15 ノルンさんのワクワク拠点作り

 ジュンたちが砂浜を歩いて行き、サクラとシエラが仲良く林の中へと歩いて行った。
後にはノルンとフェニックス・フェリシアが残された。

 ノルンはこほんと咳払せきばらいをして、おもむろに、
「それでは、ただ今から拠点作りを行いたいと思います。一人しかいないので、魔法でチャチャッと作ります」
と誰にともなく宣言した。
(ま、マスター?)
フェリシアが困惑の念話をするが、ノルンはにっこり笑って、
「あら? おかしいわね。ジュンのが伝染うつったかしら」
と誤魔化した。
ノルンは周りを見回して、
「主寝室は雨風が防げる場所で、かつ砂浜に近いのがいいから……、昨夜、ジュンとシエラが過ごした洞窟がいいわね」
と洞窟の中を確認する。
「この広さだとみんなで寝るだけで精一杯ね。……できれば、もういくつか部屋が欲しいわ」
そういって洞窟から出てきたノルンは、そこから三メートルほど離れた岩壁に手を添えて、
「こっちの部屋はジュンの寝室になるから防音対策が必要よね」
とつぶやく。その手を中心に黄色の魔方陣が展開する。
「とりあえず主寝室とシャワールーム、換気用の窓を設置。……よし。展開!」
ノルンの手元の魔方陣が光を放ち、空気が揺れた。やがて光が収まっていくと、そこには新たな洞窟が生まれていた。
「ふふふ。どんな感じかな?」
鼻歌を歌いながらノルンがその洞窟に足を踏み入れる。入り口は人一人が入れるくらいで、ごく自然の洞窟だ。しかし、中に入ると天井や壁面、床がきれいに研磨された廊下となり、その奥には十八畳ほどの広い部屋になっていた。
部屋の端には排水溝の穴と浴槽らしき四角い箱がくりぬかれている。壁には入り口と反対側岩壁に突き抜ける窓が開いていて、そこから雄大な海が眺められた。
ノルンは一番奥の広いスペースに行き、
「ここらへんがベッドで、あっちが浴槽とシャワーブース。あとは入り口のドアやテーブルとか細々したものが必要ね」
と室内を見回してつぶやいた。
追いかけてきたフェリシアが、
(リゾートのコテージみたいですね)
と感想を言うと、ノルンが、
「素敵でしょ?」と上機嫌に笑いかけた。

 再び外に出てきたノルンはもう一方の洞窟に入り、
「こちらは海に近いから、それほど手を入れられないけれど……」
と言いながら足下に魔方陣を展開した。
魔方陣の光が収まると、こちらの洞窟の岩肌も研磨されて平らになり部屋も少し広くなった。
「ミスリル鉱石があれば便利なんだけれど……」
と言いながら、ノルンは再び外に出る。
腕組みをしながら、
「どこに大浴場とダイニングを作ろうかな?」
とつぶやいた。洞窟から砂浜に降りて、少し離れたところから洞窟の方を振り返る。絵画の構図を決めるように両手を伸ばして窓をつくる。
「う~ん。ここは海だから天候も色々変わるわよねぇ。ミスリル鉱石があれば結界を張れるけれど」
腕を組んで岩壁を見つめ、ひとつうなづく。
「よし、とりあえず屋根付きのテラスを作りましょう」
と言い、
「召喚! ノーム」
と土精霊のノームを召喚した。いつもの土の体ではなく、砂を集めて体としたノームがにょきっと立ち上がった。
「うむ? ここは海か?」
というノームに、ノルンは笑いながら、
「漂流してここに着いたのよ。……拠点を作る手伝いをお願いしたいの」
「漂流とは随分と苦労したであろう? 他のメンバーは?」
「無事よ。今はバラバラに食料を探しに行っているわ」
「そうであるか。それは不幸中の幸いだ……うん?」
急に何かを感じたノームは、途中で言いよどんだ。
「どうしたの?」
「い、いや。すまぬ。なんでもない」
様子がおかしいわね。……まあ、今はいいでしょう。
ノームを連れて岩壁の近くまで行き、
「あそこからあそこまでを、こんな風に屋根付きのテラスにして、あそこは雲形の大浴場にしたいの。……それで、あの当たりはオープンのダイニングと厨房にしたいわ」
「ふむふむ。そなたのイメージを読み取ってやればいいんだな?」
「ええ」
「……これはシルフたちが好きそうなデザインだな。よし!」
ノームが両手をパアンッと叩いた。「むん!」
かけ声と共に、まるでコマ送りをするように、砂浜や地面からぬうっと建物が生えてきた。
建物の屋根から余分な砂が、まるで水のようにザザーッとこぼれ落ちていく。
舞い上がった砂埃を海風が散らしていく。
「完成だ」

 ノルンは、ノームと一緒にその建物に近づいていき、コンコンと建物の壁を軽く叩く。
「うん。強度は結構あるわね」
「精霊力を込めてあるから、そう簡単には壊れないぞ」
「わお! それってすごいわね」
「とはいってもドラゴンブレス級の攻撃は耐えられないからな」
とノームが言うと、ノルンはじとっとした目で、
「いや。それ以前にここがそういう戦場にはならないでしょう」
と言い、ノームが苦笑いした。
「それもそうか。……壊れず滅することの無い物を、許可無くこっちの世界に存在させるわけにはいかないから、この建物も二〇〇年ほどで崩れるようにしてある」
「うん。わかった。……って、そうそう。ジュンから変わった形の浴槽を作っといてくれって言われてたんだったわ」
「ほう。かの御仁が要望する風呂か。どんな形だ?」
「それがね……。なんでも縦長の円柱状のもので、一人がようやく入れるようなサイズ。ドラムカンがどうとかって言うんですって」
「ドラムカン? ふむ。そなたの伴侶は変わった物を欲しがるな」
「そうなのよねぇ。二人っきりで入るお風呂ならわかるんだけれどね」
「まあ、良かろう」
とノームが言うと、大浴場のそばに煙突のように縦長の浴槽が設置された。
「念のため、持ち運びできるようにしてある」
「ありがとう。ノーム」

 二人はテラスに上がり、イスに座って海を眺める。目の前はパノラマで海が広がって見える。風がそよいでいき、ノルンの髪を揺らした。
「ここならのんびりした時間を過ごせそうね。……ありがとう。ノーム」
ノルンのそばに立っているノームが言いにくそうに、
「うむ。それでだが、一つお願いがあるんだがいいか?」
「珍しいわね。いいわよ」
「おそらくこの島はシルフやウンディーネ、サラマンデルたちも好むと思う。それでこっちで精霊結界を張らせてもらっても良いだろうか?」
ノルンが思案気に空を見上げる。
「精霊結界?」
「ああ。この島を擬似的な精霊界にしてゲートを設置したい」
「あ、なるほど。そうすれば好きな時に行き来できるってわけね」
「そうだ。この島限定でわざわざ召喚される必要は無くなる」
ノルンはじっとノームを見て、
「……うん。いいわ。ジュンには私から言っておく」
するとノームはうれしそうに、
「そうか! それはありがたい。では、この精霊石を渡しておこう」
と言った。
ノームはきれいな黄色の透き通った水晶のような石をノルンに手渡す。
大きさは約五センチほどの丸い石で、ノルンが手のひらのその石をまじまじと眺めている。
「これが精霊石?」
「そうだ。その石がゲートになる。そなたが良いと思うところに設置してくれ」
「わかったわ。……この石って他の転移にも使える?」
「それは無理だな。もし転移ゲートを設置したいんなら……、ほらこれを使え」
そういってノームは自分の腹に手を入れると、そこから大きな鉱石を取り出して、ノルンのそばのテーブルにどんっと載せた。
ノルンがそれを見て目を見開く。
「これってミスリル鉱石じゃないの! こんなに大きいのは初めて見たわ!」
「そうか? どうやらあの山に鉱脈があるみたいだから探してみるといい」
「本当? ちょうど欲しかったのよね。ノーム、ありがとう!」
ノームは笑いながら、
「では私は戻ろう。……みんなとともに楽しみにしておるぞ」
「わかったわ。他の精霊にもよろしく」
すうっとノームは床に吸収されるように消えていった。
ノルンはミスリル鉱石をアイテムボックスに入れ、
「ふふ。これでアルの街との転移ゲートが設置できるわ」
と笑みを浮かべながら立ち上がり、フェリシアを従えながら洞窟へと歩いて行った。

――――。
一通りの作業を終えたノルンが、フェリシアを肩に載せて、洞窟の外に立っている。
おもむろに両手を広げたノルンは、周りを見回しながら一人でナレーションをする。

 「なんということでしょう。ごつごつした洞窟が、きれいでムードのある寝床へと生まれ変わり……そして、砂浜しかなかった砂浜には素敵な屋根つきのテラスが取り付けられました。
晴れの日も雨の日も、オーシャンビューを楽しむことができるテラスは、これから家族となろうしている男女の絆を、より深めてくれることでしょう。
テラスの奥に行くと、衝立ついたての奥に、匠のこだわりである広い雲形の大浴場が設置されました。テラスで食事をした男女が、この満天の星空の下で愛を語り合うことができるようになっています。
そのかたわらには、独特の形をしたドラムカンとかいうお風呂が作られ、異文化を味わうことができることでしょう。
殺風景だった孤島の砂浜が、今や匠の手により素敵なコテージへと変貌し、今や仲間の帰りを待っているのです」

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