05 トーマスとの再会

 日にちは少しさかのぼる――。

 俺たちは今、デウマキナを下山して、もうまもなくエストリア王国アルへと到着するというところにいる。
 街と街とを結ぶ定期駅馬車に揺られながら、幌の隙間から近づいてくる外壁を眺めた。
 すぐ横のノルンも一緒になって覗き、
「あれがアルの街なの?」
ときいてくる。俺がうなづくとノルンはしげしげと外壁に囲まれた街を眺めていた。

 久しぶりのアルの街は、以前と変わらない喧噪に包まれていた。
 違っていることといえば、もう夏なので人々の服装が軽装で薄着になっていることくらいだ。
 街に入ったところが駅馬車の停留所となっており、そこで御者ぎょしゃに礼を言って規定料金の他にチップをはずむ。
 馬車から降り立ったノルンとシエラが、
「ほわ~」
といいながら周りの街並みを見回した。シエラの目がキラキラと期待に満ちた目をしている。こういうところを見ると年頃の女の子って感じでかわいい。
 俺は、
「さ、まずは宿に行こう」
と言うと、シエラがコクコクと首を縦に振っていた。俺はそれを見ながら、
(サクラ。シエラの様子を見といてくれ)
(了解です。なんだか迷子になりそうですよね)
 サクラはほほ笑ましそうな表情でシエラの横を歩く。俺はそっと隣を歩くノルンの様子をうかがうと、一見、落ち着いているように見えるノルンだが、その視線はせわしなくキョロキョロとしている。その肩に止まっているフェリシアも同じようにキョロキョロと見回しており、なんだか面白い。その向こうではヘレンがノルンを横目で見ながら微笑んでいた。
 冒険者の憩い亭に到着して中に入ると、
「いらっしゃ……。あっ、お帰りなさい! ジュンさん!」
と看板娘のリューンさんが元気に出迎えてくれた。が、後ろに続くノルンとシエラを見て、表情が固まった。
「……また美人が」
 なにかつぶやき声が聞こえたが、俺たちに気づいて奥の厨房から親父さんのロベルトと女将さんのライラさんがやってきた。ライラさんは俺の顔を見たあとでメンバーを一瞥し再び俺の顔を見る。顔は笑っているが、どこか圧迫感を感じる。
「久しぶりねぇ。で、後ろの方は新しい愛人かしら? ……あんまり女の子を泣かせるなら、ねぇ?」
ときいてきた。背筋がぞぞぞっとして慌てて何か言う前に、ロベルトさんがニコニコしながら俺の肩を叩き、
「おう! お前、やるなぁ! 美人ばっかりよくも集めたもんだ」
と言いったとたん、ライラさんがその足を思いっきり踏みつけた。「のおぉぉ」とロベルトさんの悲鳴が響き渡った。
 途端に空気はなごやかなものに戻る。うずくまるロベルトさんを尻目にノルンとシエラが進み出て挨拶をする。
「ノルンです。ジュンの新しいメンバーです。よろしくお願いします」
「シエラです。同じく新しいメンバーです。よろしくお願いします」
 それを見てライラさんが、
「あらご丁寧に。私が女将のライラ。こっちのでかいのが旦那のロベルトよ。こっちが娘のリューン。で、しばらく泊まるのかな?」
と俺にきいてきたので、
「はい。またよろしくお願いします」
と、とりあえず一週間分をお願いする。部屋割りを聞いたライラさんがため息をついて、俺に小さく、
「あんた。人数が増えたことだし、もしこれからもこの街に拠点を置くんなら、一軒家をギルドに紹介してもらったらどうだい?」
と聞いてきた。俺は背後のノルン達をちらっと見た。……なるほど。持ち家かぁ。人数も増えてきたし、みんなに相談してみるか。
 俺はライラさんにお礼を言って振り返った。
「さてと、俺はちょっとギルドに帰還報告してくる。……ノルンとシエラは一緒についてきてくれ。サクラとヘレンは自由にしてもらっていいが、どうする?」
 サクラとヘレンが目を見合わせると、二人ともちょっと散歩してくるそうだ。
「わかった。夕飯までには戻ってこいよ?」
「ええ」「はい!」

 ギルドの扉を開けて中に入ると、懐かしい顔が出迎えてくれた。
「あ! お帰りなさい」「無事なようね」
 麗しの受付嬢のマリナさんとエミリーさんだ。ちょうどすいている時間帯でもあり、受付前には一人も冒険者がいない。俺は二人に挨拶して帰還の報告を済ませると、マリナさんとエミリーさんは俺の後ろにいる二人を見た。それに気付いたノルンとシエラが、
「竜人族の町でチームに加入したノルンです。よろしく」
「同じくシエラです!よろしくお願いします!」
と挨拶をする。エミリーさんがにっこり笑って、
「へぇ~。聖女の弟子とネコ耳美少女だけじゃ物足りないってわけね?」
とからかうように言う。横でシエラが「聖女の弟子?」と聞いて首をかしげている。俺は、
「みんな、俺には勿体ない美女ですよ」
と言うと、背後から大きな声で、
「本当だよ! まったく!」
と誰かの声がした。「うん?」と後ろを振り返ると、そこには前に一緒に初心者合宿を受けたトーマスたちのチーム「草原を渡る風」の面々が笑いながら俺を見ていた。俺は右手を挙げて、
「よお! 久しぶり!」
と声を掛ける。たしか彼らはここ二ヶ月ほど王都に行っていたはずだ。
 トーマスの奴め。十五才の若さにして随分と精悍な顔つきになってきたな。その隣には剣士のルンとレンジャーの犬人族セレスが笑っていて、その向こうには土魔法使いのケイムに、ハーフエルフの女性魔法使いアイスが顔をのぞかせている。
「トーマス! セレスにルンも!」
と言うと、ケイムが「僕もいるよ!」と叫んだ。

 トーマス率いる「草原を渡る風」は、バランスのいいメンバーであったこともあり、とんとん拍子に実力をつけて冒険者ランクを上げ、現在は全員がランクDになっている。
 ナビゲーションで確認すると全員スキルレベルが上昇していて、トーマスとルンに至っては剣術が4にまで到達している。確か引退した冒険者に剣術を教わっているといっていたから、その成果が現れているのだろう。
 ちなみに一年前にはいなかった女性魔法使いアイスのステータスはこうだ。

――アイス――
 種族:ハーフエルフ(女) 年齢:45才
 職業:冒険者
 称号:風使い
 加護:森の加護
 スキル:森の囁き、体術3、弓術4、風魔法4

 俺は一緒にいたノルンとシエラを彼らに紹介すると、セレスがまぶしそうに二人を見て、
「これでまたバカな男どもが騒ぎそうね」
とつぶやいた。……確かに、また他の男どもに色々言われそうだ。しばらくは気をつけておこうと考えていると、セレスが俺を見て、
「このすけこまし」
とぼそっと言った。
「な、なんだよ。セレス! ……くそう。なぜか言い返せない!」
「へぇ。自覚ありってことね。……私も危なかったかしら?」
とセレスは自分の体を抱きしめる。俺の背後からノルンが、
「ふぅん。何があったのかな?」
と言った。なぜだ? ノルンが何かをぎつけているし!
「あ、あれは一年前の事故だろ? もう時効ってことで」
と言うと、セレスがこめかみに青筋を立てて、
「……なんだろ。事故っていわれるとものすごく腹が立つわね。……まったくさ。あれから口説くわけでもないとは信じられないわよ!」
と言った。と同時に俺の肩にノルンとシエラが手をぽんと置いた。痛い!痛いって、力入れすぎだって!
「後で聞かせてもらうわよ」
とノルンが冷たい声で言う。思わず「は、はい」と返事をすると、それを見ていたみんなが笑い出した。
「「「あははははは」」」
「笑うな!」
 トーマスが笑いをこらえながら、
「わ、悪いって。ぷっ。くくく。……もてる男は辛いねぇ」
と言った。なぜかマリナさんとエミリーさんも笑っている。
「それはそうとさ」と笑いを抑えたトーマスが話しかけてきた。
「今度さ。俺たちランクCに挑戦しようと思ってるんだけど、ジュンさんたちも一緒にどう?」
「え? ランクC?」
 唐突な申し出に思わず聞き返してしまった。だが……、俺はノルンとシエラを見て、
「うれしいが、最近この二人が冒険者に登録したばかりなんだ。実力は充分なんだが実績がないからすぐには無理だな」
と言った。ノルンとシエラが申し訳なさそうな顔をする。そんな顔をするなって、もちろん二人を待ってるさ。
 二人の肩をぽんぽんと叩き「大丈夫さ。すぐにランクDまで行けるさ」と言った。
 それを見ていたトーマスだったが、自分のチームメンバーの方を振り返りうなづくと、
「なら、俺たちも待ってるさ。……ジュンさんの見立てどおり、すぐに上がってくるんだろ?」
と言った。
「本当にいいのか? 先に行っててもいいんだぞ?」
「待ってるさ」とトーマスは言って親指を立てて片目をつぶり、「……一緒の方が楽しいだろ?」と言った。
 俺はそれを見てフッと笑って礼を言う。トーマス達の顔を見ていると、なぜか日本にいた頃の同期の顔を想い出した。あいつらもこんな感じだったなぁ。
 それからトーマスたちと話し合い、ノルンとシエラがランクDになった時にトーマスに連絡を入れることにした。あいつらはそれまで適当な依頼を受けながらのんびりするそうだ。
 ちなみに今晩は再会を祝して一緒に飲む約束をした。
「じゃ~ね~」「ん、また」「では失礼」
「おう! 後でな!」
と言い合いながら、彼らはギルドから出て行った。

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