12 潜入ミッション

 こちら、サクラ。
 現在、ポイントAの岩山頂上に到着。
 これからポイントBへ潜入開始します。

 誰にともなくそう報告すると、なぜかマスターから、
 (了解。気を付けろ。もしもの時は全力戦闘を許可する)
と念話が来て思わず焦る。もしかしたらコントラクトで考えていることが伝わってしまったのかな?

 今の服装はいつもと違って黒ずくめの服装だ。頭も金髪を隠すように黒いずきんで覆い、鉢金を額に当てている。
 頂上から下を見ると、ちょうど見張り台がベランダのようになっていて、そこに二匹のオークがおしゃべりをしている。
 私は森の方へ視線を移し、マスターを確認して手を上げると、マスターがうなづくのが見えた。
 よし行こう!
 私は体を縮めて、すっと下に飛び降りた。見張り台に降り立つ前にクナイを飛ばす。
 ヒュン!ヒュン!
 二本のクナイがそれぞれ狙いに違わず見張りのオークの額に突き刺さった。オークが崩れ落ちるように倒れるのと同時に、私は見張り台に降り立ち中を確認する。するとさらに一匹のオークが驚愕に満ちた目で私を見ていた。
 即座にもう一本のクナイを放って始末する。
 念のため、三匹のオークの首を切ってとどめを刺し、マスターに念話を飛ばす。
 (潜入成功!これから探索に入ります)
 (了解。こっちも行動を開始する。充分に注意しろ!)
 (了解です。……事件が終わったら甘えさせてもらいますから)
 (む。……ま、まあいいか。わかった)
 (ぐへへへ。あんなことやこんなことを……)
 (い、いいから早く行け!)
 (はい!)
 ふふふふ。言質げんちはいただきました。これはやる気がみなぎりますな!
 笑みを浮かべ、気配を殺し存在感を極限まで薄めながら見張り台から廊下に出る。廊下は緩やかな階段となって下に続いており片側の壁に等間隔にたいまつが灯されている。
 私は慎重に下へと進んでいった。

――――。
 「サクラが潜入を開始した。俺たちも行くぞ」
と言うと、トーマスがセレスに合図をした。セレスは弓を引き絞って矢を放つ。放たれた矢は一匹のオークの目に刺さってのけぞる。と、その様子に気を取られた二匹のオークは次の瞬間、土の槍で頭が貫かれた。
 ノルンの土魔法クレイランスだ。その魔力操作の緻密さに同じ土魔法使いのケイムが驚いている。
 ランド教官が「急げ!」と短く叱咤しったし、俺たちは倒れた三匹のオークを端に寄せて洞窟に潜入した。
 トレジャーのセレスを先頭に慎重に進む。幸いに片側の壁に一定間隔でたいまつが灯されており、灯りは充分だ。

 入って一〇メートルの当たりで早くも脇に入る通路があって二手に分かれていた。
 セレスとランド教官が耳を澄ませて気配を探る。二人は正面の通路から風の流れを感じるといい、俺たちは正面の道を進んだ。
 「ストップ!」
 急にセレスがそういって足を止めた。「どうした?」と言いかけて、前方を見て言葉を飲み込んだ。
 この通路は前方の足下に大きな裂け目が開いており、その向こうに通路の続きが伸びていた。裂け目は幅一〇メートルくらいだろうか。到底、飛び越せる距離ではない。
 その裂け目から風が舞い上がる。それを見てランド教官が舌打ちし、
 「チッ。さっきの風はこいつか……。仕方ない。戻るぞ」
と小さく言って、通路を戻り、先ほどの脇道を進んだ。
 脇道は大きく湾曲してT字路に出たが、感覚的に右は先ほどの裂け目の向こうに見た通路の続きに繋がっているだろう。セレスは迷うことなく左に曲がった。

 それからしばらく進むと、セレスが腕を横にバッと伸ばし行軍を止める。気配感知にはこの先の通路に二匹のオークがいる。俺がノルンを見ると、ノルンはうなづいてハルバードを掲げ、
 「ディープスリープミスト」
と言う。前方の空気に霧が立ちこめ、その向こうでオークがへたり込む音が二つ聞こえてきた。即座に風魔法で霧を吹き飛ばして進み、眠り込んでいる二匹のオークの息の根を止める。
 通路は二方向に分かれていた。セレスがオークの血を利用して、入ってきた通路の壁に大きく矢印を描く。確かに、こうして分岐路がいくつもあるなら迷ってしまいそうだ。
 「で、どっちに行く?」
とトーマスがセレスにたずねたが、セレスは迷っているようだ。確かに見た目ではわからないし両方とも俺の気配感知の範囲に生き物はいないようだ。瘴気は洞窟内で渦巻いていてよくわからない。サクラも含めて全員が、潜入前にヘレンの浄化魔法セイント・ライトを受けているから平気だが、この濃さはデウマキナの洞窟に匹敵する。

 と、ノルンが急にしゃがんだ。
 俺は「どうした?」と言って、ノルンのの足下を見ると、そこにはくるぶしたけの小さなこびとが姿を現していた。
 「そいつは?」
と俺が尋ねると、ノルンが、
 「妖精よ」
と言う。……へえ。妖精って羽根妖精だけじゃないんだ。驚いて見ているとノルンが両手で小さな妖精をすくい上げて自分の肩に載せた。

……えっとね。左は行き止まりだよ。
 「村人たちはどこかわかるかしら?」
……うんとね。右の方だけど、結構、奥の方だよ。
 「そう。悪いけど道案内を頼むわ」
……いいよ。でもお願いがあるんだ。
 「お願い?何かしら」
……一番奥の部屋に黒い結晶があるんだけど、それを浄化するか破壊して欲しい。
 「黒い結晶?」
……うん。そこから瘴気が出てるんだ。僕ら、瘴気を浴びてるとおかしくなっちゃうから、その前に何とかして欲しい。
 ノルンが俺を見る。俺はうなづいた。
 「わかったわ。やってみるわ」

 妖精の教えてくれたことをみんなに伝えると、ランド教官は渋い顔をした。
 「黒い結晶か。……その妖精には悪いが、明日来る討伐隊に任せることになるかも知れないが大丈夫だろうか?」
……うん。あと二、三日は大丈夫だよ。
 ノルンが妖精の言葉を伝える。「二、三日はまだ大丈夫ですって」
 それを聞いてランド教官は「ギリギリのラインだな」と言ったが、ともかく妖精の指示で俺たちは進むことになった。

――――。
 こちらサクラです。
 見張り台から思いのほか長い下り階段を降りているけど、どうやらようやく分岐路が見えてきたみたい。
 分岐路にオークの気配はない。が、三方向に通路が延びている。右に一方向、左に二方向。
 これは迷ってしまいそうで危ない。
 私は下ってきた通路の壁に、妖気を練って矢印と「見張り台」の文字を描いておいた。これで一日程度は持つと思う。問題はどっちに進むかだけど……。
 気配感知を強化してそれぞれの通路を探ると、左の一方向は先に二匹のオークが見張りをしているのが感じられた。見張りがあるってことは、重要な通路ってことよね。
 私は、気配感知を頼りにオークのいる通路へと足を踏み入れた。

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