11 オークの洞窟へ

 教会の北東側に開いた大穴をノルンの土魔法で埋めて硬化する。これでとりあえずは安心だ。

 そのまま教会周辺の警戒を続けていると、どうやら正面の防衛ラインの闘いが終了したようで、トーマスたちがやってきた。
 「あっ、いたいた」
といいながら近づいてくるトーマスたちに、俺は、
 「正面はどうだ?」
ときく。トーマスが、
 「ジュンさんたちのお陰でオーク一四匹を残らず倒して、そのまま騎士団と冒険者とで東南側に侵攻しているところだね」
 なるほど。そのまま村の中から一掃しようというのだろう。
 セレスが、ノルンの補修した教会の壁を見て、
 「ここはどうしたの?」
ときいてきたので、さっきの闘いを説明して連れ去られた村人がいることを言うと、セレスは深刻な表情になった。
 ランド教官が、
 「俺が先に中を確認してこよう。こっちにも人を回して貰うように言うから、交代したらお前達も中に来い」
と言って歩いて行った。
 (フェリシア。村の周囲はどうだ?)
と上空のフェリシアに確認すると、フェリシアが、
 (村の中からは一掃されたみたいです。さっきマスター達が襲撃した村の東南では、マスター達の攻撃の痕跡を見て騎士と冒険者が驚いているみたいですね)
 (……やりすぎたか。まあいい。悪いけど教会の屋根で待機して周囲の状況を警戒しておいてくれ)
 (了解です)

――――。
 もともとフルール村を拠点にしていた冒険者と場所を交代し、俺たちは教会の中に入る。

 中では村人達が家族ごとに固まって、身を寄せ合っている。
 正面祭壇の前では、教会の神父と村長らしき人、そして、一人の騎士とランド教官が話し合いをしている。
 俺たちの姿を見たランド教官が手招きをする。
 「どうやら連れ去られたのは一〇人。女の子もいるようだ」
 気がつくとさらわれた人の家族だろうか。俺たちをすがるように見ている人たちがいる。
 オークに連れ去られた女性は悲惨だ。すぐにどうこうはないかもしれないが、救助が遅れれば遅れるほど危険だ。
 ノルンが青い顔で、
 「ジュン。すぐに救助に」
と言う。しかし、ランド教官が、
 「だが、お前らの依頼は村の状況確認と防衛線の維持だぞ?」
と言う。その言葉にトーマス達も何かを言いかけてやめてしまった。
 俺はすがるようなノルンとシエラの視線を受けながら、
 「ええ。ですから、討伐隊がすぐにオークのねぐらを攻撃できるように、村の周辺・・にある奴らのねぐらの探索です」
と言うと、教官は少し微笑んで、
 「わかった。……個人的にはいい判断だと思う」
と言い、村長さんらしき男性に向かって、
 「村長。奴らの居場所に心当たりはないですか?」
ときいた。しかし、村長さんはかぶりを振って、
 「いいえ。残念ですが……。最近まで目撃情報も何も無かったんです。奴らは突然現れたんです」
と言う。
 ……それはおかしいな。このフルール村は周囲を森に囲まれていて、村人の生活手段は森の恵みによるところが大きい。つまり、普段から森の様子には注意を払っているはずだ。それなのに何の兆候もなかったのは妙だ。
 俺がそう考えていると、ノルンが、
 「なら妖精に聞いてみれば良いわ」
と言った。それを聞いてランド教官が、
 「サブマスターならできるがな……。もしかして妖精と会話できるのか?」
と言ったので、俺とノルンがうなづいた。それを見てランド教官だけじゃなくて、その場にいた人々が驚いた。特にハーフエルフのアイスの驚きはひどく、
 「ええっ?私もできないのに……」
とショックを受けていた。

 村に駐在していた騎士は五人。アルの街にいるゾディアック・クルセイダーズのアクエリアス隊の分隊だ。
 その隊長さんに、俺たちはさらわれた村人の救助に向かうことを伝え、明日、アルの討伐隊が到着するまでに戻らなかった場合は伝えて貰うようにお願いした。隊長さんは、村の防衛があるために救助に行けないことを悩んでいたが、俺たちの申し出を受けてくれた。
 「君らがオークの巣の探索に向かったと必ず伝える。だから、救助は頼んだぞ」

 俺たちは村の南東側から森に入る。スキル「妖精視」の力で妖精を探すとすぐに草の上で休んでいる二人の妖精が見つかった。
 ノルンが妖精のそばでしゃがんで、
 「ねえ。お願い。オークたちの居場所を教えてくれないかしら?」
と言うと、妖精は、
……えっとね。あっちの方だよ。
……うん。岩山だよ。
 「岩山なの?」
……そうそう。でも今は瘴気がすごいから気をつけてね。
 「ちょっとまって。瘴気だって?」
 俺が驚いて妖精に問いかけると、
……最近、急に岩山から吹き出してるんだよ。
……お陰で森の木々も元気なくなってきてる。
……動物も様子がおかしいよね。
 俺は目をこらして森を見ると、確かにうっすらと黒い瘴気が森全体を覆っているように見える。
 「おいおい。まじかよ……」とつぶやきながら、俺はシエラの方を見た。
 妖精との会話が聞こえないみんなは首をかしげている。シエラは、さっき「瘴気」の言葉が出てびっくりしているようだ。
 「どうやら最近になって岩山から瘴気が流れ出したらしい。オークの巣はそこみたいだ」
と言い、シエラに、
 「奴がいるかもしれない」
と告げると、途端にシエラの表情が真剣なものに変わった。
 デウマキナでの事件。シエラの父ギリメクさんの仇グラナダも瘴気を使っていた。
 シエラの変化を見たランド教官が、
 「どういうことだ?」ときいてきたので、俺は、
 「シエラの父のかたきも瘴気を使っていたんです」と答える。
 すると、ランド教官が痛ましそうな目でシエラを見て、「そうか」とだけつぶやいた。
 妖精と会話を続けていたノルンが、
 「ありがとうね。助かったわ」
と言うと、妖精達が、
……うん。気をつけてね。
……瘴気も、オークも何とかしてくれるとうれしいな。
と言った。ノルンは、
 「任せておいて」
と言って立ち上がった。俺の方を向いて、
 「岩山の場所は知っているわ。……急ごう」
と言い森の奥を向いた。俺はその隣に行き「ああ。行こう」と言う。

――――。
 ノルンが先頭になって森をどんどん進んでいく。念のため全員に隠形の魔法のステルスがかかっているが、それ以前に森の動物の気配がほとんどない。
 今回、フェリシアは教会に待機しており異変があったら知らせてもらう手はずになっているから、岩山の偵察は自分たちでやらねばならない。
 しばらく進むと木々の間から岩山の姿が見えてきて、俺の気配察知にはその内部にいる沢山のオークの気配が察知できる。それと同時に濃い瘴気がたなびく煙のように漂っているのが見える。それをさかのぼっていくと、山腹に開いた大きな入り口から漂っているようだ。
 入り口には三匹のオークが見張りをしている。気取られないように木々の間から周囲を調べると、入り口のさらに上の方に見張り台があって二匹のオークの姿が見える。
 ランド教官やトーマス達もそれを確認して、一端、森の奥へ戻り作戦会議を行うことにした。

 「あれは天然のとりでだな」
とランド教官が言う。ノルンが、
 「確か昔は鉄鉱石の鉱山だったらしいわ」
と言う。セレスが、
 「ということは、中は複雑に入り組んでいる可能性が高いわね」
と言う。俺が、
 「最優先は捕まっている村人の救出だ。それを軸に考えよう」
と言うと、サクラが、
 「私が上の見張りを始末しながら潜入します。皆さんは入り口から入って下さい。私とマスターは念話でやりとりできますから、中で村人を見つけ次第、合流して救助、脱出でどうです?」
と言った。……ふむ。悪くはないな。ただサクラの危険度が高いといえるが、トウマさんとの修業を思えばオーク如き心配するものでもないし、こいつには忍術と妖術がある。
 しかし、ケイムが、
 「でもそれじゃ、サクラさんが危険なんじゃ?」
と心配そうに言う。こいつはケモミミ愛好者だから余計に心配なんだろう。
 サクラが、
 「大丈夫ですよ。何しろ私のクラスは忍者ですから。潜入の専門家です」
と言った。普通、冒険者間でも自分のクラスはあまり人に言わないものだが、まあ、ここにいるメンバーなら信用できるだろう。
 ランド教官が、
 「よし。サクラの案を採用しよう。サクラが上の見張りを退治したら、俺たちも下の見張りを始末して中に侵入する。第一目標は村人の救出。第二目標は内部構造の把握だ。……油断するなよ」
 「「「「はい!」」」」

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