14 アイリちゃんを救え

 む。この先にたくさんのオークの反応あり。近いわね。

 私の気配感知に、この先の広間にひしめくオークの大群が検知された。
中には強力な個体がいくつかいるようだが、修業中に対峙したトウマさんに比べれば大したことはない。

 広場の入り口まで到達し、通路から中の様子を確認する。
広場には見渡す限りのオーク。それに体格の大きなオークや杖を持ったオークが一〇匹ほどいる。一番奥にはステージのように一段高くなっているところがあり、そこに一番大きなオークがいる。威圧感からして、あれがボスだろう。そのボスのオークの前に一人の女の子がいた。
ボスのオークが無造作に女の子に手を伸ばし、その服を一気に破る。しかし、少女は負けじと声一つあげずにオークをにらみつけていた。少女の服が裂け肌があらわになると、興奮したオークたちの熱気に包まれて騒がしくなる。

 私は、空渡りで弾丸のように一直線に飛び出す。
「この○リコンめ!」
ボスのオークにドロップキックをくらわして、少女のそばにヒラリと降り立った。
ボスのオークはそのまま一直線に吹っ飛んで洞窟の壁に背中を打ち付け、その衝撃で広場全体が揺れた。
「アイリちゃんね?」
ときくと、少女はうなづいた。私はアイリちゃんを背中にかばうと、四枚の札にクナイをさして周辺の地面に突き刺し、妖気と魔力を練り合わせて手に印を結ぶ。

 「四神結界!」

 札を地面に縫い付けたところを頂点とした光の壁が私とアイリちゃんを囲んで守る。
この結界は玄武、青竜、朱雀、白虎の四神の力を借りたもの。外からの物理・魔法の攻撃を防ぐ神聖な結界だ。用途によっては逆に封印もできるすぐれもので、オークごときが何百匹こようが破られることはないわ。

 ボスのオークが吠えると、段下のオークたちが結界に押し寄せてきて、結界を殴りつけている。が、四神結界はびくともしない。
私はそれを見ながら、アイリちゃんに「何があってもこの中にいてね」と声をかけ、自らの右手の親指をわずかにんで血を出すと、再び妖気と魔力を混ぜ合わして血に流し込み、地面にその右手を添えた。

 「来臨急々!来臨急々!口寄せ!お雪ちゃん!」

 私の右手を中心に地面が光り、その光の中から見た目二十歳くらいの美少女が現れた。
わずかに青みを帯びた白い髪に白い肌、白い和服をきた美しい少女。

 「あらら?サクラじゃないの。どこいってたのよ?」
この少女は友達の雪女のお雪。とはいえ、今、のんびりとそういう話をする余裕はないのよ。
私は両手を合わせて、お雪ちゃんに、
「ごめん。お雪ちゃん。今、それどころじゃないから」
と言うと、お雪ちゃんはオークの方を振り向いて、
「わかってるって。あの臭い豚をどうにかすればいいんでしょ?」
そういったお雪ちゃんの右手から妖気が細く伸び、白い冷気をまとった鞭となった。

 「この豚め!ひれ伏しなさい!」
お雪ちゃんはそう命じながら、次々に鞭を振るう。
幾度となく白い鞭がほとばしるたびに、極寒の冷気がオーク達を打ち据え、打たれたところからピキピキと凍り付いていく。たちまちにオークの氷像が何体もできると、広場の気温が五度ほど下がったように冷え込んできた。

 お雪ちゃんが、鞭の柄をぺろりとなめながら、
「ふふふ。豚は豚らしく鳴けばいいのよ!」
と言って、再び鞭を振るいだした。お雪ちゃんの高笑いとオークの悲鳴が広場に響き渡る。

 その時、マスターの声がした。
「うお!……サクラ!やり過ぎだ!」
……あのう。マスター、私じゃなくてお雪ちゃんに言って下さい。

 広場の出入り口で叫んだマスターの頭を、ノルンさんがぽかりと叩いた。
「それどころじゃないでしょう?」
そして、ノルンさんはハルバードを構え、
「アイスバレット・ストローク」
と唱えると、氷弾がバルカン砲のようにオークの群れを襲い、削り、穿うがっていく。

 マスターは一番奥のボスのオークを見て、いつも使っているミスリルの片手剣ではなく、赤く輝く長剣を抜きはなった。よく見ると、戦闘モード「火炎舞闘」を発動しており手足に炎が宿っている。
「行くぞ!みんな!」
と叫んで、オークの群れに飛び込んで斬りかかる。オークの群れがマスターの突撃によって切り裂かれ、マスターはそのままステージ上のボスのオークに襲いかかった。

 私は、お雪ちゃんに声をかける。
「お雪ちゃん。マスターが来たからもう大丈夫よ」
「ハアハア。……ふうん。あれがサクラの彼氏マスターかぁ」
マスターの姿を見たお雪ちゃんが、らんらんとした目でマスターを見つめる。
「なんて熱い魔力の質を持っているのかしら。……いい男ね」
そういうお雪ちゃんの目はまるっきり肉食獣のそれだ。
私は慌てて、
「だめよ。お雪ちゃん。あげないよ」と言うと、お雪ちゃんは、
「うふふ。ペロリ」と舌なめずりした。

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