19 デウマキナの朝日

 俺はライムちゃん、シエラさんはギリメクさんを運んでいるために戦闘は他の3人にしてもらうことにした。
 洞窟を出口に向かいながら、みんなにノルンとフェリシアを紹介した。ヘレンとサクラは微妙な顔をして二人でごにょごにょと話をしていたが、納得したようだ。
 小さく「これで……してもらえる」「一夫多妻ですね」とか聞こえてきたが気のせいだろう。

 洞窟の出口から、外の窪地の様子を確かめる。
 フェリシアの気配感知にもノルンの探索魔法にも異変は感じられない。
 外は雨がやみ、不思議とあの分厚い雲もすっかり姿を消して晴れ上がっていた。

 その時、
「くくくく」
と笑い声が響き渡り、目の前の空中にぽつんとお面のような白い顔だけが浮かび上がった。
「グラナダ!」

 慌ててライムちゃんを下ろして前に進んで剣を抜きは放つ。が、グラナダは、
「まあまあ。ここは負けました。またお会いしましょう」
と言い残して、笑いながら消えていった。

 あいつの馬鹿にしたような笑い声が耳底に残る。シエラが険呑な気配でグラナダが消えた場所をにらみつけていた。

 地面を渡る風が俺たちを通り抜けていく。
「どうやら倒しきれなかったみたいね」
とノルンがつぶやいた。

 ぐいっとシエラさんが俺たちの方を振り向いた。
「ジュンさん。皆さん。お願いがあります。……私を皆さんのチームに入れてください」
 俺は真剣な表情を見て、
「予想はつくが、なんで?」
と聞くと、即座に、
「お父さんの仇を討つためです」
と言い切った。

 鬼気迫る様子のシエラさんの顔に、みんなの方を見るとうなづいている。
「わかった。それならもう敬語はいらないし、チームとして仲良くやろう」
と言うと、シエラさんは「ありがとうございます」とだけ言って、再びグラナダの消えた方向をにらみつけていた。

 ……どうやらグラナダは完全に撤退したようだ。となれば、今夜はこのまま野営をした方が安全だ。
 俺はそう判断し、みんな手分けして準備をする。

 俺たちの周りにヘレンが結界を張ると、その外側にノルンがステルスの魔法を掛けて目立たなくし、俺とサクラは石をどかしたりして横になれそうな場所を作る。
 シエラは、ギリメクさんの遺体を毛布に包んで横にすると、まだ気絶しているライムちゃんを見張り、拾ってきた木材にヘレンが火をつけてお湯を沸かす。
 みんなで火を囲んでお茶を飲み、一息つくと俺とサクラが交替で見張りをすることにして、みんなには休んでもらった。サクラにも先に寝るようにいって、俺は火の前に座り込んだ。

 ふと見ると、ギリメクさんの遺体のそばに横になったシエラの肩が震えている。俺はそばに行って座り、
「シエラ。つらい時は我慢しなくてもいいんだぞ」
と声を掛け、髪をすくように優しく頭を撫でてつづけた。

 シエラはギリメクさんの遺体を見つめながら、押し殺すように泣き出す。俺はそのままシエラが泣き疲れて寝入るまで頭をなで続けた。

――――。
 朝が来た。山の冷気に目が覚めると、ちょうど雲海の向こうから朝日が昇ってくるところだった。

 その雄大な光景に、たちまちに目が覚めた。体を起こして周りを見回すと、
「おはようございます。マスター」
と見張りのサクラが挨拶をしてきた。「おはよう」といいながらコートの前を合わせながらサクラの隣に座る。

 サクラが「むふふ」と体をすり寄せてきたので手を肩に回してやる。べたべたと甘えてくるサクラと一緒に朝日を見ていると、
「ふわわぁぁ。よく寝た」
と言ってヘレンが起き出してきた。ヘレンは毛布で体をくるんで「おはよう」といいながら俺の隣に密着して座る。

「あの朝日。とても神々しいわね」
「そうだな」

 しばらく黙っていたヘレンだが、
「ねえ。ジュン。あのノルンさんってあなたと同じく「聖石を宿せし者」「分かたれし者」の称号を持っているのね?」
と聞いてきた。俺はヘレンの方を向いて「そうだ」というと、ヘレンは、
「そっかぁ……」
と言って黙り込む。

「どうした?」
ときくと、ヘレンはひょいっとサクラと目を合わせて、くすっと笑うと、
「ということは、私とサクラは第二夫人と第三夫人になるわけね」
と言った。思わず、
「へっ?」
と聞き返すと、今度はサクラが、
「やだなぁ。マスターったら。私たちの気持ちを知ってるくせに」
と言い、ヘレンが、
「というわけで頑張ってね。あ、な、た」
と言って両左右から頬にキスをされた。慌てて立ち上がり、「な、ななな」とうろたえると、その背後から、

「あら。私もそれでいいわよ。みんなで仲良くしましょう」
と言う涼やかな声が聞こえた。ギギギギとさび付いた関節を動かすように振り返ると、そこには神々しい朝日をバックにフェリシアを肩に載せたノルンがにっこり微笑んでいた。

 俺は、
「え、え~と、どういうことかな?」
と言うとノルンが俺の首に腕を絡めて、耳元で、
「みんな、貴方にお嫁にもらってくださいってことよ」
とささやく。そのままノルンも俺の頬にキスをする。ノルンは俺を解放するとサクラとヘレンの間に座り、
「このヴァルガンドじゃ一夫多妻もオッケーだしね。よかったわね」
と微笑んだ。ヘレンがぱっと後ろを振り向いて、
「シエラはどうする?」
ときいた。俺は「えっ? シエラ?」とつぶやきながら、そっちのほうを向くと、シエラが頬を染めて俺たちの様子を見ていた。
「え、え~と」とシエラは言いながら、隣のギリメクさんの遺体をちらっと見る。
「わ、私はまだその……、仇も討たないといけないし……」
と言いながら上目遣いで俺を見る。

「でも、お父さんは最後に幸せになれって言ってた。……まだそういう気持ちにはなれないですけど、席を予約させてもらえば」
 シエラはそういって俺を見た。

 おいおい。まじか? これってどういうことだ? なんでこんなことに。……ステータス補正でもかかってるのか?

 俺はそう思って自分のステータスを確認して思わず、「げっ」と言ってしまった。
「い、いつのまにか称号とスキルが増えてる」
 なぜか称号に「愛をもたらす者」「へたれ」が増えて、スキルに「恋愛体質」が増えている!? なぜに? っていうか「へたれ」ってなんだ! 「へたれ」って!
 その時、

――ピコーン。
 称号「ハーレムの主」を得ました。

とナビゲーションのアナウンスが脳裏に響いた。は、ハーレムの主? ……おかしい。昨日までのシリアスはどこいった?

 一人で混乱していると、いつの間にかノルンが俺のそばに立っていてぽんと肩に手を載せた。
「一同を代表してお願いするわ。よろしくね。未来の旦那様」と言った。
 俺は、みんなの顔を順番に見つめる。

 美しい紫がかった銀髪を持ち俺と魂を分かつ女神のようなノルン。ブロンドの髪から可愛い猫耳がぴょこんと出ている快活な美少女忍者拳士サクラ。そして、真紅の髪を持ちすばらしいプロポーションの勝ち気な美人修道女ヘレン。それに金髪から巻角を持ちヘレンに負けず劣らずのプロポーションを持つ竜人族の美少女シエラ。

 朝日に照らされて、みんなの顔が期待に満ちた表情で俺を見ている。俺は深く息をついた。
「……おいおい。俺にはもったいない美女ばかりじゃないか。後で嫌だっていっても別れないぞ?」
と言うと、ヘレンが、
「当たり前でしょ」
と言いい、みんなうなづく。それを見て俺はフッと笑い、
「よし! みんな俺が幸せにしてやる! 俺の嫁になれ!」
と言い放った。
「「「「はい!」」」
 抱きついてきたみんなにもみくちゃにされながら、もうこれ以上嫁が増えませんようにと願った。

後半部分の旧バージョンを載せておきます。
――――――――
 俺とヘレンはしばらく朝日を見つめていた。

 それからしばらくすると、みんな起き出してきた。
 シエラは大丈夫かなと思って、顔を見ると、何故か少し頬を赤らめて、こちらを見ている。

 「さて、朝食を取りながらでいいけど…ジュン、約束よ。説明をしてもらいましょう。」
 「っていってもなぁ。」

 「まずは、私か(わたくし) らお話しましょう。昨夜は時間もなく、きちんとお話できませんでしたから。」
 「そうね。」

 「私は、ノルン。隠者の島でパティスと一緒に暮らしていたの。それから、パティスの運命読みの力に導かれ、運命の人を探すため旅立ったのよ。それから、ヴァージ大森林のフェアリーガーデンで、妖精王フレイ様にお会いして、フレイ様の依頼でデウマキナ山脈の神竜王バハムート様に謁見するためにここにきたの。昨夜はちょうど窪地のあそこで野宿をしようとしたんだけど、強い力の波動を感じて確認に行ったら、ジュンに……あなたたちに会ったのよ。」
 「フレイ……か。一年くらい前にカローの森の奥の泉で、そんな名前の少女に会ったな。」
 「それがフレイ様です。…フレイ様はおっしゃっていたわ。一年前に、エストリア王国の妖精の泉で私の運命の人に会ったって。」
 「そうか。…口調が男の子っぽかったが…妖精王…。」

 「そ、それより、マスターが運命の人ってどういうことですか?」
 「うん…。それは私とジュンの称号を明かさないといけないんだけど……。ジュンはいいのかしら。」
 「こいつらは俺の仲間だから信頼している。後はシエラか……。」

 「実は、ジュンさん。私からお願いがあります。」
 「お願い?」

 シエラは、真剣な表情になって一歩近くに来ると片膝をつく。

 「私をあなたのパーティーに入れて欲しい。」

 「理由を聞いてもいいか?」
 「はい。……私の願いは父の敵討ちです。グラナダはきっとあなたの近くに再び現れるでしょう。それに私には何もできませんでした……。ぜひ一緒に旅をする中で、力をつけて敵討ちをしたい。」
 「敵討ちか……、俺としてはいいと思うが。ヘレンとサクラはどうだ?」
 「……いいわよ。」「いいです。」
 「よし。ならいいだろう。これからもよろしくな。シエラ。」
 「感謝します。」
 「まあ、俺たちがダメっていうと、一人で行っちゃうんだろ?それは見ていられないしな。」
 「お見通しですね……。」
 「さっきのお前の目を見ればな……。それに気持ちもわからなくもないし。俺たちもお前の敵討ちの手伝いをさせてくれ。どっちにしろアイツはやっつけないといけない。」

 話が一段落したところで、ノルンが口を開く。
 「では、ジュン。称号について説明してもいいかしら。」
 「ああ。ノルン。いいよ。」
 「私とジュンは、ある称号を持っているの。……「分かたれし者」。そして、「聖石を宿せし者」。パティスによれば、私たちの他にこの称号の持ち主はいないらしいわ。」

 「え?聖石を宿せし者?聖石?」

 ヘレンが、わけがわからないといった様子だ。…聖石って、きっとこの世界に来るときに触ったあの石だよな、多分。
 「分かたれし者は引かれ合う運命。互いが運命なのよ。……その証拠に、今まで感じてきた喪失感、寂寥感が、今は充足感、幸福感に満たされているわ。」

 「む、むう。それは私としては心穏やかじゃないわねぇ。」
 「私もです。マスター。」
 「い、いや、二人とも俺にとっては大切な人だぞ。」
 「で、ジュン。これからノルンはどうするの?」
 「私もシエラとともにパーティーに入れて欲しいわ。せっかく運命の人に巡り会えたんですもの。もう離れたくないわ。」
 「正直にいうと、俺もだ。ただみんなも大切だ。だからノルンをパーティーに入れるのを許してほしい。」

 「そうじゃなくて、ジュンはノルンをどう思ってるの?」
 うっ……。ヘレンの容赦のない指摘が入る。
 「俺は、…ノルンを一目見た時から惚れている。確かに俺にとっても運命の人だ。」

 「……そう。ジュンの気持ちは決まっているのね……。」
 ヘレンとサクラは下を向く、が、ヘレンは決意したかのように顔を上げる。
 「わかったわ。私はノルンを認める。……悔しいけどね。ただし条件があるわ。」
 「条件?」

 「そうよ。あれだけ私やサクラがアプローチをしても答えてくれなかったあなたが、ノルンは選ぶんでしょ?だけどね。修道院長がいったように、私にとってもあなたは運命なのよ。それに、私もあなたが好き。負けないくらいにね。……だから……将来、ノルンを伴侶にするなら、私を第二夫人にして大切になさい。……それが条件よ。」
 「あ、はい。私もです。マスター。」

 そう。確かに修道院長様は運命だって言っていた。それに俺も二人が好きだ。だが、ノルンは……ノルンはそれでいいのか?

 「ごめんなさいね。……二人は私より先にジュンとパーティーを組んでいるし、二人ともジュンを愛しているのね……。だけど、私も譲れないの。これだけは。……だから二人が第二夫人になるというなら、受け入れるわ。」

 「悪いな。三人とも……。確かに俺はノルンが一番だ。だが、ヘレンとサクラも大事だ。それに話が先走りしているけど、俺と結婚してくれるっていうんなら。その時も気持ちが変わっていなければ、結婚してくれるか?」
 「こちらこそよろしくお願いしますわ。」「ええ。もちろん。」
「もちろんです。マスター。」

 微妙に話に加われなかったシエラが、能面のような顔をしていう。
 「……えっと、話はまとまりました?これからは5人でパーティーということでFA?」

 「ああ!悪いシエラ。お前の気持ちも考えずに……。」
 「わかってますから大丈夫です。私も父の敵を討った暁には……。」

 やばい。シエラの前で色恋の話なんて。するべき状況じゃなかったのに。

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