20 神船テーテュース

 「のわあぁぁ」「きゃあぁぁ」
 転移先は拠点とした砂浜近くの海上の空中だった。
 いきなり空中に放り出された俺たちは、ばしゃばしゃと海に落ちる。
 幸いに水深1メートルほどなので怪我もおぼれることもないが、全身がずぶ濡れになってしまった。
 なぜか脳裏にセルレイオス様の笑い声が聞こえた気がするが、それを無視して立ち上がると、ちょうど目の前を小さくなった神船テーテュースが浮かんでいた。
 「とにかく砂浜に上がりましょ」
 ノルンの指示を受けるまでもなく、俺たちはとりあえず砂浜に上がっていった。
 抱え持った神船テーテュースをとりあえず砂浜の上に置く。

――神船テーテュース。
 神聖な力を秘めた不壊属性の船。
 使い方次第で海上も海中も航行することができる。様々なギミックや魔法が秘められているが、中に入ってのお楽しみ。
 使用者制限により、ジュンとその仲間しか操作できない。使わないときはアイテムボックスに入れておこう!

 「中に入ってのお楽しみって何だよ!」
と、ナビゲーションの説明を見た俺がつぶやくと、ヘレンがおそるおそるやってきて、
 「すごいわ! まさか海神様に謁見がかなうなんて!」
と興奮しながら俺の前に置いてあるテーテュースを見つめた。めずらしくテンションの高いヘレンを見て、俺は苦笑しながらもとりあえずミニサイズの船をノルンのアイテムボックスに収納してもらった。

 落ち着いてからみんなでテラスに集まり、これからのことを話し合う。
 「さてまさかの海神様から船をいただいた」
 俺の言葉にみんなが神妙にうなずく。
 「ということは、もういつでもこの島から出航することができる」
 するとノルンが、
 「もちろん。転移魔方陣を設置してアルに戻ることも可能よ」
 うん。ノルンの言うとおりだ。
 「その上で、最後にセルレイオス様がおっしゃっていたとおりに、海洋王国ルーネシアを目指したいと思う」
と提案すると、まっさきにヘレンとセレンが同意する。
 「もちろんよ」「行くべきだわ」
 他のみんなも特に異論は無いようなので、さっそく明朝に出発の予定とし、今日はその準備をすることとした。
 まずノルンには、テーテュースを停泊するための桟橋をノームに作ってもらい。岩壁に新たな洞窟を作って、転移魔方陣と精霊が精霊界と行き来するための精霊石の設置をお願いする。
 ほかのメンバーは再び食料の調達。および洞窟の寝室を快適にするための改造をお願いした。
 俺はというと、さっそく作ってもらった桟橋から大きくしたテーテュースに乗り込み、船内設備の確認をしているところだ。

 テーテュースは全長四十六メートルの帆船で、二本のマストを持っている。船体は純白であちこちに銀色の装飾が施され、翼を持った女神が船首像になっている。
 船長室にはいくつかのスクリーンが備え付けられており、舵を繰りながらも海や船の状態がわかるようになっているようだ。
 なんとなく気分が乗ってきたので舵に手を添えて構えてみる。すると、スクリーンに次々に光りがともり、女性の声で、
 「アクセスを確認……、聖石の波動パターン登録。船長ジュン・ハルノ登録完了しました」
と、どこからともなく声が聞こえる。
 「な、なんだ?」
 ブウゥゥゥン……。
 何かが動きだす音がして、船舵の周りの空間に透明なスクリーンが浮かび上がった。
 「テーテュース・サポートシステム、起動します。ガイダンスを聞きますか?」
 「サポートシステム? たのむ」
 「それではスクリーンをご覧ください」
 サポートの声とともにスクリーンにテーテュースの全体像が映し出される。
 「テーテュースは全長四十六メートル、一八〇トンのブリガティン型の帆船です。しかし、海神セルレイオス様の力が込められている神船であり、動力源は風力、魔力、神力となります」
 映像のテーテュースがワイヤーフレームになり、船長室の下の空間にズームアップした。
 「風力はマストの帆で受けますが、それ以外の動力はこの船の心臓部にある宝玉に貯蔵され、必要に応じて消費されます。このサポートシステムもここから動力を得ておりますので、宝玉のエネルギーが枯渇しないように注意してください」
 ワイヤーフレームに映し出された宝玉がズームアップすると、左にある別のスクリーンにバーが表示される。
 「宝玉に貯蔵されたエネルギーの状況は左側のスクリーンのこのバーで確認できます。ちなみに貯蔵するのには宝玉に直接力を注ぐのが一番わかりやすいですが、それ以外にも乗船して人から少しずつ集まる方法、自然界から補充する方法など複数の手段があります」
 ふむふむ。便利なシステムだ。ちなみに今は……。左のスクリーンを見るに九八%となっている。
 「今は九八%となっているが、どれくらいの頻度で充填するんだ?」
 「はい。結界を張りつつ海上を一一〇ノット、約時速二〇〇キロで航行した場合、七九八年、連続航行できます。枯渇状態からフル充電まで、魔力ならファイヤーバレットなら一億発分、神力ならセルレイオス様基準でおよそ一〇秒の照射が必要となります」
 ……ううむ。それが多いのか少ないのかよくわらかん。だが当分の間は必要ないみたいだな。
 「次に航行システムの説明に移ります」
 サポートの声と共に画面が船長室に移り変わる。
 「海上航行モードの場合、マニュアルとオートがあります。右側のスクリーンにマップが表示され、現在地と目的地、ならびに周辺の生物等が表示されます。マニュアルには舵を利用しますが、オートは私に行き先を登録していただければ目的地まで自動で航行します。なおその際、速度は正面のスクリーンに映し出されます」
 「へぇ。便利だな」
 「次に海中潜行モードの場合、船全体が結界で覆われます。マニュアル操縦の場合は、舵ではなく操縦桿に変わります」
 説明と共に舵が下に引っ込んで、かわりに飛行機の操縦席にあるようなイスと操縦桿がせり出してきた。
 海中潜行モード? この船、まさか潜水艦になるのか?
 ヴァルガンドの常識を打ち破るこの仕様に思わず頬がひくついた。
 「つづいて客室キャビンなどの船内設備の説明をします」
 再びワイヤーフレームがズームアウトして船の全体を映し出した。
 「画面をご覧ください。まず居住空間には個室、食堂、厨房、浴室、ダイニングバー、そして倉庫があります。この居住空間を拡張し、新たな設備が欲しい場合には私に相談していただければエネルギーの消費と引き替えに設置をすることが可能です」
 これも至れり尽くせりだな、拡張可能と。あとでインテリアを確認しよう。
 「……ああ。セルレイオス様からの指示で船長の寝室は他の部屋より広く大きなベットを用意しました。なお、船長室の隠しスクリーンで女性陣のお風呂の「いや、それはいい」見ることができます」
 おいおい。海神様。油断ならないな。一体どこに地雷を仕込んでいるのか不安だ。
 「そうですか? ご趣味に合わせて女子トイ「そんなサービスは廃棄しろ!」」
 自分で額に青筋が浮かんでいるのがわかる。やめてくれ。俺は変態じゃない。

 「……では続いてサポートシステムの説明にまいります」
 今度は船首方向からの画像に移り変わった。
 「武装としては、神の裁「ちょっとまて!」……はい」
 「説明をいちいち聞いていると俺の心臓に悪そうだから、一覧でスクリーンに映し出してくれ」
 「かしこまりました」
 中央のスクリーンに、この船に用意された武装のリストが長々と映し出された。

 神の裁き(雷撃)、大陸破壊ミサイル、長距離弾道マジックミサイル、波動砲、プラズマレーザー、遠距離操作機雷、小型ブラックホール発生装置、天候操作機能、絶対零度ポイントミサイル、神結界、超電磁バリア、次元潜行機能、時間転移、ワープ機能、決戦用巨大ロボ機神セルレイオス変形機能、非常識結界、問答無用破壊砲、次元歪曲……。

 セルレイオス様。あなたは私になにをしろとおっしゃるのでしょうか? なんだこの武装、軽く世界を滅ぼせるんじゃないか?
 しばし呆然としている俺にサポートシステムが説明を続けているが、聞こえても認識には至らなかった。
 「このほか、新兵器、概念兵器、びっく……失礼しました。有効なギミックの創造には私に相談の上で神力消費で可能となります。極力、お望みの機能を搭載することが可能ですので、船長好みの船にしてください」
 ……はっ。俺は今なにを? きょろきょろして、目の前のスクリーンの武装の一覧を見なかったことにした。
 「以上でひととおりの機能ガイダンスとなります。なお、本船の機能は登録された方のみが利用可能です。現在は船長ジュン・ハルノ、ほかチームのメンバーが登録されています。ご不明の点はいつでも私、サポートシステムに聞いてください」
 「う、うむ。わかった。ありがとう」

 俺はとりあえず桟橋に戻った。さて、この船。本当に俺たちが使って大丈夫なのか?
 おののきつつ桟橋に戻った俺だが、この船に隠されたトンデモ機能を俺はまだ知らなかった……。

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