12 無人島の朝

 うっ。ううぅ。

 体が重い。……なにか柔らかく温かいものに俺は包まれている。熱がじんわりと伝わってきて体が温まっている。
 うっすらと目を開ける。
 すると俺の視界いっぱいにシエラの寝顔がぼんやりと見えた。

 シエラの寝息が俺の頬に当たる。いい匂いがする。……と、俺は自分が裸であるのに気がついた。
 えっ? ど、どうなってるんだ? とおそるおそる手を動かす。

 「んん……」
 おわっ。シ、シエラも裸じゃないか!
 混乱しながらも、頭を巡らして今の状況を確認する。どうやらここは、どこかの洞窟のようだ。近いところから波の音が聞こえる。
 小さな隙間から柔らかい光が差し込んでいる。だんだん暗闇に目が慣れてきたようだ。
 シエラがゆっくりと目を開けた。思わずじっと見つめ合ってしまう。
 「ジュンさん。よかった……、無事でよかった」
 「ありがとう。シエラ」
 目の前で、シエラが恥ずかしそうに微笑んだ。まだ体がだるい俺は、そのままゆっくりと目をつぶる。シエラの肌に包まれながら。

――――。
 洞窟に朝の光が差し込んでいる。

 目が覚めると、まだ俺は裸でシエラに抱かれていた。
 「ううん。……ジュンさん。むにゃむにゃ」
 シエラは寝言を言いながら、がっしりと俺に抱きついている。当然のように俺の股間が元気になってしまった。
 ……仕方ないよね。朝だし。この状況だしね。

 「ふわぁぁ」
 突然、シエラが目を覚まして伸びをする。シエラの大きな胸がゆれる。うん。あれは確かに神の乳だ。
 裸のシエラと目が合う。
 「おはようございます。ジュンさん」
 赤い顔をして恥ずかしそうに言うシエラに、俺も赤くなりながら、
 「おはよう。シエラ」
と言って、上半身を起こした。
 シエラが真っ赤になりながら、俺の下半身を見ている。
 「シエラ。ありがとう。……一夜をともにしちゃったな」
とおどけて言うと、真っ赤な顔のままでうなづいた。その様子がかわいくて、俺はシエラをぐいっと引き寄せてそのおでこに軽くキスをした。
 そのままシエラの耳元で、
 「……とはいえ、そろそろ服を着よう。このままだと襲ってしまいそうだ」
 「え、えっと。はい。……いつでもいいですよ」
 ぐいっとシエラの肩をつかんで引き離し、
 「あ、ああ。……でも俺としては、初めてはやっぱり大事にしたいんだよ」
とにっこり笑ってやると、シエラはうれしそうな笑顔を浮かべた。
 今度は唇にキスをして立ち上がり、シエラを見下ろして手をさしのべる。
 「つづきは街に着いたら」
 俺の言葉を聞いたシエラは、ボッと音を立てたように顔が真っ赤になって、俺を見上げた。
 「はい。よろしくお願いします」
 シエラの手を取って立たせる。……恥ずかしそうに胸を押さえるシエラに、俺の理性が壊れそうになるが無理矢理に抑えこむ。
 いつノルンが迎えに来るかわからない。早く着替えるに越したことはないだろう。

 すでに消えてしまっているたき火だが、そのまわりの衣類はほとんど乾いていた。二人でそれぞれ対面になって服を着る。
 たかが服を着る。それだけなのになぜかそれが可笑しくて、二人で笑いながら服を着て、装備は置いたままで剣だけを腰に下げて洞窟の外に出た。

 シエラに確認したところ、俺たちはこの洞窟のすぐ目の前に広がっている砂浜にたどり着いたようだ。助けてくれた犬神は召喚主サモナーから離れすぎたために、もとの場所へと還ったらしい。俺たちが無事に島にたどり着いたことは犬神からサクラに連絡してあるとのこと。
 まあノルンのナビゲーションで俺の位置はわかるだろうから、問題は無いだろう。
 ナビゲーションで確認すると現在時間は午前の九時過ぎ。ベルトニアから二〇〇〇キロ離れた地点だ。ノルンたちはここから二〇〇キロ地点にいる。
 (ノルン。サクラ。聞こえるか?)
と念話を飛ばしてみる。
 (ジュン!)(マスター!)
 慌てたように二人から念話が返ってきた。
 (俺は無事だ。そっちの様子はどうだ)
 途端にノルンから抗議の念話が送られてきた。
 (んもう! 何が「俺は無事だ」よ! 昨日、何度念話を飛ばしたと思ってるの!)
 (そうですよ、マスター! ノルンさんもヘレンさんも憔悴しょうすいしきっていたんですよ!)
 (それはサクラもでしょ!)
 (そうでした。……マスター。というわけで、合流したら覚悟しておいて下さい。三人で迫りますからね)
 (そうよ! ジュン。こんなに心配させといて覚悟しなさいよ!)
 こういうときに反抗してはいけない。男たるもの受け止めるしかないのだ。と、偉そうな言い訳で自分を誤魔化しつつ、低く出る。
 (わ、わかったよ。シエラにも助けられちゃったよ)
というと、ノルンが落ち着きを取り戻したようで、
 (そう。シエラにもお礼を言わないとね。こっちも無事よ。あれからすぐに海竜王が現れてブレスを空にはなってね。そしたら嵐は止んだのよ)
 (そうか。……明らかに敵と戦ってくれたんだな)
 そう。あの目玉、フォラスの目を一掃いっそうしてくれたのだろう。……そもそも何であんな海の真ん中で襲われたんだ? っと、まあそれは後で考えよう。
 (そうしたらね、ひょっこりとセレンが来てくれたのよ)
 (え? セレンって確か人魚の?)
 (そう。親友のマーメイドのセレンよ。今も一緒にボートと並んで泳いでいるわ)
 そういえばあの時、人魚たちが来ていたんだっけ。……でも何のために?
 (事情は合流してからか?)
 (そうなるわね。まだ何が起こってたのか、私も聞いてないわ)
 むう。ならば仕方ないな。それはそうと、
 (俺のナビだと二〇〇キロ地点。時速三〇キロとして六、七時間ってところか)
 (ええ。今日の夕方には合流できるわ)
 (わかった。じゃあ、こっちはシエラと周辺を調べておく)
 (無理はしないでね)
 (わかってるさ。そっちも気をつけろよ)(ええ。じゃ、また後でね)

 ふと気がつくと、シエラが俺の顔を見つめていた。きっと念話をしていることに気がついて、終わるまで待っていたのだろう。
 「すまん。シエラ。ノルンとサクラと念話をしていた。……今日の夕方ごろにこっちに到着する予定だ」
 「本当ですか? よかった……」
 「なんでもあの後、海竜王リヴァイアサンが現れたようだぞ?」
 「えええっ!」
 「ま、詳しくは夕方だな。俺たちはまずここがどこかの大陸なのか、島なのか、周辺の確認だ」
 「そうですね。昨日はそんな余裕がなかったですから」
 シエラと話しながら洞窟に戻り、防具を身にまとい、とりあえずこの洞窟のある岩山の頂上を目指すことにした。
 のぼり口を探すのに苦労したが、林に入って少しすると岩山に上れそうなところがみつかったので、そこを慎重に二人で上っている。
 夏のまっ盛りなので、朝からジリジリと強烈な太陽が俺たちに照りつけてくる。熱を帯びた肌に海を渡ってきた風が心地よい。
 岩山自体はそれほどの高さはなく。二時間も上ると、頂上にたどり着いた。
 どうやらここは周囲が一〇キロほどの小さい島のようだ。
 俺たちがいるこの岸壁の側には砂浜があるが、ここ以外は岩礁が広がっている。島の中央から北側に山が伸びていて、この岸壁はその一部だ。山の周囲のみ林が広がっているが、四時間もあれば一周できるような島だ。
 風の強い頂上から、目の前に広がる海を眺める。
 「完全に島だな。……しかも、周りには海しかない」
とつぶやくと、シエラが、
 「ここってどこなんですかね」
 「う~ん。さすがに俺のスキルで周辺の地図がわかるものはないからなぁ」

 それにしてもどんどんベルトニアから離れて行ってしまうな。これじゃ海洋王国ルーネシアの方が近いんじゃないか?
 念のため確認してみるか?

――ピコーン。
 海洋王国ルーネシア首都まで、一五〇〇キロ。

 おいおい。まじでルーネシアの方が近いじゃないかよ。
 それでも一五〇〇キロか。あのボートで脱出できるか?……いずれにしろ、航海に耐えられる準備をしないとダメか。
 「まず拠点だな……。風と雨を防げるとしたら、やっぱり昨日の洞窟がいいな。砂浜があるからボートを留めておけるし……」
 俺のつぶやきにシエラが反応して、
 「あそこですか。……ちょっと気恥ずかしいですが」
と言う。
 「ま、まあな。……とにかく一度、戻ろう」
 それから、俺とシエラは砂浜に戻るのだった。

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