17 無人島の宴

 同日夕刻七時。
 「遅いわねぇ。みんな……」

 ノルンはテラスのテーブルから夕日を見ながら、帰りの遅いみんなを待っていた。
 テラスや大浴場の要所要所では、ノルンの設置したかがり火が燃えている。

 フェリシアがテーブルの上に座って、ノルンを見上げ、
 (どうやらサクラさんとシエラさんが戻ってきたみたいですね)
と告げた。
 その途端、サクラの、
 「すっご~い! なにこのテラス! さすがはノルンさんだ!」
と叫ぶ声がした。
 シエラも疲れた表情の中にも、目をキラキラさせて、
 「すごい! すごい! ここがあの洞窟前? うわぁ」
と感嘆している。
 林から出てきた二人は、ぱんぱんになった道具袋を肩にかけている。
 ノルンは立ち上がって二人を出迎えながら、
 「お疲れ様。どうだった?」
ときくと、サクラがニヘッと笑い、
 「たくさんありますよ~。楽しみにしてください」
という。シエラが周りを見て、
 「あれ? ジュンさんたちは?」
というが、ジュンたちはまだ戻っていない。
 「そうなのよ~。ジュンったら何をやっているのかしらね?」
といいながら、三人でテーブルについて暮れゆく夕日を眺める。
 ふとシエラが砂浜を指さして、
 「あ!あれ!ジュンさんたちじゃないですか?」
と大きな声を上げた。その方向を見ると、ジュンを先頭にヘレンとセレンが歩いてこっちに来るところだった。
 ジュンがテラスを見て、
 「うおお! なんだこれ! さすがはノルン!」
と驚いている。
 ノルンは誇らしげに笑みを浮かべて立ち上がり、
 「お帰り! ジュン。……先にみんなでお風呂に入ろ?」
といってテラスの奥の大浴場を指さした。
 お風呂と聞いてみんなのテンションが上がる。
 「「「お風呂があるの?」」」
 「ええ。もうお湯も沸かしてあるわ」
 俺はノルンに抱きついた。
 「きゃっ」
 「グッジョブ! 愛してる!」
 「もうっ。……こんなに冷えるまで海にいたのね。早くお風呂に行きましょ?」
 「ああ!」
 ノルンを下ろすと、ノルンは俺の手を引いて浴場へと引っ張っていく。その後ろからみんながぞろぞろと着いてきている。

――――。
 大浴場は一つしかないので、仕方なく混浴をしている。もう一度言おう。仕方なくだぞ。

 普段は拠点の大浴場で時間を極力ずらして入っているが、俺が入っているときには何故かよく乱入される。で、結局のところ、すでに全員の裸身を見てしまってはいたが、こうして堂々と一緒に露天風呂に入るのには緊張してしまう。
 湯けむりのなかを思い思いの姿勢でみんなが湯船につかっている。……やはりこうした情緒ある温泉での女性の姿は普段と違った色っぽさがある。いいね。鼻血が出そうだ。
 セレンが人の姿のままで俺の方を見て妖しく笑っているが、ノルンがいる限り大丈夫だろう。とはいえ、精神衛生上あんまり見ない方がいいかもしれない。

 残念ながらここから海は見渡せないが、空を見上げれば群青色になりつつある空に星が輝きはじめている。
 洗い場の要所要所にはかがり火がたかれていて、南国ムードが満点だ。
 なんでもノームからミスリル鉱石の塊をもらったらしく、それを小分けにして魔方陣を刻み、いくつかの魔道具を作成したそうだ。
 ノルンがそっと俺の横に座った。
 「ここに転移ゲートを設置してもいいかしら?」
といいつつ俺の腕を抱きしめる。
 「それはいいね! ちょっとしたリゾートだ」
と賛成すると、フフフと笑いながら直径五センチくらいの黄色い石を取り出した。
 「それとノームからなんだけれど。精霊たちも自由にこの島に来たいらしくて、精霊用のゲートも設置して欲しいって」
 「精霊たちが? まあ、いいけれど」
 珍しいな。精霊たちが来たがる? この島には特別な何かがあるのだろうか。
 疑問に思った俺の後ろからサクラが抱きついてくる。
 「うふふ。ますたぁ。早く私を食べて下さいよぅ」
 「……お前、酔ってるのか?」
 「ぜんぜん酔ってないですよぉ。ちょっとマタタビの匂いがするだけでぇ」
 「酔ってるじゃないかい!」
 「そういえば気づいています?」
 「って、俺の話を聞け!」
 「この島って全然、魔物とか危険な生物がいないですよね」
 「……むっ?」
 こいつ。いいことに気がついたな。……確かに見た感じは危険そうな生物はいなかった気がする。
 そこへセレンがお湯の中をゆっくりとやってきた。
 「ふふふ。知りたい? その理由」
と俺の隣に座って、俺の肩にきれいなアゴを乗せて言ってきた。
 「え? 知ってるのか?」
 「……知ってるわ。けれど簡単に話していいことじゃないのよ」
 そういってセレンは少し離れ、俺の正面にきた。
 「だから知らない分ではこうして楽しむのは問題ないけれど。転移ゲートはちょっとまずいかもね」
 むむむ。そう言われると理由が気になるじゃないか。
 「とは言っても失われた秘宝が戻らないかぎりはどうにもならないんだけどね」
と遠くを見るようにつぶやいた。
 ノルンが、
 「え? 秘宝? それって」
とアイテムボックスから青いネックレスを取り出した。碧洋の瞳だ。
 それを見たセレンが目を丸くして、口を開ける。
 「な、ななな。なんでノルンが碧洋の瞳を持ってるの?」
 ノルンがしまったというように顔をしかめ、
 「ここに来る前に乗っていた幽霊船で手に入れたのよ」
 「はあ? 幽霊船?」
 場が少し混乱して来たな。
 俺はセレンに今までの経緯を説明した。
 「はあ。まさかそんなことになっていたなんてね。ずっと探されていたんだけれど」
 そういってセレンは手渡された碧洋の瞳をじっと眺める。
 「これがこの時期に、ここにもたらされる。……運命かしら」
 誰にも聞こえないくらい小さく小さくつぶやいたセレンの声が、俺にははっきりと聞こえた。

 突然、サクラが再び陽気に抱きついてきた。
 「ここって楽園ってことでいいですよね? 愛の楽園! にひひひ」
 俺は黙ってデコピンをする。「ああ、愛の鞭が痛いっ!」
 それを見て笑っていたヘレンが何かに気がついたようで、
 「ねえ、ジュン。あの細長いのはなあに?」
 ヘレンの指が指す方向を見ると、ドラムカン風呂を模した細長いお風呂があった。
 今はそのふちにフェリシアが止まっていて、俺たちを見ていた。
 ノルンが、
 「そうそう。ジュンの要望どおりに作っておいたけど。入る?」
と言った。どうやらお湯は入れてあるらしい。
 俺はザバッと大浴場から出てドラムカン風呂に近づきながら、
 「これこそ無人島のお風呂さ。こいつで無理矢理に二人で入ったり、鶏と入ったり……」
と説明していると、ノルンが、
 「鶏はわからないけれど、なるほどね。恋人用のお風呂ってわけか……」
とつぶやいて、浴槽から出てきた。
 「なら最初は私とジュンね」
と言って俺の手を引っ張る。「さ、入るわよ!」
 「えっ。ちょっと意味がちが……」
 俺の意見は無視され、なぜか一人ずつ交代でセレンとまで順番に入ることになった。

――――。
 お風呂から上がり、全員で今日の成果を確認する。

 大きなテーブルを全員で囲んで座る。
 「よし! まずサクラとシエラからいこう」
と俺が宣言すると、サクラとシエラがぱんぱんになった袋をテーブルの上にドシンッと置いた。
 「はい! 私たちの成果はこれで~す!」
 「どど~ん!」
 二人はそういうと袋の身をテーブルの上に広げた。様々な野草や果実がバサバサと出てくる。
 テンションの上がった俺たちは、
 「おお! すごいな。いろいろあるぞ!」
 特に山の幸をしらないセレンの食いつきがすごい。
 「ね! ね! これって何?」
 「これはですね大葉おおばですよ。素揚げにするとパリパリして美味しいです」
 「へぇ。……じゃ、これは?」
 「これはですね。……マスター、お一ついかが?」
 そういってサクラが赤いピーマンに似た実。まさか。
 「おい。これって「どうぞ!」。……お前、後でお仕置きだ」
 「きゃっ。私、何されちゃうんでしょう? えへへへ」
 これって唐辛子だよな。おそるおそる少しかじってみる。
 「……ぶぅぅ! あが! あががが! 水をくれ! 水!」
 次の瞬間、猛烈な辛みが口の中に広がり、ちくちくと熱を帯びて熱くなる。真っ赤な顔をしながら叫ぶと、事前に用意していたサクラがさっとコップを手渡した。
 一息にごくごくと飲みほしたが、まだ辛さが残って口の中がひりひりとする。俺は舌をだらしなく外に出しながら、
 「ひぃ。ひぃ。……辛い」
と涙目になる。ノルンが俺の口にヒールをかけながら、
 「大丈夫? これってそんなに辛いの?」
と言いながら、なめらかな腕を俺の首に回してきた。バランスを崩した俺の顔はちょうどノルンの胸に抱き止められた。
 それを見て他のメンツが、
 「あ、ずる~い。ノルンったら」「さすがだわ!」
 「なるほど。こうしてチャンスをものにするんですね!」「どきどき」
と勝手なことを言う。
 ノルンはニマニマとしながら俺を離すと、
 「じゃあ、次はジュンたちの成果ね」
と言う。

 気を取り直して、俺は本日の成果をテーブルの上に一斉に取りだした。
 「俺たちの今日の成果は……、これだ!」
 大きい魚が五匹、うつぼが二匹、手のひらサイズの魚が八匹、タコ二匹にイカ二杯。サザエが十個に、カニが五杯だ。
 「おおー!」「すごい!」
 ノルンがヘレンの方を見て、
 「すごいじゃないの! ヘレン! やったわね」
と褒めると、ヘレンはうれしそうに、
 「ま、まあ。私の取ったのはサザエとカニだけどね」
と言う。サクラはイカにロックオンしながら、
 「すごいです! マスター! 今日の夕飯が豪勢ですね!」
と目をキラキラさせていた。
 サクラのうれしそうな顔を見て、俺はやれやれと肩をすくめた。
 こいつめ……。まあ、さっきの唐辛子の件は許してやろう。

――――。
 俺はおもむろに宣言した。
 「それでは無人島料理を始めます!」
 「「「はい!」」」
 事前に指示していたとおり、ノルンとセレンとで魚をさばいていき、ヘレンはサクラとシエラと一緒にスープを作っていく。
 今日は折角だからテラスでバーベキューなのだ。
 ノルンが、
 「結構な数の魚があるわね。アイテムボックスに保存しておく?」
ときいてきたので、俺は、
 「あ。それは俺が調理するよ」
 「え? ジュンが?」
 「ああ。まかせろ。はらわただけ取ってくれ」
 「はいはい」
 俺はその間に砂浜に石でかまどを作り、フェリシアに火をつけてもらった。その上に鍋をおいて油を熱しておく。
 そこへノルンが処理をした魚を四匹持ってきた。
 みんな興味津々で、俺のすることを見ているようだ。
 「で、これどうするの?」
 「ははは。ノルンよ! 俺の敬愛する大先生の教えを伝授しよう!」
 俺は高笑いしながらノルンから魚を預かると、
 「油へ! どぼーーん!」
と煮えたぎっている油へ魚を投げ入れた。
 ジュジュジュジュ……。すごい勢いで気泡が浮き出て、周囲へはじけた油のしずくにボワッと火がつく。
 火の粉が散らばり、女性陣が驚いてかたまっている。
 鍋を前に高笑いを続けていると、後ろから、
 「きゃああぁぁ。何やってるの! ……このバカぁ!」
と我に返ったノルンに頭を叩かれた。
 「ぎゃふん!」

 ……こうして賑やかな無人島の夜は過ぎていくのだった。

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