16 黒い結晶

 俺は全身に魔力を巡らして、身体強化の段階を一つあげる。
 封印解除はしないが、高めた魔力で体がうっすらと光を帯びる。

 「行くぞ!」
 「グオオオオ!」
 俺の声にオーク・キングが吠えて応える。
 ……分身二十四身。ミラージュ・スラッシュ。

 オーク・キングの周りを分身が囲み、四方八方より一斉に切りかかる。
 オーク・キングは振り払おうと剣を振り回すが、分身をすり抜けるだけだ。怒涛の斬撃のラッシュに、まるでダンスを踊るようにオーク・キングが前後左右にのけぞり、そのたびに血しぶきが上がる。
 最後の一撃は正面からの七連突きだ。彗星のように光の尾を引きながらオーク・キングの胸元に飛び込み連続突きを放つ。重い魔力が込められた突きがオーク・キングを穿っていく。

 「グアアアア」

 ズドンと重々しい音を立ててその場に崩れるオーク・キングだが、まだその目は死んでいない。
 俺は油断なく剣を構えた。
 全身から血を流すオーク・キングはよろよろと立ち上がると、ステージの奥に歩み寄り、地面から何かを拾い上げた。

 「あれは……瘴気の結晶!」

 ステージ下からノルンの声が聞こえる。……確かにアレは瘴気の結晶。それもかなり大きいぞ。
 オーク・キングはその結晶を自らの胸に突き刺した。ほとばしる血を瘴気の結晶が吸い込んでいく。
 一瞬の静寂の後、ドクンと心臓の鼓動が瘴気の波動となって空気を伝わってきた。
 オーク・キングの体が細かく振動を始め、黒い血管が体表に浮かび上がる。

 「な、なにかまずいぞ!」
 ランド教官が叫ぶ。俺は剣を構えたままで、みんなに、
 「先に待避しろ!」
と叫ぶ。

 しかし、遅かった。オーク・キングの足下から瘴気が柱のように吹き上がって、体に吸い込まれていく。
 見る見るうちにオーク・キングの全身が真っ黒になっていく。

――エビル・オークキング――
 瘴気を「$#&#%&$&”%#

 ナビゲーションでも文字化けを起こしている。
 「さっさと行け!」
と叫ぶと、ランド教官が「みんな待避だ!下がれ!」といって、無理矢理にみんなをつれて下がっていく。
 サクラも雪女の少女と村の女の子を連れて広場の出入り口へ向かった。
 (マスター!必ずお戻りください!)
 (当たり前だ。先に行け!)
 (戻ってきたら、お好みのコスプレで癒やしてさしあげます!)

 空気がオーク・キングを中心に渦巻いていく。……そろそろか。
 「封印解除。真武覚醒!」
 リミットを解除し聖石の力を身にまとう。光の衣が瘴気をはねのけていく。
と、俺の隣にもう一人、同じく聖石の力を解放し光の衣を身にまとったノルンが舞い降りた。
 「ジュン。地脈の力も流れ込んでいるわ」
 ノルンの指摘に俺の魔力視で確認すると、結晶の置いてあったところから地脈の力が引っ張られるように、エビル・オークキングに吸い込まれているのが見えた。

 「グオオオオオ!」

 エビル・オークキングが吠えて、無造作にストレートのパンチを繰り出してくる。しかし、その拳には瘴気やら魔力やら様々な力がまとわりついているのが見える。
 「ちいっ」
 俺は舌打ちして剣をすぐに納めると、聖石の神力を両手に集めてオークキングの拳を受け止めた。
 拳に込められた力が、押さえつける俺の両手をはね飛ばそうと手のひらの中で暴れ狂う。ぶるぶると震えながらも何とか受け止めると、今度は左回し蹴りを放ってきた。
 ノルンと共に飛び上がって回し蹴りを避けると、その延長線上にあった洞窟の壁が崩壊した。地響きがして、ほかの場所でも天井が崩落する。
 俺はすかさず回転しながら、エビル・オークキングの頭にかかと落としをたたき込む。
 スドドドン。
 エビル・オークキングは前向きに倒れ込み、かかと落としを受けた頭が地面にめり込んでいく。

 これで終わるまい。
 すぐさま飛び上がりノルンの横に滞空する。ノルンはすでにハルバードを構えて、自らの周りに四色の魔方陣を浮かび上がらせていた。
 エビル・オークキングが頭を上げた瞬間、ノルンの魔法が発動する。
 四色の魔方陣から、地水火風の四属性の巨大な光の槍がエビル・オークキングに突き刺さり四肢が爆発した。
 俺は剣に聖石の力を込めエビル・オークキングに斬りかかろうとしたが、瘴気の結晶が黒く光り輝くと、にょきにょきとエビル・オークキングから真っ黒な手足が生えてきた。

 エビル・オークキングは空中の俺たちを睨むと、一瞬にしてその姿が消えた。
 「やばい!」「きゃっ」
 俺はノルンを抱えてその場から待避すると、さっきまでいたところの背後からエビル・オークキングが回し蹴りを放っていた。
 あらためて広場の地面に降り立ちエビル・オークキングと向かい合う。
 「ノルン。あの瘴気の結晶に聖石の力を込めて打ち抜けるか?」
 敵から目を離さずにそういうと、ノルンは、
 「やるわ」
 「よし、俺があいつを抑えるからタイミングを合わせて頼む」
 俺はそういうとエビル・オークキングを睨み、
 「お望み通り殴り合おうぜ!」
と言って飛びだし、そのでかい顔に渾身のストレートをお見舞いする。
 聖石の白銀の光が黒い顔を打ち抜くが、今度は圧倒的な質量を持った右フックが襲いかかってきた。
 俺は下からそのフックを跳ね上げて、一歩踏み込んで、左下からリバーブローを打ち上げた。
 エビル・オークキングの巨体がふわっと浮かび上がり、苦悶の表情を浮かべた。

 「今だ!」
 俺の声に、ノルンが手に集めていた聖石の力を光弾にして放つ。まるでレーザーのように光の軌跡が瘴気結晶を打ち抜いた。
 瘴気結晶は白銀の光に包まれて、パリンと割れて粉々になり溶けるように消えていく。

 エビル・オークキングはその場で仰向けにひっくり返り、その全身から吸い込んだ魔力や地脈、瘴気が、まるで風船がしぼむようにシューと吹き出て、体が見る見るうちに小さくなっていく。最後には小さなオークのミイラが残っていた。
 吹き出した瘴気は危険なのでノルンの神聖魔法で洞窟ごと浄化すると、ようやく洞窟にも静けさが戻った。

 俺とノルンは瘴気結晶が置いてあったステージの奥を見に行くと、そこには瘴気結晶が突き刺さっていた穴が開いており、そこから地脈が湧き出し続けていた。
 「これ蓋をしないといけないわね」
 その様子を見てノルンが言った。「このまま地脈の力が漏れ続けると、この当たりは砂漠になっちゃうわ」
 俺はノルンに、
 「できるか?」
ときいたが、ノルンはしばらく考えて、
 「やってみるわ」
と言って両手を穴にかざす。穴の底に白銀の光が生じ、見る見るうちに漏れ出る地脈の力が細くなっていき、やがて完全に漏れが止まった。
 ノルンは一つ息を吐いて、穴の底を確認する。
 「うん。どうやらこの穴自体に封印をかければOKみたいね。もう漏れていないわ」
 後から聞いてみたところ、いわば傷のあるところに絆創膏を貼るようなものらしい。
 それから二人でその穴を埋め、オークのミイラをアイテムボックスに回収。ほかにめぼしいものもなく、二人で洞窟の出口に向かった。
 広場から出るときに、俺は再び奥のステージを振り返った。

 ……瘴気の結晶なんて自然に発生するものなのか?

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