16 ジュンとヘレンとセレン どきどき漁三昧

 俺はヘレンとセレンを連れて岩場に来ていた。
 手にした木の枝を加工して、先端に返しをつけ、頼りないけれど木製の銛とした。
 すぱぱんっとパンツ一丁となり、銛を空に向けて突き出した。
 「ようし! やるぞ!」
と宣言する。
 ……が、女性陣から反応がない。

 後ろを振り返ると、セレンがじいっと俺を見ている。
 「うん? どうした?」
ときくと、セレンはニパッと笑みを浮かべ、
 「イイ身体からだね。これはますます……」
とつぶやいた。猟師が獲物を見つめるような視線に俺の背筋がぞくっと震える。
 その隣でヘレンが修道服の裾を膝高までたくし上げながら、どうしようか迷っているようだ。……あ、そうか。水着なんてないもんな。
 「あ~、その、ヘレン?」
 「なあに?」
 「迷ってるだろ? ヘレンは岩場で貝とかカニを探してくれればいいよ」
 「本当? 助かるわ。……無人島で、男はあなたしかいないから、下着でもいいんだけれど。それでも恥ずかしいのよね」
 「ははは。そうだよな。その「たくし上げ」は二人っきりの時にしてくれ」
 「えっち!」
 ヘレンは笑いながら修道服を元に戻し、
 「続きは私の番の時にね。……たくさん取ってくるから、まかしといて!」
と言って、岩場を歩いて行った。その背中に、
 「滑りやすいから気をつけろよ」
と声をかけると、ヘレンは右手を挙げてひらひらとさせた。

 さてと俺は残されたセレンの方を向くと、セレンはすでに水着のトップスを装着しており、にこにこしていた。
 「なるほどね。あなたいい人ね」
 「そうか?」
と聞き返す俺だったが、セレンはぱっと俺のそばに来ると腕を絡めてきた。推定ではノルンと同じFカップの柔らかい感触が腕に伝わる。
 セレンは俺の耳元に口を寄せると、
 「知ってた? 人魚ってね……、肉食なのよ?」
と囁き、ふうっと息を吹きかけると、笑いながら一人で海に飛び込んでいった。
 水しぶきがあがり、しばらくするとセレンの吐いていた下着がぷかぷかと浮いてくる。と、海中から白く華奢な手がその下着を取ってヒラヒラさせ、がばっとセレンが顔を出した。
 その頭の向こうには人魚特有の大きなヒレが見えた。
 「ほらほら。魚取りに行くんでしょ?」
と下着を持った手で誘ってくるセレンに、俺は、
 「よし! じゃあ行くぜ! ぴょ~~ん」
と言って足から飛び込んだ。

 ばしゃん!
 頭まで海につかり、浮力に従って海上に頭を出す。
 そこへセレンがすうっと寄ってきた。
 「人族だと海の中で大変でしょ? ちょっと待っててね」
といって、俺の額に白い手を当てると、
 「我がマナを資糧に、海中での視界と呼吸をなせ! 水中視・水中呼吸」

――ピコーン。
 海魔法「水中視」「水中呼吸」をスキル「水中活動」に改造しました。
 「水中活動」……水中での呼吸を可能とし、水中でも陸上と同じように見えるようになる。

 うおっ。便利なスキルゲットだぜ!
 セレンが手を離して、
 「これで水中でも物が見えるし、呼吸ができるはずよ」
 「ありがとう。どれどれ早速……」
 俺はざばっと海に潜り、恐る恐る口を開いて呼吸をする。
 不思議と海の水は開けた口の中に入ってくることもなく、唇のところで空気に変換されるようだ。
 視界は良好。セレンの水着も下半身の鱗もばっちりだ。
 セレンもぐいっと海に潜り、俺の顔を見ながら周りをゆっくりと旋回する。
 「ふふふ。大丈夫みたいね」
 「ああ。不思議な感じで面白いよ」
 おおっ。どうやらこの状態なら会話もできるようだ。
 俺はゆっくりと周りの海の中を観察した。
 ここらへんの水深は八メートルほどのようだ。大きな岩がごろごろしていて、昆布らしき海藻やイソギンチャク、珊瑚らしきものの姿が見える。岩陰には伊勢エビのものらしき触覚や、ウツボらしき白い細長い魚の姿が見える。
 あちこちに大小様々な魚が泳いでいて、海底付近にはイカがエラをヒラヒラさせながら泳いでいて、まさにお魚パラダイスってところだ。
 脅威を覚えるようなサメや巨大な魚などの姿は見えない。
 「きれいだな……」
 透明度がとても高く。この状態だと水深三〇メートルくらいでも綺麗に見えそうだ。波も穏やかで水面近くでは太陽の光がキラキラと射し込んできている。
 セレンが近くを泳ぐとその力強いヒレのキックの水流を感じる。セレンは楽しそうにぐいっと海底近くまで潜っていき、岩に手を伸ばすと両手に伊勢エビを捕まえて戻ってきた。
 「このエビっておいしいのよ」
と言う。ああ。もちろん知ってるさ。お出汁だしも旨いぜ。
 俺は伊勢エビを袋に入れ、銛を手に岩場の近くまで潜っていく。

 そっと岩の下をのぞくとそこには青いブダイがいた。
 胸びれをヒラヒラさせているブダイに向かって、木製の銛に魔力をわせて強化し、
 「ふんっ!」
と力任せに繰り出すと、銛は見事にブダイを貫いて岩にめり込んだ。
 ……しまった。日本にいたときと身体能力が段違いなのを忘れていた。
 あわくって銛をぐいぐいと引っ張ると、焦りで魔力強化が途切れ、銛の途中からパキッと割れてしまった。
 「あ、ああぁ」
 情けない声を上げる俺を見て、セレンが腹を抱えて笑い出した。
 「くくく。だめよ。そんなに力を入れ過ぎちゃ」
 俺は仕方なくブダイを強引に袋に入れると、折れた木の銛をその場に捨てた。
 セレンがそばにやってきて、
 「我がマナを資糧に、銛となれ。銛創造クリエイト・ランス
と魔法を唱える。するとその手に鉄のような銛が現れた。
 「一番下級の銛だけれど、漁にはこれくらいで充分。使ってね」
と言って、俺にその銛を差し出した。
 「たすかるよ」
 お礼を言ってその銛を受け取る。
 うっしっし。呼吸もOK。視界も良好。銛も準備完了。これで突きまくりだぜ!

 セレンと二人で海中を泳いでいると、海底の砂から気配を感じる。
 大きさは1メートルくらい。
 「せいやぁ!」
 銛を上からガツッと放つと、刺さったところの海底がひらひらと動き砂埃を立てる。
 「っしゃー! ヒラメ、ゲットだぜ!」
 ヒラメの刺さった銛を上に掲げて浮上しながら、自分でもホクホクした顔をしているのがわかる。
 こうして順調に二人で漁を続けた。

――――。
 三時間ほどして岩場に戻る。
 海に潜っていると意外と体力を使ってしまって、ぐったりしてしまう。
 ウエットスーツのないこっちの世界なら、おぼれる可能性もあるから体力配分には要注意だ。……水中呼吸の魔法がない時はね。
 まあ、あっても潮に流される可能性があるから、ちゃんと定期的に陸に上がって休憩する必要はある。

 重たい体を腕で支え、えいっと岩場に乗り上げた。
 「きゃっ」
 近くにいたヘレンが、いきなり俺が現れたのでびっくりしたようだ。
 俺に続いてセレンも岩場に乗り上げる。……ちゃんと下半身を人の足に変えて。って、おいおい! その格好の時は下着をちゃんと身につけてくれよ! 大事なところが丸見えだよ!

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