10 フルール村への侵入

――――。
 馬を走らせること二時間ほどで、フルール村まであと二㎞の地点に到達した。
 全力ならばもっと早く来ることもできたが、オークやフォレストウルフを警戒して幾度か停止して状況を確認しながらだったので、やや時間がかかってしまっている。
 さて、襲撃の知らせの時間を考慮しても、おおよそ半日は過ぎている計算となる。ここからは慎重に、迅速にだ。
 俺たちは遠くに村影が見える位置で馬を下り、林の間に隠れた。
 「まず村の上空から偵察します」
と俺は言ってノルンの方を見た。ノルンがうなづいて、
 「フェリシア」
と呼ぶと、馬と平行して飛んでいたフェリシアが空高く飛んでいき、村の上空をぐるぐると回っている。
 (東南側からオークが侵入して、思い思いに民家に出たり入ったりしてます。どうやら村人は教会に避難しているようで、教会の東南側に冒険者と騎士達が非常線を張っていますね)
 フェリシアからの念話をみんなに伝えると、ランド教官があきれたように、
 「あれはお前の使い魔か?意思の疎通ができて、そんな風に偵察できるのはお前らだけだな」
と言った。……あ、そうか。もしかしなくても、非常識なことやっちゃったか?
 トーマスが取りなすように、
 「ま、まあ。でも村の状況はわかった」
と言う。俺はトーマスに、
 「オークを叩いてから教会に後退する組と、直接教会に行って防衛線に合流する組と分けよう」
と言うと、トーマスはうなづいて、
 「そっちはフェリシアがいるから戦況を把握しやすいでしょ?俺たちは真っ直ぐ教会に向かうから、うまいことオークの群れを引きつけてもらって教会前で一気に叩こう」
 ……なるほどね。ノルンたちを見るとみんなもうなづいた。
 再びトーマスの方を向いて、
 「じゃあ、行くぜ!」
と言って、村の西側の入り口をくぐり、村を囲む柵の内側を右に回り込むように走る。俺の後ろをノルンたちがついてくる。
 (フェリシアは上空で待機して)
 (了解です。マスター)
 背後を走るノルンの指示で、再びフェリシアが空高く舞い上がり村の上空を旋回している。
 そのすぐ後にトーマスたちが同じ入り口から真っ直ぐに中央に向かって走って行くのを、俺の気配感知が察知した。
 そのまま気配感知をしながら、民家の影から影へと渡るように進んでいくと、とある民家の中で何かが動いているのが感じられた。
 「サクラ」
と名前を呼ぶと、「了解です」と短く応えが返りサクラの気配が薄れる。念のため入口のドア脇に待機して中の気配を探る。窓から侵入したサクラが気配の主と接敵、家の中から何かが倒れる音がした。
 (オーク一匹。始末しました)
 玄関から出てきたサクラの念話にうなづきかえし、同じように散発的に民家を漁っているオークを倒しながら、再び村の東南方向に向かって進んでいく。
 オークの群れが気配感知にひっかかる。一、二、三、四……、おおよそ四〇匹。多いな。
 (マスター・ジュン。オーク一九匹、フォレストウルフ二〇匹です)
 フェリシアの念話に、すぐさまノルンが隠形魔法ステルスを発動。警戒したまま、さらに二〇〇メートル進むと、オーク達が隊列を整えているところが見えた。フォレストウルフは周辺警戒をしているようだ。
 (フェリシア。トーマスたちはもう教会に到着しているか?)
 (はい。マスター・ジュン。教会の東南側に設置された柵のところで騎士と話をしているようです)
 (了解だ。……もうよさそうだな)
 民家の影に隠れながら、俺は小さく、
 「ノルンは魔法を頼む。それとともに一斉に切り込み、一撃を与えたら離脱。すぐさま中央の教会に向かって走る。教会の前の広場の中までオーク達を引き込んだら、すぐに右側に抜ける。後は防衛ラインにいる奴らがオークを叩いてくれるはずだ」
 手順の確認に、ノルンが、
 「倒してしまってもいいんでしょ?」
と言い出した。……一体何の魔法を使うつもりだ?まあ可能なんだろうがそれだと悪目立ちすぎるだろうし、被害が大きくならないか?
 「いや。ほどほどので派手なのを頼む。作戦通りに引きつける程度でいい」
 「了解よ」
 「みんなもいいな?」

 オーク達の様子を窺いながら、軽く右手を挙げ、順番に指を曲げる。五、四、三、二、一。
 「フレイム・バースト!」
 走り出す俺たちの頭上をいくつもの火球が飛んでいき、隊列を組んでいるオークの群れに当たるや盛大に爆発する。まるでいくつもの戦車の砲弾が飛んでいるようだ。
 オーク達は突然の攻撃に右往左往しているが、フォレストウルフはいち早く俺たちに向かって走ってきた。
 「行きます!」
 サクラの鋭い声がしたとたん、いくつもの空を切る音が聞こえ、フォレストウルフの額に手裏剣が突き刺さっていく。……お見事だ。
 俺は戦闘モード「火炎舞闘」を発動し、手足と剣に魔法の炎をまとってオークの群れに突っ込んだ。
 戦闘の一匹に突撃した瞬間、魔力を炎に変えてそのままオークに叩きつけると、その周囲五メートルほどの範囲が一辺に吹き飛んだ。
 つづいて魔力で身体強化したヘレンがメイスの先端に火をまとわせて、野球のバットのようにフルスイングをする。メイスがオークに当たったインパクトの瞬間、激しい爆発と共に火がまき散らされ周囲のオークに襲いかかる。杖術Lv4のバーストインパクトだ。
 シエラは闘気を身にまとって神竜の盾を構え、目の前のオークに体当たりをすると、オークはまるでビリヤードの球のように周りのオークを巻き込みながら吹っ飛んでいった。
 「撤退!」
 即座に叫んで教会の方へと走る。……すでに壊滅的なダメージを与えたように思うが、幸いにも追いかけてきているようだ。殿しんがりはサクラだ。サクラは適当に後ろにクナイを投げて挑発しながら走っている。ちゃんとわかっているようで、きびしは使用していない。
 戦況は作戦通りに推移しているが、その時、フェリシアから、
 (マスター!教会北東側からオークが来ています)
と念話が来た。
 北東側?……どうやら奴らも馬鹿じゃないらしい。俺たちの裏を突こうとしているみたいだ。
 そのまま背後に迫るオークとつかず離れずで走っていると、村道の奥に教会が見えてきた。教会の手前に柵が並べられ、その奥で騎士と冒険者が弓をつがえながら待機している。トーマスたちの顔も見える。
 教会前広場に走り込み、即座に右に転回し民家と民家の間を走り抜けていく。それに仲間たちがついてきており、その背後からオークどもの悲鳴が聞こえた。作戦通りに教会前で攻撃を加えているのだろう。
 俺たちはそのまま教会前に回り込んで教会北東側へと向かう。
 「北東側からオークの襲撃あり!行くぞ!」
と前を向いたままで叫ぶと後ろから「「「はい!」」」とみんなの声がした。
 前方から人々の叫び声が聞こえる。
 「きゃあぁぁ。いやぁ。離して!」
 見ると、暴れる女性を抱えたオークが森へと向かって走っていた。
 「いかん!」
 俺たちの姿を見た一匹のオークが杖を掲げると火球が飛んできた。オークメイジか!厄介な。
 「散開!」
と叫ぶ。左右に分かれた間を火球が通り抜けていき、俺たちの背後で爆発する。オークメイジが続けて呪文を詠唱するが、今度は俺たちの方が早い。体当たりするようにオークメイジに斬りつけ、そのまま周りのオークに攻撃を加える。
 その隙に教会に開いた大穴にサクラとヘレンが入っていき、中に入り込んだオークを倒しに向かった。たちまちに教会前に陣取った俺たちを見て、残りのオーク達が女性を抱えて森へと逃げ出す。それを追いかけようとする俺の目の前に、鎧と大剣を装備した二匹のオークが立ちはだかる。
 他のオークより体格がいい。

――オーク・ソルジャー――
 強力なオークの剣士。ランクC相当で剣技を使う。

 ナビゲーションで情報を確認する間もなく、俺は袈裟斬りに切りかかると驚くことに俺の剣を受け流しやがった。とって返す剣で切り上げてくるのをサイドステップでよける。……が、お前に構ってる暇はないんだよ!
 力の解放を一段階上げ、上段から切り下ろす。オーク・ソルジャーはそれを受け流そうと剣を構えたが、その剣ごと奴の体を真っ二つにしてやった。剣技「剛剣」だ。
 隣を見ると、サクラが両手の二本の忍者刀であっという間にオークを切り刻んでいた。全身血まみれになったオーク・ソルジャーがズズンと音を立てて倒れ、すぐさまサクラがとどめを刺した。
 逃げていったオーク達を見ると、すでに森に逃げ込んでしまったようで姿が見えない。

 「くそっ。逃げられたか」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。