03 ロンギさんと森の追いかけっこ

 魔力を流し込んだミスリルの片手剣が炎を帯びる。
 無造作に薙ぎ払った剣先から炎が、飛びかかってきた盗賊の男たちに襲いかかる。
 俺の背後ではチーム星の輝きのメンバーを押さえつけている男たちが、飛び込んできたロンギさんとシエラによってはじき飛ばされていった。
 すぐさまヘレンが傷を負っているメンバーに回復魔法を唱えている。
 盗賊の頭は一瞬驚きを見せたものの、すぐさまわめくリリーさんの首筋に一撃を加えて気絶させると、肩に負ぶって森の中へと消えていった。
 あとに残ったのは、立ちふさがる10人の盗賊だ。それぞれが剣、斧、短槍を構えている。

 俺の横で神竜の盾を構えるシエラが、
 「ジュンさん。……普通の盗賊じゃなさそうですね」
 確かに手にしている武器は数打ち品でもそれなりの高品質の武器のようだ。それに陣形の取り方がまるで騎士みたいだ。
 ロンギさんがふんっと言いながら全身から妖気をたぎらせると、あふれ出た妖気が煙のようにロンギさんの全身にまとわりつき、武士の甲冑へと変化した。

――八龍はちりょう
 源氏八領の一つ。悪源太義平が使用していた鎧を木曾の山中で拾った物。妖気を長年受けたため妖鎧となった。
――妖刀鬼丸国綱
 天下五剣の一つである御物ぎょぶつ鬼丸国綱の兄弟刀。粟田口国綱の作だが、妖気を長年受けたため妖刀となった。

 おおっ。これがロンギさんの武具か。まさに鬼武者だ。
 異様な妖気に、立ちふさがる盗賊たちが固唾をのんで見ている。
 俺は一歩前に出て、
 「道を開けろ。リリーさんを返してもらう」
と威圧を放った。
 それに耐えきれなかった盗賊が、剣を振りかざして突っ込んできた。
 「うわあぁぁぁ」
 俺は冷静にそれをギリギリで避けると同時に鎧の上からみぞおちを殴りつける。
 「ぐはっ」とうめいて、盗賊は剣を取り落としてその場に崩れ落ちた。
 その時、背後のヘレンが、
 「ジュン。怪我がひどいわ。いちど戻った方が良い」
と叫ぶ。……くそっ。俺は内心で舌打ちして、サクラに、
 (サクラ頼むぞ。こっちはけが人を連れて一度もどる)
 (了解です。任せて下さい)
と念話をして、無造作に盗賊たちに飛び込む。
 切りかかってくる剣をくぐり抜け、そのタイミングを狙った後列の槍の突きもわずかな動きでかわす。即座に剣を払って剣士と槍士を切り捨てる。
 その向こうではロンギさんが相手の攻撃を物ともせずに、強引に盗賊たちを切り捨て、シエラはシールドバッシュで盾を構えたまま相手の体をはね飛ばし、その隙に次々に切り捨てる。
 確かに型にはまった攻撃をしていて、単なる盗賊と言うよりは騎士団を相手にしているようだが、俺たちの敵となりうるほどの強さはない。
 しかし、その間にリリーさんを連れた盗賊たちの姿は見えなくなっていた。森の奥を見て、星の輝きの女魔法使いが青ざめた表情でリリーさんの名前をつぶやいた。

 周りに潜んでいる盗賊がいないことを確認して、武器を納める。
 後ろでは悔しそうにへたり込んでいる星の輝きのメンバーがいた。

――――。
 けが人を連れて、いちど森の入り口に設置した俺たちのキャンプまで戻ってきた。すでに日は陰り、夕闇が近づいている。
 連れ去られたリリーさんにはサクラが付いている。

 連れ戻った星の輝きのメンバーは、サブリーダーで剣士のオットー、同じく剣士のマッシュと、魔法使いのポロム、重傷で倒れていたレンジャーのカル。そして、もともとリリーの従者であった魔法使いのベス・モナハの5人だ。5人とも憔悴しきっているが、リリーの従者だったベスが思い詰めたような表情をしている。

 「ジュン。フェリシアが盗賊を追っているわ」
 ノルンが俺に告げる。森の木々が邪魔で上空からは見えないが、フェリシアには俺に次ぐ気配感知の能力がある。サクラも追っているし大丈夫だろう。
 ロンギさんが面白くなさそうな表情で腕を組んでいる。
 「で、どうするんだ?」
 俺は彼らに貸したテントの一つを振り返った。重傷だったカルというレンジャーの男を横にして、他のメンバーも座り込んでただじっとしている。
 本来、冒険者同士とはいえそれほど親しいわけでもないし、俺たちが介入する必要はない案件だ。それに冒険者は基本的に自己責任だ。
 しかし、俺はリリーさんを救助してやりたかった。甘いのかもしれない。くだらぬ正義感かもしれない。アルの街で見知った冒険者チームだし、よくギルドカフェで彼らが宴会しているところを見かけた。信頼できる仲間たちと笑って酌み交わしている姿。
 誰がクライアントか知らないが、そんな奴のために彼らが理不尽に蹂躙じゅうりんされるのを見ていたくはない。俺たちが手を伸ばせば届くのだから。

 みんなが集まったところで、俺は、
 「ロンギさん、すまない。俺たちはオオヘラジカより先にリリーさんを救出したい」
 ロンギさんは苦笑いしながら、
 「わかった。……だが、俺はシカを追わせてもらうぜ。人と人との争いはこりごりだ」
 俺はうなづくと、ノルンたちに、
 「というわけだ。悪いな」
と言うと、みんなはわかってるよとでも言うように微笑んだ。
 そこへ後ろから、
 「私も連れて行って下さい」
と女魔法使いのベスさんの声がした。俺たちの後ろで話を聞いていたのはわかっていた。
 彼女は他のメンバーと違い、もともとリリーさんの従者だ。いても立ってもいられないだろう。
 ノルンを見ると、彼女もうなづく。俺はベスさんの同行を許可した。
 他の星の輝きのメンバーも来たがったが、重傷のカルさんの傷こそ治っても血は戻らない。悪いが、彼らにはここで留守番をしてもらうことにした。
 サブリーダーのオットーさんは、
 「すまん。……リリーを頼む」
とすがるように、森に出発する俺たちを見送ってくれた。

――――。
 暗くなる森の中、サクラと連絡を取り合いながら盗賊を追う。
 ちなみにサクラはクラスが忍者、さらに黒猫の姿に戻れば怪しまれることもなく尾行調査ができる。
 ひんやりとする空気の中、秋の虫の声がする。道もわからないような山の中を慎重に進んでいく。
 サクラの気配はもう少し先だ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。