01 ロンギさんと食材を求めて

 季節は|天秤の10月。俺たちはエストリア王国アルの自分たちのホームでくつろいでいた。
機工王国アークへ行く前に、ベルトニアでのサメ退治の報告をする必要があり、ついでにホームで数日の休息を取ることにした。
なにしろ神船テーテュースに設置した転移魔方陣があるから、こうしてホームへも一瞬のうちに転移できるから便利だ。転移魔方陣の設置ポイントは後は無人島の楽園パラディーススだけだが、いずれは世界の各地に設置して、いつでもあちこち行けるようにしたいところだ。

 「ただいま~」
隣の玄関からヘレンの声が聞こえる。どうやら修道院から戻ってきたようだ。
俺は、手にした紅茶のカップを食堂のテーブルに置く。
がちゃと音がして、ヘレンが腕に薄手のコートを掛けたままで食堂に入ってきた。
「おかえり」
と、俺の向かいでノルンが紅茶のカップを持ったままヘレンの方を向いた。
ヘレンがづかづかと大股で歩いてきて、どすんと俺の横に座る。
「ふぅ。今日は、ちょっと冷えるわ。……あっ、サクラ。私にも紅茶いれてくれる?」
「いいですよ。ちょっと待ってください」
サクラが新しいカップを取り出してティーポットから紅茶を注いで、ヘレンに手渡した。
ヘレンは「ありがとう」と言って、さっそく一口飲んだ。一息ついたところで、
「さっきね。院長さまから王国内のごたごたの話を聞いたわ」
「ごたごた?」
俺が聞き返すとヘレンはうなづいた。
「そ。ジュンももう気づいているかもしれないけれど、このエストリア王国は歴史が長かった分、腐敗した貴族も結構いるわ。……領地を持つ貴族も、官僚の法衣貴族もね」
「まあ、な」
「どこの世界でも多かれ少なかれ管理する側とされる側の癒着はあるとは思うのよ。……でもね」
「そうだな」
「財務省のとある有力貴族がね、とある商会と癒着しているらしいの。……で、どうもね。犯罪まがいの手法で犯罪奴隷に堕して、その奴隷を欲しがっている貴族に斡旋しているらしいのよ」
うん? どういうことだ? つまり、罪のない人を罠にはめて犯罪奴隷にしてるってことか?
「おいおい。それって……」
「だからね。院長さんが気をつけろって。……うちは美人ばっかりだから」
まあな。でもそういう問題じゃないだろう。そんなのがのさばっているとは、何だか暮らしにくい国になりそうだ。
俺たちだけなら転移魔方陣で転移すればいいだけの話だけだが、この街にも知り合いが多い。一度、ローレンツィーナ修道院長さまに相談しておいた方がいいかもしれない。

 その時、俺の視界に、外の門扉から背の高いがっしりした体つきの男性が入ってくるのが見えた。
「おや? あれは……」
たしか港湾都市ベルトニアでお世話になった妖鬼の料理人ロンギさんだ。
しばらくベルトニアの宿屋にいると言っていたが、急にどうしたんだろう?
少しして屋敷のドアノッカーを叩く音がする。
同じ妖怪のサクラが迎えに行ったようだ。玄関前でロンギさんと目が合ったので手を振っておく。玄関のドアが開き、サクラが出てきてロンギさんと二言三言ふたことみこと、言葉を交わし中へと案内した。
ダイニングのドアが開き、約5ヶ月ぶりのロンギさんが入ってきた。
俺は立ち上がって、
「ようこそ。俺たちのホームへ」
と言って、ロンギさんと握手を交わす。ごつい手が力強く握り替えしてくる。この大きな手でいろいろな料理をつくると思うと不思議な気持ちになる。
「無事に海から帰還したと聞いたんで来たぜ」
俺は苦笑いしながら、
「いやいや。タイミングが良かったですよ。俺たち、これからアークへ向かうつもりでしたから」
「本当か? せわしないな」
とロンギさんも笑いながら、イスに腰を下ろした。
早速、サクラがロンギさんにも紅茶を入れる。ロンギさんは片手を上げて、礼を言い、早速、紅茶を一口飲んだ。
「それで、今日はどうしたんです?」
来訪の目的をたずねると、ロンギさんは、
「ああ。今日はちょっと狩りに誘いに来たんだが……」
と言葉をにごす。
「アークに行く前に一週間ほど時間をくれないか?」
「別にいいですけど……。理由を聞いても?」
「ああ。実はな。オオヘラジカの目撃情報があったんだ。ありゃあ、肉が旨いんだ。まだほとんど知られていないんだが、……どうだ?」
オオヘラジカか。確かに食欲の秋っていうもんなぁ。ロンギさんがいうくらいだから、かなり旨いんだろうな。
ちらりとみんなの顔を見ると、期待している表情をしている。
ノルンが少しそわそわしながら、
「行きましょうよ。そんなにおいしいお肉なら食べたいわ」
みんなもうなづいている。なら決まりだな。
俺は了承した。

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