17 村への帰還

 「ジュン!」「マスター!」「ジュンさん!」「ん~!いい男!」
 洞窟の外に出ると、俺はたちまちにヘレンとサクラとシエラと、見知らぬ白い和服の美少女?に抱きつかれた。
 「お、おい。ちょっと……」
と言うが、四人ともしがみついて離さない。
 ノルンがそれを見て微笑んでいる。俺は、
 「ノ、ノルン。見てないでさ……」
 「心配させたんだから、好きなだけ甘えさせてあげなさいよ」
 「う、そ、そうか?というか知らないのが一人いるんだが……」
 「ふふふふ」

 そんな俺たちを見て、ランド教官やトーマスたちも笑っていた。

 落ち着いたところで、サクラが見知らぬ少女を紹介してくれた。やはり雪女で名前をお雪ちゃんというそうだ。
 俺から離れたところで、
 「ねえ。サクラぁ。あなたのマスターって素敵ね。あの強い魔力……、あの人にだったら踏まれてもいいわぁ」
 「ちょ、ちょっとお雪ちゃんったらダメダメ。……っていうか、ふ、踏まれたい?」
という会話が聞こえるが、聞こえないふりをしておこう。

 送還するときに、「サクラ。帰ってきたら根掘り葉掘り聞かせてもらうからね。ろくろの姉さんと首を長~くして待ってるからね~」
と言って、サクラが引きつった笑顔で見送っているのが印象的だった。

――――。
 「お、おお!戻ってきた!戻ってきたぞ!」
 「女たちが戻ってきた!」

 暗くなった頃にようやく俺たちがフルール村に到着するや。俺たちは村人たちに囲まれた。
 連れ去られた女性達も家族と抱き合って再会を喜んでいる。
 シエラと手をつないでいたアイリちゃんも、
 「アイリー!」
 向こうから宿の夫婦が走ってくるのが見えると、シエラの手を離し走り出した。
 夫婦とアイリちゃんが抱き合った。
 「アイリ!アイリ!」「お父さん!お母さん!」
 親子が泣きながら抱きしめ合うところを見て、ノルンとシエラが涙ぐんだ。俺はそっと両手を伸ばして二人の肩を抱いてやると、二人はそっと俺に身を寄せる。
 ノルンが「本当に良かったわ」というと、シエラはだまってうなづいた。

――――。
 その日ははぐれオークを警戒して、避難所の教会で過ごすことになった。それに村の中も襲撃があった状態のままだから、夜になったこともあり家に戻ったところでなにもできないだろう。

 その日の夜は騎士団の人とフルール村を拠点とする冒険者達が後退で警備と巡回を行ってくれるそうだ。俺たちも手伝おうかと申し出たが、この村を守るのは騎士団と村に住む者の勤めだとかたくなに受けてもらえなかった。
 まあ、さすがにあれだけの戦闘をしたから疲れもあり、おとなしく教会の片隅でみんなでかたまって毛布にくるまった。合流したフェリシアも、今ではそばで羽根を休めている。

 教会のステンドグラスから月の光が差し込んでいる。
 礼拝室の女神像の前では今なお村人達が感謝の祈りを捧げている。ヘレンも先ほどまでは祈っていたが、今は俺の隣で毛布にくるまっている。
 俺は何となく寝付けなくて考え事をしていると、トーマスが、
 「なあ。ジュンさん。まだ起きてる?」
 「どうした?」
 「一年間で、俺たちも随分強くなったつもりだったけど、ジュンさんたちはもっと強くなっていて驚いたよ。まさかあの黒いオーク・キングに打ち勝つなんてね……」
 「何を言ってるんだい。トーマス達は俺たちより若いじゃんか」
 「ま、まあそうだけどさ」
 「実際、トーマスはまだ十七くらいだろ?年の割に強いし、冒険者としてしっかりしてると思うぞ?」
 「そうかな?」
 「ああ。だからもっと自信を持てよ」
 「……うん。ありがとう。ジュンさん」

 そこへ毛布をかぶっていたランド教官も話しに加わってきた。
 「ところでお前たち。男女の関係の方はどうなんだ?」
 とたんにトーマスがしどろもどろになる。ランド教官は俺の方を見た。
 「い、いやあ……」
 そこへ寝ていると思っていたノルンが、
 「私たち、全員、ジュンについていきますから」
と言い出した。思わず、「の、ノルン?」と言ったが、ランド教官は、
 「まったくうらやましい限りだな」
と言う。教官はつづいて、
 「トーマスはルンと付き合ってるんだろ?……ケイムはいまだにカロット命か?」
と言うと、ケイムが起き上がって、セレスの方を見ながら、
 「ええっと、まあ、そうでもあるし、そうでもないというか……」
 「なんだはっきりしないな……。ま、いいか」
 今度はトーマスが教官に、
 「で、教官はどうなんですか?いい人は?」
と尋ねた。教官は笑いながら、ステンドグラスから差し込む月の光を見上げ、
 「俺もパーティーに恋人がいてな。引退したらどこかで一緒に暮らそうと約束している」
と言った。それを聞いて、なぜか寝ているはずの女性陣から「おおおっ」と声が上がった。
 教官はつづける。
 「冒険者は危険と隣り合わせだ。いつか引退を考えなきゃならん。俺たち犬人族は人間族より老化が遅いが、それでもいつかは引退を迎える。俺も家族がほしいんだ。里にはまだ両親もいるしな」
 その言葉を聞いて俺もその時を思う。今はまだまだ冒険が楽しい。だがいつかは引退して、みんなと静かに暮らすのもいいと思う。トーマスも教官の言葉に色んなことを考えているようだった。
 教官は笑いながら、
 「まあ、まだお前たちは若いから引退を考えるのは早いだろうがな」
と言った。
 それからも取り留めもないことをおしゃべりしながら、いつしか一人、二人と眠りに落ちていった。

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