09 ランクC試験の申し込み

 それから三週間が経った。

 引っ越し費用でかなりお金をつかってしまったこともあり、毎日、こつこつと依頼をこなしていった。そして、ついにノルンとシエラもランクDに昇格した。
 これでランクCの受験資格を得た俺たちは、早速、トーマスたちと連絡を取りギルドで受験手続きを行う。

「ランクCの昇級試験ね。わかった、少し待っててね」
 エミリーさんの指示で、俺たちはギルドカフェで手続きを待っている。
 今、この場にいるのは俺たちのチームと、「草原を渡る風」のトーマスに、レンジャーのセレス、土魔法使いのケイムに、剣士のルン、そしてハーフエルフの魔法使いアイスだ。

「ちょっと! あんたたち! 家を買ったんだって?」
 セレスがいきなり俺を問い詰める。俺は、なだめようと両手をひろげ、まあまあと抑え、
「借りてるんだって。賃貸ちんたいだよ。賃貸!」
と言う。それを見ていたルンがぼそっと、
「……愛欲の家」
と言った。
「おいおい! 違うって! そんなんじゃ……」
といいつつ仲間の方を見ると、なぜかノルンを筆頭に顔を赤らめて「えへへ」と含み笑いをしている。
「お、お前らも否定しろ!」
と言うと、ヘレンが、
「だって事実だものね?」
とノルンに言う。ノルンも黙ってうなづき、サクラが、
「マスター! 次は私の番ですよ! 私の番!」
と騒ぎ出したので、慌ててその口を押さえる。
「やめんか!」
 おかしい。ランクCの試験に来たはずなのに、なぜこんなことに……。と恨みがましくセレスを見ると、セレスが両手でルンの方を指さして、
「私じゃなくて、こっち!」
と言った。トーマスがあきれたように、
「まあ、落ち着いたら遊びに行くからさ。とりあえず座ろうぜ」
と言った。
 俺は気分を落ち着けながらカフェのイスに座る。ふと視線を感じて顔を上げれば、ウェイトレスのカロットちゃんが苦笑いして見ていた。俺はそれを無視してため息をつき、トーマスに、
「なあ。トーマス。ランクCの昇級試験って具体的にどんなことをするんだ?」
ときいてみた。ランクEの昇級試験は簡単な討伐依頼だったが、ランクCはなんだろう?
「ああ。ランクCの昇級試験は、護衛、討伐などその時で違うらしいよ。もちろん、難易度は高い。それにチームの場合は、連携や役割分担なども見られるらしい」
「ふうん。護衛とか討伐ね……」
 この時はなんだか退屈になりそうだなって思っていたが、その予想はこの後裏切られることになるのであった。

 ガタンッ。
 大きな音がしてギルドのドアが勢いよく開けられ、見るからに疲労困憊ひろうこんぱいの男の冒険者が入ってくる。

「大変だ! フルールの村がモンスターの大群の襲撃を受けているぞ!」
 その場にいた一〇人ほどの冒険者が驚いて立ち上がり、男性を見る。
「何!?」「フルールが?」
 俺の後ろでノルンが、
「フルール村が……」
とつぶやいた。振り返るとその顔が青くなっている。そうか。ノルンはフルール村で女の子と仲良くなったと言っていたから、きっと心配になっているのだろう。

 途端にギルド内が騒がしくなった。普段は見ないサブマスターのアリスさんが奥の部屋から跳び出してきて、男性を連れて奥の部屋に向かった。それにエミリーさんもついていき受付ではマリナさんが茫然としている。
 誰かが、
「まさか。まだ去年のエビルトレントの種が残っていたのか?」
とつぶやいた。
 俺はノルンとシエラを気づかった。
「二人とも大丈夫か?」
「え、ええ。……いや、ごめん。あんまり大丈夫じゃないかも」
「……アイリちゃん」
 俺は一緒にいるトーマスに言った。
「トーマス。……悪いが俺たちは昇格試験は見送る。フルール村に行ってくるよ」
 すると、トーマスは自分の仲間達と目を見合わせてうなづくと、
「俺たちも延期だ。一緒に行くぜ。なあ? みんな?」
 トーマスがそういうと彼ら「草原を渡る風」の面々も力強くうなづいた。

 早速、受付カウンターのマリナさんに試験の延期を言おうとしたとき、
「まて!」
と鋭い声がかかった。
 見ると、奥の部屋から一人の老人が急いでこっちに向かってきていた。その老人を見てマリナさんが、
「ギルマス……」
とつぶやく。この人がアルの街のギルドマスター?初めてお会いするが……、

――ファル・フーバー――
 種族:人間族 年齢:80才
 職業:冒険者ギルド・アル支部ギルドマスター(元ランクS)
 クラス:魔法拳士
 称号:クラッシャー
 加護:ノームの加護
 スキル:統率4、高速機動3、剛力5、体術4、土魔法4、危機感知、気配感知

 どうやら拳で語るタイプのお人のようだ。年老いてはいるようだが、その足取りはしっかりしていて覇気に満ちている。
 ギルドマスターは俺たちの前で立ち止まると、
「現在、フルール村がオークの群れに襲われている。騎士団と冒険者とで急いで討伐隊を組織するが、出発は早くとも明朝になるだろう。君らには先発隊として現地に先行してもらいたい。村の状況確認がメインだが状況次第では村の防衛に参加、またはオークの拠点を調べておいてくれ」
 エミリーさんがやってきて、
「それが君たちの昇格試験になります」
と言った。ギルマスが、
「試験官にはランドをつける。試験でもあるが緊急事態でもある。無理であれば決して引き際を誤るでないぞ」
と言う。ランドさんって、初心者合宿の引率をしてくれた「烈風の爪」の犬人族の剣士だ。
 エミリーさんが状況を説明してくれた。
「今、ランドさんを呼びに行っています。街の東門に人数分の馬を手配しておくのでそれを利用すること。なお確認されている魔獣は、オーク、オークソルジャー、フォレストウルフの三種です。おそらく群れの規模としてオーク五〇匹、ランドウルフ二〇匹程度と思われます」
 その数を聞いてトーマスとセレスが難しい顔をした。
「五〇匹か……」
 ギルマスが、
「何も正面から戦えと言っているわけではない。あくまでも先行して向こうの状況と、我らが行くまでの防衛が目的だ」
と言った。俺たちから質問がないのを確認すると、ギルマスは、
「では必要な物資を用意して一時間後にここに集合してくれ」
「はい! わかりました」
 俺は力強く返事をし、準備のためにみんなを連れてギルドを出た。

――――。
 一時間後、必要な物資を用意して再びギルドに集結すると、すでにランドさんが待機していた。
 俺たちの姿を見たランドさんは右手を挙げて、
「お前ら、久しぶりだな。今回は俺が試験官だ。……とはいっても、緊急事態には変わりねえ。村を救うために気合いを入れろ! 今回は特別にギルマスの許可を得て、状況を見て俺も遠慮無く戦闘に参加するからな」
と言った。俺たちは、
「はい! 教官、ありがとうございます!」
と、合宿と同じく教官と呼んだ。
「よし! では行くぞ!」
とランド教官のかけ声に、
「「「おお!」」」
と返事をする。エミリーさんとマリナさんが、
「気をつけていくのよ」
「みなさん。ご無事で」
と見送るなか、颯爽とギルドを出発した。

 東門で警備隊からギルド手配の馬を受け取り、全員が馬上の人となる。
 ランド教官が一行を見渡す。
「お前らをチームごとの班に分ける。チーム名とかめんどくさいから、年齢順でジュンの班をA班、トーマスの班をB班とする」
「「はい!」」
「フルール村の直近までは俺が先行する。遅れるなよ!」
と教官はいうと、馬をフルール村の方へ向け、
「出発!」
と宣言し、走らせた。その後ろを俺とトーマス、そして仲間達がつづいた。

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