08 チームの名前

 次の日。俺たちは聖女ローレンツィーナ様に教えていただいた一軒家の下見に向かった。場所は修道院に近いところで治安は良さそうだ。

 外観は、白を基調とした漆喰の壁で赤みを帯びたオレンジ色の屋根。まるでエーゲ海沿いでよく見るような家だ。
前の持ち主は女性の冒険者のチームだったと言うがなかなかのセンスだと思う。
 うちの女性陣は一目見て気に入ったようだ。ノルンは、
「素敵な家ね」
と言って、早く中に入ろうとせがむ。俺は苦笑しながら預かった鍵で門を開け、玄関につながる小径に入る。庭はしばらく人の手が入っていなかったのだろう、草がぼうぼうに伸びている。どこかに井戸があるはずだが探すのも大変そうだ。
 庭を見て、サクラが、
「あちゃ~。これは草刈りが大変そうですね」
と言った。俺はうなづきながら今度は玄関の鍵を開けると、ヘレンが、「なんかドキドキするわね」と言った。
 玄関のドアを開けて中に入ると、そこは広い玄関ホールとなっていた。二階の窓から差し込んだ光が正面の壁に掛けられた大きなデウマキナ山の絵に投げかけられている。デウマキナに朝日がかかり、上空にいくにつれ空の色が赤から青へとグラデーションとなって変化していく様子がとても美しい。
「へぇ」「あら」「「ほわぁ」」
 みんなもその絵を見上げて感嘆の声を上げた。ノルンが、
「良い絵ね。残してくれていて良かったわ」
と言う。俺もその通りだと思う。

 この玄関ホールの横はL字型の広い一室になっており、半分はリビングルーム、半分は大きなテーブルにいくつものイスが並んでいて食堂となっている。壁には大きな窓がはめられており、屋内から庭、そして壁越しに町並みを眺めることができる。その隣は十分な広さのキッチンとなっていて、ちょっとしたパーティーなんか開くことができそうだ。
 一度、玄関ホールに戻り、もう一つのドアから廊下に入ると、二階と地下に行く階段とさらに隣につづく扉があった。隣に続く扉を開けるとそこは脱衣所となっており、さらに奥のドアを開けると広いお風呂場となっていた。
 一〇人くらいが入れる広い浴槽を見て、みんな驚きで言葉が出てこない。
 おそるおそるノルンが、
「ここって、前は貴族の屋敷か何かかしら?」
と言った。俺は、
「いや、女性の冒険者のチームだって聞いてるぞ」
と言うと、ノルンが「普通の冒険者じゃないわね」と言った。うん。確かに言いたいことはわかる。っていうか、この家が家賃二万ディールとかありえないだろうと思う。聖女様、本当にいいんでしょうか?
 気を取り直して階段を上ると個人用の個室が八室、広い個室が一室。そして空っぽの本棚が並んでいる資料室らしき部屋が一室あった。どの部屋も家具は一切ないが、壁や窓もしっかりしており充分に綺麗な物件だ。
 再び玄関ホールに戻り、みんなに、
「決まりかな?」
と尋ねると、異口同音に「「「決定」」」と返事が返ってきた。
 みんなで修道院に行き、ローレンツィーナ様と正式に契約を交わし、丁重にお礼を言った。すると聖女様は、
「いいのよ。……とはいっても貴方たちにだけだからね」
と他言無用よと念を押され、
「ここから近いし、落ち着いたら遊びに行くからね」
と言われ、ヘレンが驚いて、
「院長様が動かれるとみんな驚きますよ?」
と言うと、ローレンツィーナ様は、
「あら? 娘の家に遊びに行くだけよ? 何も問題ないわ」
と楽しそうに笑った。まあ、聖女様にとってはヘレンは娘みたいなものだからね。
 俺たちは引っ越しが終わったら再びご挨拶にうかがうと伝え、修道院を後にした。

――――。
 お昼とギルドのカフェでとり、冒険者の憩い亭からの引っ越しの段取りをみんなで相談する。
 新居の二階の個室は一人一人に割り当てて、開いた部屋はそのままにしておく。俺的には一室はいずれ和室にしたいと思っている。なお一番大きな部屋はリーダーである俺の部屋となった。
 今日の午後はみんなで家具を見に行き、明日は家の清掃で、明後日から家具の搬入と本格的な引っ越しの予定となった。
 また俺たちは冒険者なので日中も不在が多く長期で留守になることもある。そのため、家の管理人が必要じゃないかと意見が出た。しかし管理人が一人ぼっちになる時間も多いだろうし、人件費の問題もある。結局、解決策が浮かばないので、当面は留守になるときにはノルンが封印を施して誰も入れないようにすることに決定した。

 俺たちが話し合っていると、猫人族のカフェ店員のカロットちゃんが聞きつけて、
「もしかして、拠点を冒険者の憩い亭から移すんですか?」
ときいてきた。俺は、
「ちょうどいい建物があってね。貸し家だけど」
「いいなぁ。……お引っ越ししたら教えて下さいね」
 カロットちゃんはそう言って、受付の方へ行き、暇そうにしていたエミリーさんとマリナさんに話しかけていた。おそらく俺たちの拠点の話をしているんだろう。ちょうどいい。俺はカウンターに行き、エミリーさんに、家の掃除手伝いの依頼をお願いした。Fランクの一日仕事で報酬は一人七〇〇〇ディール。募集人員は五人だ。
 家の場所を知らせると驚いて、
「あ! そこって銀翼の拠点だったところじゃないの?」
と言う。詳しく聞いてみると、孤児院出身の女性八人の冒険者チームでランクはA。二年前に拠点を王都エストリアに移したらしい。エミリーさんは建物がどうなったのか気になっていたようだが、聖女様が買い取られたと知って納得していた。と同時にひどくうらやましがられる。
 引っ越しが終わったら報告するように言われ、ついでに、
「そろそろチームの名前を決めたら? 拠点を呼ぶにも面倒だし」
と言われた。チームの名前なんて忘れていたが、ちょうどいい機会かもしれない。みんなに相談しよう。
 カフェのみんなのところに戻りチーム名を相談する。
 早速サクラが元気に手を挙げて、
「ジュンと愛人達ラバーズはどうですか?」と言った。こいつ成長してないな……。
 即座に「却下」したが、みんなからは特にいい名前が浮かんでこないようだ。
「……ステラポラリスはどうかな?」
 俺はみんなに切り出した。
「ステラポラリス?」
 みんな初めて聞いた言葉のようで首をかしげていた。
「ああ。星っていうのはゆっくり動いているんだが、一つだけ北の空で同じ位置で輝き続ける星がある。俺がいたところでは、旅や航海をする人々がその星を目印にして方角を確認して旅をしたというんだ」
 ノルンが、
「それがステラポラリス?」
「そうだ。別名北極星という」
 みんなが口の中で「……ステラポラリス」と幾度かつぶやき、
「いいわね!」「何だか不思議な感じのする言葉です」などと賛成してくれた。
 早速、全員で受付に行って報告し、全員のギルドカードに「ステラポラリス」のチーム名を入れてもらった。
 俺もギルドカードの「ステラポラリス」の文字を確認してから上着の内ポケットにしまい、みんなを振り返ると、みんな手元のカードの文字を見てニヤニヤしている。どうやら気に入ってもらえたようだ。ちょっとうれしくなりながら、俺たちはギルドを出た。

――――。
 次の日はFランクの冒険者五人とともに庭の草刈りから建物内部の清掃を一気に行い、その翌日には家具を購入した店の人たちが荷台に荷物を載せて納品に来た。
 冒険者の憩い亭は、早速、朝のうちに引き払い、今日からこの家に住み込む。
 ベッドなどの大型家具はノルンの転移魔法で屋内に運び、細々した物は一度、リビングに運び入れる。
 俺たちが荷解きをしている間に、ノルンは裏庭の井戸でウンディーネとノームにお願いして、井戸が使えるように綺麗にして貰ったようだ。
 俺は、みんながキッチンの準備を整えている間に、廊下のランプの芯を一つ一つ取り替えて油を補充していった。最後に浴場のランプを見に行くと、そこにはノルンが座って何かを作業していた。
「何してるんだい?」
と声をかけると、ノルンは振り返って、
「温水装置を作ってるのよ」
と言う。近くによってノルンの手元を見ると、ノルンは青くほのかに光る何かの鉱石に魔方陣を刻んでいるところだった。俺の顔を見て、ノルンが説明する。
「これはパティに貰ったミスリルの鉱石よ。ここにこうして水魔法の魔方陣を刻んで浴槽の蛇口にセットするの。魔力を加えると、この石からお湯が出るわ」
「へぇ。魔道具ってわけか」
と感心していると、
「パティに教えて貰った大昔の技術よ。本当は廊下のランプも魔道具でどうにかできるけど、ミスリルの手持ちがねえ……」
と言う。
「これはミスリルじゃないとダメなのか?」
「ええ。魔力マナの伝導や貯蓄と入手しやすさを考えるとミスリルが一番よ」
「……ふうん」
 こっちの鉱石についてあまり気にはしなかったが、魔法金属のミスリルがあるということはオリハルコンとかもあるかもしれない。
「それにしても、まさかノルンが魔道具も造れるなんて思いもしなかったよ」
と言うと、ノルンはいたずらっぽく微笑んで、
「もっとれてもいいのよ?」
と言ったので、「ああ。惚れた惚れた」と二度言って、その頭を撫でた。
 ノルンが造った魔道具は全部で六つ。
 浴槽の蛇口に、キッチンの保冷庫と冷凍庫にコンロ、そしてリビングの室温調整。最後の一つは庭にノルンが造った転移魔方陣の魔力マナ電池としてだ。
 ノルンは、庭の一角に土魔法で頑丈な小屋を作り、その中に大きな魔方陣を刻んだ。魔力マナ電池の魔力は、自然界の魔素マナを吸収して貯蓄し、この魔方陣の作動と小屋全体に仕込まれた結界に使われるようになっている。これでどこに出かけてもノルンの魔方陣がある限り、すぐにこの家に戻ってくることができる。
 もちろん、転移魔方陣の技術なんて秘匿中の秘匿で失われた超魔導文明時代の技術らしいので極秘扱いだ。ノルンの結界によって、チームの人間以外が勝手に利用できないようになっているからとりあえずは安心だろう。っていうか、ノルンにこれだけの知識を授けたパティっていったい何者なんだろう?

 とまあ、慌ただしい新居の引っ越しは翌日まで続いたのだった。

チーム名ですが、ステラポラリスの輝き、煌めくステラポラリス、ステラポラリスの導きなど、ちょっとひねりを加えるかもしれません。

※作者註:トイレはファンタジーの話にそぐわないので書きません。アルの街は上水道と下水道が整備されています。が、上水道は一箇所が汚染されると危険なので井戸の方がよく使われます。

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