07 ロンギさんと魔剣と妖刀

 次の瞬間、子爵だったものと同じ屋根の上に一人の鬼武者の姿があった。
 全身から妖気をみなぎらせている。
 ロンギさんの出現に、ジャック隊長が、
 「新手か?」
と言うので、慌てて、
 「俺たちの仲間です」
と説明した。

――――。
 子爵だったものが、ロンギさんの方を向いて対峙する。
 「キサマからキッテやろう! ちをススラセロ!」
 鈍重そうに見える姿とはことなり、素早い動きで魔剣を抜き放つと、そのまま上段からロンギさんに斬りかかった。
 ガキィ。
 その強烈な一撃を、ロンギさんは無造作に妖刀鬼丸国綱で受け止めた。
 間近で睨みあう両者。
 ロンギさんは、こめかみに血管を浮かび上がらせ、
 「うるさいんだよ。この野郎。……食べ物のうらみ、晴らさでおくものか!」
と叫び、ぐいんと踏み込んで魔剣を弾くと同時に、子爵だったものに横殴りの一閃を放った。
 ……オオヘラジカの恨みですか?
 飛びすさった子爵だったものを追って、ロンギさんが次々に斬りかかる。
 「オラオラオラオラ」
 子爵だったものに幾筋もの斬撃が当たり、黒い血を吹き出すが、次の瞬間ぴたっと傷が治っていく。
 それを見たロンギさんが、
 「めんどくせえな。その魔剣の加護って奴か」
と距離を取って、油断なく刀を構えた。
 子爵だったものが突然吠えた。
 「グガガアアアア!」
 音が衝撃となって響き渡り、それを騎士団員の何人かがすくんで動けなくなった。
 ロンギさんは無造作に構えを八双に変え、
 「刀魂解放。――斬魔封魂」
 鬼丸国綱から清廉の気があふれ、刀身に霞のようにまとわりついた。
 再びロンギさんが切り込み、子爵だったものが魔剣で受けた。
 「グギィ?」
 妖刀が魔剣を紙のように切り裂き、そのまま子爵だったものの肩口から斬った。
 袈裟斬りの斬撃が子爵だったものの体表に現れ、次の瞬間、そこから瘴気が噴水のようにあふれ出した。
 その背後からロンギさんがジャンプして、カブト割りの一撃を振りかざした。
 「鬼斬剣」
 子爵だったものの頭から股間まで一直線の線が走り、さらに屋根まで断ち切る。子爵だったものの足下に見たことのない梵字が現れ、天に向かって光を放った。
 屋根から子爵だったものが滑り落ちてきた。
 不思議と真っ二つに切ったと思ったが、見た目の傷はない。異形と化していた体も頭髪を除いて元の子爵の姿に戻っている。
 屋根上のロンギさんは残心から納刀し、ひらりと屋根から飛び降りた。

 ドシンと降り立ったロンギさんが俺の方へ歩いてくる。
 「まったく。くだんねえものを斬っちまったぜ」
と笑うロンギさんに、
 「さすがは鬼武者」
と言うと、照れくさそうにして、
 「お前だってあれくらいできるだろ? しかも普通のミスリルの剣で?」
 まあね。
 そこへジャック隊長が近づいてきた。それを見たロンギさんが、慌てて、
 「ちっ。めんどくせえから、俺は行くぜ! 何かあったらサクラに言え!」
と言って、子爵邸の壁を飛び越えて夜の闇に消えていった。

――――。
 さて、事件の後の話をしよう。

 子爵は無事に意識を取り戻したが、観念したのか、今までの悪事をぺらぺらとしゃべり出した。
 ロンギさんに断ち切られた魔剣はそのまま教会で封印されることになった。しかし、その入手先は、異形化する原因となった薬とともに旅の騎士から買ったということで、それ以上の情報を集めることはできなかった。
 あのように人間を異形化する魔法はあっても、薬の存在は初めてということで、王国の諜報部がいろいろと動いているらしい。
 ついでにアルの冒険者ギルドの抑えていた盗賊50人も騎士団に引き渡し、さらに子爵から芋づる式に違法奴隷組織がしょっかれた。

 さてロンギさんだが……。
 今、アルの街の俺たちのホームの庭で、肉を焼いてくれている。
 この場には俺たちステラポラリスのメンバーに加え、星の輝きのメンバーが来ている。

 結局、俺の仲間だが、流れの武士と説明した。こっちの世界にない甲冑や刀の説明が面倒だったが、リリーさんの父親老騎士フランク・ブノワ伯爵の援護もあり、特に問題視されずに済んだ。
 そのフランク・ブノワ伯爵がお礼として極上の肉を差し入れてくれた。サクラを通してロンギさんに伝えると、喜び勇んで俺たちのホームにやってきたのだ。
 上機嫌で焼いている肉の様子を見ながら、並行作業で突き合わせの野菜、ソースを仕上げているロンギさんを見て、俺は微笑んだ。
 ジュージューと肉を焼く音と、芳ばしいおいしそうな香りが広がっていく。
 庭に出したテーブルに座っているみんなのお腹が鳴り始めた。
 サクラがお腹に手を当てて、
 「ロンギの兄ちゃん。まだ? おなかがすいて死にそう~」
と言うと、ロンギさんが笑いながら、
 「ははは。まだだ。ここからが腕の見せ所だ」
と耳を澄ませていた。
 その手元をノルンとヘレンがじぃっと見ている。少しでも技を盗もうとしているのだろう。
 向かいに座っているリリーさんがロンギさんを見つめていた。
 どこかあこがれの人を見るような熱い視線だ。
 「リリーさん。いいお肉をありがとうございます。ロンギさんも上機嫌みたいですよ」
と言うと、リリーさんはぱっとこっちを見て首を横に振った。
 「私の方こそ。危ないところを何度も救っていただいて、ありがとうございました」

 その時、ロンギさんが、
 「できたぞ!」
と叫んだ。すると、器用にトングで肉を次々に放り投げていく。放物線を描いて肉が一人一人の目の前の皿に着地していく。
 そこへロンギさんが順番にソースをかけていき、全員分が行きわたるとロンギさんがおもむろに、
 「さあ、召し上がれ」
 早速、肉を切り分け、ソースをからめて口に入れる。
 肉汁があふれ、まるで溶けるようになくなっていく。そのあまりの旨さに、みんな言葉をなくす。
 「……う、うまい!」
 サクラがそう叫ぶとロンギさんはニカッと笑った。

 こうしてロンギさんとの狩りは、予想外の事件を引き落としたが、俺たちは秋の高い空の下で、みんなでロンギさんの様々な肉料理に舌鼓をうち、至福のひとときを過ごすのであった。

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