05 ロンギさんと尋問

――――。
 互いに戦い合う盗賊たちの意識を奪いながら、そのままキャンプ地を突っ切るように反対側へと進んでいく。
 ここまでかしららしき人物には会っていないことが、俺の胸の中でわずかな焦りを生み出していた。
 前方の光景を見て思わず舌打ちをする。
 「やっぱりか」
 俺のつぶやきにヘレンが、
 「面倒な事になってるわね」
と同意した。
 「よし。俺は奴の裏にまわる。ヘレンとセレンはこのまま真っ直ぐ進め」
 「わかったわ」「了解」
 するとセレンが弾いている曲が調子を変える。セレンがウインクしながら、
 「こういう歌魔法もあるのよ」
といい、小さい声で歌を歌い始めた。俺の魔力視には竪琴に加えてセレンの口からも魔力を帯びた音が響き渡るのが見えた。
 「これは……」
 セレンが短く、「トランス・セレナーデよ」と言い、歌に戻った。
 どうやらこの歌を聴いた者には一種の催眠状態に入るらしく、集中力を欠いた状態になるというわずかな効果だが、かえって気づかれにくいようだ。
 俺はうなづいて、気配を殺しながら二人と別れて頭の裏手にまわった。

 テントを回り込み様子をうかがうと、ノルンたちと対峙する盗賊の頭とベスの姿があった。
 ベスはもちろんだが、頭にも情報を吐いてもらわねばならない。殺すわけにはいかないのだ。
 頭の背中を見ながら、慎重に身体強化を足に施した。
 新たに登場したセレンとヘレンに気がついた頭が顔を動かした。今だ!

 俺は気配を殺したままベスを捕らえている男の首筋にチョップを食らわせると、頭は「うっ」とうめいて意識を失った。崩れ落ちる男の手から即座にナイフを回収する。
 「よっと。これで完了だ」
 救出されたことがわかったベスは腰が抜けたようで、その場にへたれ込んだ。リリーさんが飛びだしてきてベスに近寄っていく。
 俺はそのまま倒れた盗賊の頭に猿ぐつわをして手足を縛りあげる。
 ふところを探って暗器をとりあげて地面に放り投げ、手をぱんぱんと払いながら立ち上がた。

――ザンギ――
 種族:人族 年齢:36才
 職業:暗部 クラス:盗賊
 スキル:気配感知、危機感知、身体強化、恫喝、体術4、小剣4、斧術4、生存術4

 「暗部?」
 お疲れ様といいながらこっちに来るノルンに、
 「こいつ。やはり単なる盗賊じゃないな」
 じっとノルンがザンギという盗賊の頭を見下ろした。おそらくナビゲーションで情報を確認しているのだろう。
 「本当ね。……仕方ないわ。ジュン。この男をテントに運んで。情報を聞き出すわ」
 「なにか手があるんだな? わかった」
 俺は男を抱えるとそばのテントに向かう。みんなにはその間、麻痺や気絶している盗賊たちを拘束するように伝える。50人もいるからしばらく時間がかかるだろう。

――――。
 テントの中でザンギを降ろす。
 今、ここには俺とノルン、そして、リリーさんだけがいる。
 ノルンがハルバードを男の頭の上に掲げ、魔法の詠唱を始めた。
 「我がマナを資糧に、此奴こやつの精神に干渉し、人形とせよ。マリオネット」
 その詠唱を聞いたリリーさんが驚く、
 「も、もしかして精神魔法?」
 俺は人差し指を唇に当てて、「しっ」というと、リリーさんは口をつぐんだ。
 ハルバードから薄赤色の魔力がザンギの体を包みこみ、肌から吸収するように体内に消えていった。
 ハルバードをもとに戻したノルンが、
 「あなたたちの目的を教えなさい」
と言うと、気を失っているはずのザンギの口が開く。
 「盗賊を装って、リリー・ブノワをさらってブルータス・ロッソ様に引き渡すこと」
 その名前を聞いてリリーが驚き、怒りに身を震わせる。
 「ブルータス・ロッソ? あの法衣貴族か!」
 リリーの様子を横目で見ながら、ノルンが質問を続ける。
 「ブルータス・ロッソとは何者?」
 「エストリア王国の財務省商業庁の副長官。子爵位の法衣貴族」
 「なぜそいつはリリーをさらった?」
 「王国西部の鉄鉱石の利権を巡って、ブノワ家参加の商会を排除して自分の手下のロンベルト商会で独占させるための交渉。さらに奴隷にして、監禁して陵辱りょうじょくするつもりらしい」
 「……そう。で、さらった後の手はずはどうなってるの?」
 「箱に詰めたまま、王都のロッソ子爵邸に運び込み。そこで隷属魔法で奴隷にする予定」
 「その証拠はなにかあるの?」
 「ない。だが保険としてロッソ子爵子飼いの商会の裏帳簿を手に入れている」
 「それじゃ、ちょっと弱いわね……」
 ノルンが俺を見た。「どうする? まだきくことはある?」
 リリーさんがかたく拳を握りながら、
 「私たちが受けた依頼はお前たちの罠か?」
と絞り出すような声で尋ねた。
 「そうだ。依頼を出したのは子爵子飼いのロンベルト商会参加の者だ」
 「くそったれ」
 女性にないののしり声を上げるリリーさんに、俺は、
 「リリーさんたちの依頼ってそもそも何だったんです?」
 「オオヘラジカの肉だ」
 「「オオヘラジカ?」」
 異口同音に聞き返した俺とノルンだったが、ノルンが慌ててザンギに、
 「オオヘラジカはこの森にいないの?」
 ザンギは、
 「いない。情報はでっち上げだ」
と答えた。
 「あちゃぁ。俺たちも引っかかったか……」とうなだれる俺だったが、ノルンが、
 「とにかく、一度戻るしかないわね」と言い、再びハルバードを掲げた。
 「マリオネット解除」
 するとザンギの前身から薄赤い魔力がにじみ出てハルバードに吸い込まれていった。

 リリーさんに今の精神魔法を口止めして、俺はテントを出た。
 後ろ手に手を縛られた盗賊たちがテント前に連れてこられている。
 しかし、この人数。どうやって街まで連れて行くか……。
 考え込んでいると、そこへテントから出てきたリリーさんがやってきた。
 「ステラポラリスには何と感謝していいか。本当にありがとう」
 「いや、気にするな。同じアルの冒険者だ」
 「それでも礼を言わせてくれ。この借りはいつか必ず返す」
 「それよりこれからどうするんだ?」
 リリーさんはしばらく考えていたが、
 「残念ながら証拠がない……。父上に情報は伝えるが、打つ手がない」
と悔しそうに下を向いた。

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