04 ロンギさんと救出劇

 どうやら盗賊たちは今回の襲撃のために、林の中の広場に予め拠点となるキャンプ地を作っていたようだ。
 ところどころにかがり火が燃え、全体を簡単な木の柵が囲んでいる。テントが何張か並び、そのいくつかは食料庫にしてあるようだ。
 当初、襲撃現場では30人の気配だったが、今ここには50人の気配がする。ということは30人ほどはここで待機していたということだ。

 俺は暗い林の中からキャンプ地を臨み、
 「こりゃあ、ちょっとまいったな」
とつぶやいた。
 サクラは黒猫の姿でキャンプ地の中に潜入している。どうやらリリーさんの捕らえられている真ん中のテントのそばにいるようだ。
 見たところ、さすがに夜の森で気を抜くことはないようで、歩哨が立って周りを警戒している。……このなかでどうやって救出するか。
 俺は振り返って地面に木の枝で図を書く、
 「単純に陽動と救助と分ける。陽動は俺、ヘレン、セレン。救助は、すでに侵入しているサクラ、ノルン、シエラにベスさんだ。俺たちがこっちから派手に騒ぐから、そっちはノルンに任せるよ」
 「わかったわ」
 ノルンが気負いのない様子でうなづくが、ベスさんが心配そうな表情で俺を見る。森一帯の哨戒をしていたフェリシアは、今では定位置のノルンの肩にとまっている。
 俺は手をひらひらさせて、
 「俺たちなら心配ないさ。それに……、倒してしまってもいいんだろ?」
と言うと、ノルンが笑いながら、
 「リーダーは生かしときなさいよ。リリーさんの誘拐を指示した依頼人を聞き出さないと」
と苦言を呈する。
 俺は安心させるようにベスさんに微笑み、ヘレンとセレンを引き連れて移動を開始した。
 ……普通の盗賊より練度があるとはいえ、スキルレベル3か4、しかも魔法使いは2人で火魔法、水魔法に回復魔法ともにレベル3程度だ。
 問題は数だ。50人もの相手をどうさばくか。それも殺さずに。

 突入する予定の入り口を遠くからながめ、ノルンに、
 (今から開始する)
 (了解。気をつけてね)
と念話をかわした。
 ヘレンが三人に祝福ブレスを与え、セレンが手にしたさざ波の竪琴をかき鳴らした。
 俺は無造作に二人を引き連れて敵陣に向かって歩みを進める。
 「まて……、きさま、ら!」
 歩哨に立っていた盗賊の一人が俺を誰何しようとしたとき、眼のぼんやりとしたも片方の歩哨が襲いかかった。
 不意を突かれた盗賊はあっという間に地面に押さえつけられている。俺は通り過ぎざまに二人の頭をぽんと叩き、意識を奪った。
 竪琴の音色が響いていくなか、俺たちはゆっくりと進んでいく。セレンの魅了の竪琴を聞いた盗賊たちが、にわかに同士討ちをはじめた。
 あちこちで剣戟と怒声が飛び交っている。それを見て笑ったセレンの表情は、まさに海の男たちを死の淵に誘い込むセイレーンそのものだった。

――――。
 突如として起こる剣撃の音と怒声。
 この盗賊団の頭ザンギの目の前で、突如として仲間に襲いかかる仲間。
 「な、なんだ?」
 困惑しつつ、副長のビハルにリリーの様子を確認させる。
 自分のテントの前から出ると、目の前では仲間同士が戦っている。どうやら片方は何かに魅了されているようで、死んだ魚のような目をしている。
 「ちぃ。なにが起きてやがる」
 困惑しつつも自らの腰に差した得物の柄に手を添える。
 左の奥から三人の男女が無造作に歩きながら、同士討ちをつづける仲間たちを無力化していくのが目に映った。
 奴らの仕業かっ。
 ザンギは歯をかみしめ、来訪者の所へ向かった。
 ……くそったれ。よりによってこんな時に邪魔が入るとは。
 そもそも、財務省の要職にあるブルータス・ロッソ子爵と黒いつながりのあるとある商会が、王国西部の鉄鉱石の利権をめぐって、領地貴族ブノワ家と対立。当主がゾディアック騎士団パイシーズ隊の隊長であることもあり、うかつな手をは打てないということで、その四女リリーが狙われた。
 ザンギがそのとある商会から受けた仕事はリリーの誘拐と、罪状でっち上げによる奴隷化だ。……特に子爵がリリーに興味を示しており、奴隷とした後で商会から子爵へ贈呈される予定になっている。
 ギルドにダミーの依頼を出し、思惑通りリリーを確保し、一安心したものの。まさかその夜に得体の知れない奴らから襲撃を受けるとは思いもしなかった。
 これはたまたまなのか。それともリリーを狙ったものか……。
 ザンギは様々な可能性を考えながら、襲撃者の元へと向かった。

――――。
 盗賊の陣地の向こう側がにわかに騒がしくなった。それにつられてこちら側に待機している盗賊たちも、奥の方へと移動していく。
 「……はじまったわね」
 そうつぶやいたノルンは、そこにいるシエラとベスに隠形魔法ステルスをかける。
 リリーの身柄は、そばにサクラがいるはずだから安全が確保されたも同然だ。ノルンたちとしては、この騒ぎの中、リリーを連れ出すこと。
 「行くわよ」
 小さい声で二人にそういうと、ノルンはゆっくりと盗賊のキャンプ地に侵入する。
 「パラライズ」
 無造作に歩哨のそばまでいき、キャンプ地の反対側の騒ぎに気を取られている歩哨に麻痺の魔法をかける。
 その場に崩れ落ちた歩哨を無視して、三人は中を進んだ。

 セレンの魅了の竪琴により、盗賊たちは混乱している。
 騒がしく盗賊同士戦っている中を、まるで無人の荒野を行くがごとく三人は進む。
 やがて目当てのテントが見えた来たところで、そのテントからリリーを抱えたサクラが飛び出してきた。
 そのすぐ後を、細身の盗賊が曲刀を手に飛び出してくる。
 「まちやがれぇ!」
 「といわれて待つ人はいません!」
 サクラがクナイを盗賊に放つ。追いかけてきた盗賊がそのクナイを曲刀ではじいた瞬間、見えないようにクナイに結ばれた糸が、盗賊に絡む。
 「忍術機雷針」
と片手で印を結び叫ぶと、サクラから糸を沿って雷撃が盗賊にのびていく。
 バリバリバリと音を立てて、盗賊が黒焦げになる。
 「ぐわああぁぁぁぁ」
 全身から煙を立てて盗賊が倒れ伏し、リリーをかかえたサクラが無事にノルンの所までやってくる。
 ノルンはそれを見て苦笑いをしながら、
 「えぐいわね」
とつぶやいた。
 次の瞬間、どこからともなくサクラめがけて矢が放たれた。サクラがそれをはじくが、その裏にもう一本の矢が現れた。
 「か、影矢?」
 おどろくサクラは上体を反らして避けようとするが、リリーを抱えていて上手くいかない。そのとき、サクラの目の前に盾をかまえたシエラが飛び込んで矢をはじいた。
 「ちぃ。やるな。……だが、そのお嬢さんは俺たちの獲物だ。逃がすわけにはいかねぇ」
と盗賊のかしらがショートボウを投げ捨て、両手にナイフをかまえて突進してきた。
 「速い!」
 慌ててノルンとシエラ、サクラが飛びすさる。……が、ベスが逃げ遅れ頭に捕まった。
 ベスの後ろに回り、ナイフを突きつける頭。
 「ベス!」
 それを見てサクラの腕の中のリリーが叫んだ。
 「おっと。近づくんじゃねえぞ」
 「お嬢様! 私のことは気にせずに!」
 ベスが叫ぶと頭は笑みを浮かべた。頭と相対あいたいするかたちでノルンたちが対峙する。
 「困ったわね」

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