18 感謝の宴

 朝になるとランド教官はすぐさま伝書鳩を飛ばし、アルのギルドにオーク討伐を報告した。

 フルール村のギルドでも詳細な報告をしたが、アルのギルドに戻ってからも報告をすることになるだろう。

 本来は今日はアルに帰還するはずであったが、教官と相談のうえ、村で警備や復興のお手伝いをし、明日、アルに向かって出発することにした。
 騎士団の連中は、昨夜の警備と調査で疲れ果ててしまったようで、今は交代で休んでいる。

 村の被害だが、周囲の柵はかなり壊れてしまっているが、幸いにも民家の方は被害が少ないらしい。
 朝一番でアイリちゃん親子がやってきて、今晩はぜひ泊まってほしいとのこと。なんでも感謝の宴を開いてくれるらしい。
 村人たちは朝になって自分の家に戻っていった。もちろん、食料は奪われ畑や森も荒らされているから復興には時間がかかるだろう。
 ヘレンは教会で怪我をした人々の治療に当たり、ノルンは村の外回りの柵を補強すると言っていた。ほかのメンバーは村長さんの指示に従ってそれ以外の復興作業に従事する予定。俺はサクラを連れて、もう一度あの洞窟を調査したいと思っている。
 なお午後にはアルの街から食料などの支援物資が届く予定になっており、それらの配分も行うことになっている。

 アイリちゃんの宿に泊まれると聞いて、ノルンがうれしそうにしている。
 何でもアイリちゃんの宿の野外露天風呂がお気に入りらしい。俺も前にトウマさんたちと泊まりに来たことがある。たしかに日本の温泉宿みたいで気持ちよかった。
 オークたちに荒らされてはいたそうだが、午前のうちに風呂は使えるように綺麗にするそうで、午後からは村人達に解放し夜は俺たちの貸し切りにしてくれるらしい。貸し切り露天風呂なんて実に楽しみだ。
 それを聞いたサクラが、
 「たしか男女で分かれていたはずですが、今日はチームごとにわけましょうか?それなら私たちもマスターと一緒に入れるし。……たっぷりご奉仕しますよ。くふふふ」
 俺は黙ってデコピンをする。
 「いたぁっ!くぅ。久しぶりのデコピンです」
 「そんなことしなくていいって。トーマスたちもいるんだし男女別だよ」
と俺が言うと、ノルンが、
 「あら?私はジュンと一緒に入りたいな」と言うと、ヘレンも「そうよ。一緒に入ろうよ」と言う。
 「い、いや。他の人もいるんだしさ」
というと、ヘレンが俺の胸に人差し指で「の」の字を書きながら、
 「え~。だめぇ?」
と可愛らしく言う。しかし、ダメなものはダメだ。
 「俺たちの家に戻れば一緒に入れるだろ?それまでは我慢しろよ」
と言うと、ノルンが、
 「よしっ!言質げんちはとったわよ!」
と言った。……それはよろこんでいいのか?

――――。
 「俺たちの村を救ってくれた英雄に!乾杯!」
 「「「「乾杯!」」」」

 夕刻になりアイリちゃんのお宿に戻るとすでに宴会の準備ができており、そのまま食堂の一角に連れて行かれ、教官やトーマス達と並んで座る。
 すでに騎士団や冒険者、村長さんなど二十人ほどが集まっていて、村長さんが代表して感謝の言葉を述べた後、さっそく乾杯をする。
 エールの入ったジョッキを掲げて、ぐいっとあおる。
 「ぷはぁ」
と言ってジョッキを置くと、一斉にみんなで拍手をした。

 残念ながら村長さんと騎士団の人は仕事があると言ってすぐに退出していったが、村人たちがお礼を言いに交替で出たり入ったりしていた。
 アイリちゃんの父親のロックさんが、
 「さあ、今日は俺からのおごりだ。どんどん食べて。飲んでくれ」
と宣言すると、ひときわ大きな歓声があがる。

 そばのテーブルにいた冒険者が、この村を拠点に活動している冒険者のチームを順番に紹介してくれた。
 なかには、すでにこの村で所帯を持っている男三人のチームや、この村出身の若者たちのチーム。そして、たまたまこの村に滞在していた冒険者などもいたが、どのチームも今回の事件で縦横無尽の活躍をしたようだ。
 ヘレンの回復魔法で傷を治癒した人も多く、おしなべて感謝の言葉と賞賛の言葉をちょうだいした。教会の正面での防衛戦で活躍したランド教官とトーマスたちのチームが話題の中心となっており、普段寡黙なルンも照れくさそうに笑っていた。
 ちなみに今日、ノルンが精霊のノームに依頼して村の周囲の柵を強固な石壁に作り替えており、どの冒険者も驚いていた。

 がやがやと騒ぎながら楽しんでいると、アイリちゃんがお酒を持って俺達のテーブルにやってきてシエラの隣に座った。
 「お姉ちゃんたち、本当にありがとう」
 オークキングを目の前に気丈に振舞っていたアイリちゃんだったが、今ここにいるのは可愛らしい一人の少女だった。サクラがにっこり笑って、
 「ううん。アイリちゃん。間に合ってよかったわ」
というと、アイリちゃんは再びお礼を言って、俺たちの一人ひとりにしゃくをしてくれた。
 俺に酌をしてくれたときに、
 「ねぇねぇ。それでジュンさんのお嫁さんって誰なの?」
と言い出す。思わずブゥっと口の中のお酒を少し吹き出てしまった。
 「うわ!きたない……。もしかして聞いちゃいけなかったかな?」
とアイリちゃんが言うと、ほかの冒険者達も気になったみたいで耳を澄ませている。
 サクラが何でも無いことのように、
 「マスターのお嫁さん?くふふ。まだ式は挙げてないけど。ノルンさんでしょ。ヘレンさんでしょ。私でしょ。シエラちゃんでしょ。……あれれ?全員だね」
と指折り数えながらしれっとして言った。するとアイリちゃんは「全員?」と驚いて、段々と顔が赤くなる。どこからか「爆発しろ」「氏ね」とか聞こえた気がする。
 俺が何か言おうとしたらノルンが俺の口を押さえ、俺の耳元で「いいじゃないの、ね?」とささやいた。

 一人の冒険者が、
 「それよりメンバーを紹介してくれねえか?」
と言った。そうか。俺たちは別働隊で動いていたから、みんな知らないんだよな。
 俺は立ち上がり、
 「了解。まず俺がリーダーのジュン。魔法剣士ってところだ」
と言って一礼すると拍手をされた。……なんだか披露宴の時の親族紹介みたいだな。
 「次にノルン」
と紹介すると、ノルンが立ち上がり一礼し、
 「ノルンです。魔法使いで、精霊とも契約しています」
と言った。どこかのテーブルから「村の外壁を造ってくれたぜ」と声が聞こえる。
 にっこり笑ってノルンが座ったのを見計らって、俺は、
 「次はヘレン」
 ヘレンが立ち上がり、
 「ヘレンよ。もう知ってるでしょうけどヒーラーってところね」
と言って一礼する。外野から「いいなぁ。美人の回復役……」とつぶやきが聞こえたが、すぐに「イテッ」と足を踏まれた悲鳴が聞こえた。
 「次はサクラ」
 サクラが立ち上がり一礼する。
 「忍者のサクラです。拳法も使いますね」
と言うと、村の女性たちが「あの子が助けてくれたのよ」と言っていた。
 「で、最後はシエラ」
と俺が言うと、シエラが立って一礼し、
 「竜人族のシエラです。盾役です」
と言ってすぐに座った。照れてるのかな?どこかからか「竜人族の美人だ……」とつぶやきが聞こえる。
 シエラの挨拶が終わると、なぜか女性陣が再び立ち上がって、みんなの方を向き、
 「旦那ともどもよろしくお願いします」
と一礼した。
 キャーという黄色い声と、再び「爆発しろ」という声が沸き起こったが、その喧騒を切り裂いて宿の主人のロックさんが、
 「おい!アイリもか!」
と大声を上げた。急にその場がシーンと静かになる。
 は?何を言ってるんだ?と思ってアイリちゃんの姿を探すと、なぜかシエラの隣で立って一礼している。
 ……何してるの?
 一瞬パニックになった俺だが、ヘレンが落ち着いて、
 「アイリちゃんは、もうちょっと大きくなってからにしましょうね」
と言ってアイリちゃんをなだめて席に着かせた。
 俺が慌てて、
 「いやいや。さすがにアイリちゃんは違うから」
と弁明すると、ロックさんがすかさず、
 「うちの娘のどこが不満なんだ?」
と言うので、「いや。そうじゃなくて――」と弁明する。
 その途中でアイリちゃんが、
 「だって、ジュンさんってすごく強いんだよ。……それにあられもない恰好を見られちゃったからには責任徒って貰わないと……」
と言い出した。ロックさんが動揺して、
 「あ、あられもない恰好?」
と言うと、とたんに険呑な雰囲気に包まれた。俺が慌てて、
 「おいおい!あの場にはランド教官もトーマスだっていたじゃんか!なぜ俺だけっ?」
と叫ぶと、次の瞬間、アイリちゃんがみんなの方を向いて可愛らしくテヘっペロっとした。
 すると誰からともなく笑い声が沸き起こり、ロックさんも落ち着きを取り戻して「まったくアイリは……」とつぶやいた。

 俺たちは飲み食いしながら大いに騒ぎ、求めに応じて洞窟でのできごとを話したりした。
 どうも話を聞いてみると、フルール村の周囲にあんなに突然に強力なオークの群れが現れたことに、誰もが疑問を抱いているようだった。
 もともとあの洞窟は鉄鉱石の鉱山跡だが、たまにゴブリンが巣くうことはあったそうだが、村からも近いのですぐに討伐できていたそうだ。今回みたいに、気づかないうちにあっというまに大きな群れになっているのは初めてということだ。
 俺は話を聞きながら、彼らには言わなかったが瘴気の結晶の影響だろうと思っていた。どうやらノルンとシエラも何かを話し合っていたので、知っていることがあるのかもしれない。

 それからはこの村での依頼や、特産品の他、外から来た冒険者からは外の様子などを聞いた。
 特に興味を引いたのは、王都エストリアと港町ベルトニアの話だ。

 王都エストリアは王城を中心に多くの人たちが住み、商店が軒を連ねている。そして、魔法王国でもあるエストリアは魔法文明が発達していて、王都には王国立の魔法学園と図書館とがあり、図書館には歴史や魔法に関する数多くの蔵書が陳列されているらしい。
 そしてエストリアの王族は悉く魔法の達人らしく、現在の国王第四〇世フィリップ・フォルト・エストリアとその王妃ロゼッタの間には、ルーベルト皇太子、ルイス第二王子、セシリア第一王女、ブレンダ第二王女の二男二女がいる。
 最近、セシリア第一王女が隣のウルクンツル帝国のカール皇太子のもとに正室として嫁ぐことが決まり、一年後の婚姻の儀に向かって両国間では華やかな歓迎ムードがただよっているそうだ。
 一方、ベルトニアは典型的な港湾都市で、他の大陸との玄関口として独特の発展を遂げている。特に音楽が盛んで、町の通りでは楽器を演奏する人が多くいて開放的な雰囲気のようだ。
 海産物が豊富で現地でないと食べられないものがあり、ちょっと楽しそうだ。

 ほかに気になる話もあった。
 この世界は人々にヴァルガルドと呼ばれていて、大きく分けて五つの主要な地域がある。
 一つが俺たちのいるエストリア・ウルクンツル大陸。ここには両国の間にヴァージ大森林とデウマキナ山脈がある。地球でいえばヨーロッパの辺りだ。
 二つ目がこの大陸からはるか東部にある大陸で、アーク大陸。ここには機工国アーク王国があり、東部には大峡谷があってそこには魔族の国がある。地球でいえば北アメリカに当たる。
 三つ目が南アメリカに当たるところで、アーク大陸から南に地続きになっている大陸で、ノーム大陸。大砂漠がある。アーク大陸とノーム大陸の間には火山地帯が広がっており、火竜王ファフニルが住んでいるらしい。
 四つ目がエストリア・ウルクンツル大陸とアーク大陸の中間にある海洋諸島で、ルーネシア地方という。ここには同名のルーネシア王国がある。まあ、ハワイの辺りになるだろうか。
 五つ目がゾヒテ大陸。ルーネシア王国を南にいった海上にあり、獣人たちの国家であるゾヒテ王国がある。この大陸に獣人たちに守られた世界樹があり、地球でいえばオーストラリアにあたる。
 このほか空に二つの島が浮いて世界を周回しているのが見られるらしいが、誰も上陸したことがない。どこかの少年と少女じゃないが、いつか行ってみたいね。
 また北方と南方の海上は極地になっており、地球と同じく雪と氷に閉ざされた地域となっており、詳細は不明のようだ。

 約一千年前にアーク大陸で人間族と魔族の大戦争があったが、それ以来は国家間の小さな紛争はあったものの、大きな戦乱はなく平和な状態が続いている。
 ところが、これは王都エストリアから来ていた冒険者によると、エストリアの観天官――星見によって未来を予知する官職――から、世界を巻き込む戦乱が起きるとの星見があったという噂が流れているらしい。
 本当のところはわからないが、なぜかその星見が気になった。

 賑やかな打ち上げであったが、ここの冒険者達は明日も村の復興のためにがんばるそうで、比較的早めにお開きとなった。

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