20 アルへの帰還

 チュンチュン……。
 窓の外から鳥の声がする。もうすっかり明るくなったようだ。

 まだぼんやりとする頭でもやもやと昨夜のことを思い出す。
 のぞきをしようとするみんなを何とか止めようと思ったんだが、結局ばれてしまって水弾を浴びせかけられると最悪な結果に……。
 まあ、俺も月光下のノルンとヘレンを他人には見せたくない!という個人的な動機だったわけだが。

 トーマスたちはセレスによって正座の罰を受けており、俺はノルンとヘレンに両側をロックされてサクラとシエラもついてきて、抱きつかれながら事の成り行きを細かく説明するはめになった。

 途中で、ノルンから「で、ジュンは私たちの裸を見たいの?見たくないの?」とか、ヘレンから「私だったらいつでも見てくれていいのよ。今から脱ぎましょうか?」とか、サクラからは「え?マスターはのぞきやってないんですかぁ?のぞけばいいのに」とか突っ込まれてモゴモゴしてしまったりした。
 黙ってみていたのは真っ赤になったシエラだけ。
 うん。俺の味方はシエラだけだ。

 俺の左右の腕は完全に固められて柔らかいものが当たっている。起きようと体を動かすと、
 「ううん」「あふ」と左右から、それぞれ色っぽい声がささやくように聞こえる。
 俺の右にはノルンが、左にはヘレンが、それぞれシャツとパンツだけの恰好で俺の腕に抱きついて寝ている。
 かわいらしい寝顔をいつまでもでたくなるが、二人のいいにおいと胸の感触に俺の体の一部がみなぎる……。いや、男の朝の生理現象だから仕方ないんだといっておこう。

 「うん……。あ、おはよう。ジュン」
 最初に目が覚めたのはノルンだった。ノルンは目が覚めると、ぼうっとした表情で俺にキスをすると、上半身を起こして両手を挙げてんんっと伸びをした。

 「昨日はよく我慢できたわね」
と、ノルンは俺の股間の様子を見てくすりと笑う。
 「まあな。……愛するときは一人ずつ全身全霊でって決めてるんだ」
 俺は照れながらノルンにいう。ノルンは身をかがめると、俺の耳側で、
 「そういうジュンが好きだわ」
とささやくと再びキスをしてきた。「んちゅ」

 その後、ヘレンも起き出してくる。
 「ふわぁぁあ」
 ヘレンは目が覚めると俺の左手をはなして目をこすり、それから俺にキスをしてきた。
 「おふぁよう。ジュン。……ノルンも」
 「ああ。おはよう。ヘレン」「おはよう」

 ヘレンも俺の股間を一瞥し、
 「ふふふ。我慢しなくてもよかったのに」
といって、再びキスをするとベッドからおりた。

 二人が離れたので俺もベッドから出る。ちなみに二人は俺の目の前ということに構いもせず、どんどん着替えて髪を整えていく。二人の着替えを横目で見ていると、ノルンとヘレンはその視線に気づき、クスリと笑ってわざと魅せつけるように着替えを続ける。
 ノルンが、
 「今度から寝るときは、私とヘレンと一日交代でいいわね?」
と言うと、ヘレンが、
 「そうね。平等でいいんじゃないかしら」
と言う。ノルンが笑って、
 「手綱を握っておかないといけないしね」
と言うと、
 「そうそう。ふふふ。しっかりしておかないとね」
とヘレンが言う。俺のあずかり知らないところで、大事なことが決定していっているようだ。
 なんだか今日の二人の様子はおかしいような気もするが、何かあったんだろうか。

 二人の準備が整ったころ、サクラとシエラが部屋にやってきた。
 ん?シエラが赤くなって、何かを探すように部屋の中をきょろきょろと見ている。はっきりいって挙動不審だ。
 「どうした?シエラ?様子が変だが、熱でもあるのか?」
 「えへへ。……そういうわけじゃないです」
 「ふふふ。シエラ。何もなかったのよ」
 「そ、そうですか」
 俺は変な空気を断ち切るように、
 「ま、まあ。ご飯食べに行こうぜ」
と言って、逃れるように食堂に向かった。

 朝食後、ランド教官とトーマスたちと合流してフルール村を後にした。
 出発には、村長をはじめとする人たち、騎士団の人たちが見送りに来てくれ、特にアイリちゃんは俺たちとの別れを惜しんだ。
 来た時と同様に馬に乗り、一路アルの街へ。来た時は張り詰めた空気であったが、帰りは和やかな雰囲気で進み、無事にアルに到着した。

 早速、ギルドに報告に向かい、出迎えてくれたのはマリナさんだった。
 ちょうどギルド内にいた冒険者たちも通りすぎるたびに、「よくやったな」と声を掛けてくれる。
 マリナさんが、
 「よくご無事で。フルール村を守りオークの襲撃を退けたようですね。……こちらからいざ討伐隊が出発するときに、伝書鳩が届きまして代わりに援助物資を輸送したのです」
と言った。「ありがとう。マリナさん」
 「では、ギルドマスターを呼んできますから、みなさんはカフェの方でお待ちください。……ランドさんは私と一緒にご報告に来てください」
 ランド教官はマリナさんについて行く前に、俺たちに、
 「ああ。わかった。……ジュン。トーマス。お前たちよくやった。フルール村を救ったんだ。誇りにしていいんだぞ」
と言う。
 「いえ。こちらこそ。教官、ありがとうございました。」
 ランド教官はお礼を口々に言う俺たちに対し、「いいってことよ」と言って右手を振りながら奥の部屋に向かっていった。

 しばらく待つとギルドマスターのファル老が、サブマスタ―のアリスさんと、ランド教官、マリナさんを引き連れてやってきた。
 「よくやった。そして、無事で良かったぞ。……今、ランドから詳細な報告を聞いた。まず試験の件だが文句なしに全員合格じゃ。この後、受付でランクアップの手続きをするがいい。それから報酬が出ておる。一人につき三〇万ディールじゃ。これも忘れずに受け取るが良い」
 「さ、三〇万ディール?一人につき?」
 セレスが驚いて思わず聞き返す。
 「ふははは。驚いたか?今回は領主より色を付けて手配されておる。実際に討伐軍も必要なくなったしな……。遠慮することはないぞ」
 「マジ?やったあ!」
 トーマスがガッツポーズをとる。よほどうれしかったのだろう。

 「さてと。これでお前たちはランクCとなる。……だがな。こういう時こそ言っておかねばならぬ。今後も油断するな。謙虚にやれ。状況判断が甘かったり、少しの油断で取り返しのつかぬことになることを決して忘れるな。……今後は大型の討伐依頼や、強力な魔獣の討伐依頼も受けてもらうことになるだろう。その時、一人の油断が全滅につながることを忘れてはならんぞ。いいな」
 「「「はい!」」」
 俺たちは、ギルドマスターの重い言葉を胸に一斉に返事をした。

 こうして俺たちは見事にランクCへと昇級することができたのだ。

――――。
 俺たちは、ランクCになったことを報告しようとシンさんの屋敷にやってきた。

 ひゅううぅぅぅ。

 ……しかし、目の前のシンさんの屋敷には誰もいなかった。俺とヘレンとサクラが一年間、住み込みで修業した屋敷であったが、門の外から見るとあたかももう何十年も誰も住んでいないかのように苔むし、雑草で埋もれ窓やドアが欠けて廃墟となっていた。

 「「………………」」
 「マスター。これは……」
 その様子に俺たち三人は言葉もなかった。

 ノルンとシエラは、俺たちの師匠に紹介してもらえるということで緊張していたが、想定外の事態に戸惑っている。
 中町の入り口の詰め所で確認してみるが、不思議なことに誰も「シン」さんや「トウマ」さん「イト」さんのことを知らなかった。……あの屋敷もずっと廃墟であったという。

 俺たち三人は狐につつまれた感じであったが、どうにもならないので冒険者の憩い亭に戻ることにした。
 ノルンとシエラは俺たちが嘘をつくわけがないと信じてくれたが、一体これはどういうことなのだろう?
 シンさんたちはどこに行ったのだろう?

 今は、何もわからなかった。

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