18 戦場の出逢い

――――。
(あれれ? 急に雨がやんだみたいですね)
 フェリシアの念話に私も空を見上げた。
「本当ね。やっぱり山の天気は変わりやすいのね」
と言った瞬間。私の全身に衝撃が走った。どこかからか強力な力のほとばしりを感じる。これは……。
「い、今のは?」
(マスター。ここから10時の方角です)
「10時の方角ね? 行ってみましょう。――飛翔フライ
 風魔法で体を浮かび上がらせて鳥のように10時の方向へ飛んでいく。暗視のお陰で夜の闇でも物がくっきりと見えるわ。

 その時、前方の地面から天空に向かって光の柱が立ち上った。
「あ、あれは……、もしかして」

 その力を見た瞬間、私の魂が震える。あれは、あの力は……、もしかして私と同じ力?

 しかし、その力の波動からなぜか嘆きと悲しみが伝わってくる。そして、怒りの感情も。
(あの力はマスターと同じ聖石の力ですよ!)
 フェリシアの念話にうなづきながらノルンは、より深くその力を感じる。

「そう。敵と戦っているのね。……ならば私もそばに行きましょう」
(マスター?)
 いつもと様子が異なり、半分トランスしているようなノルンの様子に、フェリシアが怪訝そうな声を上げる。
封印リミット解除。真魔覚醒。神衣光輪」

 空を飛ぶノルンからまばゆい光があふれ、その肢体を覆う光の衣となる。あふれた力が白銀の炎となって周囲を旋回し、あたかも闇を光の矢が貫くようにデウマキナの夜の闇を突き進んでいく。
 フェリシアの炎も激しく燃え上がり、脈動するように真紅の光をたぎらせている。

 地面から光の柱が立ち上ったところには、大きな穴が開いていた。
「今、行きます。あなたのそばに」
 そう言って、ノルンはためらうことなく、穴に飛び込んだ。

――――。
 俺の全身から光があふれ輝く光の衣となって我が身を覆う。圧倒的な力の奔流に大気が震え、立ち上る光の柱が洞窟の天井を突き抜けていった。

 グラナダが俺を見て驚いている。
「その力は……」

 俺はグラナダの方を向きながら背後にいるシエラさんに語りかける。
「すまない。シエラさん。俺があいつの力を見誤っていたばかりに、ギリメクさんが……。だがもう誰も傷つけさせない」
 手にしたミスリルソードを聖石の力でコーティングする。
「行くぞ。グラナダ。――パラレルラッシュ!」

 俺は24分身でグラナダを囲み、光の速度で四方八方から斬りかかった。俺の斬撃がいくつもの光条となってグラナダを切り裂いていく。

「ぐぐぐうぅぅ」
 ボロボロになっていくグラナダは祭壇の上に膝をついた。俺はヘレンたちの前に降り立ち、グラナダを見据える。

 グラナダはゆっくりと立ち上がるとおもむろに両手を掲げて天井を向いて笑い出した。
「くくくく。さすがですな。その力――。では、そろそろ私も封印を解かせていただきましょう」
 その言葉と共に周囲の空間に漆黒の雷撃が烈しくほとばしり、グラナダの足下の祭壇に収斂しゅうれんしていく。

「さあ我が主を呼ぶために、まず一つ目のくさびを破壊しましょう」
 ピシッピシッと祭壇にひびが入った瞬間、黒い閃光と共に祭壇は木っ端みじんに粉々になった。
 祭壇のあった場所から濃密な瘴気が溢れ出し、グラナダの体に集まっていく。
「んん~。これはなかなかイイですな。くっくっくっくっ」

 その時だった。
「私もともに戦いましょう」
という涼やかな美しい声が響き、俺の封印解除の余波で開いた天井の穴から強い光が差し込んできた。

 その光の中を、燃えるような真紅の鳥とともに、光の衣を身にまとった一人の女神が降臨する。

 白銀にやや紫色がかった美しい髪を後ろでまとめ、神々しい力を感じるハルバードを持っている。

 ゆっくりと宙を舞い降りた女神は俺のすぐそばに着地する。
 俺の目にナビゲーションが彼女の情報を表示した。

――ノルン・エスタ――
  種族:人間族、半神半人
  年齢:26才   職業:隠者の弟子
  称号:当選者、聖石を宿せし者、分かたれし者
  加護:創造神の祝福、魔道神の加護
  ソウルリンク:フェニックス・フェリシア
  契約:サラマンデル、ウンディーネ、ノーム、シルフ
  スキル:言語知識、自然回復、マナ操作、マナ無限、魔法の才能、破邪の力、召喚魔法、妖精視、魔力視、精霊視、無詠唱、魔方陣の知識、気配察知、魔力感知、危機感知、暗視、体術4、回避5
  魔法:火魔法7、水魔法7、土魔法7、風魔法7、海魔法7、雷魔法7、神聖魔法7、空間魔法7、無属性魔法7
  ユニークスキル:ナビゲーション

「私はノルン。分かたれしあなたの半身。これよりは共にありましょう」
 その言葉が終わったとき、光が∞を描きながら俺と彼女を結んだ。

――ピコーン。
 分かたれし者ノルン・エスタとソウルリンクしました。
 称号「響き合う者」を得ました。

「「響き合う者……」」
 二人の声が重なる。ナビゲーションのシステム音声が同時に伝えたのだろう。

 その時、
「……そろそろいいですかねぇ。暇なんですけど」
とグラナダが言うと、奴の全身から瘴気が溢れ周りに紫電を帯びた2メートルくらいの黒い光珠が5つ浮かび上がる。

「ダークサンダー」
 5つの黒珠が烈しく紫電を発して回転しながら飛んできた。

 俺の後ろにはみんながいるから避けるわけにはいかない。するとノルンさんが、右手を挙げて、
「ライトウォール」
と言うと、俺たちの目の前に光の壁が生まれ、5つの黒珠とぶつかって激しい衝撃が伝わってくる。

 俺は聖石の力と炎の魔力を混ぜ合わせ、白銀の炎を生み出すとそれをミスリルソードにまとわせる。
 それにあわせるようにノルンさんの前の空間に二つの魔方陣が浮かび上がり、それにノルンさんが手を添えた。

 俺とノルンさんの周囲に小さな光の粒がいくつも浮かび上がる。
「メルトブレイク!」
「メギドフレイム!」

 剣閃と魔法、二つの力が合わさり巨大な光の奔流となり、グラナダを飲み込んでそのまま洞窟の壁を突き抜けていった。

 閃光と轟音がおさまると背後から、
「す、すごい! 何あれ?」「凄すぎますよ」
とヘレンとサクラの声が聞こえる。

 しかし、俺の目は隣に立つ女性に向けられている、ノルンと名乗る美しい女性を。
 どこか懐かしくも、心の底から引きつけられるようで、そばに立つだけで満たされていくような気持ちになる。
 ……これが一目惚れって奴か?

 なんて考えていると、ノルンさんは俺の方を向いてにこっと笑うと、ぱっと俺の胸の中に飛び込んできた。
 未だに光の衣をまとっているせいだろうか。ものすごい衝撃が俺にかかってくるが、それを受け止める。やっぱりこれは俺と同じ聖石の力なのだろう。

「見つけたわ! フレイの言う通りね!」
 俺は、ノルンさんの背中に手を回して抱きしめるが、すぐに背中をぽんぽんと叩いてシエラさんの方を指さす。ノルンさんはそちらをちらっと見てうなづくと、さっと離れてくれた。

 二人とも聖石の力を再び抑えて封印し、ギリメクさんの遺体を抱きしめているシエラさんのところへ向かう。
 ヘレンとサクラはシエラさんを守って、そのそばに立っていたが目がちょっと怖い。
(マスター。後でヘレンさんと一緒にいろいろとお話を聞かせてもらいます!)
(あ、ああ。わかった)と返事をして、少しびびりながらシエラさんのそばにしゃがみ込む。

 シエラさんはギリメクさんの遺体を抱きしめて泣き続けていた。
「お父さん……お父さん」
 ヘレンの方をちらっと見上げるとヘレンは黙って首を横に振る。……そうか。間に合わなかったか。
 俺はシエラさんの肩に手を回す。シエラさんは涙で濡れた目で俺を見つめると、がばっと抱きついてきた。ビックリしたがそのまま胸を貸してやり頭を撫でてやる。
 ノルンさんが、
「フェリシア。この方の傷を」
と言うと、俺の脳裏に、
(ですが、もう助けられませんよ)
と中性的な声が聞こえてきた。
(この念話はそのフェニックスか?)
と返すと、
(あら、ジュンさんにも聞こえるの? そうよ。フェリシアって言うの)
とノルンさんから返事が来た。
(ジュンでいいよ。で、ギリメクさんの傷は治せるのか?)
(ええ。生き返らせるのは無理だけどね。……で、私もノルンって呼んで)
(了解。じゃあ、フェリシア。頼めるか?)
(わかりました。マスター・ジュン)

 フェリシアはさっとギリメクさんの遺体のそばに降り立つと、頭を掲げてその瞳から涙をこぼした。
 ギリメクさんに涙がかかると、ギリメクさんを貫いていた黒い槍がすうっと消えていき、傷跡が赤く光りながらじわじわと消えていった。

 シエラは俺の腕の中からその様子を見ていて、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「ジュンさん。ありがとうございます。……もう大丈夫です」

そういって目をごしごしとこすって、
「お父さん。帰ろう。私たちの町に」
といってギリメクさんの遺体を抱き上げた。俺はまだ気を失っているライムちゃんを抱き上げて、
「みんな。竜人族の町へ戻ろう」
と告げた。

 広間から出る前にもう一度ふりかえって見渡す。それにしても暗黒の天災グラナダの正体は結局なんだったのだろう。
 邪悪な魔法使い? 悪魔の神官? それに粉々に砕け散った祭壇は何だったのだろう。グラナダは「封印」とか「くさび」といっていたが。

 一つの戦いは終わり事件は終息したが、どこかで何かが動き始めているような不気味な予感がする。

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