギリメクさんを探索する。

「探索 ギリメク・リキッド」
 どうやらさらに西の方へと進んでいるようだ。瘴気の流れを見ると同じ方向に続いている。距離はさらに3キロメートルだ。
「もっと西か。何かあるのか?」
とつぶやきながら、ヘレンとワイバーンの素材をはぎ取りに向かった。

 ワイバーン素材は竜種のものということもあって、かなり優秀な装備に加工できそうだ。とはいえ3匹分となるとさすがにマジックバックには入りきらない。有用そうな部分をできるだけ切り取ってマジックバックに入れ、残りの部分はヘレンの空間魔法「ガレージ」に入れてもらうことにした。

 ガレージは魔力量によって容量が変わるが、出し入れに魔力を使うので普段はあまり使用はしていない。収容している間も時間は経過するので食料品の保管には向いていない。
 まあ、こういう素材なら問題は無いけどね。ちなみにワイバーンの血液も液体保管の革袋に入れて、俺がこの世界に来たときから持っている特殊な道具袋に収納している。清浄化のかかったこの道具袋は便利なんだが、容量の拡張がないのが惜しいところだ。
 後に残った血だまりは、今なお降り続く雨が綺麗に流してくれるだろう。

「マスター。シエラさんが意識を取り戻しましたよ」
 留守番のサクラの呼びかけで俺とヘレンが戻ると、まだ気分が優れないのだろう、青白い顔をしたシエラさんが座り込んでいた。

「大丈夫ですか?」
 俺の呼びかけにシエラさんは弱々しい笑みを浮かべる。
「助けてくれてありがとう。……まさかこんなところで三匹ものワイバーンに襲われるとは思わなかったわ」
 俺は無限の水筒からコップに水を入れると、シエラさんに手渡した。
 受け取ったシエラさんは水を飲むと少し落ち着いてきたようだ。

「それにしてもお父さんと特訓を続けてきたのに、こんなにも手も足も出ないなんて」
と弱音を吐くシエラさんに、俺は、
「相手が悪かったですね。ワイバーンですと単体でもランクB冒険者6人ぐらいで戦う相手ですよ」
「……それを皆さんは倒してしまうなんて」
「修業の成果ですよ。さ、気分はどうですか?」
 俺はそういって空になったコップを受け取った。

 なぜ竜人族の町を飛びだしたのか。その理由は予想の通りだった。一人でギリメクさんが飛びだしていったことを知ったシエラは、いてもたってもいられなくなり後を追いかけて飛びだしていってしまったそうだ。

 俺はシエラさんに二つの選択肢を提示した。
 一つはこのまま俺たちと一緒にギリメクさんの後を追いかける。もう一つは俺たちと共に竜人族の町に戻ること。
 いずれにしろ、すでに夜中なのでうかつに動くことは危険を伴う。
 ちなみに現在のギリメクさんの位置はほとんど移動していない。戦闘中か、何かを見つけたのかもしれない。

 ライムちゃんの体力を考えたら、このままギリメクさんの後を追いかけるのも手だ。ただし、その場合はシエラさんにも危険があるとの覚悟を決めてもわらないといけない。
 戻る場合は、俺たちはとって返してギリメクさんを追いかけることになるだろうがタイムロスが大きくなる。

 シエラさんは――、このまま追いかけることを決断した。

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