21 星天の夜

 葬儀を終え、俺たちはシエラの家に行った。
 父一人、娘一人が生活していた家も、明日からは無人となる。この家はシエラが相続することになるが、管理はトルメクさんが請け負ってくれて、たまに掃除しにくるが中は手をつけないとのこと。いつでもシエラが帰ってこれるようにとの気遣いだ。

 ちょうど昼食時であったので、ノルンとヘレンが台所を借りて食事の準備をしている。シエラはいない間の事を考えてギリメクさんと自らの荷物を整理している。サクラはそのお手伝いだ。
 俺だけ何もしないのも嫌なので、裏の倉庫から旅に役立ちそうな物を取りに来ている。
 ドアを開けて倉庫の中に入ると、思いのほか整理整頓がなされていた。手前の棚から順番に見ていくと、農具、掃除道具、模擬剣や鉄の盾などの訓練道具が続いている。さらに奥の棚を眺めていると、

――エイシェントドラゴンメイル――
 デウマキナに生息していた古竜のうろこでできた鎧。
 価格:12億ディール。
 リキッド家伝来の一品。見た目より軽く、魔法や物理、腐食に耐性を持つ。

――竜血――
 デウマキナで死亡したドラゴンの血。
 価格:1億ディール。
 あらゆる怪我や病気を一瞬で治す万能の霊薬。腐らない。10倍に希釈して使用する。

――竜牙――
 デウマキナに生息する古竜の牙。
 価格:12億ディール。
 生え替わった際に抜けたものでリキッド家に授けられた。あらゆる物を穿ち、魔を滅する力がある。

 おお! これは凄いものを見つけたぞ。
 しかし、これらのアイテムを見るとリキッド家は竜人族のなかでも有力氏族で竜王達の加護も強かったんだろうな。鎧はシエラが使うべきだろうし、竜牙は素材として加工すれば強力な武器となるだろう。
 俺はこの三つの品をリビングに運び込んだ。上機嫌でアイテムを眺めていると、ノックの音がして、
「ご飯できたよ」
と言いながらヘレンがやってきた。持ってきたアイテムを見てヘレンの目が点になる。

「これあったの?」
と指を指すのでうなづくと、「すごい鎧ねぇ」と言いながらしげしげとアイテムを見ている。
 すると後ろからぞろぞろとみんなが入ってきた。シエラが並べられたアイテムを見て、
「あっ! そういえば倉庫の奥にあったっけ」
と思い出したように言う。俺は、
「シエラがこの鎧を使うべきだ」
と言うと、しばらく「う~ん」と考え込んでいて、
「お父さんが絶対に触らせてくれなかった鎧だけど、いいのでしょうか?」
ときいてきた。……ええっと、それって家宝ってことか? そう言われると迷うが……。
「どうせ出発前にトルメクさんに挨拶に行くから、その時に着て行ってみれば?」
と言うと、納得して「そうします」と言った。

 ノルンが残りの二つを見て、
「こっちは竜の血で万能の霊薬、こっちは竜の牙で強力な武器に加工できるけど、この二つはいいのか?」
とシエラにきいた。するとシエラは、
「これは大丈夫だと思います。貴重な物ですけどトルメクおじさんの所にもあるから」
と言う。それを聞いて今ごろになって竜人族はあなどれないと心底思った。こんなのがいくつもあるのか。

 気を取り直してみんなで昼食を取り、午後も作業の続きとなった。
 俺たちの中で冒険者登録をしていないのはノルンとシエラの二人だったので、今日中に登録のために一緒にギルドに向かった。二人ともランクF、そしてフェニックス・フェリシアは従獣として無事に登録が済んだ。ついでにチームのメンバー更新の申請も行った。

 ギルドで手続きをして帰ろうとしたとき、警備隊本部で保護されていた三人の人間族の冒険者「流浪の剣」が俺たちにお礼を言いにきた。
 無事に疑いが晴れ、三人を糾弾しにきたアリアさんたち竜人族からも謝罪があったそうだ。特にアリアさんは無事にライムちゃんが戻ってきたこともあって平謝りだったそうだ。

 これからどうするのか尋ねてみたが、しばらくはここを拠点にして活動するそうだ。それを聞きながら、おそらくこの三人は竜素材の入手が目的なんだろうと推察したが、間違いないだろう。
 俺たちはアルで活動していると告げ再会を約束してギルドで分かれ、再びシエラの家に戻った。

 それから午後はオステル家が親子三人でお礼に来たが、仲の良い三人を見てライムちゃんを助けられてよかったと実感した。シエラは遠い昔を思い出すような懐かしそうな目で、帰って行く親子の背中を眺めていたので、そっとその肩を抱き寄せてやった。

 とまあ、そんなこんなで竜人族の町で過ごす最後の夜になる。
 夕食の時に今後のことを相談し、当面はアルの街を中心に冒険者として活動してランクCを目指すことを目標にすることにした。ランクCに上がって以降は活動範囲を広げつつ、グラナダの情報収集をする。

 夕食の後、少し一人になりたかった俺は裏庭に出てきて満天の星空を眺めていた。さすがに高度が高い町なので吹く風が肌寒いが、酒を飲んでほてった肌には気持ちがいい。家の中では女子会が続いていて賑やかな声が聞こえてくる。

 トウマさんたちにさんざん鍛えてもらったけど、まだまだ経験も力も足りない。今回も相手の力量を読み誤って、ギリメクさんを助けることができなかった。もし助けられていたら、シエラも仇討ちをする必要も無かったろうに。

 しかし、シエラは強い娘だ。父親を目の前で亡くしたというのに、しっかりと目標を見定めている。
 まあ、俺たちが一緒だからかもしれないけどね。家に一人きりだったら、こうはいかないだろう。
 ……その意味でも、俺たちと一緒にこの家を離れることには意味があるのかもしれない。

 目の前には見渡す限りの星天のもと、世界がどこまでも広がっている。はるか遠くにぼんやりと明かりが集まっているところが見えるが、あそこがアルの街だろうか。
 地球も広いがこの世界も広い。地球を一周することはできなかったが、この世界なら自分の能力を駆使して見て回ることができるだろう。
 広い星天のもとで風に吹かれていると、今、自分も確かにこの世界の一部分なんだという気持ちが起きてくる。

 その時、裏口のドアが開いてノルンが顔を出した。
「あ、ここにいたの?」
「……ああ。星を見ていた」
 つづいて他のメンバーも出てくる。
「うわぁ。綺麗な星空だわ」「あ、本当!」「すごいすごい! って、さむっ」
 俺がいないのに気づいて、結局、みんな来てしまったようだ。自然と俺の顔に笑みが浮かぶのが自分でもわかる。ホントに俺にはもったいない女性ばかりだ。

 丁度いいから、しばらくみんなで星空を眺めることにした。ヘレンが、
「……世界は広いわねぇ」
とつぶやくと、ノルンが、
「そうね。……私は世界中を旅してみたいわ」
と言った。
「私もよ。ノルン。ジュンと一緒にね」とヘレンが言うと、すかさずサクラが、
「はいはい! 私もマスターと一緒に世界一周したいです!」
と言った。シエラが、
「そんな風に星を見たことはなかったけど。そうかぁ、世界ですか。……でもグラナダの奴もこの星空の下のどこかにいるのね」
と言った。
「……そうだな、シエラ。だがもう俺たちは仲間だ。一人で背負い込むなよ」
「はい。ジュンさん。ふふふ。ありがとうございます」
 そういうシエラの顔がどこかすっきりしたように見えた。

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