13 無人島0ディール生活

 「ジューン!」

 遠くにボートが見えてきたと思ったら、そのボートからノルンが飛びだして、海上を滑空してやってきた。
 「ノルン!」
 ノルンは砂浜に降りると、その勢いのままに俺の胸に駆け込んでくる。
 「ジュン! ジュン! もうどこにも行かないで!」
 そういって泣きじゃくるノルンの頭を俺はやさしく撫でた。
 ボートが砂浜に到着し、中からヘレンたちが降りてくる。抱き合っている俺たちを見たヘレンがつぶやく。
 「……まったくもう! 私たちを置いて行かないでほしいわね」
 俺の背後からは、シエラが、
 「うらやましいです」
と小さくつぶやいているのが聞こえた。
 俺はノルンの背中をトントンと叩いて落ち着かせる。

 「シエラちゃん! 大丈夫! 心配したよ!」
 サクラの声に振り向くと、サクラがシエラに抱きついていた。
 「サ、サクラちゃん! 心配かけてごめんね」
 「で、マスターとどこまでイッたの?」「さ、サクラちゃん?」
 ……おい。こらまて。サクラ。

 ヘレンたちの向こうから、輝くような水色の長い髪をした一人の美女が歩いてくる。
 誰だろう? そう思ってナビゲーションで確認すると、

 ――セレン・トリトン・ミルラウス――
  種族:人魚族  年齢:25才
  職業:ミルラウスの姫君
  称号:美貌の歌姫、おてんば王女
  加護:海神セルレイオスの加護、海竜王の加護
  スキル:人化、気配察知、魔力感知、危機感知、鑑定3、水魔法4、海魔法5、歌魔法5、回復魔法3、神聖魔法3、調理3

 おっと、彼女がノルンの親友のマーメイドか。……おてんば王女だと?
 何だか厄介ごとのニオイがするような気がする。でも年齢の割に凄い加護とスキルだ。

 ノルンがひしっと俺に抱きついているので、仕方なくそのままでセレン王女に挨拶をする。
 「この状態ですので立ったままで失礼します。お初にお目にかかります。エストリア王国アルの冒険者ジュン・ハルノです」
 一礼すると、その女性は笑みを浮かべて片手をヒラヒラとさせる。
 「堅苦しいのはいらないわ。あなたがノルンのお相手ね。……私はセレン。今は人化しているけれど人魚族の歌姫よ」
 そこへノルンに代わってヘレンが、
 「彼女とウンディーネが私たちをここまで連れてきてくれたのよ」
と耳元で説明してくれた。なるほどね。
 「どうやら仲間がお世話になったようです。ありがとうございます」
 するとセレン王女は吹き出して、
 「ぷっ。仲間ですって? 全員、あなたの婚約者でしょ?」
 そりゃあ、デウマキナで勢いでそう言っちゃったけどさ……。いいのか?
 その時、ノルンが上目遣いで、
 「セレンにはみんな説明してあるわ。彼女なら大丈夫よ」
と告げる。いや、大丈夫ってなにが大丈夫なんだ?
 セレン王女が、
 「もうノルンに対するのと同じ言葉でいいから、ね?」
と言うので、
 「そうか? じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」

 どうやらノルンが落ち着いたようので、俺たちは砂浜で輪になって座り、今までのことを報告しあう。
 「……で、ソウルリンクで流れてきたイメージだと、シエラと随分と密接だったみたいだけど?」
 バレてました。思わず焦る俺と真っ赤になるシエラ。
 「う、……ノルンには隠せないな」
と俺が言うと、セレンがサクラに「ねえ、どういうこと?」とこそっと聞いている。 
 「ノ、ノルンさん。……ジュンさんの身体がすごく冷えちゃってたんで。その……」
 シエラがたどたどしく説明するが、ノルンが、
 「うん? それでどうしたのかしら? シエラ?」
 ……怖いです。怖いですよ。ノルンさん。
 「その、人肌で温めようと。……一晩中」
 「ふふふ。やっぱり。……それでどうだった?」
 シエラの返答を聞いてさらにノルンが突っ込むと、シエラは真っ赤になりながらもノルンの目をじっと見つめた。
 「……え~と。恥ずかしかったんですけど。こう、胸の中がじーんと熱くなりました。これって愛でしょうか?」
 それを聞いて、ノルンとヘレンはお互いに顔を見合わせる。
 「順調ね」「順調だわ」
 ……二人とも何のことを言っているんだ?

 ノルンが隣に座っている俺の胸を軽く小突くと、シエラの方を向いた。
 「シエラ。サクラの次でいいかしら?」
 「はい。ノルンさん。よろしくお願いします」
 「よかったわ。じゃあ、これからもよろしくね」
 「私の方こそ、よろしくお願いします」
 いや、だからさっきから何を話しているんだ? サクラの次? 状況がつかめないぞ?
 「おい。二人とも一体なんの話をしているんだ?」
 するとヘレンが微笑みながら、
 「いいのよ。こっちの話だから」
 「そ、そうか。ならいいんだが……」
 ノルンが俺の方を向いて、
 「あとはこっちで上手くやるから、あなたは大黒柱としてどっしり構えていなさい」と言う。
 「大黒柱……。そうだな。わかった」と返事をしたが、
 あれ? なにか誤魔化されているような気が……、まあいいか。
 ここでサクラが、
 「マスター! 私たちすっごい心配したんですよ!」
 「わるかった。こっちも意識がなかったから……」
 「と、に、か、く! マスターにはお仕置きが必要だと思います!」
 「さ、サクラ? いきなりどうした?」
 「順番だと次は私の番ですが、折角ですから……。マスター。お仕置きとして、私とシエラちゃんとどんぶり「私とノルンもよ」……。はい。じゃあ五人で「私も」「ええっ。セレンっ。あなた!」……全員を愛してもらいます!」
 「な、ななな! 何を言ってやがる! できるか! そんな不謹慎なこと!」
 こいつ、もしや発情期か? それにセレンは王女じゃないか。ヤバイだろがっ。
 ところがみんな渋い顔をして、
 「「「え~」」」
 「なんだよ! 「え~」って! とにかく一度に複数なんてやだからな!」
 言い張る俺を見て、サクラがクフフと笑い、
 「もう。マスターったら純情なんだから。……というわけでノルンさん、しとねは順番でお願いします」
 ノルンはうなづいて、
 「了解よ。……セレンは後でちょっとお話があるわ」
 妙な迫力を漂わせるノルンに、セレンはこわばった笑みで、
 「わ、わかったわ。後でね」
 するとノルンが、
 「ふ、ふふふふふふ」
と不気味に笑った。

 「まあ、とりあえず――」
 さてそれでは変な話は忘れ、気を取り直して、今後の方針を決めておこう。
 まず現状としては、この無人島の位置はベルトニアよりもルーネシアの方が近い。
 セレンがいうには、エストリアのベルトニアから海洋王国ルーネシアへ向かって流れている海流があるので、それに乗ればルーネシアに行くのは楽だとのこと。
 となればルーネシアに向かうのがベストだろう。

 問題はボート一艘しかないので、今回みたいに海が荒れた場合は非常に心許こころもとないということだ。
 これはボートをできるだけ改造し、さらに補修用の部材や充分な食料を確保して出発するほかはない。
 その結果、脱出の準備が整うまでは、この島に滞在することが確定した。
 ……ザフィールさんに無事を伝えられていないことが気にはなるが、こればかりはどうにもならないね。あきらめてバカンスのつもりでやろう。

 というわけで、俺はおもむろにみんなの方を向いた。
 「それでは、ただ今より無人島0ディール生活をスタートします!」

 突然の宣言にみんながぽかんと口を開ける。
 「え? ジュン、それ……」「何のつもり?」「え、えーと。マスター?」「は、はいぃ?」
 しかし、こればかりはお約束。構ってはいられないのだ。
 「よゐ子の皆さん。それではご唱和しょうわください! 3、2、1……マッチャル! マッチャル!」
 う、みんなの視線が寒い……。
 「……ジュン」
 ノルンが心配そうな目をして俺を抱きしめる。
 「辛かったのね。安心して。私たちはずっと側にいるから、ね?」
 「い、いや。ノルン。……その、お約束ってヤツだ」
 「お約束?」
 そういってコクンと首をかしげるノルンが可愛いすぎる。

 とまあ0ディール生活をスタートしたわけだが、まずは役割分担だ。
 誰がなんと言おうと俺は海に行くぞ! 銛を持って魚を突いてやる。
 拠点の方は魔法があるから女性陣にお任せだ。
 「じゃあ、私とシエラちゃんで林の方へ行ってきます」
とサクラが言うので、二人に任せることとしよう。サクラがぐふふと笑いながら、「ツタ祭り」とつぶやいているのが不気味だが、まあいい。
 残る二人のうち、セレンはもちろん海だが、ヘレンも海へ行くグループになった。

 「よし! それじゃ出発だ!」

 俺は木の枝を持って、意気揚々と砂浜を歩き出した。

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