02 ロンギさんと森の出逢い

――――。
 さて、俺たちの仕事道具や食料はノルンのアイテムボックスに収納してあるため、いつでも出発が可能だ。
 ロンギさんもここに来る前に携帯食料などの準備を整えてきているようだ。
 早速、出発することにして、俺たちは玄関を出てホームに誰も入れないように持続型の結界を張った。
 ちなみにロンギさんのステータスは、

――ロンギ――
 種族:妖怪妖鬼 年齢:1200才
 職業:放浪の料理人 クラス:武士、拳士
 称号:料理の探求者
 スキル:気配感知、魔力感知、危機感知、暗視、空間把握、自然回復、身体強化、剛力、絶対味覚、刀術5、妖術5、小刀5、体術5、拳闘術5、弓術5、食材鑑定4、調理5、状態異常耐性4

 妖鬼の名にふさわしく物理特化、かつ料理人としてのスキルが充実している。個人的には刀術スキルが気になる。やはり日本人の血が騒ぐのだろう。
 鹿肉か。確かに新鮮な鹿肉はかなりおいしいとは聞く。フランス料理いえばジビエのカテゴリに入るのかな?

 俺たちはギルドを通して馬を借り、ロンギさんの案内のもと、目撃情報のあった森へと向かった。
 アルから南へ二日目の朝。ベルトニアに向かう街道の途中から道をそれ、徒歩で馬を引きながら草原を進んで遠くに見える森を目指した。
 森の手前でキャンプできそうな場所を見つけ、そこを基地にすることにした。
 とりあえず今日は、ノルンとセレンに留守番をしてもらってキャンプベースの設営を依頼する。残りの俺、ヘレン、サクラ、シエラでロンギさんと共に森に潜入する。
 草原ならばフェニックス・フェリシアによる上空からの探索が有効だが、森の中だとそうはいかない。
 俺の気配感知だと草場や木の枝にいる小動物がたくさんいるのがわかる。オオヘラジカといいうくらいだから、獲物はかなりでかいはずだが、今日の食材もできれば少しはゲットしたい。
 もっとも最初から血の臭いを漂わせるわけにはいかないだろうから、今は無視をして森の中へと進む。
 俺の前を歩くサクラは、耳をピコピコさせて音や匂いに意識を集中している。シエラは大楯が藪の枝に引っかからないように苦慮しながら俺の後につづいている。
 ロンギさんはところどころで立ち止まり、目を細めて方角を定めながら進む。なにげなく歩いているように見えるが、その体重移動や気の配り方からかなりの実力と経験を持っていることがわかる。今のところ武器は持っていないようだが……。
 不意にロンギさんが鼻を鳴らした。ほぼ同時にサクラが、
 「血の臭いがします。700メートル先です」
 さすがサクラだ。俺の気配感知は通常500メートル圏内を感知しているが、それより遠くの匂いまでわかるのか。
 ロンギさんが鼻をひくつかせた。
 「……人間の血のにおいだな」
と言う。俺はサクラに偵察を命じ、後からサクラの後を追うことにした。
 しばらくしてからサクラから、
 (数人の冒険者が盗賊に囲まれています。一人切られているみたいですね)
と念話が送られてきた。俺は、
 (すぐに行く)
と伝えて速度を上げる。ほかの三人に先に行くと告げ、身体強化のレベルを上げて、木々の間を飛ぶように走り抜ける。
 コントラクトの気配をたよりにサクラの隣に行った。
 目の前では6人の冒険者チームを取り囲む盗賊たちがいる。人数は……、気配感知によれば見えないところにいるのも含めて30人だ。
 輪の真ん中の冒険者チームでは、一人の男の冒険者がすでに仰向けに倒れている。まだ息はあるようだ。
 うん? あれって同じエストリアの「星の輝き」の奴らじゃないか? 確かリーダーはリリー・ブノワ。エストリア西部を管轄とするゾディアック騎士団のパイシーズ隊隊長の4女だったはずだ。

――――。
 「き、貴様ら! よくもカルを!」
 リリーがミスリルの片手剣を強く握りながら、目の前の盗賊のかしらをにらんだ。頭は嘲笑するような笑みを浮かべ、
 「俺らもむやみに殺したくはねえんだ。……お前さえ、俺たちと一緒に来てくれたら、あとの奴らは見逃してやろうじゃないか」
 リリーはギリッと歯をかみしめ、まわりの盗賊と自分の仲間を見回した。切られた男のそばではフードの女性が震えながらも回復魔法を唱えていた。
 サブリーダーと思われる男性が鋭く、
 「ダメだ、リリー! 奴らはそもそも俺らを見逃すつもりはねえよ!」
と叫んだ。それを聞いた盗賊の頭はあごひげをなぞりながら、
 「信じるか信じないかはお前の勝手だ。……まあ、気が変わらないうちに決めな」
わらう。
 「ダメだ! リリー! ……ぐっ」
 なおもリリーを止めようと叫んだサブリーダーの肩に矢が突き刺さり、その場でひざまづいた。
 頭はニヤニヤと笑いながら、右手を挙げた。
 「俺がこの右手を下げたら、お前ら皆殺しだ。……なに、リリーだけはちゃんと生かしといてやるからよ。クライアントのぼっちゃんが調教するのを楽しみにしてるからな」
 リリーは憎々(にくにく)しげににらみ、
 「この外道げどうがっ。……くそ」
と吐き捨てて、かまえていた剣先を下ろした。

 「仲間たちを助けるためだ。……投降しよう」

――――。
 目の前でリリーさんが剣を下げた。
 隣のサクラが、
 (マスター)
と念話を送ってくる。
 (わかっているが、この人数差だ。制圧するのはできても……それに背後に誰かいるらしい)
 (で、どうします?)
 (……サクラは、リリーさんについていけ。俺は星の輝きのメンバーと合流し、後から奪還する)
 (了解です。……ですが、リリーさんに危害が加えられそうになったらやってもいいですか?)
 (もちろんだ。だがリリーさんの安全確保が先だぞ)
 (了解。では――)
 サクラはすっと気配を薄め、木々の間に消えていった。俺はそっと集団の様子をうかがう。

 リリーさんは盗賊の頭の命令で剣を投げ捨て、前に進み出た。仲間たちが止めようとしたとき、その脇から盗賊たちが槍を突き込んで、リリーさんと仲間たちを分断した。
 仲間の方に振り返ったリリーさんの表情は悲しそうだ。その目の前で仲間たちが後ろから盗賊に押さえつけられた。
 「ぐっ」「くそッ」「リリー! 行くな!」
 次の瞬間、リリーさんも押さえつけられて後ろ手に縛られた。リリーさんの顔が悔しそうにゆがむ。
 その時、俺の気配感知に、ロンギさんを先頭にヘレンとシエラがやってくるのがわかった。
 俺はそっとその場を離れて、二人と合流し、三人で静かに茂みに潜む。

 目の前では縛られたリリーさんを連れて、盗賊たちが森の奥へと進んでいった。盗賊たちに武器を奪われた仲間たちが追いかけようとするが、盗賊たちに槍と剣を突きつけられて牽制されている。
 遠ざかった頭が笑顔で別の盗賊にアイコンタクトを取った。
 「足りないな。ぜんぜん血が足りない。……気が変わった。れ!」
 それを聞いたリリーが身をよじる。
 「ふざけるな! 約束が違うぞ! 逃げろ! ベス! みんな、逃げろぉ!」
 しかし、振り返って仲間の元へ戻ろうとするリリーさんの目の前で、彼女の仲間たちに向かって盗賊が襲いかかった。

 「行くぞ!」
 俺は短く二人に言うと飛び込んだ。

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